Japanese
近石 涼
2021年12月号掲載
Interviewer:吉羽 さおり
今年8月にリリースしたデジタル・シングル「ライブハウスブレイバー」では、シンガー・ソングライター 近石 涼の音楽の原点、発信点となった出来事を、アコースティック・ギターを力強くかき鳴らして歌い、続く「兄弟 Ⅱ」では多彩なアレンジで彼の音楽の広がりや頭の中にある世界を鮮やかに描いてきた。自分にとって未開の音楽の世界に臆せず飛び込んで、自由に、そしてテーマである"思うまま"に描いていった興奮が、ニュー・アルバム『Chameleon』には詰まっている。芳醇なポップスあり、ブラック・ミュージックあり、頭の中をトレースした奇想天外なサウンドから情景的なサウンドまで、全8曲テイストはそれぞれ。力強いメロディ、その美しいメロディを表現する豊かなヴォーカルという強みを真ん中に、近石 涼の新しい魅力と物語をスタートした1枚だ。
-今回のアルバムは東京と神戸を行き来しての制作になったそうですが、どうですか、大変じゃなかったですか。
これまで出したCDは、レコーディングやアートワークのデザイン、入稿から組み立てまですべて自分でやっていたので。そういうところから考えると、いろんな方が作品に携わってくれるのがありがたいというか。自分が作ったものが、しっかりとしたクオリティで完成されていくのはワクワクしましたね。
-前回のインタビュー(※2021年9月にSkream! WEBサイトにて掲載)でアレンジもどんどん広がって新たな面が増えているという話をしていましたが、まさにその通りで。全曲いろんなタッチになっていてタイトルとなった"Chameleon"そのものだなと思いました。アルバムの仕上がりや全体的なイメージとして、近石さん自身どういったものを思い描いていたんでしょうか。
作っているときに、特にこうしようとは思っていなかったんですけど、曲がどんどんできていくなかでこれをどうまとめたらいいかなっていうのは考えながらやってきましたね。ただできたものを詰め込んでいくのでなく内容を絞って、洗練された1枚にしたいなというのはありました。
-今作の2曲目に収録され、11月にデジタル・シングルとしてリリースされた「最低条件」。この曲はその前のシングル「ライブハウスブレイバー」、「兄弟 Ⅱ」、「ハンドクラフトラジオ」とは違ったラヴ・ソングを思わせる内容ですね。ラヴ・ソング自体、近石さんの曲には多いんですか。
少ないというか......この曲もラヴ・ソングなのか? というところもありますね(笑)。恋や愛というのを書いているつもりもなくて、この曲を聴いて家族や大切な親友のことを思ってもらってもいいし、僕の中で何か正解があって作ったとしても、余白をもって作った曲というか。ラヴ・ソングと捉えてもらってもいいし、自由に聴いてもらえたらいいなと思います。
-いろいろな人が思いを重ねられる余白をということでは、より言葉選びや音についても慎重になりますね。
そうですね。ひとつの歌詞でも、人によってそこから想起することは違うと思うので、あまり具体的な歌詞にしてしまうと本当の意味で寄り添えない気がするんです。自分からは寄り添えるかもしれないですけど曲に、曲からは寄り添えないというか。
-聴く人、聴く状況によっていろんな形になりうる曲みたいな。
というのを書いていきたいんですよね。逆に「ライブハウスブレイバー」では、全部を明確に話しているような曲なんですけど。「最低条件」はアルバムとしても、今後の自分の目指す部分としても、ひとつの芯になるような曲かなと思って、2曲目に置いたというのもありました。
-1曲目に「兄弟 II」を置いたのはどういった意図ですか。
「兄弟 II」はアレンジの変幻自在な感じもそうですし、曲のテーマとしても、"イメージをぶち壊してありのままじゃなくて、思うままでいろよ"っていうのがアルバム『Chameleon』での芯が一番打ち出せている曲やと思うので。これは1曲目が相応しいかなというのはありました。
-勢いもある曲ですしね。
そうですね。最初はガツンといきたいっていうのはありました。
-改めて、「最低条件」はどういったきっかけから生まれた曲ですか。
この曲は最後に作った曲だったんです。「最低条件」がない状態でアルバムの収録曲を見たときに、いろんな方向に振り切った曲の中で、真ん中の曲がないなって気がしたんです。そういう真ん中に位置するような曲──情熱的であり切なくもあり、爽やかで、わかりにくすぎず、でもわかりやすすぎず、みたいな曲を作りたいなと思っていて。1年前くらいに録り溜めていたボイスメモのデータから、"僕の在る最低条件で"というフレーズが入っていて、これいいなって思って。そこから1年越しで膨らましていった曲だったんです。
-そのフレーズだけがあったんですね。
どこから思いついたのかわからないんですけどね。多くは望まない、これだけあればいいという歌はよくあると思うんですけど、それをこういう言い回しで歌った曲はあまりないなって思ったので。そのフレーズから引っ張ってきたメロディが、サビにぴったりかなと思って。一番しっくりときた曲でしたね。
