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INTERVIEW

Japanese

あれくん

2025年05月号掲載

あれくん

Interviewer:稲垣 遥

シンガー・ソングライター あれくんがリリースした新曲「アイラヴ」は、一度聴けば口ずさめるようなキャッチーなサビに、ドラマチックで盛りだくさんな怒濤の展開、最後には一緒になって歌えるコーラス・パートも配された、ライヴでの盛り上がりが必至のナンバーだ。だが、作者のあれくん自身はコロナ禍での本格始動で、活動初期に第一歩を踏み出せなかったこともあり、以前はライヴに対して前向きではなかったという。そんな彼が本楽曲を生み出すまでの道のりや、作品に込めた想い、またここから始まるツアー[one-man Live tour 2025 "Action&Not Alone"]について語ってくれた。

-前回インタビューさせていただいたのがEP『革命前夜、』(2022年9月配信リリース)と「うたたね」(2022年10月配信リリース)のとき(※2022年10月号掲載)で、2年半程前ということで、お久しぶりです。その間には様々なことがあったと思いますが、どんなふうにお過ごしでしたか?

そうですね......人生が上手くいっていたっていうことはあまりなくて。ただそのなかで改めて音楽に対する葛藤だったり、上を目指さなきゃいけないプレッシャーだったり、そういうのにもみくちゃにされながら、進化できた2年半だったなと思ってます。

-上手くいっていなかったというのは、どんな面でなのか具体的にお伺いしてもよろしいでしょうか?

いろいろ私生活における悩める部分みたいなのって誰しもたぶんあると思うんですけど、そういうところで疲弊したり傷心する部分がちょっとあって、今まで書いてたものが思うように書けなくなったりしたことがありましたね。

-休むことなく新曲を出されているイメージでしたので、書けなくなった時期があったというのは意外でした。

(笑)表にはそういうのを出しすぎると良くないので出してないんですけど、内側ではそんな感じでした。

-葛藤、プレッシャーという言葉も出ましたけど、あれくんはコロナ禍で本格始動したこともあり、以前はライヴ等の表現の場も限られていたなかから、時間が経って露出する場面が増えてきたことも関係しているんでしょうか?

そうですね。ライヴを初めてやろうとなったときに、タイミング悪くコロナ禍にぴったしぶつかっちゃってできなくて、そこからライヴに対する意欲よりも不安が大きくて、ライヴに対してすごく後ろ向きだったんですよ。ただ、コロナ禍が明けてからライヴ・ブームみたいなのがだんだん戻ってきて、他のアーティストを見てもライヴをすごく成功させているなかで、自分がライヴをできていないことに対して、大きなプレッシャーを感じていましたね。

-そんななか、TikTok等で毎日弾き語り投稿をされていましたが、きっかけはなんだったんですか?

誰もやってないことをやるのが好きで、そこに対して好奇心旺盛なんですけど、手の込んだ弾き語り――弾き語りじゃないのもあるんですけど、そういった動画を毎日投稿するのって誰もやってなかった。ブルー・オーシャンだったんですよ。なので、やっているのは自分しかいないっていう優越感と気持ち良さに、自分自身が持ってかれてましたね。承認欲求みたいな。

-そこで反応があることがモチベーションに繋がっていったりしましたか?

そうですね。やっぱりやれば観てくれる人はいるし、伸びるんだなっていう成功体験がめちゃめちゃ大事だと思ってて。好奇心からやったことが成功体験として実を結んで良かったなと感じてます。

-歌はもちろん、ギターの技術もかなり上がったんじゃないですか?

ありがとうございます。

-ご自身も手応えを得ていますか?

