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INTERVIEW

Japanese

中嶋イッキュウ

2024年05月号掲載

中嶋イッキュウ

Interviewer:石角 友香

私はどっちかっていうとポジティヴなほうの人間なので、逆にうまくいってない恋がロマンチックに見える


-今回の収録曲は2016年の段階で作った曲なんですか。

そうですね。「DEAD」がもしかしたら2016年よりあとの可能性はあるんですけど、でも今回のために作った曲っていうのは特にない感じですね。

-リアレンジはどんなところを主眼とされました? 今回のメンバーだからこそという部分は大きそうですが。

特に「マンション」は新垣(隆)さんとご一緒できるっていうことで、前に出したときは頭からバンドがいたんですけど、ワンコーラス丸々ふたりがいいなっていうふうに思ってたので、だいぶアレンジは変わってますね。

-tricotって最近の曲が特にそうなのかもしれないですけど、ちょっと戦うモードというか、何かに向かっていくときの姿勢って感じがするんですが、ソロはパーソナルなんだなと思いましたね。

そうですね。ドロドロしてる感じです。

-ドロドロしてるだけでもなくて、突っ込んだ感じで描くからこそ嘘がない印象もあります。

実体験に基づいたっていうことでもないんですけど――実体験に基づいてたら人を殺してる可能性がある(笑)。不倫とかストーカーもしてそうですが、どれもやったことはないです(笑)。でもそういうお話が好きというか、あんまり何もない物語を描けなくて、"日常楽しい"みたいなのを書くのが苦手で。お友達の恋バナを聞くのも好きですし、それもできれば楽しくないほうが面白いっていうか(笑)、うまくいってない話のほうが面白いと思って。でも私はどっちかっていうと前向きでポジティヴなほうの人間なので、逆にうまくいってないのがロマンチックに見えるっていうか、一種のうらやましさもあるし、そういうほうが音楽に乗ってて美しいなと感じますし。あわよくば音楽で満足してもらえたらよりいいのかなっていうふうにも思うので、tricotとかで描く歌詞よりはもう少し絵がはっきりと浮かぶようなものに自ずとなっている気はします。

-じゃあ疑似体験で命拾いしてもらって。

そうですね(笑)。もしかしたらその渦中にいらっしゃる方も逆にハッとしてくれる可能性もあるかなっていうふうに思いますし。

-全曲聴き応えのあるボリューム感で。

そうですね。あと、全部曲が長いですね(笑)。最後の「MILK」とか6分あるので。ひとりで作ると長くなるんやなって思いましたね。

-この部分を繰り返したいとか、アウトロも長くてもいいなとか?

やっぱtricotとか好芻だとオケをみんなで作って、あとで歌の部分を乗せることが多いんですけど、ソロは歌が先だったり同時進行だったりするので。私、メールとかも結構長くなりがちというか、文章打つと長くなるタイプで、Xみたいに制限があれば短文の面白い言葉を考えられるんですけど(笑)、自由に送れるメールとかだとすごい長くなる癖があって。たぶんそれも自分のほんまの部分っていうか、長くなっちゃうのが出てますね。

-なるほど。「DEAD」はミュージシャンのみなさんの背景とかも含む感じのオルタナ且つサイケなアレンジで、しかも熟成された演奏です。もとからこういうアイディアでしたか?

結構もともとのデモに忠実にやってはいただいてるんですけど、私のデモってすごくクオリティが低いので(笑)、幹宗さんに手直ししていただいて、ベーシックを録ったあともいろんな変な音を入れてくれたりしたので、印象はだいぶ変わってるかなと思います。構成とか、途中でテンポが変わったり、最後に転調を繰り返したりするのはもとからだったんですけど。

-「甘口 -DEAD remix-」、「哀願」と少しエレクトロニックな曲が続きますよね。リミックスをしたin the blue shirtさんは全然違うタイプの曲ができて楽しかったとインタビューでおっしゃってましたね。

たしかにおっしゃる通りで、「甘口」はもとのリミックス前の楽曲が特にJ-POPっていう感じの曲と演奏だったので、逆に難しかったかなと思ったりしましたけど、すごいいい感じに2曲仕上げてくださいました。

