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INTERVIEW

Japanese

インナージャーニー

2021年09月号掲載

インナージャーニー

Member:カモシタサラ(Gt/Vo) 本多 秀(Gt) とものしん(Ba) Kaito(Dr)

Interviewer:秦 理絵

このバンドの良さって、バラバラだからこそ生まれてくるもの 正解がないからこそ生まれてくるものなんです


-そのあたりはインナージャーニーが目指すものと共通するかもしれないですね。Kaitoさんは、どうですか? 自分のルーツというと。

Kaito:僕は3人とはうって変わって、ずっとポップスを聴いていて。西野カナとかナオト・インティライミとかが好きだったんですよ。小学生の頃はそこまで音楽に興味がなくて、とにかくメロディが頭に残るものを聴いてました。で、中1のときにバンドの音楽に出会って。その最初が家で流れてた、ワンオク(ONE OK ROCK)のライヴ・ビデオだったんです。あ、バンドってこういう構成なんだ、こういう楽器なんだ。ドラムってこんなかっこいいんだって、そこで初めて知って。

-そこがドラムとの出会いなんですね。

Kaito:はい。そこから邦ロックの世界に入っていって。Crossfaithとかラウド系のバンドを聴くようになったんです。そこから洋楽のほうに近づいていって、BRING ME THE HORIZONとか、BEARTOOTHにいって、最終的にSLIPKNOTとか、RAMMSTEINまで行き着いたのが高1だったんですね。で、ずっとバンドを組みたいっていう欲求はあったんですけど、ひたすら独学で練習していて。ラウドの楽曲ばっかりコピーしてたんです。それで、高2の夏休みに1ヶ月だけ、ボストンのバークリー音楽大学に短期留学をしていて。

-え、すごい。授業は英語ですよね?

Kaito:はい。でもそのとき、僕、英語がまったくできなくて。音楽理論もまったくわからないから、もう英詞の曲を聴きたくないなと思っちゃったんですね。それで、日本語の曲を聴きたいってなったときに出会ったのがスピッツで。

-1周まわって日本のポップスに戻ってきた。

Kaito:そうなんです。日本の音楽いいなっていうところに戻ってきて。そこから、バンドのサポート活動を始めて、そこで出会ったのがこのバンドなんです。他の3人はみんな音楽に詳しいんですよ。でも、僕の音楽知識は浅いから。もっと知らなきゃっていうので、サラちゃんに"インディーズのおすすめのバンドを教えてくれ"ってLINEを送ったら、2、30バンドぐらいぶわーって書いてきて。

カモシタ:いっぱいあるなと思って(笑)。

-絞り切れなかったんですね。

Kaito:このバンドをやっていくにあたって、それが絶対に必要だなと思ったんです。

カモシタ:そうだったんだ。

Kaito:今でもラウドのスタイルも若干残ってますけど。2とかLaura day romanceを聴いて、自分のドラムにインディー・ロックが落とし込まれてきたのかなと思いますね。

-最後、本多さんもルーツ音楽を教えてください。

本多:僕は母親がピアノの先生をやっていたんですけど、なぜかピアノじゃなくて、ヴァイオリンをはじめたんです。でも、飽きちゃって。同じ弦楽器だしっていうのが、ギターを始めたきっかけです。もともとバンドの曲をあんまり聴いてなかったんですよね。

-聴いてたのはクラシックとか?

本多:歌モノじゃなくて、みたいな感じでしたね。バンドを聴くきっかけはサカナクションです。5人の音楽が混ざり合った音楽がいいなと思って。そこからバンドをやるようになって、高校2年生ぐらいのときにサラと一緒にバンドを組んだんです。当時、GLIM SPANKYを一番多くやってて。それが今のギターに直結してるのかなと思います。

カモシタ:OKAMOTO'Sとかもやったよね。

本多:あと、自分で聴いてた音楽はバンドっぽいやつじゃなくて。高校のときに教えてもらった、アニソンの作曲家たちが集まってるsiraphっていうバンドがいて、それが日本のバンドで一番好きですね。海外のバンドだったら、たまたま出会った、SUBMOTION ORCHESTRAっていうバンドです。これ、めちゃくちゃ人数が多いんです。メロディも、演奏もきれいなバンドで。これはめっちゃいいですよ。

カモシタ:"めっちゃいいですよ"って(笑)。

とものしん:これ、レコメンドの時間だったの?

