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Japanese

ザ・クロマニヨンズ

Skream! マガジン 2022年05月号掲載

2022.03.30 @LINE CUBE SHIBUYA

Writer 秦 理絵 Photo by 柴田恵理

潔かった。今年1月にリリースされた最新アルバム『SIX KICKS ROCK&ROLL』の楽曲を全曲披露してみせたセットリストも、終始、ロックンロールのみでお客さんと"会話"を交わすというスタイルも。2020年代のロック・シーンを見渡せば、サブスクの普及も相まって、ジャンルにとらわれない幅広い表現を自らのロックとするバンドが増えてきたが、それとは真逆の在り方と言っていいだろう。おそらく、今後、ザ・クロマニヨンズのような一点突破でロックンロールを貫くバンドは、なかなか登場しないような気もする。それは、どちらが上か下かという話ではない。ザ・クロマニヨンズとして、シーンに登場してから15年。自分たちの道として"貫くこと"を選んだバンドが、変わらないまま、だが確実に円熟味と進化を獲得していく。その潔い凄みに圧倒されるライヴだった。

アルバムのリリース直後にスタートした約2年ぶりの全国ツアーが後半戦に差し掛かり、3度目の東京公演となったLINE CUBE SHIBUYAだ。そのステージは、あまりにも簡素だった。メンバーの背面は打ちっぱなしのコンクリートが剥き出しで、袖には雑然とした棚や、工事現場で見かけるカラーコーンが無造作に置かれていた。ステージらしい装飾と言えば、天井から垂れ下がった、『SIX KICKS ROCK&ROLL』のジャケットで使われているフラッグだけ。だが、そこに甲本ヒロト(Vo)、真島昌利(Gt)、小林 勝(Ba/THE BLACK COMET CLUB BAND)、桐田勝治(Dr)が登場すると、そこはロックンローラーの戦場になる。ライヴは「ドライブ GO!」から始まった。カツジ(桐田)が叩き出す突進するようなビートに、マーシー(真島)とコビー(小林)のキレのあるリフが重なる。そして、"突っ走れ"と連呼するヒロトのあの声だ。ツアーはまだ1ヶ月強を残すという通過点のライヴだが、すでにバンドの音は完全に仕上がっていた。

"どんどん行くぞ!"。ヒロトの声を合図に、楽器隊が全力のコーラスでメロディに寄り添った「光の魔人」、そして早くも「大空がある」が最初のハイライトだった。何度も繰り返す"大丈夫だ"というフレーズ。"昼間でも 夜中でも 見上げれば そこにあるんだ"と、ヒロトが歌の中で伝えた言葉に大きな拍手が湧いた。ザ・クロマニヨンズの歌詞は決して難しい言い回しはないし、何度も同じことが繰り返されることも多い。だが、その圧倒的に少ない言葉数の中に、誰かに言ってほしかった優しい言葉があるのだ。

"ボンゴ ボンゴ ボンゴ"という土着的なコーラスに乗せて、ヒロトがお尻を振るコミカルな動きを見せた「もぐらとボンゴ」、細かく刻んだコビーのベースが焦燥感を加速させた「ここにある」から、ヒロトの傍らに立つ相棒として抜群の存在感を放つマーシーのギター・ソロが炸裂した「爆音サイレンサー」へ。前半の楽曲を聴きながら思ったのは、ザ・クロマニヨンズのロックには年輪を感じられる、ということだ。ロックンロールの"ロール"の部分を体現するグルーヴと、全員の音がピタリと重なる一体感。それらは決して一朝一夕で身についたものではない。そんなバンドの円熟味は、特にテンポを落としたレゲエ調の「冬のくわがた」や、バラード曲「縄文BABY」によく現れていたように思う。"あと1曲間違えないように歌います"というヒロトの言葉で始まった、アルバムのラスト・ソング「縄文BABY」では、盤石のリズムにロマンチックなメロディが紡がれる。"縄文BABY 縄文BABY 縄文BABY"。文脈もない、意味もよくわからない。だが、そのフレーズになぜか泣けてくる。そんな歌の終わりに、ヒロトは"12曲できたっ!"と無邪気に叫んだ。

頭上のフラッグがしまわれ、ブルース・ハープで、ダービーの出走を告げるファンファーレを奏でたヒロト。"短いフレーズの中に数々のテクニック"と自画自賛するように言うと、後半はライヴの鉄板曲が次々に披露された。「メタリックサマー」ではカツジが繰り出す手数の多いド派手なドラム・プレイで魅了し、「妖怪山エレキ」ではマーシーのギターがザクザクとリズムを切り込む。会場はコロナ禍のルールで歓声は禁止だったが、ザ・クロマニヨンズの強靭なロックンロールの前では些細なことだった。それぞれが自分の座席の範囲で思い思いに踊り、こぶしを突き上げ、手を叩く。とても自由な光景が広がっていた。まだ本編を5曲も残したところで、"ここからは最後までぶっ飛ばしていきたいと思います"と宣言。間髪入れずにラスト5曲を畳み掛け、会場が最高潮の熱気に包まれるなか、本編を締めくくった。

さらにアンコールは「エイトビート」、「ギリギリガガンガン」、「ナンバーワン野郎!」だった。言わずと知れたザ・クロマニヨンズの代表曲だが、それは、みんなが知っていて、盛り上がる曲だから、アンコールに相応しいのではない。"ただ生きる 生きてやる"と歯を食いしばる「エイトビート」に、"今日は最高の気分だ"と自分に言い聞かせる「ギリギリガガンガン」、そして、"わかってる 立ち上がる"と不屈の精神で突き進む「ナンバーワン野郎!」。そんな曲だから、アンコールに相応しかった。人は誰もが弱い生き物だ。だからこそ、ロックンロールが必要なのだと思う。生きることに疲れたり、今日が最高だと思えなくて、もう立ち上がれないと感じたりしたときに、こういう日があったことがきっと支えになる。あらゆる価値観が激しく流動する時代にあって、生きることの本質を明快に射貫くザ・クロマニヨンズが、その場所に居続けていることそのものが、きっと私たちの希望だ。

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