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INTERVIEW

Japanese

ザ・モアイズユー

ザ・モアイズユー

Member:本多 真央(Vo/Gt) 以登田 豪(Ba/Cho) オザキ リョウ(Dr)

Interviewer:秦 理絵

ザ・モアイズユーが持てる情熱のすべてを注いだ渾身の1stフル・アルバム『Storage time』を完成させた。昨年4ヶ月連続でリリースした「すれ違い」、「環状線」、「悲しみが消える頃」、「19」を収録した今作は、ファンキーなダンス・ナンバー、ホーンをフィーチャーした華やかなポップ・ソング、ゆるいラップ・ミュージックなど、これまでのギター・ロック然としたバンドの枠を押し広げ、より振り切ったアレンジにも挑戦している。サウンド面に新たなアプローチを大胆に取り入れながら、美しいメロディに乗せて日々の感情を丹念に拾い上げる、というザ・モアイズユーの根幹はまったく揺らいでいない。変わらずに変わる。そんな理想的な進化を遂げた『Storage time』について、メンバー全員に話を訊いた。

-素晴らしいアルバムが完成しましたね。これまでのモアイズユー(ザ・モアイズユー)の文脈を継承しつつ、とても新鮮に感じる曲がたくさん収録されていました。

一同:ありがとうございます!

-今の率直な感想としてはいかがですか?

本多:いやー、やっと作り終えることができたなっていう達成感というか、開放感というか。やっと1枚が完成したなっていう満足感が今は来てますね。

以登田:同じくですね。

オザキ:うん(笑)。

-制作はかなり根詰めて取り組むような状況だったんですか?

以登田:正直、めちゃくちゃ大変でした。フル・アルバムを作るのが初めてっていうところで、普通がどうなのかわからないんですけど。言うたら、4曲は配信シングルでリリースしてたから、その他の9曲を全部まとめて録ったんですよ。大変だったので、終わったときの開放感はすごかったです(笑)。

-何が一番大変でしたか?

以登田:歌詞も、アレンジも、レコーディング中に考えたりしてて......。

-本来、レコーディングの前に歌詞もアレンジも詰め終えて、あとは録るだけにするのが理想だけど、レコーディングの段階でもギリギリまでアレンジを練っていた。

以登田:そうです。とにかく毎日レコーディングっていうので、今までで一番大変でしたね。妥協すれば、ラクになるんですけど。それをしてもうたら終わりだと思うので。納得いくまでとことんやったので、体力的にも、精神的にも消耗していきました。

-行き詰まったときは、どういうふうに乗り越えるんですか?

以登田:もう気合です(笑)。

-あはは、精神論?

以登田:ほんまに。正直、僕がギター録ってるときに、気づいたら誰かが寝てるとかめっちゃありましたから。

本多:疲労困憊ですよね。アレンジとか歌詞って、録ってみると、"もっとこうしたほうがいいんじゃない?"っていう話になって変えたくなっちゃうんですよ。朝から晩までレコーディングをやって、次の日もレコーディングがあるのに、スタジオから宿舎に帰ってきて、さらにそこから"明日はどうする?"って頭を使って。で、寝て起きたら、すぐにレコーディングっていうことが2週間続いてて。寝ても覚めても、曲、曲、曲!

オザキ:はははは!

-宿舎っていうのは? みんなでどこかに合宿したんですか?

本多:それがねぇ......ここで寝泊まりしてました(笑)。

-え、この事務所の会議室で?

本多:毎日ここに帰ってきて3人で仲良く寝るっていう。で、スタジオまで地下鉄で行って録って。帰ってきたら、3人で"どうする?"って話し合って。

-オザキさんはどうですか? レコーディングを振り返ってみて。

オザキ:バンド史上最高記録が出せて良かったなっていう達成感と同時に、それを一発で出せなかった自分の実力不足に気づくというか。自分自身に情けなさを感じたんですよね。逆にそれがバネになって、"次はもっとこれ以上のものを"っていう貪欲さが出てきたような感じもあるので。レコーディングを通して経験できたことは多かったです。

-ちなみに特に大変だったなと思う曲はどれだったんですか?

本多:1曲目の「秒針に振れて」かなぁ。アレンジも歌詞もすごくこだわったから。

-「秒針に振れて」は、どちらかと言うと、これまでのモアイズユーが得意とするミディアム・バラードではあるけど、アコギを入れた音作りに温かみがあって新しいですよね。

本多:たぶん、今までこういうミディアム・バラードを自分たちでも得意としてきたからこそ、より良い曲にしたくて大変だったんですよ。"今までもやってきた曲だな"で終わらへんところにいきたかったというか。そこに到達するには、どうしたらいいか? っていうのを、みんなで考えたんです。最初からこのゴールを目指せてたわけじゃなくて、めっちゃ寄り道しまくって、ようやくこのゴールに辿り着いた感じなんですよね。

以登田:歌詞に関しても、さっき言ったような、レコーディング中でも歌詞が完成してなかったのがこの曲なんです。自分なりに歌詞の表現の仕方を考えたくて。今までやったら思いついた言葉でそのまま書いてたんですけど、この曲では時計っていうひとつのモチーフに添って作っていて。比喩表現も入れてるので時間がかかりました。

-アルバムでは、これまでモアイズユーがやってこなかったような多彩なアプローチにもトライしています。そのあたりが今作のテーマだったんですか?

