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ザ・クロマニヨンズ

2023年01月号掲載

ザ・クロマニヨンズ

Writer : 真貝 聡

ザ・クロマニヨンズ流の人生讃歌に思わず心が震える


ザ・クロマニヨンズが1月18日に16thフル・アルバム『MOUNTAIN BANANA』をリリースした。収録曲は26thシングル「イノチノマーチ」とカップリング「さぼりたい」を含む計12曲。再生ボタンを押すと、まずは4人が一斉に歌い出す「ランラン」が出迎える。甲本ヒロトの跳ねるようなヴォーカルと、マーシーこと真島昌利のバキバキに尖ったギター・リフ、桐田勝治のパワーのあるドラミング、サビ前で際立つ小林 勝(nil/THE BLACK COMET CLUB BAND)の小気味いいベースが光る。心弾むようなサウンドは、走るというよりもまさに"ランラン"という軽やかな表現がしっくりくる。出だしが軽快に始まったかと思えば、2曲目「暴走ジェリーロック」は前のめりなドラムが特徴で、荒れ狂う海の中へ身を投じたくなるような、燃え盛る炎の中へ突っ込んでしまいたくなるような、内側から奮い立つエネルギーが滾っている。アルバム前半の曲で思わず笑みが溢れたのは、何度もタイトルを連呼する3曲目「ズボン」。スカのカッティングと裏のリズムで突き進み、途中でヘヴィなギター・ソロが火を吹く5曲目「でんでんむし」。浮遊感のあるアコースティックなサウンドに、"一つ目小僧"や"ぬりかべ"というワードも登場する6曲目「一反木綿」。それらの歌詞に深いメッセージがあるのか? と聞かれれば、そういうことではない気がする。というよりも、あえて時代と逆行するアプローチをしているとも言える。

2020年11月21日、松本人志と中居正広がMCを務めた"まつもtoなかい ~マッチングな夜~"(フジテレビ系)にヒロトが出演した際、自身がアナログ・レコードを聴いていた頃と現在の若者を比較して、こんなことを口にした。"歌詞を聴きすぎ、若い人は。アナログの頃、僕らは音で全部聴いてた。だから洋楽だろうが、なんだろうが全部カッコ良かった。何より意味はどうでもよかった。ロックンロールはものすごく僕を元気にさせてくれたけど、元気づける歌詞なんかひとつもないんだよ。関係ないんだよ、そんなこと。「お前に未来はない」とか「No future for you」とか、それを聴いて「よっしゃ! 今日も学校へ行こう」と思って出かけたの"。逆に、リスナー同士で歌詞の考察を交わすようになった現状に対して"文字を追いすぎてる気が、ちょっとだけする"と話す。頭で聴く音楽が多いなか、ザ・クロマニヨンズは身体で聴いてカッコいいかどうか。もはや勝負してるステージが違う。そんな彼らの音楽は自由でありながら、聴いた人が揃って"これがロックだ"と口にする。それはどうしてなのか? これまでにいくつもザ・クロマニヨンズのレビュー記事を読んできたが、やっぱり誰もが"これぞロックンロール"という表現をしていた。ロック・バンドが鳴らす音楽なのだから、そりゃあそうだろと思うけど、その解釈の仕方って"あのふたり"と共通してないだろうか。

2022年3月21日、こちらも中居正広がMCを務めた"笑いの正体"(NHK総合)。漫才という文化がどのように進化を遂げてきたのか、なぜ漫才は面白いのかを解剖する番組で、ゲストの劇団ひとりはビートたけしと松本人志の笑いについて言及した。"このふたりって特別なんですよね。というのも、価値観をガラッと変えちゃうというか。要は「これが面白いことなんだよ」って客に押しつけるんですよ。しかも、(その感性に)こっちがついていきたいと思っちゃうんですよね。これがわかるようになりたいって"。ふたり(たけし&松本)がやってることだから、これは笑いであり、面白いことなんだ。それってザ・クロマニヨンズにも当てはまる。何を題材にした曲だとしても彼らが歌えば、それはロックなんだ、と。"こういうことを歌うのがロック"というリスナーの観念や価値観をひっくり返してしまう、圧倒的な説得力。そういう意味で、冒頭の楽曲は実に彼ららしいロックンロールであり、言葉や音の強固さが年々強まっているのを感じられる。

一方でアルバム後半は、死生観について考えさせられるナンバーが並ぶ。7曲目「イノチノマーチ」は少ない小節数の中にシンプルな言葉を散らすことで、歌と歌の間に余韻を与えている。そして"飛び出すぜ 心はどこへ"、"駆け出すぜ 心はどこへ"のようにヒロトの投げ掛けに対して、メンバーによるコーラスの問い掛けが対話形式で進み、Bメロでは"聞こえたか/聞こえるよ"、"はじまりだ いま/おわらない もう"と生命の誕生する瞬間を表している。"生きるとは何か?"を扱った楽曲は多く存在するが、"生まれるとは、どういうことか?"を歌った曲を僕は知らない(親目線の曲以外で)。お腹から出てきたばかりの、まだ名前もないその生き物は、命のゼロ地点に立っただけで人生は始まっていない。だから、この曲に2番は存在しない。サビで火花のような8ビートが鳴った瞬間、ひとつの生命が世に放たれる爆発力が見事に表現されている。歌詞だけでなく、演奏にも高い物語性が込められているのだ。

