Japanese
岸田教団&THE明星ロケッツ
2018年12月号掲載
Member:ichigo(Vo) 岸田(Ba)
Interviewer:杉江 由紀
10周年という節目を経たうえで、岸田教団&THE明星ロケッツが次に目指したのは、新たなる領域ということになるだろう。数々のアニメ・タイアップにより好評を博していることでも知られ、先だってはシンガポール公演も行い、今やYouTubeでの楽曲総再生回数が1,500万回以上を誇り世界規模の人気を誇る彼らが、この機に発表するアルバムのタイトルは"REBOOT"だ。名は体を表すかの如く、バンドとしての新たな体勢を整え、音楽的にも今までにないアプローチを取り入れていくことにより、岸田教団&THE明星ロケッツは今まさに、革新的且つバンドとしての本質をより掘り下げた充実の作品を仕上げることに成功したのである。
-アニメ"博多豚骨ラーメンズ"のOP曲であった「ストレイ」、アニメ"天狼 Sirius the Jaeger"のOP曲「シリウス」、さらには"ストライク・ザ・ブラッドⅢ"のOP曲に起用されている新曲「Blood and Emotions」などを含めた全12曲の大充実アルバムがここに完成したわけですが、今作には"REBOOT"なるタイトルが冠されています。やはり、この言葉には岸田教団&THE明星ロケッツとしての強い意志が込められているのでしょうね。
岸田:今回のアルバムは、まさにその"REBOOT"という言葉から始まったものだったんですよ。というのも、このバンドが始まってから今年で10年が経ったというのがやっぱり大きくて、ここで自分たちの音楽性というものを改めて見直したかったし、そのうえでまたイチから新しいものを作ってみたかったというか、今のタイミングだからこそ、このバンドを"REBOOT(=再起動)"させたかったんです。
-となると、曲の作り方やサウンドを仕上げていく際の考え方なども、今回はこれまでとは違う点があったことになるのでしょうか。
岸田:10年の間に時代が変わっていくにつれ、音楽のあり方っていうもの自体もだんだんと変わってきているわけですからね。ただ、だからといって自分たちのコアの部分だけは変えたくないという気持ちもあったので、その中で今の世の中に対して自分たちをどう変えていくべきなのかを考えると、これまでのやり方をそのまま使うことはできなかったんです。それで、今回は考え方も作り方もすべて変えたんです。言ってみれば、同じメンバーで違うバンドを始めるくらいの気持ちで臨む必要がありました。要はハリウッド映画で言う、"スパイダーマン"と"アメイジング・スパイダーマン"くらいの違いがありました(笑)。
-そういうことでしたか。具体的なプロセスで言うと、まずは何がどう違ったのかも知りたいです。
岸田:誰をどこで使うのか、という点からして考え方が今回は違いました。
ichigo:作曲するのも、基本的に今までは岸田か私だったんですよ。でも、今回はhayapi(Gt)も「キミノミカタ」で作曲していて。あと、「Reboot:RAVEN」に関しては作家のカヨコさんも入ってくれてます。
岸田:曲の土台は僕が作ったんですけど、クレジット上では最後にメロディを作ったカヨコさんが作曲者となってます。まぁ、実質的にはコライトをした感じに近いです。
ichigo:カヨコさんというのは私たちの友達でもあり、私とは他でユニットも一緒にやったりしている音楽仲間なんですよ。
岸田:最近ですと、LiSAさんの「ADAMAS」の作家をされてます。
ichigo:そんな彼女が参加してくれたことで、今回はちょっと新しい要素が入ってきてくれたなと思います。とはいえ、音そのものを出しているのはうちのメンバーなので、岸田教団(岸田教団&THE明星ロケッツ)としての音になってますし、そこに女性らしいメロディがハマっているという点で、この曲には今までにない新しさが出ましたね。
岸田:そうそう、そこ。「Reboot:RAVEN」では、雰囲気として女性らしさを出したかったと、カヨコさん本人も言っていました。
ichigo:ほかに今までと大きく違った点としては、ヴォーカルのディレクションもこれまではずっと岸田がやっていたんですけど、今回はそこをhayapiにお願いしてレコーディングしていったのも大きな変化でした。
