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INTERVIEW

Japanese

BIGMAMA

2016年03月号掲載

BIGMAMA

Member:金井 政人(Vo/Gt)

Interviewer:山口 智男

-どんなところが10周年に相応しい、と?

5種類の音色しか鳴ってないんですよ、基本的に。5種類っていうのは、僕の音と、柿沼(広也/Gt/Vo)の音と、東出(真緒/Violin)の音と、リアド(偉武/Dr)の音と、安井(英人/Ba)の音しか鳴ってないって意味なんですけど、それがひとつ。それと去年のシングルとアルバムに対する反動で、"シンプル・イズ・ザ・ベスト"のコンセプトで作っていたのがこの曲だったという順番もひとつ。あともうひとつ、曲のタイトルに引っ張られたというか、この10年を経て僕の中に特別だと思える関係を見つけたんですよ。僕ひとりで好きな音楽を作ってひとりで聴いてても、ライヴで披露して歓声を浴びる瞬間には絶対に勝てないんですよね。要は、そういう自分の音楽に反応してくれるひとつひとつの特別な関係をいくつ自分の中で繋ぎ止めていられるかってことなんです。あと、改めて、自分の人間としての成り立ちを考えたところがあって。そもそも人様に誇れる部分ってそんなに自分の中にはないんですけど、"あなたってどういう人間ですか?"って聞かれたときに、自分が特別だと思う人や物、場所で表現できる、自分がスペシャルだと思っているもので、僕という人間の説明はつくんですよね。"SPECIALS"ってタイトルには僕の中ではそういうニュアンスがあるんです。"あなたにとって特別なものって何ですか?"って聞かれて、いくつか自分の中で数えることができたとき、"あなたってたぶん、それで成り立っているよね"っていうことで。僕にとって特別なものは、家族やメンバー、スタッフ、オーディエンスや音楽、その他にもスポーツも好きだし、ゲームも好きだし――そんなふうに特別だと思ってるものを挙げていったら、それが集合体になって、自分を構成していることが自覚できる。そういうことを僕が改めて歌うことにしっくりきたんですよね。僕には歌ったり、こうやって喋ったりできる機会があるわけじゃないですか? そういうときに何を言いたいか考えて、こういう話をしたいって思ったときにいろいろなことが想像できたんですよ。

-自分が自分がって言わなくても、自分を語る素敵な方法があるということですよね?

語りたいわけではなくて、この曲が代わりに語ってくれるということですね。この曲を聴いてくれたら、お互いに確かめ合える。そういう体験を生み出すことが僕の中で新しい提案だったかな。

-歌詞にある"最強のふたり"ってメンバーのことなのかな、ファンの存在なのかなって曲を聴きながらいろいろ考えたんですけど、結局、誰もが誰かにとっての特別な存在になれるってメッセージがこの曲の根底にはあるような気がして、そこがいいなと思いました。

そう思ってないとしんどいところもありますからね。"自分なんかいくらでも替えが利くんだ"とか、"僕なんか......"って思ってる時期って楽しくないですし。毎日がうまくいかないし、明日を楽しみに思えない感覚があって、そういうときでも自分にしか成し得ないものって人と人との関係性の中だったらあり得るんですよね。それは決して、いわゆる美談ではなく、美しい話で。誰かにとって誰かが特別な存在であることは不可侵であるという、他人がとやかく言えることではなく、そう思い合える関係があるなら最高に美しいですよね。

-この何年か、オンリーワンでありたいという風潮があるんですけど、そういう特別さではなくて、人との関係性の中で自分が特別な存在と思えることの方が大事だと。「SPECIALS」という曲はそれを歌っているところがすごくいいですよね。

僕だって、例えばこのSkream!の中で、当たり前のようにオンリーワンを意識するんですよ。オンリーワンになること自体は、バンドをやるうえで絶対に必要な意識だと思うんです。ただ、今はそれに囚われすぎない感覚がある。奏でている音色も含め、バンドとしてオンリーワンであるという自信があるからこそ、自分がイメージするものが「SPECIALS」で歌っている意味での特別さに変わってきている......って今、話しながら思いました。オンリーワンとスペシャルって言葉としても似ているし、近い。僕もスペシャルな人間になりたいってもともと思ってたタイプの人間だから、バンドを始めて、ステージに立って、いろいろなバンドを見たうえで、スペシャルなアーティストになりたいと思ってたんですけど――何がスペシャルなんだろうと考えても自分の中に答えはなかった。誰かとどんなふうにスペシャルな関係になれるんだろうかってところに答えがあったんですよ。

-その特別な存在を"やはりただのポンコツだけど"って歌っているところがいいですね(笑)。

たった数文字なんですけど、そこが僕の中でプロとアマチュアの一線を引けるところなんですよね。ただ歌詞を書いているように見られているかもしれないけど、ちゃんと言葉をフックにしてひっかける感覚や音の運び、人の心理を冒頭数行で惹きつけて、コロコロと意識を変えながらちゃんとオチをつけることって、僕の中ではすごくテクニックを駆使しているところで、そこにプロの仕事を感じているんです。やっぱり人様に差し出すものですからね。あるいは人の前で一段上がって歌うときに何か根拠がないとそこに立っていられないですし。これは他の人には作れない、自分だけが作れるものだって感覚があると同時に、"これいいよね"って思ってくれる人ときっと巡りあえるだろう、みたいなこともそこから感じるんです。なんてことはない数行の言葉かもしれないけど、歌になって、音になって、そこに"SPECIALS"って言葉が出てきたとき、何か感覚が動く、心が動くっていう僕なりの魔法ですね。そこで"SPECIALS"って唱えると何か起きるんじゃないかっていう、実際エネルギーが見えるわけじゃないけど素敵な錯覚を起こせるようなね。むしろ、そこがぱっとイメージできたことで自分の中で完成したかな。もともとは"SPECIALS"ってキーワードがあって、それをどうやったら曲に落とし込めるか考えてたんですよ。「we are the specials/僕らは"SPECIALS"」ってサビの歌詞は僕の中で超キャッチーだけど超ダサいと思ってて。でも、ダサいことをダサいままやりたくないから、これを一緒に笑い飛ばせるような、サビとして一緒に歌いたくなるような言葉としてどうやったら使えるか。ダサいと思っていたものが愛しく感じられるような文章の流れにするにはどうしたらいいか考えていたとき、人のことを究極に持ち上げたり、落としたり――人間の関係性って、特に友達みたいな対等の関係の場合、好きなところもあれば、嫌いなところもあるじゃないですか? それを雪崩れみたいに表現するのもありだなと思って。言葉攻めの中で意識をポンポンと切り替えるテクニックを駆使して、"お前ってホントそうだよな。でも~"みたいなことを表現としてものの数秒で、"えいっ!"とやったとき、サビと繋がる感覚があったんです。ただ"特別な関係です"って言ったら本当にチープじゃないですか。"いろいろあるけど、特別な関係なんです"って書き方をしなきゃいけないと考えたとき、自分の中の技法とサビの言葉がうまい具合に結びつきましたね。