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INTERVIEW

Japanese

H△G

2022年08月号掲載

H△G

Member:Chiho(Vo) Yuta(Gt)

Interviewer:蜂須賀 ちなみ

オリジナル曲「星見る頃を過ぎても」を突如ネット上で公開し、創作活動をスタートさせてから10年。結成10周年を迎えたコンポーザー&クリエイター集団 H△Gが、ベスト・アルバム『星見る頃を過ぎても - The BEST of H△G』を完成させた。今作には、インディーズ時代から現在までのキャリアを網羅した全16曲を収録(インディーズ時代の楽曲は現在の演奏で再録)。H△Gの10年の歩みが感じられる内容になっている。現時点での集大成と言える作品を作り終えた今、彼らはどんなことを感じているのか。メンバーを代表して、ヴォーカリストのChiho、コンポーザーでギタリストのYutaがインタビューに応えてくれた。

-10年間の活動の集大成と言えるベスト・アルバムが完成しましたね。

Chiho:H△Gの軌跡が詰まった作品になったなと思っています。10年間やってきたけど、本当にいろいろなことがあったなって。

Yuta:16曲全部がリリース順に並んでいるわけではないんですけど、H△Gが最初に作った「星見る頃を過ぎても」から始まって、現時点で一番新しい曲「Don't Forget」で終わるので、順番に聴いていったとき、想像以上にエモーショナルな気持ちになりました。

-きっとファンのみなさんもグッとくるんじゃないかと思います。

Yuta:そうですね。リリースに先立ってダイジェストを公開したんですけど、たくさんコメントをいただいていて。それぞれがH△Gの楽曲に思い入れを持ってくれていることがコメントから伝わってきて、すごく嬉しかったです。

-リリースの経緯について改めてうかがいたいのですが、ファンの方からの要望が多かったんですよね?

Chiho:はい。10周年に向けてどういう活動を展開していこうかと思って、SNSでアンケートをとったところ、"ベスト・アルバムを出してほしい"という声を多くいただいて。私たちの中でも"たしかに出したいよね"という話になって、満を持してリリースが決まりました。

-現在所属しているドリーミュージックから発表した曲だけではなく、インディーズ時代の曲、前レーベル時代の曲も収録されているので、権利周りもいろいろと大変だったのではと想像します。

Chiho:そこはスタッフさんにお任せしているんですけど、きっと大変だったんだろうなと思います。だからこうして出させてもらえることが嬉しいですし、メジャー・レーベルから10周年のベスト・アルバムを出せるということ自体もめちゃくちゃ嬉しくて。

Yuta:"この時期の曲は入れられません"となると歯抜けになっちゃうから、そういうこともなく、10年間をちゃんと辿れるようなアルバムにできて良かったです。

-今回に限らず、H△Gは"ファンの人からこういう声が届いているからこうしよう"という動きをよくしていますよね。そういったフットワークの軽さ、ファンの声を自分たちの活動にすぐに反映させられるような体制は、みなさんが10年間頑張って守り続けてきたものなんでしょうか?

Chiho:そうだと思います。10年の中では、それを理解してもらうのが難しいなと感じる場面も多かったんですけど、H△GがH△Gとしてあり続けるために、レーベルの方や周りのみなさんが協力してくださったんです。あと、H△Gのファンの方々は、長い目で、温かく見守ってくださる方ばかりで。

Yuta:うんうん。

Chiho:私たちはライヴがそれほど多くないので、ファンの方と直接会える機会も少ないんですよ。だからこそ、みなさんの気持ち、H△Gに対する要望はできる限り汲みたいという想いで活動してきましたし、10周年に関しても、みなさんの声をしっかり汲みながら、一緒にアニバーサリーを迎えたいなという気持ちがありましたね。

-では、アルバムの中身について聞かせてください。1曲目の「星見る頃を過ぎても」は、先ほどYutaさんが話してくださったように、H△Gの活動開始とともに発表された曲でした。当時どのような想いでこの曲を発表したのか、改めて聞かせてもらえますか?

Yuta:めちゃめちゃざっくり言うと、最初はノリだったんですよ(笑)。

-ノリ(笑)?

Yuta:はい。僕ら愛知県岡崎市出身で、今はもう閉店してしまった岡崎のライヴハウスの周りにいた人間が、それぞれ得意なことを生かしてみようと始めたのがH△Gというプロジェクトだったんです。僕はそのときから曲を作っていたし、詞を書く人もいれば、アレンジができる人もいた。さらに、MVを制作できる人、写真を撮れる人もいたから、その界隈の人間ですべてが完結できる状態でした。そんななかで、まずはこの「星見る頃を過ぎても」という曲を世に出してみよう、どんな評価が返ってくるのかわからないけど、自分たちが最高だと思うものを世に問うてみようというところからすべてが始まって。だからこの1曲だけで終わる可能性もあったし、その先のヴィジョンも描いていなかった。本当に"まずは1曲出してみよう。その先のことは出してから考えようぜ"というノリだったので、まさか10年も続くなんて思っていなかったんですよね。

-そうだったんですね。Chihoさんもそのライヴハウスで活動していたんですか?

Yuta:Chihoちゃんは別の場所で音楽をやっていたんですけど、知り合いではありました。Chihoちゃんはもともと音大で声楽を学んでいたので、ポップスを歌っていたわけでもなければ、そもそも地声で歌うこともなかったんですよ。だけど僕らの界隈の人間が"地声で歌うとすごくいい"と発見して。

Chiho:私はバンドの中で歌うのはそのときが初めてだったから本当に新鮮だったし、私の声をそんなふうに感じてくれている人がいるなんて思ってもいなかったので、そうやって見つけてもらったことがすごく嬉しかったです。あと、自分の声がネット上に発信されていくことも私にとっては新しい出来事だったので、すごく覚えています。

Yuta:新しいことをしているという感覚は僕らにもありました。ライヴハウス出身ということで、いわゆるアナログ的な人間の方が多かったので。

-"コンポーザー&クリエイター集団"と名乗るようになったのはどういった経緯で?