岸田:良くも悪くも、これまではいろんな仕事を僕がすべてやりすぎていたところがあったのかな? と考えたんですよ。そういう意味で、今回は各メンバーの適性を見直しながら仕事を振り分けたんです。つまり、僕自身のリソースを空けることで新しいモノ作りの姿勢を作ってみたかったんですよ。実際、空いた部分のリソースで僕としてはより作曲家としての作業に集中することができたというメリットがすごくありました。その一方で、機材の管理から手配など、みっちゃん(Dr)が一手にすごい勢いでやってたりとかしてね(笑)。
-そうした分業制を徹底したというのは、バンド運営の域を超えた企業における業務改革にも近いところがありますね。
岸田:たしかに(笑)。ほんと、効率は良くなりましたよ。そのぶん、今回はこれまでと比べてichigoさんの歌詞が増えてたりもするしね。そもそも自分で詞を書きたい曲と、ichigoさんに書いてほしいものを振り分けて、これまでだったら"ああしてほしい"とか"こうしてほしい"っていうことを説明しながら作っていったりしてたところを、何曲かは"じゃ、これ書いといて!"って完全に丸投げしましたから。
-丸投げされた側のichigoさんからしてみると、その新たな体制はやりやすかったですか? それとも難しいところがあったりもしたのでしょうか。
ichigo:岸田が曲を作った時点で、それぞれの曲が持っている世界というのはだいたい定まっていますからね。だから、特に細かく打合せをしなくても"この曲にはこういう詞が必要なんだろうな"と感じることを、私はかたちにしていっただけです。ちなみに、私としてはそこまで今回の"REBOOT"というところに意識して寄せたつもりはなかったんですけど、書いた詞を見直してみたら、意外と自然に岸田と私の書く詞にどこか通ずるものが生まれていたので、いつもと比べて難しいと感じたことはなかったです。
岸田:僕は僕で"これは書きたい!"って特に思った曲だけ歌詞を書いたので、そこも非常に楽しかったですね(笑)。
-歌詞といえば、「Reboot:RAVEN」についてはタイトル的にも内容的にも、アルバム・タイトルの"REBOOT"とかなりオーバーラップしているところがあるようにも感じられますね。
岸田:この曲はアルバムのタイトル・トラックになりますからね。後ろに"RAVEN"っていうのがくっついたのは、歌詞の内容のせいなんですけど。歌詞を書いていくなかで、"どうせ「Reboot」なら「RAVEN」にしちゃおう!"と思ったんです。"Reboot:RAVEN"というのは、某小説のとある章のタイトルからとったものなんですよ。
-こちらの歌詞には"真実の形が見えてきたんだ"ですとか"だから今ここまで来たんだ"といったフレーズが出てきます。そのあたりには、今このバンドが置かれている状況や、岸田さんの胸中にあるのであろう想いがそこはかとなく込められているようにも感じました。さすがはタイトル・チューンなだけありますね。
岸田:そうなんですよ。某小説におけるその章というのは、ある私立探偵の方が再起をする話なんですね。その場面が、ちょうど今このバンドのターンと近いなと僕は感じていたんです。僕、サイバーパンクが大好きなんですよ。だからこの詞については、サイバーパンクの源流になったとも言われている"ニューロマンサー"という小説の要素も、下敷きとして意識したところがありました。好きなものを全部盛りしちゃってます。
ichigo:初稿はわかる人にしかわからない言葉でいっぱいだったもんね(笑)。岸田が一番好きなものが凝縮されているのはよくわかるんだけど、あまりにマニアックだったっていうこともあって、hayapiと協議をした結果"もう少しわかりやすく調整して"ってお願いして最終的にこのかたちになりました。
-ということは、今回のアルバム制作におけるhayapiさんは、いろいろな面で重要な役割を果たしてくださっていたことになりそうです。
岸田:かなり働かされてましたね。俺に(笑)。
ichigo:それに、hayapiは岸田や私以上にできたものたちに対して深く考察するタイプなんですよ。そこが今回のレコーディングではすごく反映されたと思います。いろんなことを汲み取ってくれる人なので、ヴォーカル・ディレクションをしていってくれるうえでも的確な指示を出してくれましたね。
岸田:全体的に、アドバイザーとしてのポジションで仕事をしてくれてました。
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