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INTERVIEW

Japanese

近石 涼

 

近石 涼

Interviewer:吉羽 さおり

聴く人の解釈によって変わっていく曲を書きたい――作ったところから、また新しい姿になっていく感じがいい


−「兄弟 II」や「ライブハウスブレイバー」(2021年8月リリースのデジタル・シングル)、前回の「自分らしさなんて捨てられれば」なども、経験や自身の思いからよりリアリティを抽出したものでした。そういうものを書き続けてきて、見えてきたものがあるんですかね。

これまでも物語っぽい曲もあったと言えばあったんです。でもアルバム『Chameleon』(2021年12月リリース)以降、どういう音楽を突き詰めていくのかを考えて──今、それに向かってもう1段階考えを深めるなかで、徐々に表現できるようになっていってるんですかね。......逆に、離れていってるのかわからないですけど(笑)。

-リアリティのある曲はもちろん感情をダイレクトに揺さぶりますが、今回の曲はとてもライトに響きながらも、いろんなシーンが浮かんだり、記憶や感情面をかき立てたりするものなので強いと思いますよ。

あぁ。この曲は、メロディから作っているんですよね。1コーラス分をメロディと打ち込みで作って、鼻歌で♪ふんふんって歌ったところに歌詞を書いていく作業をしていて。そのやり方が、今まではあまりなかったんです。いつもはメロディと歌詞とが同時にできていくことが多かったので。でも、今回はメロディやサウンドの全体像が見えているところから歌詞を書いたんです。歌詞とかを聴かず、イージー・リスニング的に聴いても一番心地のいい曲やな、爽やかでいいねと思える曲なんです。もちろん歌詞もこだわって書いているんですけどね。でも、冒頭のキャッチーさからサビに流れていく感じとか、サビに入ってずっとベースが同じ音を弾いているんですけど、そのコード感の気持ち良さとか。あのサビのコード感はほんまに卒業の切なさ、切ないけれど未来に向かっていく感じがあって個人的にハマっていて。これは絶対に使いたいとなったんです。ラスサビの繰り返しのところだけ、コードが変わるんですけど。

-そのラスサビでは、さらにコーラスも入ってきてドラマチックですよね。

コーラス・ワーク、コーラスが好きやなっていうのは改めて思いました。大学でアカペラサークルに入っていたというのもありますけど。コーラスが何重かに合わさったところで爽やかさがより出るなとか、解き放たれる感じも出て。ここは、もともとコーラスはなかったんですけど、僕からお願いして入れているんです。曲のところどころ、Bメロとかもオクターブでコーラスがあったりするんですけど。なので作曲的にこの曲は、自分の持っているものを全部出せたかもしれないですね。一番、弾いていて気持ちがいいというか。

-そういうメロディの気持ち良さ、コード感や流れの気持ち良さを優先しているからこそ、そこから引っ張られる歌の世界観であったり、景色や匂いだったりがより物語としても描きやすかったというのはありそうですね。

そうですね。歌詞を書くときにメロディを何度も何度も聴いて、言葉を引っ張り出していく作業になるんですけど。そのメロディが求めている歌詞、言葉の口の開き方とか、そういうところがわかりやすかったんですよね。あとは、今回は書いていくうちにどんどん物語が進んでいくというやり方だったんですけど。最初の"指差した方は違うけど"から書き出して、そこから物語が始まっていくというか──

-その部分で、ここからそれぞれ旅立っていくんだなというシーンですね。

本来なら、物語の全体像を考えてからとか、物語の先にあるものを考えてから言葉を置いていったほうが歌詞は書きやすいし、整合性がとれそうですけど。書きながら、物語が進んでいく感じで。

-自分も一緒になって、物語の中を進んでいくようだったと。

うん、それが面白かったし。思っているよりスラスラと書けた印象なんです。ということはやっぱり、結構自分のことを書いていたんですかね。

-それは何か物語を追いかけながら、出てきた感情だったんじゃないですか。最初から何かの感情がありきでというよりも、歌に引っ張られて、一緒に歩んでいきながら感じていることというか。だからこそ、リスナーも同じような感覚を味わうのではと思います。

