Skream! | 邦楽ロック・洋楽ロック ポータルサイト

MENU

INTERVIEW

Japanese

H△G 丹羽 文基氏 × 峯松 亮氏

2021年03月号掲載

H△G 丹羽 文基氏 × 峯松 亮氏

今ネット・カルチャー出身のアーティストが音楽シーンの中で勢いを増している。YOASOBI、Eve、ずっと真夜中でいいのに。、ヨルシカなど、インターネットから人気の火がついたアーティストが次々にメジャー・デビューを果たし、ヒット・チャートに名を連ねるようになった。2012年にネットを中心に活動をスタートさせたH△Gもその1組だ。以下のテキストでは、そんなH△Gをインディーズ時代から知る、所属事務所 プラスデザイン株式会社代表の丹羽文基氏と、2019年8月に移籍したレーベル、ドリーミュージックA&Rの峯松 亮氏にインタビューを実施。成熟するネット・カルチャーに先駆けて成長を遂げてきたH△Gの在り方、さらに2月24日にリリースされる『瞬きもせずに+』から感じとれる彼らの魅力と今後の展望を語ってもらった。

プラスデザイン株式会社代表/H△Gマネジメント/プロデューサー:丹羽 文基
株式会社ドリーミュージックA&R:峯松 亮
インタビュアー:秦 理絵 Photo by 新倉映見

-おふたりがH△Gと出会った経緯からお話を聞ければと思います。まず、丹羽さんがH△Gと出会ったのはいつ頃ですか?

丹羽:H△Gは2012年から活動が始まってるんですけど、そのちょっと前ですね。僕が石風呂っていうボカロP(現在はネクライトーキーの朝日(Gt)としても活動)の制作に関わったときがありそのレコーディングにH△Gのメンバーの何人かが関わることになったんです。

-当時、どういう経緯でH△Gを知ったんですか?

丹羽:今日ここにはいないんですけど、H△Gの生みの親的な存在の石川さんっていう方から、新しいプロジェクトとして、H△Gをやるんだって紹介されたんです。その当時、僕は今のH△Gの所属レーベルでもあるドリーミュージックで、制作ディレクターをやっていたので、新人アーティストとして紹介を受けたっていうのがファースト・コンタクトです。ただ、友人として紹介を受けただけで、まだメジャー・デビューさせるつもりはありません、みたいな。そういう関係がずっと続いてたんですよ。

-その頃のH△Gに対しては、どんな印象を持ちましたか?

丹羽:良かったですよ。すでに今に通じる良さもありましたし。デモ音源だからクオリティは低いんですけど、Chihoの歌声が抜群に良くて。ただ、関わっているメンバーは全員社会人で、昼間の仕事で生活してるから、デビューさせるつもりはなかったんです。

-それが2017年にメジャー・デビューを果たすことになりましたね。

丹羽:活動が進んでいくなかで反響が大きくなっていったんですよね。それまでにもいろいろなレーベルからスカウトの話は来てたんですけど、すべてお断りする状態だったんです。だから、(石川さんは)本当にデビューさせるつもりはないんだなと思ってたけど、ニコニコ超会議だったかな。大勢の人の前で披露するタイミングで、かなりH△Gが支持されているのを実感されたんじゃないかなと思うんです。海外からの人気もあったりして。石川さんが途中で意見を変えるのは初めて見ました。

-丹羽さんがH△Gのプロジェクトに正式に関わるようになったのは?

丹羽:(2017年の)1回目のメジャー・レーベルとの契約のタイミングです。僕が正式にチームに入ったのはその1年ぐらい前ですかね。

-一方、峯松さんは、2019年8月にH△Gがドリーミュージックに移籍してから深く関わっていくことになったというかたちですか?

峯松:僕が関わるようになったのはその少しあとですね。ドリーミュージックとしては、H△Gと最初に仕事をしたのは、声劇っていうライヴ("H△G ワンマンライブ「銀河鉄道の夜を越えて」× 声劇「月とライカと吸血姫 (星町編)」")からだったんですけど。当時、僕は違うレーベルにいたので、現場で彼らに会ったのはもう少しあと、一昨年の12月だったんです。去年の3月にリリースした『瞬きもせずに』に収録された、声劇の再演ライヴで初めてメンバーと会って。自分の中でイメージしていたクオリティを超えるものがありましたね。特にChihoの声は心臓を殴られたみたいに衝撃でした。

-これまでも峯松さんはネット発のアーティストをご担当されてたんですか?

峯松:いや、むしろ現場での稼働をメインにするアーティストが多かったんです。だから、H△Gに関しては、自分にとって初めてのトライでもあって。今実感しているのは、コロナ禍だからこそ強みが出せるアーティストなんだろうなと。ライヴがなくても活動が成り立ってしまうっていう意味では、ビジネスチャンスの多いアーティストをやらせてもらってるなという手応えはありますね。

-たしかにコロナ禍という状況になって、ネット発のアーティストが一気に認知度を上げてきましたよね。それ以前から予兆はありましたけど。

峯松:完全にシーンができあがったし、もはやメイン・カルチャーに近いんだろうなっていう感覚はありますね。テレビをつけてても、YOASOBIとかyamaさん、ずっと真夜中でいいのに。が出てたり、Eveさんが主題歌をやっていたり。H△Gに近い属性のアーティストを目にする機会が多くなった。そういう状況はひと昔前では考えられなかったですからね。

丹羽:この状況は驚きですね。僕はニコニコ動画に関しては古くからお付き合いがあって。2000年代後半ぐらいかな、まだボカロPっていう言葉もないような時期ですよね。さっき話した石風呂や、まだsupercellもなかった頃のryo君がガーンって一気に人気を博すようになった頃から、シーンの動向は見ていたんです。で、そこがピークで落ちていくのかなと思ったけど、当時若手だった子がどんどん活躍するようになって。JIN(自然の敵P)のカゲプロの盛り上がりを体験し、次第に歌唱がボカロから人(歌い手)になっていき、そのあとにずっと真夜中でいいのに。とか、ヨルシカとかが、もう1回シーンを再構築するような流れになった。ニッチだったはずのものが市民権を得るようになったんですよね。

峯松:うん、完全に市民権を得ましたね。

-ネット発の音楽というのがこれだけ広まった理由に関して、おふたりはどんなふうに分析していますか?

