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INTERVIEW

Japanese

H△G

2022年08月号掲載

H△G

Member:Chiho(Vo) Yuta(Gt)

Interviewer:蜂須賀 ちなみ

-今の話に出てきた曲は"新しい扉を開けた"という意味でキャリアのターニング・ポイントとなった曲かと思いますが、収録曲の中で、実は密かに"こんなにいい曲があるんだよ、みんな気づいて!"と思っている曲をあえてひとつだけ選んでいただくことは可能ですか?

Chiho&Yuta:(笑)迷っちゃいますね。

Yuta:僕は「カラフル」ですかね。僕ら"星町"というファンクラブ的なものをやっているんですけど、そこでChihoちゃんがH△Gの曲を弾き語りでセルフカバーする企画をやっていたんです。そこで「カラフル」の動画を観たときに"こんなにいい曲だったっけ"と改めて思って。原曲はバンド・サウンドで疾走感のあるアレンジなんですけど、ピアノと歌だけになると、歌詞がもっと入りやすくなるじゃないですか。だから、言葉がめちゃめちゃ刺さって。自分が大人になったからかもしれないですけど、そのときに"本当にいい曲だな"と思ったので、もちろんこのベスト・アルバムにも入れたいなと強く思いました。

-10年前に生まれた曲だけど、歌詞の内容は今の時代にもフィットしていますよね。

Yuta:たしかに。コロナもありましたからね。再録したものを改めて聴くと、やっぱりChihoちゃんの歌が進化しているから、同じ言葉でも重みが全然違うんですよ。この曲で歌っている"カラフルでいい"、"みんな違ってみんないい"というマインドを自分は今大切に思いながら生きているし、それはリスナーの方に届けたいメッセージでもあるので、すでに認知度の高い曲だけど、「カラフル」の言葉を改めて聴いてほしいという気持ちはありますね。

-Chihoさんはどの曲を選びますか?

Chiho:ちょっと迷っちゃったんですけど、私が"ベスト・アルバムに入れたい"と選ばせてもらった「卒業の唄」を挙げたいなと思います。自分の話になってしまいますが、自分の気持ちが転機を迎えた時期に作った曲なんですよ。

-2021年2月リリース(アルバム『瞬きもせずに+』収録曲)ということは、制作していたのは2020年頃ですか?

Yuta:はい。コロナがちょうど流行り始めて、僕らは予定していたワンマン・ライヴがあったけど、延期ののち、中止になっちゃって。感染者数は増えるばかりだし、思うように活動ができなかったし、この曲を作っていた時期はちょっと悶々としていたよね。

Chiho:H△Gの大殺界みたいな感じでした(笑)。そんな状況で、私も歌や活動について考える中でちょっと葛藤していたんですけど、全部を払拭するようなイメージで、衣装を一新して、髪をバチッと赤く染めて。

Yuta:Chihoちゃん自身いろいろなことを感じていたなかで、それでも今できることをやりながら、前に進んでいくんだという決意がこもったMVになったよね。

Chiho:そうだね。"またここからスタートしていくんだ!"という気持ちだったし、私にとっては応援歌のような曲です。その一方で、"この大殺界感、きっと私だけじゃないだろうな"ということもわかっていて。だからこそ、重くなりすぎず、あえてライトな言葉遊びをしているのがこの曲のポイントなのかなと思いながら、当時歌っていた覚えがあります。"卒業"という言葉から一番イメージされやすいのは、いわゆる学生時代の卒業だと思うんですけど、社会人になって、それぞれの道を歩み始めてからも、いろいろなタイミングで"卒業"ってあると思うんですよ。聴いてくれている人それぞれが迎える"卒業"の場面で、この曲を聴いて、一歩前に踏み出してもらえたら嬉しいなと思います。そういう希望を込めて歌ったので、ぜひ改めて聴いてほしいです。

-ここからは新曲について聞かせてください。まず、「Contrail」は高校野球をテーマにした曲なんですよね。

Yuta:はい。高校野球を放送している愛知県のケーブル・テレビ局の方から、楽曲制作の依頼をいただいて書き下ろした曲です。メジャー・デビュー・シングルの「夏の在りか」がまさに高校野球の曲だったんですけど、10周年でまた夏や野球をテーマした曲を作る機会が巡ってくるなんて、面白いタイミングでお話をいただけたなと感じていて。

Chiho:たしかに。

Yuta:H△Gは夏の曲が多いんですよ。でも意図的に多く作ってきたわけではないので、結果的にそういう曲が増えていったということは、たぶん、夏の曲が得意なんですよね。そのうえで、この「Contrail」はH△Gの夏曲の集大成にしたいなというイメージがありました。

-集大成感はすごく伝わってきました。ブラスが入っていて、ビートもかなり陽気だから、お祭り感があって。

Yuta:そうなんですよ。サンバっぽくて。

Chiho:"何が始まったんだ?"という感じがしますよね(笑)。

Yuta:配信リリースしたときに、リスナーの方から"始まった瞬間びっくりした"、"最初はH△Gっぽくないと思ったけど、聴き終わったらやっぱりH△Gだった"という声をいただいたんですけど、それはビートによるところが大きいのかなと思います。僕らとしてはそういった感想が一番嬉しかったというか、"そうですよね! それがしたかったんです!"という感じで。全体的にバンド・サウンドすぎないのも今のH△Gだからこそできる挑戦だし、あと、メロディがかなり難しいんですよ。

