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INTERVIEW

Japanese

カラスは真っ白

 

カラスは真っ白

Member:ヤギヌマ カナ (Vo/Gt) シミズ コウヘイ (Gt/MC)

Interviewer:天野 史彬

ポップとは何か?――それは音楽を愛するものにとってはあまりに深い問いだ。しかしこれだけは言える。ポップとは、人を安易にノせて泣かせるためにあるものではない。ポップとは、私たちの心と身体を否応なく揺さぶり、時に畏怖の念すら与え、しかし尚、私たちを魅了する甘美な魔法のはず。札幌出身の4人組、カラスは真っ白は、そんなポップの深淵に果敢に手を伸ばす。ブラック・ミュージックをはじめ多彩な音楽を消化した豊潤なサウンドに、摩訶不思議な刺を持つ歌詞。2ndミニ・アルバム『おんそくメリーゴーランド』で彼らは、ポップの神秘の、その1歩奥に足を踏み入れた。

-元々、シミズさんが中心になって結成されたんですよね?その経緯から教えていただけますか。

シミズ:元々、僕とドラムのタイヘイが凄く仲よくて。それで、大学1年生の頃に一緒にバンドがやりたいって思ったんですけど、ヴォーカリストが見つからないっていうありがちな状況に陥りまして。僕の中では、歌よりも雰囲気のほうを大事にしたいっていう思いがあったので、女性ヴォーカルがいいなってどことなく考えてたんです。それでいろんな人に試しに歌ってもらったんですけど、しっくりくるものがなく。で、後輩として彼女(ヤギヌマ)が入ってきた時、もう見た目が人間っぽくないというか(笑)、宇宙人みたいで、ステージ映えしそうだなって思ったんです。で、歌も聴かずに一緒にバンドやろうよって誘って。それでカラスは真っ白が結成しました。

-それまでの人は試しに歌ってもらうくらいだったのに、ヤギヌマさんは歌も聴かず第一印象だけで決めてしまうって、存在がそれだけ衝撃的だったってことですよね。具体的に、ヤギヌマさんは当時どんな感じだったんですか?

シミズ:当時、赤地に白い水玉のワンピースを着て、おかっぱで、ほんとに他の人とは違う雰囲気を持ってましたね。僕はライヴを観る時に、演奏の上手さとかよりも表情を観てしまうんですね。カッコいい雰囲気を持った人――それはイケメンとかそういうことじゃなくて、ステージで観ていたい人っていうのが僕の中にあって。その雰囲気にマッチするのが彼女だったんですよね。一緒にステージに立って安心できるというか、自分がお客さんだった場合、どういう人を観たいのかって考えた時、すんなり入ってきたのが彼女だった。だから、ほんとに初対面で、雰囲気と印象だけで選びました。

ヤギヌマ:わたしは、このひとへんなひとだっておもいました(笑)。ついてっちゃいけないひとなんじゃないかって。でも、わたしもだいがくはいってからばんどやりかたったから、ふたつへんじでおーけーして。

-その当時、カラスは真っ白をこういうバンドにしたいっていうビジョンはあったんですか?

シミズ:いや、ビジョンも全くなく、ただただバンドがやりたいって感じでしたね。曲案もなく、曲作りすら何もできない状態でバンドを始めたので、どういう曲をやろう?って考えながら結成したんです。その中で、ベースのヨシヤマ"グルービー"ジュンが加入した時、こういうバンドのコンセプトでやりたいっていうのを、言葉じゃなく、絵で描いてきたんですよね(笑)。ハッピーで楽しくて、ライヴをショウみたいにしたいっていうのを絵で表してきて。で、じゃあそういう感じでやろうよと。やっぱり音楽って楽しいほうがいいじゃんって。それでカラスは真っ白のコンセプトが決まり、段々とライヴを重ね、年月を経るに連れて形になっていった感じです。

-ただ、曲作りができなかったって言われてもピンと来ないぐらい、初期段階から楽曲の完成度は高かったと思うんですよ。サウンド的なビジョンっていうのも、何もない状態だったんですか?

シミズ:サウンド的には、そもそも楽器隊がファンクだったりR&Bだったりジャズだったりフュージョンだったり、そういう少しテクニカルなジャンルが好きで。それで彼女(ヤギヌマ)は、例えばNHK教育でかかっているような曲や、女性ヴォーカルのふんわりした曲のような、かわいいものが好きで。で、最初はそういった要素をそのまま、自分たちのやりたい方向に作ってたんです。でも時を経る毎に、自分たちには何が足りないかっていうのをよく考えるようになっていったんです。速いポップ・ソングも作ったし、重たいファンクも速いファンクもいろいろ作ってきたけど、じゃあ、まだやってないジャンルってなんだろう?っていうことを考えて。その結果、例えば前作(『かいじゅうばくはつごっこ』)に「サニー・サイドアップ」っていう曲があるんですけど、その曲ではサンバのリズムを取り入れてアフロ・ビートっぽい曲調にしてみたり、今回の『おんそくメリーゴーランド』だったら、「サーカスミラー」っていう曲ではギターをZAZEN BOYSみたいにしてバキバキのロックにしてみたり、逆に最後の「雨傘パレット」っていう曲では、アンビエントっぽさを求めていったり......。よく"雑多感がある"っていうふうに言われるんですけど、自分たちにやりたい音楽がたくさんあるからそうなっていくんだと思います。