-(笑)話を訊かせてもらうと、本当にそれぞれのルーツはバラバラですね。

Kaito:恐ろしいぐらいバラバラだよね。

とものしん:部分部分では知ってる。みたいなところもあるけど。

カモシタ:全員共通でこれがいいよねっていうのがあんまりないんですよ。

-そういうメンバーが集まって、どうやって自分たちの曲にまとめていくんですか? やっぱりサラさんが持ってくるデモを中心にっていう考え方なのか。

カモシタ:んー、どうなんですかね。

とものしん:さっき取材が始まる前に、"今回の2nd EPでバンドになった"って言ってくださったじゃないですか。それが、たぶん正しくて。1st EP(『片手に花束を』)を作ったときって、サポート時代に作った曲がほとんどなんですよ。それも、彼女が作ってきたデモを、100パーセントこのままのかたちでバンドにしようっていうのが根底にあって。そこから正規メンバーになって、今回のEPの曲を作っていくなかで、自分たちの個性をどんどん出すようになったんですよね。ギリギリで調和してる感みたいなのが出てるのかなって。

Kaito:もちろん中心にあるのはサラちゃんが持ってくる曲であり、詞であり、歌であり、なんですけど。そこに各々が持ってるルーツを掛け算してる感覚ですよね。たぶんこのバンドの良さってそこかなと思います。バラバラだからこそ生まれてくるもの。正解がないからこそ生まれてくるものなんです。

カモシタ:バラバラがゆえにまとめるのが難しくもあるんですけどね。私は言語化するのが苦手なところがあって。"キラキラした感じ"って言っても、4人それぞれ違うキラキラを想像して持ってくるから、"これはどうしたものか"ってなる。でも、それをまとめるんじゃなくて、それぞれの最小公倍数を求めてるのかもしれないです。

-じゃあ、今作『風の匂い』でバンドっぽさがぐっと増したのは、自然な流れだったということですね。

Kaito:そうですね。今回のEPはライヴで映える作品でもあるんです。インナージャーニーならではのグルーヴが出たのかなって思ってます。

-特に「Fang」はライヴで盛り上がりそうな疾走感のある曲ですよね。

Kaito:これはアレンジを詰めるとき、最初はスロー・テンポで、こんなに速い曲じゃなくて。

-全然違う雰囲気だった?

Kaito:そう。毎回、サラちゃんが弾き語りの音源で送ってくれるんですけど、フォークみたいな感じの曲調で。

とものしん:「グッバイ来世でまた会おう」に近かったよね。

Kaito:そうね。わりとミドル~スロー・テンポの楽曲で。それだと、1st EPに収録されてる曲とあんまり変わらないような気がして、もっと速くしよう、速くしようってやって気づいたら、こういうアップテンポな楽曲になってた。そういうアレンジの面白さを感じながら、曲は作ってるのかもしれないです。

カモシタ:ライヴしながらできてる感じがする。最初のジャジャジャジャジャジャにしよう、とかも、ライヴのときにできたよね。

とものしん:いや......。

カモシタ:え、違ったっけ?

とものしん:あれは、俺が(BLANKEY JET CITYの)「赤いタンバリン」にしたかったんだよ。

カモシタ:あ、そうだ。

とものしん:で、"ちょっとやってくんない?"って言ったら、"いいじゃん"って。

Kaito:そういうのが多いですね。他のアーティストの楽曲からインスパイアされたり。あと、サラちゃんが言ってたみたいに、ライヴで回数を重ねていくうちに徐々に詰まっていったりもする。たぶんこの5曲はライヴでたくさんやってるからこそ、うまいこと最終地点に辿り着けてるというか、完成形に持っていけたんですよね。

-本多さんはどうですか? 今回のレコーディングを振り返ってみて。

本多:意見が対立するがゆえに細かいところが決まらない、みたいなところは大変でした。例えば、「深海列車」のハモりを上にいくか、下にいくかでずっと迷ったり。

-「深海列車」は、ギターの音色にもこだわりを感じました。人魚姫をイメージしたファンタジックな曲でもあるから、どこか別の世界に連れていくような雰囲気もあって。

本多:この曲のギターは2本のストラトを使いわけてるんですよ。似たような音色だけど、イントロとサビでいい感じに差別化されてて、聴き心地が変わるんですよね。

カモシタ:彼(本多)の想像力に任せると、曲が面白いことになるんです。天性なのかなって思ってるんですけど。

本多:あんまりちゃんと考えてやったわけじゃないんですけどね(笑)。逆に、1曲目の「夕暮れのシンガー」はイメージを深めて作れたかなと思っていて。2番でドタバタしたギターになるじゃないですか。忙しい感じの。あれは、ものが崩れるようなイメージをして弾いてるんです。それがうまいこと音に混ぜ込めたかなと思います。