Chiho:でも私は、歌いにくいほど燃えるというか。楽しみながら歌えましたし、"このメロディの勢いが一番いい形で伝わるように歌いきってやる!"という熱い気持ちが自分の中にはありました。そういうところがこの曲のテーマとも重なっていて。この曲で高校球児の背中を押したいなと思いましたし、球児に限らず、いろいろな部活動の子たちを応援できたらと思います。

-もうひとつの新曲「Don't Forget」は、ベスト・アルバムのラストに相応しい曲ですね。

Yuta:アルバムのリリースが決まるよりも先にデモはできていて、言葉も乗っけた状態であったんですけど、すごく力のある曲だから、リリースのタイミングを窺っていたんです。

-あ、ベスト・アルバムの最後の曲のつもりで書いたわけではなく?

Yuta:はい。でも、そうなるべくして生まれた曲なのかなと今は思っています。歌詞のメッセージ性としては「カラフル」に近いんですけど......やっぱり、"みんな違ってみんないい"と伝えたい、そうして肯定したいという気持ちが強くあるんですよ。でもひとつの考えを押しつけるのではなく、そっと背中を押せるような曲を作っていきたいなとH△Gは考えているんですけど、「Don't Forget」にもそういったメッセージが込められたんじゃないかと思います。今H△Gが伝えたいことが詰まっている曲ですね。

Chiho:曲の良さっていろいろあると思うんですけど、この曲は、余韻を長く楽しめて、聴いたあとに温かい気持ちになれる曲だよね。

Yuta:そうだね。僕が1曲目から順に聴いていったときに、感慨深い気持ちになった要因のひとつは、「Don't Forget」で終わるからだと思うし。

Chiho:だから、優しさで包み込むような曲というか。レコーディングのときも、"壮大に"というよりかは、目の前にいる人に届けるような気持ちで歌いました。

-最後に、"Chihoさん、YutaさんにとってH△Gとは?"という質問をさせてください。私はこのアルバムを聴いて、生きていると嫌なことがたくさんあるし、自分の中の醜い感情に気づいて逃げ出したくなる瞬間もあるけど、このアルバムを聴いているときだけは透き通った気持ちでいられるなと思ったんですよ。つまりH△Gは、この10年間、私たちに前向きなメッセージを届け続けてくれていたんだなと。

Yuta:嬉しいです。

Chiho:ありがとうございます。

-そこで、H△Gのメンバーである一方、私たちリスナーと同じく、日常生活を送るいち個人でもあるおふたりがどのような感覚でいるのか、知りたいなと思いまして。例えば"H△Gでいるときはこんな気持ちになれる"とか、"H△Gの活動があったことで自分の人生はこんなふうに変わった"といったお話を聞かせてもらえたら嬉しいです。

Chiho: H△Gの曲って、それぞれが短い小説みたいだなと思うんですよ。物語の中には主人公がいて、私は自分の身体を通して主人公の気持ちを歌っているような感覚なんですけど、それぞれの曲には"いいな、これ。覚えておきたいな"と思える言葉がたくさん詰まっていて。なので、私にとってH△Gは、普段の生活で見落としてしまいそうになること、忘れがちなことを思い出させてくれる存在なのかなと思いました。やっぱり私の中にはいろいろな自分がいるので、"いつもこうは在れないな"と思うんですよ。きっとみんなもそうだと思う。でも、曲としてこうやって残ってくれていると、聴いたときにそこに立ち還れるので、すごくいいなと思いますね。

Yuta:クリエイターとして作品を世に出して、少なからず"いい"と言ってくださる方がいて......その声に救われてきた10年間でした。応援していただけているということは、肯定していただけているということ。なので、僕はみなさんからすごくエネルギーを貰えたし、だからこそ、楽曲を作ってパワーを送りたいと思うようにもなりました。そういった気持ちの相互作用みたいなものを、僕はH△Gの活動を通して感じることができましたね。最初にお伝えしたように、もともとはノリから始まったから、こんな感情を抱くようになるとは当然想像していなかったけど、今こう思えていることはすごくいいことだなと思います。それに、先ほど"みんな違ってみんないい"という信念を今強く持っているという話をしましたが、そもそも僕が、自分と違う考えを持つ人に対して"肯定"の感情を抱けるようになったのは、H△Gの活動があったからだと思うんです。自分が出した作品を肯定してくださる方がいるから、僕自身も肯定的な感情になれるし、他の人を肯定したいとも思う。そういう良い連鎖があった10年間だったし、H△Gをやってきて良かったなと改めて思いますね。そしてこれからも長く続けていきたいなと思います。

-途中の話にも出てきましたが、やっぱり今は"長く続けたい"という気持ちが強いですか?

Yuta:そうですね。長く続けていくためには、マイペースに活動していくことが大事だと思うんですよ。メンバーひとりひとりの生活を尊重しながら、無理のないペースで活動していくこともまた"みんな違ってみんないい"だと思うんですけど、そもそもそれは、僕らの活動を了承してくださるスタッフの方々がいるからこそ成り立つもので。だからすごく恵まれた環境で活動できているなと思います。それを忘れずに、これからもH△Gを続けていきたいですね。