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INTERVIEW

Japanese

Academic BANANA

2024年08月号掲載

Academic BANANA

Member:齋藤 知輝(Vo) 萩原 健太(Ba)

Interviewer:吉羽 さおり

前作『Love Letter』があったからこそ、いろいろ曝け出せた


-歌の持つ苦味と甘さとがこのソロ・パートで表現された感じですね。

萩原:前回のアルバムはあまりソロとかを入れていなくて、そういうコンセプトでも作っていたんですけど。今回は特にそういうことは考えずに曲を作って、この曲は鍵盤にソロをやってもらいたいというのがあったんです。自分でアレンジしていても思ったんですけどね、これは長いかなと(笑)。

齋藤:普通なら半分くらいにカットされるかもしれないですけど、自分たちの会社から出すCDだからこそ好きにできるという。

萩原:実際、すごくいいソロを弾いてもらったので。

齋藤:この曲では中村エイジ君という、a子ちゃんとかでキーボードを弾いている方にお願いをしているんですけど、2パターンのソロを送ってくれて両方めちゃくちゃ良かったので、CDと配信で変えようと思ってます。CDに収録したほうは"THEソロ"という感じで、配信のほうはよりライヴ感があるんですよね。ライヴでのいいソロってこういうのだよね、っていう。

萩原:どちらもキャラクターが違って良かったんですよね。

-「藍哀傘」は切なさを宿したバラードです。

齋藤:この曲は健太が作曲しているんですけど、これまでは健太が書く曲に乗せる歌詞って、どちらかというとユーモアが強めの歌詞だったりとか、歌とサウンドがセッションしてるみたいな感覚で乗せることが多かったんです。今回はこういう曲が上がってきたからというのもあるんですけど、ラヴ・ソングで行こうみたいなところがあって。だからこれも初めての試みですね。サウンドもJ-POPに近い感じで。

萩原:夏というコンセプトでいろいろ構想をしたときに、例えば前作での「Winker」みたいなグルーヴィなものは浮きすぎるし、ちょっと合わないかなというのがあったので。今回のEPではアコギと歌だけの曲「ゆるしてあげる」があるんですけど、ピアノでしっとりと聴かせるもので行きたいなというイメージはありましたね。

-ドラマチックなサウンドに、主人公の女性が語るように気持ちを吐露していくような歌詞と齋藤さんの繊細なヴォーカルが映えますね。

齋藤:この曲だけ歌詞がほとんどない状態でバンドのレコーディングをしているんです。みんなにどういう曲かを伝えなきゃなって思ったので、夏の儚さとか切なさという意味で"線香花火のような"とかいろんなことを送ったんですけど──。

萩原:線香花火っていうのは一切、歌詞に出てこないんですけどね。

齋藤:雨の世界観というのはあって。花火大会はなくなったけど一緒に線香花火したよね、みたいな感じの曲に持っていこうと思ったんですけど、これはずっと雨のままでもいいなって思ったんですよね。"雨なら逢える"っていうのが俺の中でキーワードでした。雨が降ったらなくなるもの──例えば野球の試合とかもそうですけど、本来なら逢えなかったのに予定がなくなったから逢えたっていう、そこが描きたかったところでしたね。

-そうしたドラマを描くなら、女性側の視点というのがより良かった感じですか。

齋藤:感情的には自分の感情を描いたものなんですけど、これを男目線で書いたら気持ち悪いなと思って(笑)。そういうときは女性の言葉を借りますね。あとは歌詞の中に、自分が学生時代に聴いていた曲のフレーズを入れたいなと思って書いたものもありますね。例えば"常夜燈"は秦 基博さんがカバーした大江千里さんの「Rain」からとか、"高架線"はELLEGARDENの「高架線」だったり、"星をよけた雨"はASKAさんの「はじまりはいつも雨」からのものだったり。自分が聴いてきた曲や歌たちが自分の過ごした日々だと思っているので、それを入れたかったんです。

-切なさや哀愁、懐かしさを感じさせる曲が多い中で、「風のゆくえ」は爽やかな夏の風が吹く"これぞ青春"という曲で、アカバナとしては振り切ったロック・チューンになりましたね。

齋藤:疾走感のある曲で。サポートでギターを弾いてくれている白井 岬に弾かせたいなって思ったんです。ロック・ギタリストなので、彼の持ち味を発揮できるじゃないですけど、こいつとライヴをやったら面白いよなって曲をやりたかったのもあります。

萩原:ストレートだよね。

齋藤:歌い方とかもAメロはちょっとませた大人感というか、男っぽさを入れたいんだよねってエンジニアの清水(裕貴)に話して録ったら、ちょっとこれはやりすぎだなと言われましたけど(笑)。

萩原:(笑)

齋藤:歌のニュアンスも意識しましたね。

-夏というコンセプトがあったからこそ振り切れた感じですか。

齋藤:こうでもしなきゃやらないかなっていうところはあったかな。ただ、歌詞は1stフル・アルバム『SEASON』に収録した「Feel Like Sunny」という曲と対になるイメージで書いていますね。「Feel Like Sunny」では"自由に飛び立て"って歌っていたんですけど、「風のゆくえ」では"この夏はオレ 離さないから"、"8月の袖 掴まえるから"って、ちょっとオラオラした感じですよね。

萩原:歌詞はね。

齋藤:曲の構成も僕は普段、いわゆる"Dメロ"を書きがちなんです。でも今作は全然入れてなくて、「アオハル」くらいかな。「風のゆくえ」も最初はDメロがあったんですけど、健太と2人で"なんかいらないよね"って話して。こういうのをイメージしてるんだよねっていう感じで、イエモン(THE YELLOW MONKEY)の曲とかをリファレンスで送った気がする。

