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INTERVIEW

Japanese

近石 涼

2021年12月号掲載

近石 涼

Interviewer:吉羽 さおり

知識を知ることはそれに従うだけでなく、ルールや固定観念から出る手段になる


-物語的な「寂しさは夜のせい」はどうですか。他の曲では自分自身を描いたものが多いと思いますが、この曲は女性からの視点で描かれていますね。

大学時代にアカペラ・サークルに入っていて、そのときにオリジナル曲を歌うアカペラのグループを組んでいたんです。そこに女性のヴォーカルがいたので、その子に歌わせようというので作った曲だったんです。後々、自分でも歌えたらいいかなと思って作って。それで女性目線で書いていたんですけど、女性が書いた女性目線の曲じゃないので、どこまでいっても想像なんですよね。逆に言うと、改めてみると、自分の中の女々しさが出ているのかなって思います。

-この曲はピアノで作った感じですか。

もとはギターで作っていますね。ライヴではピアノで弾き語ったりすることもありましたけど。

-大人っぽさがあって、ピアノ曲ならではのひとりぼっち感が出ていたので、ピアノから発想した曲かと思っていました。

コード進行に関しては、テンション・コードとか、ジャズで使われるようなコードをきれいに入れている気がしますね。といっても、作ったときは何もわからないまま入れていたんです。いろんな曲を聴いてコードを覚えて、それをそのまま使ってみるみたいな。それが奇跡的にうまくいった曲ですね。

-今の自分だったら、あまりこういうコードの使い方はしない?

というか、今改めて見ると、コード進行が"ここって、ちゃんとこうしてたんや"っていうのはありますね。知らん間にやっていたことが、いろいろ学んだあとから見てもちゃんと使えてるやん、みたいな(笑)。

-何気なく感覚的にやっていたものが、ちゃんと理論に合っていたという感じですね。学生時代当時はいろんな曲を吸収して、曲にしていこうっていうのがあったんですか。

どうなんでしょうね、作曲のためには聴いてなかった気がします。普通に好きで聴いていて、それをギターで弾いてみて、曲を作るときにそういえばあのコード進行いいなとかはありますね。

-もともと自分が歌うと想定せずに作った曲ということですが、そういう楽曲提供的なものはまた違った楽しさはありますか。

楽曲提供はやってみたいなとは思ってますね。というのも、作るものすべてが、自分が歌えるような曲じゃないというか。こんなの絶対歌わへんなとか、でも浮かんでしまったものは浮かんでしまうので。もったいないなってなっちゃうので。この曲はあの人が歌っていそうだな、あの人が歌ったらいいんちゃうかなっていうのは、たまに思ったりするんです。楽曲提供もまた、面白いかなっていうのはありますね。

-そして「room 501」は、ブラック・ミュージックっぽいアレンジで、コーラスやハーモニーがいいアクセントになった曲で、これもまた新鮮です。

今年6月に自主制作で『ハオルシアの窓』という弾き語りアルバムを作ったときに、自分で打ち込みをしてシークレット・トラックとして収録した曲だったんです。今回アルバムの制作をしていて、これは入れたほうがいいなとなって、リアレンジをしていただいて。僕のデモはもっと淡々としたループ・ミュージックっぽい感じで、ちょっと整った「ノスタルジークラムジー」みたいな感じだったんです(笑)。せっかくアルバムに収録するなら以前のバージョンとは違ったほうが、聴いてくれている人も楽しめるんじゃないかなと思うし、曲の違った側面を楽しむことができるし。

-「兄弟 Ⅱ」のときも学生時代の仲間にコーラス参加してもらっていましたが、今回もそういった感じですか。

これは2、3人での重ね録りじゃなく、全部で22人だったかな? アカペラ・サークルの後輩たちや大阪で出会った人とかに声を掛けてやってもらったんです。もともとこの曲の登場人物はふたりなんですけど、最後に主人公が想像する幻──そこには報われていない叫びがあるという意味合いですね。それがそのまま伝わらなくても、普通に楽しんでもらっていいんですけど。そういう真意はありました。

-その分厚いコーラスとアレンジとの妙味、遊び心がかなり盛り込まれてひと筋縄でいかない仕上がりになりました。

自分で聴いて飽きたらダメだし。この時代やからこそこうしているわけではないんですけど、音楽がストリーミングやサブスク、YouTubeとかでいくらでも聴けてしまう時代で、どこか引っかかりがないと聴いてもらいにくい時代でもあるのかなというのはありますね。飽きない工夫はすごく必要で、例えば「room 501」も最初はラップで入ってるのに普通にBメロからはメロディが出てきて、1番が終わったと思ったら違うメロディにいく、Aメロに戻らない感じになっていて。それは「ノスタルジークラムジー」でもやっているんですけど。1年半前くらいに、"eo Music Try 19/20"というオーディションで、「ライブハウスブレイバー」を歌ったとき、審査員の方に"あの曲良かったよ"って言われたんです。「ライブハウスブレイバー」はどこがサビと考えず作った曲だったんですけど。"あんなふうに、1番でA、B、サビ、2番もA、B、サビと進む枠組みを取っ払ってみたら?"というアドバイスをいただいたんです。そこで、そうかって思って。

