Skream! | 邦楽ロック・洋楽ロック ポータルサイト

MENU

INTERVIEW

Japanese

岸田教団&THE明星ロケッツ

岸田教団&THE明星ロケッツ

Member:ichigo(Vo) 岸田(Ba)

Interviewer:杉江 由紀

ヲタ界隈とロック・シーンの狭間という、かなりニッチな領域で唯一無二の存在感を醸し出してきた岸田教団&THE明星ロケッツ。彼らがリリースしたのが、その名も"異世界転生したらベストアルバムでした。"だ。彼らがこれまで作ってきたアニソン群と、再録されたオリジナル楽曲たちによる2枚組という構成は実に心憎いことしきり。音楽ファンにもアニヲタの方々にも堪能していただける内容とパッケージにて供される今作には、彼らの徹底したこだわりと熱意が詰まっていると言っていい。今後はライヴ・バンドとしての活動にもより注力していくとのことで目が離せない!

-大変お久しぶりです。最後に岸田教団&THE明星ロケッツの取材をさせていただいたのは、2020年1月に出たシングル『nameless story』のタイミングでした(※2020年2月号掲載)。あの直後から日本でもコロナ禍が勃発したわけですけれど、それ以来ずっとご無沙汰しておりましたので、まずは昨年から今年にかけていかがお過ごしだったのかを教えてください。

ichigo:去年はツアーを延期し、岸田教団(岸田教団&THE明星ロケッツ)の主催としては、11月に配信ライヴ("岸田教団&THE明星ロケッツZeppDiverCity 配信ゴリラライブ")をしただけでしたね。今年に入ってやっとレコーディングを始めて、最近になっていよいよライヴ活動も再開した感じです。

-そのレコーディングというのは、まさにこのたび発表される、『異世界転生したらベストアルバムでした。』にまつわる作業だったのだと思いますが、こちらは今までのアニメ・タイアップ曲たちをオリジナル音源にて総括したDISC A、そしてメジャー・デビュー以降のアルバム曲や、シングル・カップリング曲たちを再レコーディングしたDISC Bの、2枚組で発表されるものになるのだとか。

岸田:本当だったらデビュー10周年だった去年出せたら、きりの良い周年になったのですが!

-れっきとしたロック・バンドである一方、サブカル文化を愛してやまない集団でもある岸田教団&THE明星ロケッツのベスト盤なだけに、今回はまず、この"異世界転生したらベストアルバムでした。"というタイトルに痺れましたよ。さすがです。

岸田:そろそろこの異世界転生ネタもわりと普通になってきたから、今だったらいいかなと思いまして。ベストのコンセプトを決めるときに、いくつか案はあったけど、"じゃあもう、異世界転生でいいじゃん!"ってなったんです。

-ichigoさんは、この"異世界転生したらベストアルバムでした。"というタイトルが提示されたとき、どのように感じられました?

ichigo:タイトルの付け方はいつも岸田に任せてるんですが、これまでメジャーで出すものと自主である同人で出すものでは、後者のほうが面白いタイトルが付くことが多かったんですよ。そういう意味では、このメジャーでの歴史をまとめたベストに同人感満載のタイトルを付けたっていうのは、"すごいな"と感じましたけど、うちらならアリなんだろうなとは思いました(笑)。

岸田:もっとも、せっかくメジャーで出すんだからさ。どうせだったらパッケージにキラキラしたシールも貼れば良かったなっていうのはあるよね。

ichigo:これ、どういう意味かわかります? 今回のベストは"あにばーさる限定盤"っていう豪華仕様BOXタイプでも出るんですけど、それのパッケージ仕様がいわゆるエロゲーのものとそっくりらしいんですよ(笑)。

-いやはや、そこも洒落が利いていて素晴らしいですね(笑)。

岸田:キラキラしたシールがあるとソフ倫(コンピュータソフトウェア倫理機構)を通ってるっていうことだからメジャーで、シールがないと同人作品ってことだからね。昔、2000年代前半くらいには、"月姫"っていう同人作品としては信じられないくらい大ヒットした作品があって、それは今年になってリメイクもされてるんですけど、今回のベストのパッケージは、当時そこから雨後の筍のごとく方々のサークルがノベルゲームを作っていった時代に、どんどん箱も豪華になっていって、ほとんど商業作品と変わらない感じになっていったあのテイストを、絵柄も含めてそのまま再現してるんです。今やヲタクをやってる人でも知らない文化かもしれないですが、我々にとっては必修科目でしたからね。このパッケージを置いておくと、どんなに洒落た部屋でもすべてが台なしになる感じを今この時代に味わえます。みんな部屋の陽キャ度を上げて豊かな生活をしてほしい(笑)。

ichigo:パッケージの試作品ができたとき、岸田は"初めて見るのに懐かしい!"って言ってました(笑)。

-それだけの高い完成度に仕上がったわけですね(笑)。では、ここからは肝心の中身のほうについてもお話をうかがって参りましょう。まずはDISC Aについてですが、こちらのアニメ・タイアップ曲たちをオリジナル音源にて収録したというのは、やはりアニメ・ファンやアニソン愛好者の方々のニーズに応えたということになりますか?