-そこからさらに映像が浮かぶような歌詞やメロディ、サウンドになっていきましたね。
僕のデモの段階では、ギターがなしでピアノとベース、ドラムの打ち込みで、今のアレンジよりもシンプルで爽やかな感じのものだったんです。イメージでいうとWEAVERさん──WEAVERさんは、神戸の先輩で高校の7個上の先輩でもあるんですけど。あの爽やかな感じやサウンドって、神戸に住んでいると親和性が高い気がしていて。そこに加えて、"引っかかり"みたいなところを編曲の平畑徹也さんに作っていただいた感じでしたね。アレンジをお願いするうえでは、「兄弟 II」もそうですけど、曲のクオリティを高めると同時に、引っかかりを作ってもらうというのが一番の部分かなと思います。"お、なんやこれ?"みたいなところを作ってもらうというか。
-言葉を聴かせたいポイントで音を抜いていたりとか、転調があったりといういい味も効いています。
コード進行や転調は僕が自分でやっているんですけど、「最低条件」は最近作った曲なので、僕の中で曲を作る理論みたいなもの、こうしたらいいのかなっていうのが少しずつできてきた部分があって。数年前に作った曲とかは感覚的にやっていたところも多かったので、今思うと"これ、どうやって作ったのかな"というのもあります(笑)。今は1曲に対して、これでほんまにいいんか? とか、客観的に聴いたときにどう伝わるのかをもう1回考えて。せっかく作ったものってやっぱり壊したくないんですけど、勇気を持ってそこをいったん全部ボツにして作り直すこともしていますね。捨てる勇気というか。それで良くなっているかわからないですけど、そういう制作にはなっています。
-もっと良くしていこう、もっと何かあるのではという試行錯誤があるんですね。今回、アレンジ面でこだわりを感じるもの、想像力がぐっと広がっていく曲がたくさんありますね。「ノスタルジークラムジー」なども、ちょっと懐かしいフュージョン的な香りやボサノヴァの雰囲気があって、歌詞の内容とリンクもして違う世界に連れていってくれる曲になっているなと思います。これはどういう発想から、このアレンジへに着地させていったんですか。
この曲は昨年のデジタル・シングル「ランナースカイ」や「お守りの唄」を編曲してもらった堀 倉彰さんにアレンジをお願いしているんですけど。アルバムの中で最初に取り掛かって、最後のほうにようやく完成した曲なりましたね。この曲に関しては、僕の頭の中で最初からこういうアレンジのイメージやったんです。なのでデモにもピアノもアコギもエレキ・ギターも、ドラムもベースも打ち込んで、よりアレンジのイメージが伝わるようにと作って。デモ段階から、異色な曲ができていたなって思います。そこにストリングスを入れてもらったりしましたね。
-近石さんはこの曲のサウンドとしてどんなイメージを抱いていたんですか。
懐かしくて......でも、なんて言うのかな、タイムスリップして自分の過去の世界に入っていって、夢の中のようなきれいな音が鳴っているけど、その後ろではディストーションのギターがジャーンって鳴っているような。且つ、ドラムやパーカッションとかはちょっとボサノヴァっぽい感じで──
-カオス状態ですね(笑)。
そういうサウンドが頭の中で鳴っていたんですよね。どこからそれがきたのかって言われたら、どこなのかなって思うんですけど。米津玄師さんは、きれいなメロディの曲とかがたくさんありますけど、その中でも不協和音かなっていう音が入り込んでいたりするものがあるじゃないですか。「vivi」とかも、すごく懐かしくて切ない曲なんですけどそれで終わっていない、どこか狂気みたいなものが感じられるし。そういうところに無意識に影響されているかもしれないですね。
-この突然挟み込まれるボサノヴァっぽい感じも面白いですね。
ボサノヴァは好きで、もともとはこのボサノヴァっぽい感じで最後までいこうかなと思っていたんです。でもそこに、急に倍テンのドラムがドコドコ、ドコドコ入ってきたらどうかなって置いてみたら、これは面白いぞってなってきて(笑)。そこに合わせて、2番は1番の繰り返しじゃなくて早口のメロディにしてみようとか。よく考えると曲の構成も変わっているんですよね。なので、ほんとレコーディングが難しくて、なんでこんな曲を作ってしまったんだろうっていうくらい、しんどかったです(笑)。
-アルバムだからこそどんどん遊びや冒険ができる感じがありますね。
そうですね。実は僕は最初、この曲をシングルで切ろうと思っていたんですけどね(笑)。曲のテーマ的にもラストで"僕の中世界は思うまま"って歌っているのは、「兄弟 II」にある"思うまま"にも通じるし。"投げかける声と同じ数 この世界に僕はいる"っていうのもカメレオンそのものであるし。「兄弟 II」がアルバムの表の顔とするならこの曲が裏テーマみたいな感じで。わりとそういう意味でアルバムのテーマ的には芯になっている曲なんです。
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