-サビ始まりというキャッチーさもあって、パワフルなまま駆け抜けていくサウンドは作品にも風を吹かせていると思います。そして先程も話が出た、歌とギターで聴かせる曲が「ゆるしてあげる」です。おばあちゃんの家で過ごした夏の思い出が描かれました。

齋藤:小さい頃は夏になると島根にいるばあちゃん家に預けられていたので、その思い出ですね。歌詞にある通り、僕昔は漫画家になりたかったんです。漫画家っていわゆる安定した職ではないから、ばあちゃんは僕を公務員にさせたがっていたんです。漫画家を諦めたらミュージシャンになってましたけど(笑)。

萩原:結局、変わらないよね。

齋藤:ばあちゃんはまだ生きてるんですけど、長生きしてほしいなっていう思いで書いた曲ですね。両親や兄ちゃんいわく、面倒見るとき、ばあちゃんがめっちゃわがままを言うらしんです。僕は今遠くに住んでいて、ばあちゃんに何かしてあげることがあまりできないから、じゃああの頃のことはゆるしてあげるよっていうか。

-公務員にさせようとしてたこととか、前髪をぱっつんに散髪されたりしたこととか、ですね(笑)。

齋藤:あえて"ゆるしてあげる"って上からの感じで書いてますけど、そこも、俺もばあちゃんもお互いに歳を重ねたけど、ずっとあの頃の関係値でいたいなっていう思いがありますね。前々作では亡くなった祖母宛に「口紅」という曲を書いていて、そのときは"こういうことをしてあげたかったのにできなかった"という後悔を歌っているので。だからこそもう1人のばあちゃんには、今歌える歌をちゃんと歌いたいと思ったんです。

-その素直な思いを歌とギターというシンプルな構成で聴かせようと。

齋藤:今までアカバナのアルバムは、最後にピアノと歌だけの曲で締めくくることが多かったんですけど、僕のイメージする夏は、ギターを抱えていろんなところで歌ってたなというものなんですよね。地元が広島なんですけど、平和記念公園の橋の下で歌ったり、田舎に持っていってばあちゃんに弾いて聴かせたり、アコギを持っていろんなところに行ったイメージがあったので、今回はアコギで締めくくりたいなと思いました。

-公務員にさせたかったのに、漫画家でなくミュージシャンとなった孫をおばあちゃんはどう思っているんですか。

齋藤:どう思ってるんだろうなぁ(笑)。もうここまできたら応援するしかないっていう感じなんでしょうね。親とかと一緒に配信ライヴも観てくれているみたいなので。

-夏というコンセプトを持った作品ですが「Blue Jeans」や、この「ゆるしてあげる」もそうですが、パーソナルな曲、等身大の曲というのもまた増えていますね。

齋藤:アカバナを始めた頃は自分のパーソナルな部分を出したくないというか、抑えていた部分があったんですけど、作品を作っていくごとにちょっとずつ変わってきましたね。前作『Love Letter』でも、ラヴ・ソングだけじゃなく自分の等身大の部分とかを描いていたので、『Love Letter』があったからこそ今回の『BLUE JEANS』もいろいろ曝け出せたかなと思います。

-EPが8月28日にリリースとなりますが、作品を携えたツアーやライヴ等は考えていますか。

齋藤:今ちょうどリリース・イベントとして、インストア・ライヴをやっているところですね。インストアはいろんな形態でやっていて、サポート・メンバーを入れてカホンとギターとベースと歌だったり、僕の歌とキーボードと、健太がギターを弾くっていうパターンがあったり、バンド編成もありますし。9月28日にはいろんなゲスト・ヴォーカルを招いた主催ライヴ"Last Summer Party"があるので、それに向けてもやっていきたいですね。

-9月の主催イベント"Last Summer Party"では、ゲスト・ヴォーカルの他にダンサーの方も出演されるそうですが、どういうライヴになりますか。

齋藤:ダンサーは、僕がシンガーで参加している"ブラックスター -Theater Starless-"というコンテンツのライヴ現場で出会った方たちを呼んでいるんです。アカバナはいい意味でも悪い意味でもいろんなことをやりたいんですよね。僕の中でのイメージは"ap bank Fes"で、僕らはずっとステージに出ているんですけど、ゲストが出てきて一緒にその人たちの曲をやったり、もちろん僕たちの曲もやるしという感じで。

萩原:もともと齋藤は"ap bank Fes"が好きで、アカバナでもああいう感じでライヴをやろうというのは昔から言っていたんですよね。

齋藤:この1年、バンドのサポート・メンバーともいろんなことを共有してきて、今のタイミングならできるんじゃないかなって。歌い手だったりバンドマン、ラッパーとか、いろんなジャンルの人が出るので、演奏陣は相当ハードルが高いと思いますけどね。このイベントも、僕の過ごしてきた夏と関係のある人たちを呼んでいるんです。それこそ"ブラックスター(-Theater Starless-)"では毎年のように夏にツアーをやっているので、そのツアーを一緒に駆け抜けたメンバーだったり、アカバナをやる前に僕は月光というユニットで、渋谷でストリートライヴをしていたんですけど、そのときに出会ったSANABAGUN.のMCのリベラル a.k.a 岩間俊樹が出てくれたり。なので、自分にとっての夏を詰め込んだライヴにもなっているので、楽しみに来てほしいですね。