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Japanese

ずっと真夜中でいいのに。

2020年08月号掲載

ずっと真夜中でいいのに。

Writer 金子 厚武

米津玄師とDAOKOに加え、サブスクで聴かれまくったあいみょんが"NHK紅白歌合戦"に出場した2018年、"インターネット発"がキーワードになった2019年、瑛人がバイラル・ヒットを記録し、TikTok発のヒットも増えてきた2020年と、刻一刻と状況が変化している現代の音楽シーン。2018年6月に初めてYouTubeに投稿した「秒針を噛む」が瞬く間に話題を呼び、現在では6,000万回再生を突破しているずっと真夜中でいいのに。(以下:ずとまよ)もまた、新たな時代の到来を強く感じさせたアーティストの1組である。


なおかつ、そのクリエイティヴィティの高さは"ネット発"と呼ばれるアーティストの中でも際立ち、1stミニ・アルバム『正しい偽りからの起床』が"第11回CDショップ大賞2019"の入賞作品に選出されたのは、作品性の高さが評価されたからこその結果だと言える。また、ずとまよはすでにリアルのライヴでも実績を残していて、特に2019年の"フジロック"でのライヴはオープン・リールを用いた独自の演出にも注目が集まり、その日出演したアーティストの中で最もツイートされた数の多いアーティストに。今年の5月に予定されていた幕張イベントホールでのワンマンは残念ながら延期になってしまったものの、ライヴに対する期待値は今も非常に高い。


ACAねのバックグラウンドからひもとく現代的な"エモさ"の背景


改めて紹介すると、そんなずとまよの中心人物が、作詞/作曲/歌唱を担当するACAねである。最近比較されることの多いヨルシカやYOASOBIがVOCALOID出身の男性プロデューサーと女性シンガーのユニットであるのに対して、ACAねがクリエイティヴとアウトプット、アイコン性のすべてを担っているのはずとまよの大きな特徴だ。もちろん、彼女自身もボカロ文化の影響を強く受けているであろうことは、楽曲やアレンジャーのチョイスからも伝わるが、彼女のバックグラウンドとして僕がより強く感じるのは、相対性理論のやくしまるえつこと、indigo la End、ゲスの極み乙女。、ジェニーハイなどで活躍する川谷絵音のふたり。ともにカッティング・エッジな感性で時代を動かしたクリエイターである。

匿名性はもちろん、ナンセンスな言葉使いやSF的な世界観など、ACAねとやくしまるには共通点が多く、当時の相対性理論のキャッチコピー"ポストYouTube時代のポップ・マエストロ"にならえば、ずとまよはまさに"YouTube時代のポップ・マエストロ"。さらに言えば、ずとまよの楽曲からも感じられる"エモさ"という現代の若者の時代精神も、相対性理論がそのルーツのひとつであるように思う。やくしまるえつこの特徴的なウィスパー・ヴォイスはやがてDAOKOを筆頭とするネット発の女性ラッパーたちに再発見され、ネット上に吹き溜まった鬱屈とした感情を、抑えたウィスパー・ヴォイスに乗せることが"エモさ"に繋がり、それをよりポップスとして確立していったのが、近年のずとまよやヨルシカだと言えるのではないだろうか。ちなみに、ずとまよは元欅坂46の平手友梨奈がヒロインを務め、10月公開予定の映画"さんかく窓の外側は夜"で主題歌を担当することが発表されているが、平手はアイドルでありながらもヒリヒリとした"エモさ"を表現したことが人気の要因として大きかったと考えられ、一本の線が繋がったような感覚がある。

川谷絵音に関しては、特にゲスの極み乙女。の音楽性とのシンクロが大きく、ピアノを用いた四つ打ちのロックとジャズ・ファンクの横断、転調の多用などは非常に近いものがあり、すでに川谷自身がずとまよを初期に発見し、賛辞を寄せていることも伝えられている。そんな川谷もまた"エモさ"を感じさせるアーティストのひとりだが、彼のルーツのひとつであり、ずとまよにも通じるプログレッシヴな音楽性の背景となっている"ポスト・ロック"が、もともと"エモコア(エモーショナル・ハードコア)"からの発展であることに注目したい。川谷の作品でエンジニアを務めることも多い美濃隆章が所属するtoeをはじめ、言葉にならない感情をインストゥルメンタルでエモーショナルに表現するバンドが多いのもポスト・ロックの特徴だが、エモさと作品に対する緻密なこだわりを兼ね備えたポスト・ロックの影響下にあるバンドたちは、現在のネット発のアーティストたちに間違いなく大きな影響を与えている。そんな意味においても、やはりACAねは時代の寵児なのだと言えよう。

