Japanese
ずっと真夜中でいいのに。
Skream! マガジン 2020年09月号掲載
Writer 吉羽 さおり Photo by 鳥居洋介
8月6日、ずっと真夜中でいいのに。が"オンラインライブ NIWA TO NIRA(有料)"を配信した。新型コロナウイルスの影響でリアルなライヴの開催が難しく、多くのアーティストが無観客の配信ライヴでの見せ方、配信ならではの趣向を凝らし、模索をしている現在。今回のずっと真夜中でいいのに。のライヴはひとつのあり方、楽しみを見せてくれた。
たくさんのケーブルがぶら下がり、そこかしこに機材が積み上げられ、忘れられたようにエアコンの室外機などの家電も置かれた会場はまるで廃工場のよう。登場したACAねはおもむろにまな板に向かってその上で野菜を切り出して、そのトントンと小気味のいい音にビートが重なって演奏がスタートした。バンドが大きなエンジンになって会場がブルっと息を吹き返した感覚で、セットの一部と思われた家電も実は楽器だった! という驚きと興奮が湧き上がる。「お勉強しといてよ」では横並びの5台のブラウン管テレビがパーカッションとなり、サウンドを躍動させた。その後ろで古いオープン・リール式のテープ・レコーダーを楽器としてプレイするのは、昨年の"FUJI ROCK FESTIVAL"でも共にステージを彩ったOpen Reel Ensembleの3人だ。彼らと、マニピュレーターやヴァイオリンもプレイする5人のバンドに加え、ヴォーカルのACAねも時に扇風機型の楽器(扇風琴)を奏でて、ファンタジックなサウンドを編み上げていく。
ずっと真夜中でいいのに。のサウンドは、ジャズやソウルなど多彩なエッセンスが昇華された、複雑にして芳醇な味わいのある音楽だ。その玄人好みの音楽をポップに、エモーショナルに聴き手を共振させるのがACAねの歌声であり、グルーヴ感のあるフロウである。今回のライヴでは会場の全方位に設置したカメラも、ずっと真夜中でいいのに。の音楽を因数分解してその面白さ、高揚感のもととなるものを捉えていた。カメラは各楽器に肉薄して音が迸る瞬間やブレスの細やかさ、ウッド・ベースの弦のしなりやオープン・リールのテープのたわみなども逃さず、そんな振動が共鳴し合って極上のアンサンブルが生み出されていることを、画面の向こうの視聴者にそのビリビリとした振動と共に伝えた。マジカルな音の鼓動を視覚化し、また目の前に観客がいないゆえに高い純度で構築されたその世界観は、普段のライヴでのステージと客席の距離感や熱量とはひと味違うが、とても面白いもので、ますます彼らへの好奇心をくすぐるものになっていたと思う。
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