Skream! | 邦楽ロック・洋楽ロック ポータルサイト

MENU

FEATURE

Japanese

Kidori Kidori

 

Kidori Kidori

Writer 石角 友香

つくづくカテゴライズというタグづけがしにくいバンドだ、Kidori Kidoriは。
言葉どおりの意味で"オルタナティヴ"である彼らの音楽が物理的にソリッドで攻撃性を湛えていたのはもう過去のこと。昨年リリースの3rdアルバム『! [雨だれ]』では、ディストーションのかかった音像は姿を消し、ギター、ベース、ドラム、ヴォーカルの配置とリズム、そして何より全編日本語詞という、これまでの彼らの音楽から考えると表現の舵を大きく別方向に切った作品に。だが、『! [雨だれ]』のリリース・ツアーの最中、思い立ったように爆音が効果的なレパートリーばかりのライヴを行ったりもした(なんたって耳栓がグッズ販売されていたし)。要は自分たち自身でもタグづけしにくい性分を持ったバンドだと捉えているのだ。
 
マッシュ(Vo/Gt)のバックボーン同様、はっぴいえんどや60~70年代のブラック・ミュージックを参照点に持つ、去年ごろから台頭してきた、いわゆる"YOUTH WAVE"のバンドたちの方がよほどタグづけはしやすいんじゃなかろうか。まぁ、それも本人たちにとってはありがた迷惑なのかもしれないが。いずれにしてもKidori Kidoriは何らかのムーヴメントと自然に距離ができている。
 
そのこと自体の是非はともかく、このバンドのカテゴライズに関する寄る辺なさを象徴するような、そして音楽的に独立したスタンスを知らせるニュー・カタログ、それがこのニューEP『フィールソーグッド e.p.』だ。久々に性急なビートでありながら、「なんだかもう」など前作のギター・トーンに近い、単音でどこか郷愁感とサイケデリアを感じさせるリフ、そしてそこに乗る歌詞が新しい。自身の生活圏に対する、何とはなしの違和感、疎外感まではいかないしっくりこない感じ。頭の中では新しい音楽が鳴っているのかもしれない。このままもう少し知らないところまで走ってみようか? 日々のルーティンを少しだけ超えたら、新しい何かに出会えるかもしれない......そんなことってないだろうか? そういう意味で、前作に関してマッシュが"素に近い表現ができた"と語っていた、そのさらに先にある共振性、そんなナマな感覚がこの曲には確かにある。どこかとぼけたフレイバーを残す彼の資質には珍しく、パーソナルだからこそ普遍的な焦燥と痛みと、その先にある冒険心。驚くぐらいあっさりと終わるこの曲の物語の続きはあなた自身が生きればいい、そんな感じだ。
 
Kidori Kidoriなりのリアルな心象を描いた表題も含めて、このEPの楽しさはすべての曲のサウンド・プロダクションが異なるところにもある。Track.2の「ハッピーアワー」は、早めに仕事が終わり、労働する人たちを尻目に一杯始めちゃった感じだろうか。若干の後ろめたさを脱力したサウンドで描き出している。
 
そしてKidori恒例のカバー・ナンバーの中でも史上最強の取り組み(大げさでもなんでもなく)が、くるりの「東京」のカバーとなって収録されている。
これがまぁ端的に言って、まだ大阪と東京の両方に足をかけてる印象のKidoriというかマッシュに似合う。アプローチはMY BLOODY VALENTINEもかくやというシューゲイズ・サウンドのカーテンの向こうでヴォーカルが幻覚のように立ち上がる白日夢っぽいサウンドスケープ。サビ前のギターの再現度は高く、くるりのカバーであると同時にRADIOHEADのJonny Greenwood(Gt)へのオマージュのようでもあり、90年代オルタナ総決算なアレンジとも言える。感情を表に出さないヴォーカルがその音像に込めたメッセージをより浮き上がらせるのだ。そしてマッシュのライフワーク(?)でもある細野晴臣の音楽への対峙として、今回は細野の"トロピカル三部作"の最終章『はらいそ』収録の「東京ラッシュ」をカバーしているのが興味深い。ここで耳を引くのはマッシュのヴォーカルの細野さんっぷり。声もそうなのだが、"我関せず"、"無粋はなしよ"、そんなニュアンスも楽しむように再現している。第一声で拍手しながら笑ってしまった。間の多いアンサンブルでファンクネスとエキゾティシズムを表現しているという意味では、アレンジが最も楽しめる1曲とも言える。
 
"カテゴライズのタグづけがしづらいバンド"、Kidori Kidoriは、音楽的にも心情的にも、今ここから旅をさせてくれる愛すべきバンドなのである。そしてこのEPのレコ発でもある"まともなイベント vol.9"の大阪公演のゲストがOGRE YOU ASSHOLEであることに嬉しさを隠せないこと、東京公演は誰なんだ?という期待値マックスであることもつけ加えておこう。

 

Kidori Kidori
ニューEP
『フィールソーグッド e.p.』

2016.06.08 ON SALE
RDCA-1043 ¥1,200(税別)
[Polka Dot records]
amazon | TOWER RECORDS | HMV
 
1. フィールソーグッド
2. ハッピーアワー
3. 東京(くるり)※カバー
4. 東京ラッシュ(細野晴臣)※カバー

  • 1