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INTERVIEW

Japanese

うみくん × 内田直孝(Rhythmic Toy World)

うみくん × 内田直孝(Rhythmic Toy World)

うみくん
Rhythmic Toy World:内田 直孝(Vo/Gt)
インタビュアー:秦 理絵 Photo by fukumaru

-歌のレコーディングは、どんなふうに進むんですか?

内田:歌録りに関しては、うみくんはプロ中のプロだし歌を録りまくってる人だから、僕らがディレクションをするとかのレベルじゃないですよね。そこは、うみくんが自分の良さは一番わかってるし。僕がこういう想いで作ったんだっていうのも、何回も、何回も話して、それをちゃんとインプットしてくれてたので。

うみくん:歌詞の1行の相談だけで家に来てくれたからね。

-それ、どの部分か聞いてもいいですか?

うみくん:"誰よりも強くあれたのなら/温もりに気付けやしなかった"のところです。最初は"~しないんだ"だった。

内田:そう、"温もりに気付けやしないんだ"。

-印象が違いますね。"気付けやしなかった"のほうが、昔は気づけなかったけど、今は気づけているっていう意味になりますもんね。

内田:そうそう。今のうみくんの立ち位置で歌うべきなのか、もう少し前のうみくんのことを想起しながら歌ったほうがファンの人はぐっとくるのかっていうのを、俺だけでは判断できなかったんですよね。あとね、"温もりに気付けやしないんだ"っていうと、言葉的なニュアンスとして、他者に対して諭しているように聞こえると思うんです。そういう哲学を持ってるうみくんが、ファンに対してそういうもんなんだよ、だから強くなくたっていいんだよって言ってるスタンスになる。でも、"気付けやしなかった"だと、もし自分が強かったら、こんな温もりに気づくことができなかったなって吐露してる感じになるんですよね。だから、どっちのほうで伝えたいか。自分のことを歌いたいのか、他者に対して僕はこうやって生きてるんだって伝えたい場所なのかっていうのを踏まえて、選んでほしいとは言いましたね。

-今話してるのって、本当に歌詞のほんの一部で、たった3文字の違いじゃないですか。でも、"ものをつくる"って、そういうことの積み重ねなんだろうなと思います。

内田:こうやって話してると、たしかに純度が高いクリエイティヴだったんですけど、全部の仕事に対して、それができてるかは、また別の話ではありますけどね。そこはかっこつけて、俺は"こういう感じで仕事をしてますよ"って言いたいのではなくて。今回、こういう仕事ができたのは、いろいろな関係値のおかげでもあるので。

うみくん:そうだね。こういう仕事がしたくても、こっちのボールに対して、向こうにそういうグローブがあるかって言ったら、いつも理想的な条件があるわけでもないし、時には自分の至らなさでうまくいかないこともあるし。今回は100の努力値、いや、120の努力値を積んで、150の結果が出せたっていう感じだったけど。たしかに、それはうっちーの言うとおりだね。いつでもそうありたいけど。

内田:だからこそ、それができた! って思うとやっぱり上がる。"これめっちゃいいわ、いいクリエイトをしてる、飯うまぁ"みたいな(笑)。

-ははは(笑)、それは大事なことです。ちょっと話を戻しますけど、うみくんはヴォーカリストとして、実際にこの曲を歌ってみて感じたことはありましたか?

うみくん:やっぱり簡単ではないので、そんなに気楽に歌える感じではなかったけど。よく作られてるなっていうのは感じましたね。

内田:うみくんは、いつもすごく爽やかに歌うじゃないですか。死にそうに歌う人じゃない。今回もうみくんらしい感じで歌ってくれてるんだけど、普通の男性が"あ、うみくんの新しい歌だ"と思って歌ったら、ムズい! ってなると思います。歌っても歌っても、"まだ坂があるんだ"みたいなね。

-たしかに。あと、今作はCD盤のカップリングにのみ、「此処に咲く花」の弾き語りバージョンが収録されています。ギターは岸さんですね。

うみくん:いいギターだった。

-どうして、この曲を選んだんですか?

うみくん:この曲は、いろいろ活動のブランクがあったなかで、いつもみんなが誕生日に手紙とか、差し入れでプレゼントをくれるのがうれしくて、僕からもみんなに何かあげたいと思って出したオリジナル曲だったんです。だから、「ONE」とは、気持ちの部分では同じだなと思って、きっちゃん(岸)にやってもらいました。

-レコーディングは一緒にやったんですか?

内田:いや、別々ですね。うみくんの歌に、岸君がギターを合わせて。

うみくん:あのヴォーカルは一発録りだったんですよ。だから生感があって。

内田:きっちゃんが、"ギターがすごく録りやすかった"って言ってた。たぶんそれは一発録りだからっていうのもあるのかなって思いますね。感情がやり直されてないから。

うみくん:たしかにね。

内田:商品にするものって編集が入ることで、そのたびに感情がやり直されてるんですよ。それって、みんなどこかで継ぎ目のノイズみたいなものに気づいちゃうというか。"あれ? ちょっと熱が下がってる/上がってる"とかって、わかる人には伝わっちゃう。

うみくん:自ずとグルーヴにも出てくるし。

内田:だからきっちゃんも弾きやすかったんですよね。"自分の隣でうみくんが歌ってて、その伴奏でアコギを弾いてる気持ちで。めっちゃいいの弾けたわ~"って言ってた。

うみくん:言ってそうだね(笑)。

-最後にひとつ、まったく異なるシーンで活動するおふたりだからこそ聞きたいことがあって。最近は、ネット・カルチャーとライヴハウス・シーンの垣根が、少しずつなくなってきてると思うんですね。コロナの影響もあって。

内田:あぁ、それは感じますね。

-とはいえ今回みたいに、ロック・バンドと、YouTuberのコラボはまだまだ珍しい部分もある。そういう観点で見たときに、異なるカルチャーに所属する自分たちがコラボで作品を作り上げたことで、何か感じることはありましたか?

