Japanese
バンドハラスメント
2018年11月号掲載
Member:井深 康太(Vo) 渡邉 峻冶(Gt) はっこー(Ba) 斉本 佳朗(Dr)
Interviewer:杉江 由紀
-そうした一方、このアルバムにおいては2曲目の「ゼロショウウオ」のMVが制作されております。つまり、この曲が『HEISEI』におけるリード・チューンとなっているわけですが、こちらはもともとどのような背景を持って生まれてきたものでしたか。
斉本:メロディ・ラインとサビの歌詞は僕の中で最初に固まっていたので、そこからどうしようか? というところからのスタートでしたね。ちなみに、この次に3曲目として入っている「君と野獣」という曲が、今のところバンドハラスメントにとっては代表曲になっているんですけど、あれは童話の"美女と野獣"をもとに作ったものだったんですよ。それ以来、童話をテーマにした曲を時々作っていこうかなと思うようになりまして、この「ゼロショウウオ」はその第2弾にあたります。これは、"みにくいアヒルの子"が下敷きになっているんです。"みにくいカエルの子=ゼロショウウオ"ということですね。
-なるほど、そういうことでしたか。それにしても、童話の類は世の中にたくさんあります。なぜ"みにくいアヒルの子"を今回のモチーフに選ばれたのでしょう。
斉本:なんというか、今の僕らにすごくぴったりだなと思ったんですよ。ただ、本来の"みにくいアヒルの子"の結末は白鳥になって......というどんでん返しがありますけど、「ゼロショウウオ」の歌詞にはそういう展開はありません。最初から最後まで、ずっとそのまま、自分のままなんです。でも、そこが今の僕らの姿に近いなと感じるんです。
-美化やデフォルメをせず、リアリティを追求したと解釈してよろしいのでしょうか......?
斉本:そういうことでしょうね。「君と野獣」のときも、オチは"美女と野獣"とは違いましたし(笑)。今回の「ゼロショウウオ」でも、バンドを始めたときに"理想は高く持っていましたよ"という事実はそれなりにあったし、すごいロック・バンドともなればいずれホテルの部屋からテレビを投げてたりするのかな? とも思ったりしてたけど、別に現状そこまではいってないな、みたいな(笑)。
-出てくる例えがシュールです。ホテルの部屋からテレビを投げる系の案件は、AEROSMITHやLED ZEPPELINなど、1970年代あたりに覇権を握っていたロック・バンドたちの間だけで、一時的に流行っていたとされていることですよ?
斉本:いやなんか、自分の中では一流のロック・バンドってそういうものなのかな? みたいな勝手なイメージがなんとなくあったんですよ。だけど、今の自分たちがそういう粋までいけているのかといったら全然そんなことはないし、そうなれるわけもないなっていう気持ちもあったりするから、カエルはカエルのままでこの曲は終わるんです(笑)。
-そこは、かなり冷めていらっしゃるのですね。
斉本:歌詞の中に"魔法は解けた"っていうフレーズがあるんですよ。自分からすると、それは学生の期間が終わっていきなり社会人ということになったときのことで、そこにも別に悪い意味とかは全然ないんです。むしろ、いい意味で書いてます。
-カエルは手足が生えて尻尾を切るのが最後でしたよね。そのカエルになぞらえると、今のバンドハラスメントはどのフェーズにいることになりますか。
斉本:どの段階なんだろうなぁ? ほぼ成体に近いとは思いますけど。バンドとしてじゃなく、個人個人としてだったらちゃんともうサンショウウオになってる気がする。
-サンショウウオ? これはカエルの話でしたよね!?
斉本:いや、違うんです。"みにくいアヒルの子"はアヒルからスタートして白鳥になるじゃないですか。この話は、カエルになると思ってたオタマジャクシが、カエルになったと自分では思ってるけど、実際にはサンショウウオになったっていうことなんです。
-そう考えると、それもひとつのどんでん返しではありますね。
斉本:というのも、サンショウウオの幼生も便宜上オタマジャクシって呼ばれることがあるらしいんです。見た目もほぼ一緒で、足の生え方の順序だけカエルと逆らしくて。そういう事実をモチーフにしながら、自分が思ってた姿とは違うものに成長したっていう歌にしてあるんです。今の自分たちと、そこがリンクする気がするんですよ。
-では、そんな「ゼロショウウオ」のサウンドメイクをしていくにあたり、ギタリストとして渡邉さんはどのような表現方法をとっていくことになりましたか。
渡邉:サビでバーン! と広がるようにしたかったので、今までだと違う種類のギターを何本か使うことが多かったんですけど、この曲では同じギターの音を2本ずつ重ねて、それを左右に振り分けるという録り方をしてみました。やっぱり聴き比べてみると、その効果は結構出せたなという感じがしてます。
はっこー:同じギターの音が2本ずつ重なってることで、別々のギターの音が重なっているよりベースも動ける余地が広がりましたね。そして、サビでは僕もガーン! といきたかったので音色的には低音の割合を前より増やしました。
-そのような音像の変化を受けて、歌う側としての捉え方が多少なりとも変わったところはありましたか?
井深:音どうこう以前に、「ゼロショウウオ」に関しては童話をもとにしているという点を考えて、感情的に歌うことよりも、"話を伝える"という姿勢で歌っていったところが大きかったですね。ストーリーテラーとしての役割と、それこそサビできっちりと広がりを持たせて聴かせるというところに特にこだわって歌いました。
-なお、「ゼロショウウオ」はMVがアニメーションになっているのだとか。
斉本:童話っていうテーマがあるので、これは全編アニメにしたかったんです。バンドで映像を撮るという発想はまったくありませんでした。
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