Yuta:僕らはライヴに出るメンバーを実演メンバーと呼んでいるんですけど、通常のバンドであれば、そこまでがメンバーだということになると思うんですよ。でもさっき話したように、僕らはライヴハウス界隈の人間ですべて完結できる状態だったので、裏側にいる制作陣も含めて、"作品づくりに関わった人全員をH△Gと呼ぼう"というコンセプトが、結成当初からあったんですよね。当時で言うと、supercellがすでにそういうスタンスで活動していたので、そこからヒントを貰いました。今はそういうスタンスで活動しているネット発のアーティストがたくさんいるし、お茶の間にも進出していますが、当時クリエイター集団として活動していたsupercellの存在は斬新だった印象があって。"これ、カッコいいし新しいよね"とみんなで話していた記憶があります。

-「星見る頃を過ぎても」を発表してからの、世間からの反応や自分たちの手応えはいかがでしたか?

Yuta:発表してからすぐに何かが起こったわけではないんですよ。だけど"ちょっと神がかった作品にできたんじゃないか"という手応えを当時自分たちは感じていたし、実際、僕らの顔の見える範囲では結構反応をいただいたので、まだ世間一般には広まっていないけど、いい作品を作れたなと思っていました。そのあと、とあるイベントに出演したことをきっかけに、少しずつ認知が広がって、ライヴが増えるとともに、応援してくださる方の数も増えていって。そんななかで、ノリから始まったはずだったのに、いつの間にか僕らの中でも"長く続けたいよね"というふうに目的が変わっていたんです。

-最初は10年続くと思っていなかったにしても、こうしてベスト・アルバムを出すタイミングになって、振り返ってみるとやっぱり「星見る頃を過ぎても」という曲がH△Gのスタンダードになっていったんだなという感じがあって。

Yuta:そうですね。だから自ずとアルバムのタイトルにもなっていったんだと思います。

-H△Gは青春の眩しさや痛み、そして"卒業"というコンセプトと向き合いながら表現し続けてきましたが、このベスト・アルバムを聴いていると、特に近年に発表された曲からは新鮮味を感じます。歌詞においても、サウンドにおいても、アレンジにおいても、曲の構成においても、"H△Gとしてこういう表現をするのもアリだよね"と思える範囲が年々広がっていっている感覚はありますか?

Chiho:ありますね。例えば、2021年にリリースした「Basket Goal」という曲は、H△Gにとって新しい曲だったと思うんですよ。

Yuta:青春パンクだからね。

Chiho:そうそう。こういう曲をH△Gで形にするのは初めてだったので、最初は私自身"どうなんだろう?"と思っていたんですけど、"どうなるかわからないけど、とりあえず歌ってみてよ"と言われて。それで思うように歌ってみたところ、"え、いいじゃん!"というふうになったんですよね。

Yuta:メジャー・デビューをさせていただいてから、タイアップのお話をいただく機会が増えたので、それがきっかけで楽曲の幅が広がったのかなと思います。タイアップの曲に関しては、僕らだけで作っているわけではないんですよ。例えば「瞬きもせずに」はドラマ"ゆるキャン△"のオープニング・テーマとして書き下ろした曲なので、全体的にキャンプ感が必要だったんですけど、タイアップのお話がなかったら、H△Gの楽曲にキャンプのエッセンスを入れようという発想にはまずならなかったと思います。そういうふうに、もともと自分たちになかったエッセンスとH△Gのエッセンスを混ぜ合わせながら、新しい境地に行けている感覚はありますね。「5センチ先の夢」「Allee」もかなりポップですけど、いざChihoちゃんの声が入ったら"結果的にH△Gだよね"と思えたし、今までにないことをやることに対する怖さみたいなものはどんどんなくなっていて。なので、"もっともっと広げていけるな"とここ最近は思っていますね。

-そういう部分が伝わってくるので、10年間の集大成のアルバムである一方、ちゃんとこの先への期待が膨らむ内容にもなっていて。

Yuta:そうですね。やっぱり"Chihoちゃんの声が入るとH△Gの曲になるよね"という確固たる自信があるんですよ。僕がそう言うのも変な話ですけど(笑)。

Chiho:(笑)でも、そう言ってもらえるのはすごく嬉しい。私は貰った曲に対して"あぁ、こういう曲なんだ"と自分が思うように歌っていて。それは「星見る頃を過ぎても」の頃から変わっていないんですけど、考えすぎずに出したものに対して、10年間変わらずそう思ってもらえているのは嬉しいですね。それはつまり、ピースがハマったということなんでしょうね。

-たしかに。Yutaさんの作った曲が輝くのはChihoさんの歌声があるからだし、Chihoさんの魅力を最大限引き出せるのがYutaさんの作った曲だと思います。

Chiho:あと、自分で言うのもあれですけど、10年も続けていると、さすがに歌も上手くなっていくんですよ。そこにある曲に対して自分が出せるもの、引き出しが少しずつ増えてきているから、伝えられる部分が増えてきているのかなと自分でも感じますし、それが面白いんですよね。このアルバムでは私の声の変化も楽しんでもらえたらいいなと思いました。

Yuta:まさに。インディーズ時代の3曲(「星見る頃を過ぎても」、「カラフル」、「あの夏、僕らは。」)は今回録り直しているんですけど、旧バージョンと新バージョンを聴き比べると、Chihoちゃんの10年の進化がめちゃくちゃ感じられると思います。