新作『朗らかな皮膚とて不服』は、1stフル・アルバム『潜潜話』から9ヶ月ぶりのリリースとなる3枚目のミニ・アルバム。5月15日に公開されたミュージック・ビデオが早くも1,000万回再生に到達した「お勉強しといてよ」は、編曲にアニメやゲーム音楽とも接点の深い矢野達也と、ずとまよ作品ではお馴染みのボカロP 100回嘔吐を迎え、ファンク・ベースとディスコ・ストリングスにキャッチーなメロディを組み合わせた中毒性の高い1曲。そして、こちらもお馴染みのWabokuによるアニメーションのミュージック・ビデオが7月13日に公開された「MILABO」も100回嘔吐が編曲に参加し、ディスコ・ストリングスに加え、ブラスやフルートも入っていて、音楽的な進化を見せている。ゲスの極み乙女。が今年リリースした『ストリーミング、CD、レコード』には、かつての代表曲をモチーフに、ブラス・アレンジでジャズ・ファンクに生まれ変わらせた「キラーボールをもう一度」が収録されていて、管弦楽器の重用にはやはり通じるものがあると言えよう。なお、SNSやYouTubeのコメント欄では今回もミュージック・ビデオの"考察合戦"が展開されていて、そのミステリアスな世界観がさらにリスナーを引きつけているのも間違いない。


他の収録曲を見ていくと、先日MVが公開された1曲目の「低血ボルト」は、以前「ヒューマノイド」にも参加している関口晶大と、こちらもアニメやゲーム音楽との接点が深い出口 遼を迎えての、LRに配置されたピアノをアクセントにした疾走感のある四つ打ちナンバー。もう1曲、100回嘔吐が参加した「Ham」はミドル・バラードで、"なさけないけど 空しいけど/君の手を 繋いで歩きたいよ"、"君といたいよ どうしたらいい/どうにもならないけど"という歌詞が、ストレートに"エモさ"を感じさせる。そして、個人的により注目したいのが、ずとまよ作品ではかつて「マイノリティ脈絡」に参加し、今年すでに2枚のアルバムを発表しているVOCALOIDプロデューサー、煮ル果実が編曲に参加した「JK BOMBER」と「マリンブルーの庭園」の2曲。ともにオルタナティヴR&B的なビートやハーモニーを特徴としながら、日本のバンド/ボカロ文脈とも呼応するギター・サウンドも兼ね備えているのが面白い。2010年代の潮流となったアンビエント的な音像が飽和し、国外のR&Bやヒップホップからも歪んだギターが頻繁に聴かれるようになったなか、こうしたアレンジはある意味今っぽく、ギターの音色にもう少し時代性を加えることで、よりユニバーサルな表現になり得るように感じた。何にしろ、確かな進化とさらなる可能性を感じさせる、充実のミニ・アルバムだと思う。


最後に、本作がコロナ禍の状況下でリリースされることの意味を考えてみたい。これは今に始まった話ではないが、今回J-POPやボカロだけでなく、アニメやゲーム音楽との接点が深いアレンジャーが参加していることは、改めてACAねがアニメやゲームの作り手にも通じるクリエイター気質の持ち主であることを感じさせる。"フェス/ライヴ全盛"と呼ばれた時代から、サブスクが影響力を強めるなかにあって、多くの人が集まってフィジカルに楽しむライヴを開催することが困難になっている現状は、この変化をさらに推し進めるだろう。そして、そこでより注目されるのは、屋外ではなく室内、部屋から生み出されるクリエイション、イマジネーション、エモーションであり、ACAねという作り手はまさにそれらを兼ね備えた人物だと言える。集められた感情参考書でお勉強しながら、無限大の想像力を爆発させるアーティスト。それがこれからますます求められていくはずだ。


▼リリース情報
ずっと真夜中でいいのに。
3rdミニ・アルバム
『朗らかな皮膚とて不服』
2020.08.05 ON SALE
Shokai_ZTMY_Hogaraka_H1.jpg
Shokai_ZTMY_Hogaraka_H4.jpg
【初回生産限定盤】
UPCH-29366/¥3,300(税別)
amazon TOWER RECORDS HMV

■特典
・魔道書パッケージ仕様(シルバー)
・本編全曲オフボーカル(インスト)CD
・オリジナル四コマ漫画冊子(sakiyama, 革蝉 書き下ろし)

1. 低血ボルト
2. お勉強しといてよ
3. Ham
4. JK BOMBER
5. マリンブルーの庭園
6. MILABO
7. Bonus Track - サターン [Acoustic ver.]
8. 低血ボルト (Instrumental)
9. お勉強しといてよ (Instrumental)
10. Ham (Instrumental)
11. JK BOMBER (Instrumental)
12. マリンブルーの庭園 (Instrumental)
13. MILABO (Instrumental)

Tsujo_ZTMY_Hogaraka_H1_s.jpg
【通常盤】
UPCH-20552/¥1,800(税別)
amazon TOWER RECORDS HMV

1. 低血ボルト
2. お勉強しといてよ
3. Ham
4. JK BOMBER
5. マリンブルーの庭園
6. MILABO
7. Bonus Track - 蹴っ飛ばした毛布 [Bathroom Twin Piano Live(2020.05.06) ver.]
「MILABO」配信はこちら 「低血ボルト」配信はこちら

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