先述した通り「イノチノマーチ」は生命が生まれる場面を歌っているが、それとは対照的に9曲目「もうすぐだぞ! 野犬!」は死を迎える様子にスポットを当てた楽曲となっている。火葬場の床でうずくまる野犬に対し"コンクリート 冷たいだろ"と天の声が現れる。そして、死に場所を求めて桜の木の下へ歩き出す野犬に"もうすぐだぞ 野犬 桜を見るぞ/頑張れるか 野犬 暖かくなるぞ"と、その最期にエールを送る。これが実に優しくて切ないし、儚くて美しい。しかも、サウンドはバラードでもストレートなロックでもなく、人生のエンドロールに向かっていく一瞬一秒を激情的に表す演奏が楽曲の世界観を増幅させる。「もうすぐだぞ! 野犬!」は「イノチノマーチ」のアンサー・ソングともとれるのだ。

他にも注目したいのは"ズッチャズッチャ"とレゲエ調のサビが特徴の11曲目「さぼりたい」。"さぼりたい 今日は"と冒頭から最後まで、声高らかに歌い上げる。そんなサボることへの気力に溢れた無気力なメッセージから、ラストは細かく刻んだリズムが心地よいブルース・ロックの12曲目「心配停止ブギウギ」にバトンを繋ぐ。こちらは"心配しても事態は変わらないから、もう俺は心配を停止する"という開き直った心情が描かれている。よく"ザ・クロマニヨンズの音楽は肯定力がある"と言われるが、彼らが今作で肯定しているのは"人間の業"だ。所詮、人間はそんなもの。人間はそこまでできていないし、だからこそ愛おしい。彼らはいつだって、人間の根本を教えてくれる。改めて『MOUNTAIN BANANA』は生と死の二面性、ロックの単純さと深奥さ、人間の表と裏を見事に表した1枚となっているのだ。

アルバムを聴いたら"この曲たちをどうパフォーマンスするのだろう"とライヴを体感したくなるのは必然。そもそも彼らの真骨頂はライヴだ。去年は、全国ツアー"ザ・クロマニヨンズ ツアー SIX KICKS ROCK&ROLL"以外に、東京スカパラダイスオーケストラ、銀杏BOYZ、ハルカミライ、Ken Yokoyama、カネコアヤノ、GLIM SPANKY、ザ50回転ズなど多くのアーティストと対バンを重ねてきた。どんなジャンルのアーティストだろうが、どんな客層であろうが、いつだって会場の空気を掌握してきた。ステージ上での求心力は年々アップデートされている。そんなザ・クロマニヨンズは、2月2日から『MOUNTAIN BANANA』を引っ提げて、計24公演の全国ツアー"ザ・クロマニヨンズ ツアー MOUNTAIN BANANA 2023"を開催。きっとツアーでは、アルバムで感じた物語の先を見せてくれるはずだ。


▼リリース情報
ザ・クロマニヨンズ
ニュー・アルバム
『MOUNTAIN BANANA』
MOUNTAINBANANA_H1.jpg
NOW ON SALE

【CD】
BVCL-1263/¥3,204(税込)
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初回仕様のみ紙ジャケット仕様

【完全生産限定アナログ盤】
BVJL-58/¥3,204(税込)
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60年代フリップバックE式盤を可能な限り再現。180g重量盤採用

[収録曲]
1. ランラン
2. 暴走ジェリーロック
3. ズボン
4. カマキリ階段部長
5. でんでんむし
6. 一反木綿
7. イノチノマーチ
8. ドラゴン
9. もうすぐだぞ! 野犬!
10. キングコブラ
11. さぼりたい
12. 心配停止ブギウギ

▼ツアー情報
"ザ・クロマニヨンズ ツアー MOUNTAIN BANANA 2023"
2月2日(木)東京都 Zepp Haneda(TOKYO)
2月5日(日)東京都 たましんRISURUホール(立川市市民会館)
2月12日(日)石川県 金沢市文化ホール
2月19日(日)愛知県 日本特殊陶業市民会館 フォレストホール
2月23日(木・祝)宮崎県 都城市総合文化ホール 大ホール
2月25日(土)佐賀県 鳥栖市民文化会館
2月26日(日)福岡県 北九州芸術劇場 大ホール
3月4日(土)埼玉県 狭山市市民会館 大ホール
3月5日(日)千葉県 浦安市文化会館 大ホール
3月11日(土)秋田県 あきた芸術劇場ミルハス 中ホール
3月12日(日)宮城県 トークネットホール仙台(仙台市民会館) 大ホール
3月18日(土)岡山県 岡山市民会館
3月19日(日)鳥取県 米子市公会堂
3月21日(火・祝)広島県 東広島芸術文化ホールくらら 大ホール
3月24日(金)京都府 ロームシアター京都 メインホール
3月26日(日)兵庫県 神戸国際会館 こくさいホール
3月30日(木)東京都 中野サンプラザ ホール
4月1日(土)新潟県 新潟市民芸術文化会館・劇場
4月8日(土)栃木県 栃木県教育会館
4月9日(日)神奈川県 カルッツかわさき
4月15日(土)香川県 レクザムホール(香川県県民ホール) 小ホール
4月16日(日)大阪府 大阪城音楽堂
4月23日(日)静岡県 静岡市民文化会館 中ホール
4月29日(土・祝)北海道 カナモトホール(札幌市民ホール)

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