内田:僕は即答で"あります"ですね。結論から言うと、ハッピーなんですよ。コロナ禍になって、もう戻ることを目指しちゃいけないと思うんです。変化していくものに対して、どれだけ柔軟に対応できるか。且つ自分のクオリティを下げずに、発信し続けられるかっていうことが、僕らみたいな人たちは試されてると思うんです。

-はい。

内田:そのときに、さっきも言ってたみたいに、要は、ネット・カルチャーと僕らみたいなロック・シーンの垣根がなくなってきてるっていうのは、きっとみんなが肌で感じてきていることで、本当にそのとおりだと思うんです。こっちからそっちにいく人もいるし、そっちからこっちにアプローチを掛けてくれる人もいて。そういう時期に、今回みたいなトピックスを作れて発信できるのはすごく幸せなんですよね。時代に置いてかれてない。その荒波に俺たちは乗ってるぜ、みたいな。

-こと現場を大切にするロック・バンドって、ネット・カルチャーに対して、そこまで積極的になれなかったりもしますからね。

内田:そうそうそう。本当にそのとおり。穿った感じで見てる人たちも少なからずいて。そこには、その人たちの芯があるんですよね。

うみくん:美学ですよね。

内田:なんだけど、僕らは今までやってないことを柔軟にやりながら、この約12年間ロック・バンドをやってきた。もしかしたら、僕らのことを"芯のないやつらだ"って思ってらっしゃる方もいるかもしれないけど。それでしか得られない感動と興奮があるんです。それに僕らは根底にある芯がブレたことは一度もないと思ってて。ただ、着る服を変えたいというか。今日はこれを着たいとか、好きなものを自由に羽織っていきたいとかっていう部分があるから、その意味では今回、ネット・カルチャーで絶大な人気と信頼を得ているうみくんと一緒にやれたのは、Rhythmic Toy Worldって、本当に面白い縁を持ってるなって。それに尽きますよね。

-それが"ハッピー"という言葉に集約されるわけですね。

内田:そこにワクワクしてもらえれば、僕はうれしいです。

-うみくんはどうですか?

うみくん:えっと......僕はあんまり真面目にYouTubeをやれてないタイプだから、シーンを作ろうとか、偉そうなことは言えないんですけど。もっとスケールの小さいことで言うなら、今回ちゃんと音楽を戦場でやってる人と久しぶりに相まみえることができて、この上ないよろこびでござるっていうことなんですよ。

内田:あははは! 出ちゃうね、侍魂が。

うみくん:久しぶりに侍と会ってね(笑)。今まで僕もいろいろな音楽をやってきたけど、根は本当に引きこもりでオタクなので。"家にいたい"という幸福を第一に選ぼうって、あるときに決めたんです。そこで、できる限り自分のやりたいことをやろうって。その時点で、うっちーが歩んでる音楽の道とは、違う道に行ったと思うんだよね。なんて言うんだろう......うっちーはちゃんと戦場で戦ってて、僕は、その戦いをゲーム上で体感してるというか。でも、久しぶりに戦場で戦ってる人と仕事をすることで、感謝とよろこびと学びがあって。それはシーンとかカルチャーっていうよりも、ひとりの人間、ひとりの男として、"あざっす"っていう。そういうよろこびなんですよ。

-なるほど。

うみくん:僕もうっちーと一緒で、ネットがいいとか、リアルでライヴをやることのほうがいいとかはなくて。それぞれメリットもデメリットもあると思うんです。ただ、自分のライフスタイルから逆算してやってるだけっていうか。夢のない話ですけど。

-いや、それが真実だと思います。自分がやりたい音楽をやるうえで、どこでやるかは関係ないよねっていうことですよね。

うみくん:結局自分の夢を描いたときに、武道館をやりたいとかじゃなくて、どういう毎日を過ごしていたいかっていうのが先に出ちゃうから、僕はすごく一般的な人間なんですよね。僕、人生で起きることにはすべてに意味があると思うんですよ。例えば、ホリエモン(堀江貴文)さんが、日本の寿司職人って弟子に入っても、最初は皿洗いを何百日もさせられて、あんなの意味ないんだよって。最初から学校とかに通って習ったほうが、半年で済むじゃんっていうようなことを言ってて。それも、そうだと思うんです。でも、その苦水を飲んだ人にしかない何かは必ずあると考えてて。今回、そういう自分には経験できなかったエッセンスを、血しぶきで浴びさせていただいたなってのがあるんです。

-血しぶき、ですか(笑)。

内田:どうしでも侍の影があるね。

うみくん:そうなんだよね。そのさ、"バガボンド"とか読んでた? 最後に、畑を作るじゃん。僕、今回そこまでも見えたっていうか。

内田:あー、なるほど。

-やがて自分がどういう活動していきたいかが見えた?

うみくん:うん。僕はライヴもやるときもありますけど、それがすべてじゃない。表に立って、ファンの人によろこんでもらうときもあれば、裏方で自分の好きな仕事もあるんです。それは、うっちーも同じだと思うけど。今回、普段の自分とは違う角度でそれを体験できたのが一番大きかった。何ひとつ嫌なことがなく、楽しいことばっかり、学びばっかり、感謝いっぱい。だから、ありがとうございますでござる、なんです。