そうですね。そのときは得ていました。ただ、動画を俯瞰して観ると、自分の成長スピードが追い付いていない部分もあって、"こんなんじゃダメだ"みたいに悲観的になったり卑下することも結構あったんです。それからの反骨心で伸ばしているところもあるんですけど。それもプレッシャーで潰されたりとかがあるんですよね。

-他の方が作った難易度の高い曲を演奏することによって、自分がオリジナル曲で出せる技術がそこに追い付いていないのに気付くと。

はい。それと、過去の自分を超えなきゃいけないのは絶対じゃないですか。曲を出すにあたって、過去の作品を自分の中で超えてないと許せないんですよ。絶対的に過去の曲より伸びる、刺さる自信がないと出したくないっていうのが大前提にあって。なのでそこもプレッシャーとして大きいですね。

-ライヴの話に戻りますと、そんなプレッシャーを感じながらも、この間にソロ・ツアーを開催したり、対バン・イベントにも出演されたりするようになりましたね。昨年末のツアー・ファイナル("あれくん one-man live tour~ぬくもりに触れて~")終了後には、"過去最高のライヴができた"とつぶやかれていました。ライヴを重ねて、自信を得られてきたということなんでしょうか?

そうですね。自信もそうですし、だんだん魅せられるライヴになってきたというか、やらされてる感、義務みたいなものじゃなくなってきたのが自分の中で変化でした。転換期になったのかなって思います。

-オンラインとは違い、各地を回ることで感じたことはありましたか?

やっぱり住んでいるところが違うと人柄が違うので、ライヴ・パフォーマンスを工夫しないといけなかったり、曲を作るのとは全然違う観点で、物事を広い視野で見なきゃいけなかったりするんだなっていうのは、やっと地に足を着けてライヴができるようになった今だからこそ思えたところだなと。今までは緊張と不安がずっと勝ってて、純粋に心から楽しめるライヴができてなかったので、そういう新しい課題点とかいろんなものが見えたことで、ライヴへの意欲が増したのかなって思います。

-リアルなライヴの経験が少ないことによる劣等感みたいなものがきっとあったけど、経験を積むことでその意識を拭えてきたんですね。生のライヴも面白さや課題が分かってきて、今は見せ方も変わってきたんでしょうか?

うん。よりエンタメっていうところを重視するようになったなと思います。曲をサブスクとかで聴いてもらうのとは違うエネルギーの使い方というか。

-視覚でも魅せるというか。

はい。来てくれた方に非現実感を味わってもらわないといけないじゃないですか。

-それを求めて来られるお客さんは多いと思います。

なので、そこに着眼点を置いて考えるようになりましたね。

-そして今回の「アイラヴ」は、ライヴで映えそうな曲になっていますよね。この曲の制作のきっかけは、ライヴで盛り上がる曲を作ろうという意識からだったのですか?

いや、もともとアイドルさんに楽曲提供したいなと思っていたときがあって、ワンコーラスぐらい曲の欠片ができていたんですよ。ポテンシャルの高い曲だなって自分の中で思っていたので、ずっとどっかで日の目を見てほしいなと考えてたんですけど、そのなかで"もう自分で歌っちゃったらいいんじゃないの?"と思って、自分のものにしたくなっちゃって(笑)。そうなったときに、ライヴへの意欲も高まってきたし、ライヴ・シーンに合う曲、ダンス・ナンバーじゃないですけど、そっちに合わせた曲を作れたらいいなぁと思って、合うように書き直しを繰り返してできた感じです。なので、もとからライヴに合わせて作るぞっていうのがあったわけではないですね。

-アイドルに楽曲提供をしたいという想いはそもそもどこから湧いてきたんでしょうかね?

それも新しいことをしたいっていう好奇心からですね。

-何かの曲を聴いて、自分も提供したいとなったとかではなく。

ではないですね。「思わせぶりは重罪です!」(2023年9月配信リリース)とか、かわいらしい曲を過去に作ってて、他にもかわいらしい曲がいくつかあったりするんですけど、オーディエンスを沸かせられるような曲=アイドルの曲な気がしていて。

-なるほど。

曲の中にドキッとする言葉を入れるとか、そういうのって普通のシンガーよりアイドル寄りな気がして、できるんじゃないかと思って作ってみたんですよね。

-アイドルに提供したかったという話を聞いて、まさに「思わせぶりは重罪です!」もいいんじゃないかと頭に浮かんでいました。「アイラヴ」はもう配信済みですが、反応は届いていますか?