峯松:ネット・ユーザーの熱量ですね。音楽好きでもいろいろなジャンルがあると思うんですよ。ロックが好き、アイドルが好き。そういうなかでネット音楽が好きなファン層のSNSの拡散力は特に強い。結果として非常に広がりやすいっていうのはありますね。"いいもの"の対象として認識されると、ひたすら"いいもの"として拡散していくというか。

丹羽:SNSの普及は大きいですよね。誰でも作品を出すことができるようになって、それに対してコメントを貰えるっていうのは情報が拡散するのに有効な手段だと思います。それが張り巡らされた社会基盤ができあがっていった背景がある。あと、これは数年前からですけど、バンドを組んでなくても、バンドのような音楽を作れるようになったんですよ。

峯松:あぁ、たしかに。さすが制作者目線ですね。

丹羽:某アーティストの制作をやったときに、初めてスタジオにバンド・メンバーを入れてレコーディングをしたんですけど、"僕、スタジオに入ったことがない"って言うんです。"ギターでジャガジャーンっていうのをやったことがないからやりたい"と。

峯松:なるほど(笑)。

丹羽:"そんなこと最初にやることじゃないの?"って思ったんですけど、今はそういう時代なんだなって思いました。彼らは先に機材が手に入っちゃうから、コンピューターでやったほうが早いんですよ。バンドを組むより先にバンド・サウンドを作れちゃう。そうやって誰でも曲を作れるようになったし、配信できるようになった。しかも、非常にハイレベルにそれを実現できる時代なんですよね。

-バンドを組まなくてもバンドの音を出せるせいか、ネット発のアーティストはギター、ベース、ドラムのフォーマットでありながら、"バンド"と名乗らないケースも増えましたよね。H△Gも"クリエイター集団"として活動してますし。

峯松:H△Gは、それぞれのメンバーに役割分担があるんです。ライヴをやるのは"実演メンバー"っていう言い方をしてるんですけど、それはChihoだったり、楽曲制作をするYuta(Gt)だったり、楽器を演奏するメンバーのことを指すんですね。それに加えて、僕とか丹羽さん、石川さんも含めて、H△Gという集団をどうクリエイトしていくかを考える人たちもH△Gのメンバーなんです。表現的には会社のような感じですね。そこがアーティストではあるけど、バンドとは違うところだと思います。

-バンドという形態をとらないメリットはなんでしょう?

峯松:かたちを選ばないことですね。今日、僕たちが取材を受けてるっていうスタンスも、普通のバンドだったらあり得ないと思うんですよ。

-たしかに。

峯松:ライヴをやるうえでは、ChihoとYutaでアコースティック編成のミニマムなライヴができてしまったり、メッセージのところで言うと、コロナ禍に発表した「青空」っていう曲があるんですけど、ああいうものを、スピード感をもって出せたりもする。いろいろなことをフレキシブルにできるのが、この集団の武器だと思います。

丹羽:これは別に決めたわけではないんですけど、バンドっていうかたちにすると、例えば、BOØWYで言う氷室(京介/Vo)さんのように、誰がそのバンドの在り方を体現するのかみたいな存在が必要になってくるんです。でも、H△Gにそれは必要ないんですね。H△Gというコンセプトを作れればいい。だから、単独でキャラクターを押し出しているメンバーはいないんです。フロントマンとしてはChihoが立ってますけど。彼女がH△Gの精神性を作り出しているわけじゃなく、H△Gの世界はチームの意向で決まっていくことが多いので。

-H△Gの世界を表す言葉として、"青春"がひとつテーマにありますけど、それもチームとして決めたものですか?

丹羽:青春とか、懐かしさ、悲しさみたいなものを楽曲の中で切り取って出していきたいっていうのは、H△Gとして目指すところですね。メッセージを前面に押し出すというよりは、世界観の中にメッセージも折り込まれているというか。もし、メッセージ先行のアーティストにするのであれば、人の顔が見えていないとダメじゃないですか。でも、H△Gの場合は人の顔が見えないことを良しとしてるんです。

-最近はネット発のミュージシャンの在り方も多様化してて、顔を出して活動するアーティストも増えてきましたけど、H△Gの場合は、あえて顔を出さないことを選んでいると。

丹羽:最近、そういうアーティストに"ずっと音楽を続けたいけど、有名になりたいわけじゃない"っていう人が増えてるように感じるんです。H△Gの場合もそうで。自分たちの存在をアピールするよりも、続けていくことのほうが大事っていうところがある。ある意味、擦り減りたくないから、顔は出さないっていう選択をしてたんです。

-これからも顔を出す予定はないんですか?

丹羽:そこは世の中の流れも変わってきて。当初、顔を出さないっていうのが、かなり頑なだったんですが、ちょっとずつ変わってきてはいますね。

峯松:H△Gもずっと顔を出さないっていうわけではないんですよ。どこかでベールを脱がしていったほうがいいんじゃないかっていうタイミングも、考えてはいます。