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INTERVIEW

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近石 涼

近石 涼

Interviewer:吉羽 さおり

4月にリリースした「自分らしさなんて捨てられれば」から約2ヶ月。近石 涼のニュー・シングル「ラベンダー」は、初夏の爽やかな風をギター・サウンドに宿して、どこかノスタルジックで甘美な切なさを湛えて、あの日の自分やあなたのピュアな想いに背中を押されて、前に進んでいくことを歌う。近石 涼と言えばアコースティック・ギターをかき鳴らし、また疾走感のあるバンド・サウンドでストレートに感情を揺さぶり、エモーショナルな歌で心の内を叫ぶ曲でリスナーの心を掴んできたが、今回は日常の中でふと思い起こす自然さでメロディを口ずさむような、または風が運ぶ香りに蘇る思い出があるような、そんな詩的な瞬間がある。新鮮であり、エヴァーグリーンな1曲となった。

-新作「ラベンダー」は、前回の「自分らしさなんて捨てられれば」から約2ヶ月でのリリースとなりましたが、制作は順調に進んでいたんですか。

実は、最初は別の曲をリリースしようかとなっていたんですけど、5~6月くらいにリリースできる曲を作りたいとなって。季節的にラベンダーが6月くらいの花なので、じゃあ"ラベンダー"という曲を作ろうと思って書き始めたのがスタートで。それがたぶん前回の「自分らしさなんて捨てられれば」のリリース前後だった気がしますね。

-ずいぶん短期間でできた曲だったんですね。

そうですね。サビのメロディや曲の断片的なアイディアみたいなものはもともとあったんですけど、そこからさっと書き上げた印象があります。

-"ラベンダー"をモチーフに書こうとなって、そこから曲のテーマやストーリーはどうやって生まれていったんですか。

まずはラベンダーの花言葉を調べました。いろんな花言葉があるんですけど、"あなたを待っています"とか"清潔"、"期待"とか、爽やかな気持ちや未来への期待を感じらせるものがある一方で、"疑惑"というのもあるんです。そこから、"爽やかな葛藤"みたいなイメージが湧いて。そのイメージから、身の回りの誰かに届けるようなメッセージで書けないかなというのが始まりですね。

-共に過ごしていたところから別々の道に進んだ先で起こる気づきや寂しさ、葛藤、そんな複雑な想いが描かれながらも、とでも爽やかな風がサウンドとして吹いている曲ですね。リリースの季節的なところから言えば、学校を卒業して新たな進路先での今の心境が感じられるような曲でもあって。

そうですね。曲を作っていたときの心情としては「兄弟 II」(2021年9月リリースのデジタル・シングル)という曲に近いかもしれないです。誰かに向けて、という思いがあるというか。

-今回はサウンド的により爽やかに振り切っていますね。

今年の1月にテレキャスターを買ったんですけど、その音色がすごくいいなと思っていたので、このギターを使ったサウンドで作るというのはデモ段階で決めていたんです。アレンジはいつものように平畑(徹也)さんにお願いしたんですけど、当初から全体的なサウンドは変わっていなくて。爽やかさを歯切れのいいギターで出せたかなと。

-北欧サウンド的な雰囲気も感じました。

そんな空気もあるかもしれないですね。

-近石さんはデモ段階で、具体的にどんなアレンジのイメージがあったんですか。

僕のデモがカントリーっぽいフレーズを入れていたので、そのカントリーっぽいギターをもっと入れていこうかという感じだったんですけど、そこは変わっていったかもしれないですね。歪みのギターが入ってくる間奏のパートのあとにくる、"ごめんねまた会うときに/見せたかった物も落としちゃったんだ"というところは、もともと落ちサビやったんです。ほとんどの音を抜いて、ギターでジャラーンってかき鳴らすくらいで歌う予定やったんですけど。そこは大幅に変わりましたね。

-大サビに向かっていくうえでのアクセントであり、曲の中でもより印象的なシーンを生むパートになっていますね。

「兄弟 II」でもサビ頭で1回落ちてから、バーっと音が分厚くなる感じになっているんですけど、そういう発想が僕の頭にはなかった部分だったんですよね。1回、あれ? ってなるんですけど、でもよくよく聴くと曲が広がりを感じるものになっていて。そういうところがアレンジをお願いするときの楽しさですね。そういうふうに変化することで、歌い方も変わりますし。歌詞の意味合いみたいなところも若干変わってくるのが、誰かと一緒に作り上げていく面白いところやなって。全部自分の思い通りに作れるというのはひとりでやるいい部分かもしれないですけど、誰かにお願いすることで思っていたところから外れていく楽しさみたいなものが、最近はいいなと思っていますね。「ラベンダー」に関しては、ちょうどそこの部分が葛藤を表すようなところやったので、それがサウンドともマッチしていて、気に入っている部分のひとつです。

-他者の手や目線が入ることで曲の持つ感情や景色が広がることを、アレンジで体感するんですね。

それはMVでもそうですし、いろんなところで感じさせられますね。

-特にこの"ごめんねまた会うときに/見せたかった物も落としちゃったんだ"というパートは、あの頃に思い描いたところとは違った現状やその苦しさ、切なさを歌う部分ですね。そういう心境は、自分自身や友人たち、同世代の抱える想いが反映されているんですか。

反映されているはずなんですけど、この曲では、以前より僕っぽい主人公を頭の中にイメージしてそれを動かしている感覚に近いというか。実体験だけを書いたものではない気がするんです。絶対的に僕から出たものなので、僕にもとづいているのはあるんですけど、どこかで想定した主人公を動かしていて。

-脚本を書く感じですかね。それは、自分と歌との間にいい距離感が生まれてきているんでしょうか。

そんな感じがします。今まで100パーセント、ノンフィクションみたいな熱量が多かったなかで、ちょっと変化してきているところなのかなと思います。