-常に自分たちの音楽性を拡張させているっていうことですよね。それは音源を聴いても凄く感じる部分なんですけど、逆に訊きたいのは、楽器隊にファンクやR&Bのようなブラック・ミュージックのしっかりとした素養があるのに、それにも増して"何か足りない"っていう飢餓感を抱えながらさらにいろんな音楽要素を足していく――その"何か足りない"って思わせる原動力はなんなんですかね?

シミズ:結局、1本で行きたいっていうよりかは、いろんな音楽を聴きたい、いろんな音楽をやりたいっていう思いがあって。もちろん、浅く広くっていうわけではなくて、ひとつのリズムをとっても、その強弱とか、前にいるのか後ろにいるのかっていう部分でそれぞれの音楽性に深さってあると思うんです。それは追及していきたいんだけど、ただ、ずっとバンドをやっていく上で、ひとつのことだけをやっていても、自分たちが飽きちゃうっていうことがよくあるんです。

ヤギヌマ:うんうん、あきっぽいんだよね。

シミズ:それにお客さんも、"またこういう曲かぁ~"って思うかもしれない。もちろん、ずっと同じ曲調を聴き続けていきたいっていう人もいると思うんですけど、その前に自分たちがつまんなくなっちゃうので、だからいろんな音楽ジャンルを吸収したいって思うんだと思います。

-じゃあ、まずメンバーの音楽リスナー、プレイヤーとしての好奇心、探究心がありつつ、その上で聴き手を楽しませたいっていう意識から、これだけ雑多な音楽性を吸収したサウンドが生まれてるんですね。多彩な音楽ジャンルを消化していくことが、自分たち自身とお客さんを楽しませることに繋がるっていう。

シミズ:そうですね。カラスは真っ白にジャンル的な芯があるとすれば"ポップとファンク"っていうことになると思うんですけど、ポップ要素は彼女(ヤギヌマ)が補ってくれると自分は思ってるんですよね。で、ファンクの要素は曲によって入れるんですけど、ファンクって、僕は1番ノれる音楽だと思っていて。その要素はライヴで昇華できればいいなって思ってます。例えば曲の繋ぎであったり、ステージ・パフォーマンスでファンクに乗せてやっていければ、カラスは真っ白として成立するのではないかと考えてます。

-"ポップとファンク"っていうことで言うと、ファンクっていうのは、まぁ明確な音楽の形/ジャンルとして捉えることができるかもしれない。ただ、ポップっていう言葉はもっと漠然とした観念みたいなものですよね。カラスは真っ白にとっての"ポップさ"ってどういうものか、言葉にすることはできますか?

シミズ:そうですね......カラスは真っ白にとってのポップは......。

ヤギヌマ:"かわいい"。

シミズ:ははは(笑)。そうだね、確かに"かわいい"だね。カラスは真っ白のポップ要素はヤギヌマちゃんなんですけど、確かにおっしゃったように、ポップっていう言葉は漠然としていて。ただ、ヤギヌマちゃんの歌そのものが僕にとっては凄く面白くて。よく、"ヤギヌマちゃんはかわいくて浮遊感がある"っていうふうに言われるんですけど、僕は浮遊感というよりも、彼女にはリズム感がちゃんとあって、案外、地に足着いてるなっていう印象があるんですよね。リズムが強い、アタックが強いっていうイメージ。例えばこのバンドのバッキングの演奏は、16だったり8だったり、跳ねてたり跳ねてなかったり、どんどんリズムを重ねていってるんですけど、そこに対流的に他の要素を入れていくことでカラスは真っ白の音楽は構成されてるんですね。ポップ要素とブラック・ミュージックのハードな感じを組み合わせていくというか。で、それって合っているのか?ってよく言われるんですけど、合っているって僕は思っていて。その理由は彼女の歌に浮遊感があるんじゃなくて、彼女の歌からリズムがちゃんと聴こえてくるからだと思うんですよ。言葉のチョイスもそうなんですけど、言葉によって浮かび上がってくるリズムが気持ちいい。彼女の言葉のチョイス、メロディのチョイスに、僕はカラスは真っ白のポップさを強く感じるんですよね。