-自分の曲のセオリーというのを壊されるような経験もあった。

それってひとつの"知識"なわけじゃないですか、2番で変えてもいいんだっていう知識というか。それを知っていることで、ルールや固定観念から出られるというか。知識ってそこに従うためだけじゃなくて、そこから出るための知識なんやなって。そこは、最低限は学んで、「最低条件」とかはより考えて作ったところはありました。もしかしたら知識を得たことで失っている部分もあるとも思うんですけど。そういうのを捨てながらでも、とりあえず前に進んでいかないと話にならないので。

-全部やってみるというのは大事ですね。方法を変えたりして知識を得ることで好きなものに出会えるかもしれないし、曲作りっていうのはきっとそれを永遠にやっていくことなんだろうなって思いますけど。

そうですね。「room 501」も最初にアレンジが上がってきたときはびっくりしましたけどね。でも、やってみよう精神があって。さらにアレンジャーの方といろいろ意見を、やり取りをしながら、こういう曲になっていった感じでした。アウトロ部分でシャウトもあるんですけど、このシャウトもすごく必要な気がして。こんなきれいにアレンジをしていただいたのに、"シャウト入れていいですか"とは言いづらかったんですけど(笑)。最後の最後で"これ、提案なんですけど1回やってみていいですか"っていう感じで。アルバムのすべての曲を含めた最後のテイクが、この曲のシャウトだったんです。うわー! って叫んで、このアルバムが終わったという。

-そうだったんですね(笑)。

裏話的に言うと、あの叫びは"これ終わったぞ"っていう叫びでもあるというか。レコーディングが終わった! っていう。

-そしてラスト曲が「生まれて死ぬまでの間に」。ピアノとストリングスと歌だけで構成された、叙情的でとても美しい曲ですね。

ライヴでどう表現しようかなっていう感じですけどね(笑)。この曲は、以前ライヴに向かう道中に悲しいニュースを聞いて、いたたまれなくなったときに歌詞を書いて、その日のライヴで即興的に歌ってみるというところから生まれた曲なんです。そういうリアルタイム感は、昔から大切にしていたというか。神戸で"COMING KOBE"というフェスがあるんですけど、そのオーディションのときにオリジナル曲が1曲しかなくて、ライヴ当日までに2曲目を作らないといけなかったんです。それで、当日のリハーサルのときまで歌詞を書いていて。他の演者さんに"何してるの?"って言われて、"今日やる曲書いているんです"って言ったら、"それやめておいたほうがいいよ"って(笑)。

-まぁ、そう言いたくなりますよね(笑)。

僕も先輩の立場やったら絶対そう言うと思うんですけど(笑)。そのときはそれが当たり前やと思っていたので。手帳に歌詞を書いていたんですけど、その手帳を前に置いて"さっき作った曲です"って言って演奏して、それでグランプリをとったんですね。アドバイスしてくれた人も同じオーディションに出ているので、その人たちにとってみたらたまったもんじゃないなって思ったでしょうけど。その粗さみたいなところが、たぶんライヴハウスの人に受け入れてもらったんだと思うんです。今ではできないですけど、若さゆえの強さが当時はあった気がしますね。結構そういうことをよくやっていたんです。友達主催のイベントに出るときに、イベントへの道中で曲を書いてそのままアカペラで歌ったりとか(笑)。なんでそういうことをやるかっていうと、そのときに思ったことって1年前に作った曲では歌えない言葉だったり、気持ちだったりするんですよね。そのとき歌いたいと思ったことは、そのときに書くっていうことをしていて。それはそれで失敗することも多いし、最近はちゃんと作って、ちゃんと練習して、ちゃんと歌う方向にはなってきているんですけど。でも僕の中で、即興性の楽しさがあるのは事実やし、ライヴで毎回違う歌を歌いたいと思っているので。この曲はそうした意味合い的にも、『Chameleon』に入れたかったというのはありますね。

-「生まれて死ぬまでの間に」ができた瞬間というのも、それくらい強いものがあった。

そうですね。込み上げるものがあって、曲を書くっていう。今でこそ曲を書かないといけないと思って、曲を書くことが増えてきましたけど。本来は逆のはずで。何かを伝えたいという思いがあってから曲が浮かぶもので。そういうのって狙ってできるものではないし。でもこみ上げたものがあるからと言って、それが全部曲になるかと言ったら、曲にしたくないときもあるし、曲にするのはしんどいときもあるし。というところで、この曲は生まれて良かったな、完成できて良かったなというのはありました。

-どんなアレンジでこの曲を聴かせるか、いろいろ試した感じですか。

バンド・サウンドを入れるかとか、ピアノだけでいくか、なんやったらストリングスだけでいくかとかもあったんですけど。弾き語りアルバム『ハオルシアの窓』に弾き語りで収録しているので、やっぱりピアノはあったほうがいいというので、ピアノとストリングスとという形になりました。シンプルなピアノとストリングスだけで、伝えたい思いが雑味なく届くのかな、届いたらいいなっていうので気に入っていますね。

-充実したアルバムが完成しましたね。2022年1月には地元神戸で初のワンマン・ライヴが決定しました。ここでは、バンド・セットや弾き語り、いろんな形でやるステージですか。

ワンマンは、バンドで演奏する曲が多くはなるのかなって思ってます。一方で弾き語りも大切にしているので、弾き語りの曲も数曲やってという感じになると思いますね。もともとYouTubeで活動していたり、アカペラでテレビに出演したりで、全国に薄く広く(笑)、ライヴで聴きたいと言ってくれている人がいるので。神戸でのワンマン以降は、いろんなところでもライヴができたらいいなとは思っています。