すごくありがたいことにたくさん聴いていただいて、届いています。最後の歌詞とかコール&レスポンスとか、一緒に歌うところもあるんで、"早く歌いたい"って声がすごく多くて、よりライヴを早くやりたいなっていうモチベーションになっていますね。

-今はすごくいいモチベーションのなかでやれているんですね。以前、曲の背景には実生活の影響もあるというお話をされていたのですが、今回の曲作りをするときには、あれくん自身がポジティヴな状態だったのですか?

んー、すごくポジティヴだったかっていうと分かんないんですけど......。結構納期に追われてましたね。自分もだらだらしちゃうというか、作ろうってなったときにできないんですよ。出てくるのを待つしかなくて。でもプレッシャーを掛けられて急かされて追い込まれると出てくるときもあるので、今回はその状況下でできたって感じですね。

-昨年1月の「あなたの恋人でよかったよ」の発表時には、自身の失恋を曲にしたと報告されていましたけれど......そこから曲を発表するごとに明るくなってきてる印象もありました。

はい。いつまでも後ろを向いてても仕方ないし悩んでも何も起こらないんで、マイナスはマイナスしか産まないと思っていたからというのがあるかもしれないです。

-でも今回は実生活が曲になったわけではなく、新しいことをしたい、アイドルに楽曲提供をしてみたい、というところがインスピレーション元になったんですね。

それと、自分の作ったストックの中で一番愛せる曲だったというのがカギだった気がします。

-キャッチーで1回聴いたら口ずさめるサビが軸にはあるものの、電子音がふんだんに入ったイントロからきめが細かくて、曲が進むごとに様々な種類の音が鳴ったり、サビ以外は同じメロディの繰り返しがほとんどないんじゃないかというくらい展開も多かったりで。

そうですね。流行りがコロコロ変わるじゃないですか。1つの曲にしても、1つの曲のカロリーじゃないって思わせたほうが飽きにくいし、自分自身も同じ感じだと飽きちゃうようになってきて。だから一般的に曲を作るベーシックの1Aメロ、1Bメロ、サビ、2Aメロ、2Bメロ、サビみたいなのだと飽きちゃうのでA、B、C、D、E、F、G! みたいな(笑)。

-まさにそんな感じですよね。

そういう感じで作りたくなっちゃいますね。全部サビになるようにというか、どこを切り取ってもおいしく聴けるように徹底したかもです。

-ドラムが入ってくるタイミングも独特で、"あ、ここで来るんだ"と思いました。

いろいろなテクニックを織り交ぜながら作った曲なんですけど、ド頭は原点の弾き語りみたいにアコギを前に出したくて。音的に言ってもワンコーラス目はセンターにアコギがいるんですけど、そのドラムが入ってくるところから、アコギもサイドに移って"バンド"って感じを出してて、過去と今を繋いでるという思惑がしっかりあるサウンドメイクにしています。

-まさに、アコースティック・ギター1本でスポットライトを浴びて歌っているところから、ぱっと明るくなってバンド・セットが登場するようなイメージが湧きますね。また、今回は参加ミュージシャンの方も豪華なんですよね。

ありがたいことに、すごくサポートしていただいて。

-Mrs. GREEN APPLEの楽曲やAdoの「私は最強」にも参加しているクラカズヒデユキさんがドラム、またこちらもAdoやEveでも演奏されている西月麗音さんがベースで入っていたりします。今回、こういった方々との関わりはどういうところからだったんですか?

クラカズ君に関しては、「群青」(2024年11月配信リリース)から叩いていただいていて、それをきっかけに、フィーリングが合いそうだし今回もお願いさせていただいた感じですね。西月君に関しては初めましてだったんですけども、一方的に知ってはいて、ベース・プレイを拝見するなかで合いそうだなと思ってお声掛けして、素晴らしいパフォーマンスをしていただきました。

-演奏はスタジオ等で顔を合わせて?

いや、完全にデジタルで、データ上のやりとりで。

-ギターはタッピングやソロもあったりして盛りだくさんですが、そこはakira sorimachiさんが担っているんですよね。

はい。アレンジャー(三浦良明)さんのお友達という経由で紹介していただいて、ほんとに昨日の今日くらいのペースでお願いさせていただいたっていう感じですね(笑)。