-「夕暮れのシンガー」、個人的には一番好きでした。サラさんのソングライティングのなかでは、かなり言葉数が多い曲になりましたね。

カモシタ:この曲を作ったとき、いろいろ鬱屈したものがあって。言葉が限界まできてるけど、出ないっていう状況がずっと続いてたんです。それがバッと溢れて、1曲に詰まっちゃったんですよね。本当の気持ちをバババッと音にあてはめた曲です。

-この曲は、本当のことを歌えなくなったシンガーに語り掛けるような曲ですよね。それが、"自分の本当に好きなことをやろう"っていうメッセージにもなっているように感じたんですけど。どうして、こういう曲を作ろうと思ったんですか?

カモシタ:あぁ、どうしてだろう。自分自身を支えるような音楽を作りたいなっていうのがあったんですけど。書いてるうちに対象がシンガーじゃなくても、いろいろな人の支えになれるっていうか。なんていうんだろう......当てはまる人がいるんじゃないかと思って。だから、歌う人以外にも向けた曲ではあると思います。

-こういう曲が生まれる背景には、自分の好きなことに対して嘘をついてしまったり、ブレーキをかけながら生きていたりする人が多いなっていう、そういう閉塞感も背景にあるのかなと思ったんですけど。そのあたりはどうでしょう?

カモシタ:そうですね、うん。私の周りにも窮屈に感じながら生きてる人がいっぱいいて。でも、そういう人たちに、もっと楽に生きてほしいっていうか。人生1回だし。自由になってほしいなっていう気持ちはあったのかもしれないです。

-EPの最後に収録されている「ペトリコール」についても聞かせてください。これは、サラさんが一緒にバンドをやっていた友達のことを歌ってるそうですね。

カモシタ:はい。その子がヴォーカルをやってくれてて。最初、その子に歌ってほしいなっていう気持ちで書いてたんです。でも気づいたら、自分で歌ってるっていう(笑)。大人になる微妙な気持ちを発散してるような曲です。自分で作ってておかしいんですけど、自分で歌ってても、そうだなって共感する部分があったりしてますね。

-今回のEPを聴かせてもらうと「ペトリコール」もそうですし、「夕暮れのシンガー」も、「Fang」も、"歌うこと"についての曲が多いように感じたんです。

カモシタ:たしかに。作った時期はまちまちなんですけど。それこそ「夕暮れのシンガー」を作ったときは、あんまり歌うことが好きじゃない時期だったんですよ。できることなら、目立ちたくない。あんまりライヴもやりたくないな、みたいな気持ちだったんですけど。いや、自分が歌うことでしか、自分が作った曲の気持ちを表せないっていうことに気づき始めて、そこから変わってきたところがあるんです。まだ上手くはないんですけど。上手さよりも気持ちっていうか。自分が本当に伝えたいことを、やるべきなんだろうなって思って。そういうのを助けてくれるのが、このバンドなんですよね。

-そういう大切な感情を忘れずに持ち続けたいっていうことが、今作のEPでは歌われているんですよね。

カモシタ:そうですね。今回、"風の匂い"っていうタイトルなんですけど。「グッバイ来世でまた会おう」以外の曲は、風と、"忘れないでほしい"っていう気持ちが共通してあって。それが、バンドの音で鳴らすからこその説得力で届けられたEPだと思います。

-今作は自分たちにとって、どんな1枚になったと思いますか?

本多:インナージャーニーの今が詰まってるアルバムになってると思います。

とものしん:自己紹介的な感じですね。前作は最初に作った盤で、andymoriのフォロワーっていう印象を受ける人もいたと思うんです。でも、ライヴではいろんな曲をやってきたので。前作も合わせて、2枚で自己紹介っていう感じになってると思いますね。

カモシタ:たしかにね。

-10月には結成2周年記念のワンマン・ライヴ("インナージャーニーといっしょvol.2 風の匂い編")が渋谷WWW Xで開催されます。

Kaito:より多くの人が来てくれる会場になってるので、ステップアップした僕らを観てほしいです。前回のワンマンでは、まだ5曲しかリリースできてない状態だったから、全17曲中、半分以上知らないっていう状態で、お客さんは聴いてたと思うので。2nd EPができたことで、お客さんが一緒になって楽しめるようなライヴにしたいなと思いますね。

カモシタ:お客さん側も聴く心構えができた状態で会うことができるので、音楽を通じて対話するようなライヴにしたいと思います。

とものしん:1回ワンマンを経験させてもらって、"次、これをやりたい"っていうアイディアをもいっぱいあるので。それも出していきたいです。