岸田:みんなにとっても我々にとっても、アニメ主題歌は、慣れ親しんだものであったほうがいいだろうなというのはありました。厳密に言えばリマスタリングだけしているので、音は前よりもちょっとだけ良くなってると思うんですが、DISC Aは「HIGHSCHOOL OF THE DEAD [2021]」以外、すべてオリジナル曲のままにしてあります。

ichigo:今回のベストのために録り直した「HIGHSCHOOL OF THE DEAD [2021]」を除くと、DISC Aには11曲入ってるから、だいたいこれまで1年に1曲くらいのペースでタイアップ曲を作ってきたことになるんですけど、それがこうして1枚におさまるとちょうどほど良い感じになるなと思いましたね。そして、アニメ主題歌になった曲に関しては、その時点で自分たちの"手を離れた"感覚があるんです。だから、もちろん自分たちの曲ではあるんだけれども、同時にその曲たちは、当時アニメを観てくれていた人たちの、想い出に残っている曲として捉えている感覚のほうが強いせいか、こうして1枚にまとまったときには"みんな、久しぶり!"みたいな気持ちになったところがありました。

-つまり、アニメ主題歌というのは曲を嫁に出すような感覚なのですね?

岸田:作り終えるまではもうとことんそれに対して執着しますけど、いざ作り終わっちゃうと、もう興味は次の新しく作り出すもののほうに完全に移っちゃうんでしょうね。

-ちなみに、DISC Aについては、1曲目にこのバンドにとってのメジャー・デビュー曲である、「HIGHSCHOOL OF THE DEAD」が入っており、そこから時系列順に各曲が収録されているなかで、最後は「HIGHSCHOOL OF THE DEAD [2021]」にて締めくくられております。数あるタイアップ楽曲たちのうち、この曲をリレコーディングした理由についても教えていただけますか?

岸田:動機としては"MVを作りたかった"っていうのがまず大きいです。当時、この曲のMVは作ってなかったんですよ。そして、今この時代にMVを作るなら音も録り直したほうがいいよねという流れになりました。

-こちらの楽曲は、もともと2010年に、アニメ"学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD"のOPとして作られたものだったそうですが、まさに「HIGHSCHOOL OF THE DEAD [2021]」のMVは、そのアニメ作品に"寄せた"仕上がりとなっているようですね。登場キャラクターさながらにichigoさんが日本刀でゾンビと闘うシーンをはじめとして、各メンバーに見せ場があって非常に見応えがあります。

ichigo:このMVには私と、岸田教団のMVを撮ってくれている監督の趣味もかなり出ましたね。昔からゾンビ映画が大好きで、いつか絶対ゾンビものを撮りたい! って思い続けてきたので、今回はようやく念願が叶いました! 各メンバーのキャラクター性を生かしていった結果、あっという間に冒頭でやられちゃうみっちゃん(Dr)、ずっとオロオロしながらも必死に闘うichigo、カッコつけて死ぬはやぴ~(Gt)、最後に裏切るイヤなやつ 岸田って設定になりましたね(笑)。

-岸田さんはゾンビの頭を銃で打ち抜くシーンもありつつ、最後は......というあの役どころが異様にハマっていらっしゃいますよ。

岸田:まぁ、自分だけ助かればいいみたいなところはたしかにありますよ(笑)。このMVは、"俺たちが「学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD」に出るとしたら?"っていうのを実写で具現化した感じですね。

-と同時に、サウンドの面からいくと、今回「HIGHSCHOOL OF THE DEAD [2021]」をレコーディングしていくにあたり、重視されたのはどのようなことでしたか? 聴いた印象としては、ファンの方々から未だに"神曲"と持て囃されているものでもあるだけに、原曲の持ち味をかなり尊重されたのかなと感じたのですけれど。

岸田:それが、原曲を尊重したというよりも単純にそこまで成長してなかったみたいで、録り直してもそこまで大きくは変わらなかったっていうのが本当のところなんですよ。

-しかしながら、音から感じる圧の強さですとか、切れ味は格段に上がっているように感じましたよ?

岸田:あぁ、それはレコーディング技術の向上によるものです。

ichigo:ちょっと! もうちょっとカッコいいこと言ってよー。まぁでも、私の歌もあれから11年経ってるけど、そんなには上手になってないか(苦笑)。

-そんなことはないかと。よりパワフルに、よりエモい歌になっておりますよ。

ichigo:多少でもパワーアップしているところがあるんだとしたら、それは私の歌だけじゃなく、みんなの音も含めて、ここまで11年ずっとライヴをやり続けてきていることが反映されているんでしょうね。この曲のことを充分に理解したうえでできたレコーディングでもあるので、そこはオリジナルのものよりも強いのかなと思います。

岸田:だけど、それでもレコーディング技術の向上も絶対大きいよ。使ってる機材も10年経てば進化して良くなってるのは当たり前だし、当時も今回もミックスしてるの僕なんで、僕自身のエンジニアリング技術も上がってますからね。そこの成長が、「HIGHSCHOOL OF THE DEAD [2021]」の良くなった部分の、8割くらいを占めてる気がする。でも、意外と曲によっては"当時からやたらと良くできたもの"っていうのも確実にあるので、今回のベストを作っていくうえではそこを再発見することもできました。