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INTERVIEW

Japanese

岸田教団&THE明星ロケッツ

 

岸田教団&THE明星ロケッツ

Member:ichigo(Vo) 岸田(Ba)

Interviewer:杉江 由紀

ベテランっぽい、こなれ感のあるミュージシャンにはマジでなりたくないんで


-では、ここからはDISC Bの内容についてもうかがってまいりましょう。こちらは9曲すべてがリレコーディングされておりますが、収録曲をピックアップしていく際の選定基準としては、主に何が決め手になっていったのでしょう。

岸田:実はこのベストから我々はNBCユニバーサル(NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン)さんに移籍することになったので、以前のユニバーサル(ジェネオン・ユニバーサル・エンターテイメントジャパン)さん時代に出した曲を大めに入れようという忖度が、まずはひとつありました(笑)。もうひとつは、以前レコーディングした際に"これ、ほんとだったらもっと良くなったでしょ"って感じた曲たちも改めてやりたかったので、だいたいそのふたつの基準で選んでいった9曲がこれなんです。

ichigo:個人的なことで言うと、「over planet」は当時この変拍子がまったく理解できないまま、メロディを丸覚えで録ったものだったんですよ。あれからライヴで何回も歌ってきて、ちゃんと今回は自分で変拍子をとりながら歌うことができたっていう点で、この曲をリレコーディングできたのは嬉しかったですね。当時はそれでもできるかぎりのベストは尽くしたつもりだったけど、あの頃と比べるとできることは増えたなって思う。あと、どの曲もそうだけど、この曲もスピード感が増したよね。別にBPMが変わったわけじゃないのに、みっちゃんのリズムの解釈の仕方が変わったりしてるせいなのか体感的に速く感じない?

岸田:そうね。曲によっての違いはあるけど、基本的にそれはあると思う。みっちゃんや、みんなの音楽的な理解度が高まったってことだよ。

-岸田さんにとって、DISC Bの中で特に思い入れの強い楽曲はどちらになりますか?

岸田:「希望の歌」と「Reboot : RAVEN」は特に録り直したかった曲ですね。どっちも、当時の実力ではなかなか思い通りのものにすることができなかったんで。今回は改めてしっかりと取り組みたかった曲たちです。例えば、あの頃「希望の歌」はみんなバラードだと感じたと思うんですけど、僕としてはそういうつもりで作ったものではなかったですからね。でも、今回はなんとかある程度は自分の思い描いてたところに着地させることができたと思います。

-「Reboot : RAVEN」については?

岸田:この曲ではサイバーパンク的な感覚をもっと出したかったんです。歌詞がサイバーパンクなのに、音をそれに近づけられなかったなという思いが当時あったんですけど、自分の中でのサイバーパンクってもっとロックンロールなんですよね。サイバーパンクと言えば、ウィリアム・ギブスンの"ニューロマンサー"が挙げられたりもしますが、あれって翻訳版を読んでても、すごく読みにくいしわかりにくいじゃないですか。ただ、それでも多くの人があの作品に対しては"よくわからんけどカッコいい!"って感じるわけで、あれは僕にとって読むロックなんです。そういうロックな感覚、サイバーパンクな感覚を「Reboot : RAVEN」にはどうしても落とし込みたかったんですよ。

-ところで、ここまでにみっちゃんさんのお話は出ましたけれど、まだはやぴ~さんについての話題はあまり出ておりませんので、今回のレコーディングにまつわる彼のエピソードを、ここで少し紹介していただけますと幸いです。

岸田:はやぴ~はプラケースの箱いっぱいに入ったエフェクターをたくさん持ってきて、"あの曲で使ったの、どれだったけなぁ?"っていろいろ引っ張り出しながらレコーディングしてましたよ。なるべく当時と同じセッティングで録りたかったみたいで、壊れてたギター・アンプもこのベストのために修理して使ってました。ヴィンテージのフェンダー・アンプなんで、腕のいいビルダーさんに頼んで1960年代当時の部品を取り寄せてもらって、完全にレストアしてもらってましたね。だから、「HIGHSCHOOL OF THE DEAD [2021]」なんかも、オリジナルより完全復活したアンプの音で録れてるので、相当いい音になってます。

ichigo:そのアンプ、今ライヴでも使ってるもんね。めちゃくちゃ音うるさいけど(笑)。

-ライヴと言えば、10月28日には、これまた1年遅れの10周年記念ツアー"厳かに祭典"([岸田教団&THE明星ロケッツ LIVE TOUR 2020"厳かに祭典"]]の、東京公演が控えております。すでに大阪と名古屋の公演を終えていらっしゃるとのことですが、久しぶりに有観客ライヴをやってみての手応えはいかがでした?

