Japanese
バンドハラスメント
Skream! マガジン 2018年05月号掲載
2018.04.05 @渋谷TSUTAYA O-Crest
Writer 蜂須賀 ちなみ
全国ツアーの最終公演にして彼らにとって東京初ワンマンだったこの日。アンコールで井深康太(Vo)は、"僕ららしさとはなんなのか"を考えたうえでこの日のライヴに至ったこと、その結果、"制作はストイックに、みんなといる時間は楽しいものに"という方向性に定まっていったことを話していた。それがこの日のすべてだったように思う。他のバンドとは多少やり方が違っていたとしても、自分たちが選んだものが歪なものであったとしても、心の赴くままに表現をするということ。このツアーはバンドハラスメントというバンドが、自分たち自身のことを肯定するためのツアーだったのではないだろうか。
キャパシティ250人の会場はソールド・アウト。熱気に満ちたフロアに投下された1曲目は「Sally」、そして2曲目は「鯉、鳴く」だった。最新作収録曲を冒頭に2曲続けているのはおそらく"今がベスト"だという確信がメンバー自身の中にあるからだろう。堰を切ったように溢れ出す濁流のサウンドと、それを浴びながら熱狂する人々、まだ足りないと言わんばかりに矢継ぎ早に煽る井深。序盤からかなりアグレッシヴだが、リズム隊のコンビネーションが安定しているからアンサンブルが転ぶことはないし、身体をぶん回しながら演奏するメンバーそれぞれもフロアを観て笑顔を浮かべるぐらいには余裕を持っている様子。バンドの調子は良さそうだ。
中盤には井深と渡邉峻冶(Gt)のふたり編成でアコースティック・アレンジが披露された。通常のバンド編成では井深のフロントマンとしての華やかさ、バンドを引っ張る腕っぷしの強さに目がいくことが多いが、アコースティックだと彼の歌が持つ繊細さ、艶やかさがより際立っていた印象。まだキャリアの浅いバンドであるため持ち曲が少なく、これから先、リリースを重ねることによって表現の幅が広がりそうな予感はするが、そのあたりのヒントがこの編成に表れていたように思う。
ヒリヒリするような感情を吐露した楽曲を、ラウド寄りのバンド・サウンドと切っ先鋭いハスキー・ヴォイスで体現していく。演奏時はそのようなスタイルが主だが、MCは一転、かなりリラックスした雰囲気だった。最初のMCでは斉本佳朗(Dr)を中心に、MC中のBGMをどうするかをみんなで考える"BGM選手権"なる企画を敢行。そして2回目のMCでは、斉本とはっこー(Ba)が漫才のようなやりとりをしながら、PowerPointを用いてメンバーふたりの改名の経緯を説明した。普通に考えてワンマン中にパワポ(PowerPoint)でプレゼンし始めるバンドなんてまずいないが、そういう固定観念にとらわれず"自分たちのことをわかりやすく伝えるためにはどうしたらいいのか"を"せっかくだから楽しくやりたいよなぁ"というピュアな気持ちにもとづいて考えた結果ああなったんだろう。今考えると"BGM選手権"も、ギター/ベース/ドラムの形態にとらわれないサウンド構築を行ってきたこのバンドならではのアイディアである。
この日のライヴは全体的にオーディエンスの参加率が高く、井深がフロアへマイクを向ければものすごい大音量でシンガロングが返ってきたし、曲中の手拍子もものすごい音量だった。それは演奏時でもそれ以外の場面でもメンバー自身が飾らずいられたからこそ、オーディエンスにその感情がまっすぐに伝わったからこそ、だと思う。"僕らはこれからいろんな壁にぶつかると思います。でも確信しました。あなたとならどんな大きなステージでも歌っていける。どんなバンドも超えていける"と井深。そういうものを見いだせた経験は、今後彼らにとっての確かな糧になっていくはずだ。だからこのまま突き進んでほしい。そう思わせられるような、清々しいツアー・ファイナルだった。
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