-中嶋さんの声を楽しむ曲って感じがしました。

うん、たしかに。

-「哀願」はビートが面白いなと。

うん。耳心地がよくて楽しい曲ですね。もう全部有村(崚/in the blue shirt)さんにお任せで。もともとin the blue shirtがすごい好きでよく聴いてて、tricotの『上出来』(2021年リリース)っていうアルバムの「上出来」っていう曲をリミックスしたの(2022年リリースのアルバム『不出来』収録曲「上出来 ~不出来Remix~」)があるんですけど、自分が作った楽曲をリミックスしてもらうとすごい面白いんだなって初めて思って。あんまりトラックメーカーさんの曲を聴いたことがなかったんですけど、一緒に制作しててすごい楽しくて、ソロはもっとがっつり一緒にやりたかったので、お任せして"ぐちゃぐちゃにしてください"みたいな感じでオーダーしました。

-この「哀願」の歌詞の中の"私っていつだって幸せになれるから/あなたの虫の居所に/左右されたりしないんだよ"という3行は中嶋さんの本音っぽいのかなと思って。

あぁ、でもたしかにそうかもしれないですね。ポジなとこが出てしまってます(笑)。

-ほかの曲の主人公も実はこういう人なんだよって考えたら、自分の人生は自分のものっていう感じがすごくして。中嶋さんの作った物語にもとれるし、中嶋さんの本音にもとれるし、愛してる人がいてもそれぞれ生きてる、そういう人生観みたいなのを勝手に感じてしまいます。

そうですね。占いみたいに当たってます(笑)。自分のスタンスというかはそんな感じですね。

-そして新垣さん大活躍の「マンション」、これほんとにいいですよね。ピアノだからこうなるっていう。

うん。最後の部分とかもう"自由に崩してください"っていうふうに、"絶望を感じながら!"みたいな(笑)、そう言ってやってもらったんで、ピアノが後ろですごい鳴ってるんですけど、本当に"新垣隆や!"っていう感じがして嬉しかったですね。

-じゃああれが新垣さんにとっての絶望?

そうですね(笑)。

-そう思って聴くとまたちょっと違う聴き方ができるかもです。佐藤さんもインタビューで言ってましたよね、あのアウトロの部分で変な笑いが出たって。

はい。笑ってしまったって言ってましたね。

-その感じとかもあのメンバーで作ってらっしゃって。

そうですね。あの3人ってすごいいろんな経験されてる方ですけど、あんまり絡んだことがないところがまだあるというか、ガッキー(新垣)さんとの出会いがお互いに刺激になってそうなのがすごく嬉しかったです。

-ある恋愛の擬似体験的でもありますが、中嶋さんとしてはどういうところが大きかったですか?

あぁ、どうですかね。作ったときは"こういう曲が作りたい!"みたいなふうに思ったというよりは、本当にすごく暇だったんです。2015年当時、上京してすぐぐらいですね。すごい暇で、毎日お家で曲作ったりしてて。で、どういう曲が作りたいとか、コンセプトはまったくなく浮かんだものを書いてたので、これを聴いてこう思ってほしいってのもなかったんですけど、今回曲を選ぶときにドロドロしたものを自由にやらせてもらえそうだったんで、あえてそのドロドロ系だけを選んだっていうところもあるかもしれないですね。

-ちなみにこの『DEAD』のリリースのタイミングでライヴも?

ライヴは今のところ決まってはないんですけど、やりたいなぁっていう気持ちはありますね。やっぱり実際にバンド・メンバーが決まって楽曲制作してると、生で演奏したいなっていう気持ちになりました。

-瑣末なことおうかがいするんですけど、ソロだとどんな衣装とかヴィジュアルに?

アーティスト写真を自分でプロデュースっていうか、こういうのが撮りたいなって、それも10年ぐらい前に思いついてたやつを今回やったんですけど(笑)、ほとんど裸のような状態で冷蔵庫を抱えて中から肉が出てる(笑)。

-3段構えぐらいの表現ですね(笑)。

ジェニーハイではきれいな衣装を着せていただいてますし、tricotはカジュアルな動きやすい服で(笑)、好芻は自分のブランドの服を着たりしてるんですけど、ソロはもう何も着てなくて中身全部出てるみたいな気持ちを表現したくてああいう感じにしたので、衣装もあんまり色のないものがいいかなっていう想定はありますね。きれいとかかわいいとか何もイメージのない服(笑)。