岸田:お客さんが入る/入らない以前に、そもそもバンドで集まって演奏するということ自体がかなり久しぶりのことでしたからね。あとは、去年の配信ライヴもそうだし、もっとさかのぼるとその前から、"もっとライヴをこんなふうにしたい"というヴィジョンが自分の中にずっとあったんで、今回のツアーに向けては事前にちょっと時間を多めにとらせてもらいつつ、音楽的な面でのバージョンアップを目指したんですよ。今のところ、大阪と名古屋ではその成果が結構いい感じで出せたんじゃないかと思ってますね。

-ちなみに、岸田さんがライヴに関して"音楽的な面でのバージョンアップ"をはかりたかったのは、どのような点についてだったのですか?

岸田:いや、メジャー・デビューしてからというもの、"ちゃんとしすぎ"だなと。近年はそこが自分的にちょっと気に入らなくて(笑)。これじゃ普通だし、つまらないなと感じてしまっていたんですよ。

-きっちり演奏することを優先するのではなく、ロック・バンドとしての生々しいダイナミズムを重視していくことのほうを重視されるようになったわけですか。

岸田:良く言えばそういう言い方になるし、悪く言えばそれまでだったら一生懸命準備していたことを半分くらいはやらなくなる、みたいな(笑)。結局、ライヴに向けての準備をすればするほど、それってレコーディングと一緒になっちゃいますから。たしかに、そうやってカッチリしたライヴをするやり方もひとつの選択肢ではあるんでしょうけど、そろそろもう飽きたなっていうのが正直なところなので、それで今回のツアーはあえて"ちゃんとしすぎない"モードで臨むことにしてるんです。実際にそういうやり方をした大阪と名古屋については、純粋に熱量とか、勢いとかの面で"こっちのほうがだいぶ「らしい」な"って思いました。しかも、同期演奏とかの事前準備をそこまでしないっていうことは、当日その瞬間ごとにうちのメンバーだけでやらなきゃいけないことは倍以上に増えるし、音楽的には難易度も上がるんですけど、来てくれる人たちだって決まった同期が流れるライヴよりも、きっとバンドの音そのものを楽しめるんじゃないかと考えているんですよ。まぁ、これだけやり方をガラッと変えると大変は大変ですけど、その甲斐はありますね。

ichigo:私とドラムのみっちゃんは、どちらかかというとライヴでもキッチリやりたいタイプなんで、岸田のこの方針に対しては、最初のうち"マジかー......これはすごく大変!"ってなりました(苦笑)。でも、そのぶんお客さんたちとの一体感を強く感じることができたりすると、達成感というか、"やったー! やってやったー!!"って嬉しい気分になりますね。もちろん、その達成感を得るためにはメンバー間でのコミュニケーションの取り方も含めて、ステージ上で気を配らなきゃいけないことがいろいろ増えるし、場合によっては0か100かみたいな感じになるケースもあるんですけど、トータルで考えるとライヴでの楽しい瞬間は以前よりも多くなってきたなと感じてます。

岸田:要はね、せっかく20年くらい楽器をやってきたメンバーが集まってるバンドなんだし、そこは無難な、誰でもできるようなライヴをきれいにやるよりも、我々にしかできないことをやりたいですよねっていうことなんですよ。

-昨今は同期系の機材がトラブルを起こしたとしても、ライヴを続行できるポテンシャルを持つバンドがかなり減っているようにも感じますので、そんななかにあっての岸田教団&THE明星ロケッツの今のスタンスには潔さを感じます。

岸田:やっぱり我々世代のバンドマンは、"Mステ(ミュージックステーション)"での、 THEE MICHELLE GUN ELEPHANT伝説を目の当たりにしてますからねぇ(笑)。たとえなんの用意もなくたって俺たちは演奏できるよっていう姿勢は、ロック・バンドにとって大切なことだと思ってるんです。

ichigo:うん、それはほんとそう!

岸田:みっちゃんなんかはドラムの叩き方もすごくバージョンアップしてて、よりしなる叩き方というか、力を入れなくても加速度をつけることで今まで以上に大きい音を出すようになったんで、なんと今回のツアーからは、ドラム前に音響コントロール用のアクリル板が立てられるようになりましたからね。

ichigo:ついにその時が来たのかっていう(笑)。

-東京での"厳かに祭典"では、ぜひ岸田教団&THE明星ロケッツの熱きロック魂を感じさせてください。期待しております。

岸田:今回のツアーはすごくいい感じできてるので、今度の東京だけじゃなく、また次にも繋げていきたいとすでに思ってるんですよね。ライヴ・バンドとしてみなさまに驚いていただけるような存在でありたいですし、もはや僕はデビューから11年で39歳になりましたけど、ここにきてデビューしたてのバンドくらいの勢いを出していきたくて。ベテランっぽい、こなれ感のあるミュージシャンにはマジでなりたくないんで、今後それっぽいことはすべて拒否するところから次に向かっていこうと思ってます!

ichigo:私はとにかく、いつでも大きい声で歌えるように身体を鍛えておきます(笑)。