これまでもすごくリアルな曲を書いているんですけど、そういうなかでも、誰かが聴いたときに"これは自分の歌やな"って思える歌を書きたいと思っていて。聴く人の解釈によって変わっていくような曲を書きたいんですよね。リリース前に友達に「ラベンダー」を聴かせたんですけど、"ラヴ・ソング、いいですね"って言われたんです。自分では全然ラヴ・ソングのつもりやなかったけど、そういう捉え方もできるんだなって思って。でも、それは僕が望んでいたことやなって感じたんです。今回のMVも男女が出てくるものになっているんですけど。それはそれで解釈のひとつとして提示しているというか、それがいいなと思って。作ったところからまた新しい姿になっていく感じがいいんですよね。音楽は、誰かに聴いてもらって完成やと思っているので。

-そうですね。

その完成形が、いろんな形になっているというのが面白いなって思うし、それが自分の書きたいものに一番近いかもしれないですね。

-先ほど話に出たMVは、甘酸っぱさも多めな映像になっていて、この感じもこれまでの近石さん作品では新しいものです。

まず、学校での撮影が初めてだったので、楽しかったんですね。つい1週間くらい前までみんなおった? みたいな、夏休み中の誰もおらへん学校っぽい感じやったので。それがすごく胸にきましたね。壁に習字とかが貼ってあって。すごく懐かしかった。MVのストーリーとしては、中学生なのか高校生なのか、学生の男女ふたりの物語があって。その男の子が(近石演じる)大人になって、当時を懐かしむように校舎を巡っているというものなんですけど。その学生役の男の子がすごく爽やかな男前で。どう成長したら僕になるんや、この間何があってん!? みたいなところは個人的に面白いポイントなんですけどね(笑)。あとは、今回のジャケットは僕が描いた絵を使っているんですけど、これが一瞬MVにも登場しているので、観てみてほしいです。

-夏のイベントなどライヴも増えていきますが、「ラベンダー」はライヴでも映えそうです。

前回の「自分らしさなんて捨てられれば」が、ライヴで歌うと酸欠になりそうな曲だったんです(笑)。どうしてもライヴだと120パーセントくらいで歌っちゃうので、家とか練習で歌えていても、ライヴになると酸欠になるんですよね。今回の「ラベンダー」も結構、カロリーが高いなっていうのはあるんですよ。冒頭から音域が高いのと、あとはコーラスがすごく多いので。でもコーラスとかも完全にやってライヴで歌いたいなと。ライヴでやるとどうなるのかなっていうのが、今は楽しみであり、不安でありという曲ですね。

-アルバム『Chameleon』のツアーでは弾き語りはもちろん、バンド・セットでもライヴを行いました。バンドで実際に演奏することで、どんどん曲も変わっていったり、新しい発想が生まれてきたりしているなというのはありますか。

そうですね。アルバム『Chameleon』の制作やツアーが終わって書き始めた曲たちがあって、そこから今回の曲があるんですけど。今、ここからもさらにまた変わってきているというか。と言っても、芯的な部分が180°ガラッと変わるわけではないんですけどね。バンド・セットでライヴができることが楽しくて、バンド・サウンドというものを突き詰めようとしていたんですけど。そこから、いったんちょっと離れて。もうちょっとフォーク・ソングっぽいと言ったらいいのかな、そういう曲を作りたいなって今思っているんです。というのは、最近はバンドとの対バンが多かったんですけど。やっぱりシンガー・ソングライターがやるバンド・セットと、バンドがやるバンド・セットって絶対的に何か違うなというのがあって。そこで同じことをするよりは、シンガー・ソングライターとしての僕の良さが出せる曲を作りたいなと思っているんです......また次のインタビューで言ってることが変わるかもしれないですけど(笑)。

-そのくらい今、やりたいと思うことがどんどん出てきているんですね。でもソロのシンガー・ソングライターだからこそ、いろんな音楽性に振れてもいいし、いろんな形であっていい、選択肢の広がりというのはバンドよりも自由度は高いと思うんですよね。

そうですね。いろんな音楽が好きだというのもあるので、いろんな遠回りをしているなと思います(笑)。でも、今までの自分を否定するんじゃなく、全部を踏まえたうえでの確固たる僕みたいなものを追い求めている感じですね。

-そういうことでは、次回の曲も楽しみです。

次も爽やかな曲になりそうな予感はしているんですけど。そのあとくらいに、すごい爆弾のような曲を作りたいと思っているんです。まだリリースできるかもわからないですけどね。今作っているデモが、テンションがまったく違うような曲ばかりなので。それをどう出していくかは、「ラベンダー」の反応次第でもあるんですけど。聴いてくれている方が聴きたい音楽をやっていきたいとも思っているので。そのへんをうまい具体に汲み取りながら自分の中でそれを揉んで、解釈して、新しい曲を作っていけたらいいなと考えています。