Japanese
カラスは真っ白
2015.03.21 @渋谷Star lounge
Writer 天野 史彬
初めてカラスは真っ白にインタビューをしたとき、ギターのシミズコウヘイが言った言葉で、忘れられない言葉がある。あのとき、私の"今後、カラスは真っ白としてやってみたいことはあるか?"という問に対して、彼は"劇場でショーをやってみたい。悪役もみんな含めて、手を繋いでカーテンコールをやりたい"というふうに答えた。その場では気づかなかったが、あとで気づいた。それって"ラヴ&ピースってことじゃん!"と。悪役も含めたすべての登場人物で手を繋ぎたい――それは言うなれば、自分と立場が同じ人も異なる人も、すべての人々がステージの上では、音楽の中ではそれぞれの立場――国籍も性別も人種も宗教も、それぞれの正義と悪も――を越境し、手を繋げるはずだという気高き理想主義なのではないのか? それに気づいたとき、カラスは真っ白が何故、ファンクにこだわり続けるのか、その理由も鮮明になった気がした。そう、君と私の間を隔てる壁を壊し、手を繋ぐには、どこまでも踊れるグルーヴが必要なのだ。
そして実際、この日、私は踊りに踊った。ライヴ・レポートの記事を書くためにやってきたライターであることも忘れて――。3rdミニ・アルバム『HIMITSU』リリース・ツアー"ひみつじゃないけどHIMITSUツアー"の東京公演、渋谷Star loungeワンマン。今の彼らの勢いを考えれば、Star loungeは少々狭いハコだろう。この日のチケットはもちろんソールド・アウトで、会場は凄まじい熱気に包まれていた。そして、ステージ上に表れた4人――シミズ、グルービー、タイヘイ、そしてヤギヌマもまた、不敵な存在感の中からただならぬ熱気を発していた。
1曲目はミニ・アルバム『HIMITSU』の"ひみつ"のカギを握るトラックでもある「9番目の「?」」から。いきなりシミズとオーディエンスの間で"パーティ・タイム!""ファンキー・ポップ!"のコール&レスポンンスが繰り広げられる。1曲目からコール&レスポンスをやってのける、その度胸が素晴らしいが、それが決して突拍子もないパフォーマンスではなく、その重たく揺れるファンキーなサウンドに支配された空間の中では、自然と成り立ってしまうところが何よりも素晴らしい。続く「サーカスミラー」を挟んでの「アセトアルデッドヒート」では、演奏中に長めのMCがぶっこまれる。これにも面食らったが、基本的に彼らのライヴは演奏中のMC、あるいは、曲のちょっとした中断は当たり前。音源ではコンパクトかつポップに構築されていた楽曲たちも、ライヴの現場ではジャム・セッションのごとく脱構築されていくのだ。しかしながら、それでもグルーヴが途切れることなくオーディエンスを楽しませ続け、曲もライヴも見事な完成度で成り立たせることができるのは、彼らに確固としたファンク・バンドとしてのプレイヤビリティがあり、ライヴとは本来的に"楽しむ"場なのだという痛快な姿勢があるからこそだろう。そしてもちろん、これにはヴォーカルのヤギヌマ カナの存在も大きい。自由に、ファンキーに拡張していく男3人のサウンドをポップスとして集約させているのは、真ん中で異彩を放ち続けるヤギヌマの不思議かつポップな存在感である。
つまるところ、カラスは真っ白のライヴに"起承転結"というストーリーはないのだ。そんな予定調和は通用しない。そこにあるのは、もはや"転転転結"。初っ端からフル・スロットル、最高値のカタルシスがやってきて、飽きさせることなく、それが最後まで持続していく。永続するグルーヴ感、絶え間ないファンクネス。それを可能にしているのが、シミズのソリッドなカッティング・ギター、グルービーの重たく揺れるベース・ライン、タイヘイが打ち出す1音1音がへヴィなファンク・ビート、そして"カワイイこそが正義"なヤギヌマの、唯我独尊なヴォーカリゼーションという、4人の音楽的個性が巻き起こすケミストリーであることは間違いないが、それと当時に、大学時代より共に歩み続けた彼ら4人の"人間関係"もまた、このバンドの大事なグルーヴになっているのもたしかだ。ライヴ中盤、「秘密警察」と「黒魔術のフロマージュ」の間に挟まれた10分ほどの長めのMCコーナーでは、ドラムのタイヘイがもはやドラム・セットより前に出てきてハンドマイクで喋っているという始末。なんというか、このバンドは仲がいい。そこにある人間同士の緩くてあたたかな関係性もまた、バンドの醸し出すグルーヴ感として、オーディエンスの心と体を揺らす要因になっている。だからこそ......そう、だからこそ、この日がベーシスト、ヨシヤマ・グルービー・ジュンにとって、カラスは真っ白での最後のライヴだったことも、"切なさ"という名のグルーヴを、この日のライヴに与えていたのもたしかだ。
屈強なファンク・サウンドだけではない、「スカート・スカート・スリープ」のようなロマンティックな楽曲ではバンドのメロウな側面も見せつつ、ライヴ終盤、会場がサンバ・カーニヴァルのごとき狂騒の宴の場と化した「サニー・サイドアップ」から、続く「革命前夜」ではグルービーがへろへろな(笑)コール&レスポンスを披露。この日はやはりグルービーがMCなどでもピックアップされる場面が多かったが、それを見守る3人の眼差しが優しくて、こちらまで感極まってしまう。本編のラストの「HIMITSUスパーク」は、この日、あらゆる地平に拡張し拡散されたカラスは真っ白の"ファンク・ポップ"という芯を、再び1本の太く巨大な柱として見せつけるような、そんな屈強な演奏だった。
そして、アンコールでは新ベーシストのオチ・ザ・ファンクも登場。さすがにステージ上で行われたグルービーからオチへのベース交代の瞬間は切なさが極まったが、このツアー・ファイナルで新ベーシストを迎え新曲を披露することは、この先もさらに勢いを増しながら走り続けるはずのカラスは真っ白にとってはひとつの決意表明であり、未来へ向かうための必要な儀式だったのだと思う。演奏された新曲は、よりポップとしての芯を太くした力強い曲だった。そしてダブル・アンコールの前に、グルービーがひとり、ステージ上に登場。たどたどしくも、カラスは真っ白のメンバーとして歩み続けた自身のキャリアを振り返り、メンバーと、そしてオーディエンスに感謝を伝えた。最後は「ハイスピード無鉄砲」を、グルービー、シミズ、タイヘイ、ヤギヌマの4人で披露。「ハイスピード無鉄砲」は、デビュー作『すぺくたくるごっこ』の冒頭を飾る曲であり、カラスは真っ白の名が広まるきっかけを作った、いわばバンド初期の名刺代わりの1曲でもある。そんな、バンドの思春期を象徴する瑞々しさと荒々しさを持ったこの曲で、カラスは真っ白はひとつのタームに区切りをつけた。この先もまだまだ、彼らはハイ・スピードに、そして無鉄砲に駆け抜けていくのだろう。ステージの上で、誰もが手を繋げる日を目指して。
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