本多:そうですね。前回のミニ・アルバム(2019年リリースの『想い出にメロディーを』)が、今まで自分たちがやってきたことに対して、それをより良いかたちでまとめるっていうことだったんですけど。それを経て、今回は、今まで自分たちの手が届かなかった部分まで表現していくっていうテーマがあったんです。それが露骨にわかるぐらいの曲を目指して挑んだ感じでした。今まで聴いてきた人たちがびっくりするぐらい振り切りたかったんです。

-露骨なぐらい、というのが今作のポイントかもしれないですね。

本多:もちろん今までのモアイズユーの雰囲気を好きって言ってくれるのは嬉しいんですけどね。僕たち自身の成長している姿を見せることによって、バンドが前に進んでるのを感じてもらえると思うんです。ソングライターとして、いろいろな曲を作れるようになりたいっていう気持ちもあるし。ゆえに、本当に大変だったんですよね。挑戦したことがない曲だからこそ、"こんなところでつまずくんだ"みたいな。新しいコケ方をしたので。

-新しいコケ方、ですか(笑)。

本多:あはは、はい(笑)。例えば「求め合うたび」とかは......。もともと決めてたギターのアレンジがあったんですよ。でも、それをレコーディング当日に全撤廃して、リズムを変えようっていうことになったんです。そのリズムが自分の中にまったくなくて。弾けんすぎて、次の日に持ち越すっていう。

-ここに帰ってきて練習して?

本多:そう。陽が昇って明るくなるまで弾いてました。みんなも"頑張れ"って感じで見守ってくれるから、申し訳ないなっていう気持ちもあって。泣きそうになりましたね。

オザキ:たぶん本多の中でも、できない自分と戦ってたんですよ。なかなか納得できなくて。だいぶ精神的にくらってたんだろうなっていうのは見てて感じました。

本多:あのときは追い詰められすぎて、ちょっと泣いてたんちゃうかなぁ。

一同:あはははは!

-たしかに「求め合うたび」は、ラップを取り入れたメロウなサウンドだから、今までのギター・ロックの手法を使っても通用しなかった、ということですよね。

本多:そうなんですよね。最初、「求め合うたび」はメロディとリズムが同時にパッて浮かんだんです。そういうのも普段だったら、かたちにしないまま終わっちゃうんですけど、今回はあえて挑戦してみたいなっていうのがあって。ここまで明るくて、力が抜けた曲がなかったから、果たして自分以外の人が聴いたときに成立しているか? っていうのを客観的に考えながら作っていったんです。このレコーディングを通して、こういう曲もできるっていう状態にグレードアップできた今のモアイズユーは誇らしいですね。

-いいですね。明るめの曲調と言うと、以登田さんが作詞作曲を手掛けた「いいことばかりじゃないけど、」なんかも似たような陽性のムードを感じました。

以登田:今までのモアイズユーは負の感情が多かったんですよね。「いいことばかりじゃないけど、」は、アルバムやし、もっとライトに作ってみたいなと思ったんです。

-うんざりすることも多いけど、のんびり人生を転がしていこうぜ、みたいな。

以登田:この曲はあんまり深く考えずに作ったっていうのが大きいんです。メロディも迷わず、最初につけたメロディのままいくっていう感じでした。

-「ブルースカイブルー」も新しいですね。爽やかで清涼感があって、どこか80年代ポップスのような懐かしさもあるサマー・ソングだなと思いますが。

本多:あ、嬉しい。僕らはルーツにフォーク・ソングもあるんですけど、ここまでフォークっぽい曲はやったことがなかったんです。いつか、"あの頃の夏"みたいな、あえていなたい楽曲は挑戦してみたいと思ってたんですよね。意外とやってそうでやってなかった曲で。やってみて、モアイズユーに合うなっていう発見になりました。

-オザキさんは、新しいタイプの楽曲が増えてきたことで考えたことはありますか?

オザキ:自分で言うのはなんですけど、うちのバンドは成長してますよね。

-ええ。アルバムを聴くと、プレイヤーとしての実力が底上げされているのがわかります。

オザキ:それって一番大事なことというか。今回のアルバムを制作する段階から、どうすれば、前よりも自分たちが強くなっていけるか、どうすれば、前より良い曲にできるかっていうことに真摯に向きって、そこに責任を持てるっていうところまで、ストイックに考えられるようになったんです。曲を作っていくうちに、どんどん自分の引き出しも増えて、それが楽しいと同時に、できないこともできるようにしなきゃいけないから、自分をイジめ倒してるみたいだけど。それはそれで、なんかすごい音楽やってるなっていう気持ちになるし......最高ですよね! 音楽ってね!

本多:ははは、最後、急に音楽の話になった(笑)。深いな。

-(笑)今回のアルバムでは、今の自分たちの力量だと少し難しいなって感じるところまであえて挑戦することで、ステップアップしていったわけですね。

オザキ:そうです、そうです。

-それって、バンドとしてすごく健全ですよね。

オザキ:うん、今の自分たちはすごくいい状態ですね。このまま続けていけば、もっとステップアップできるだろうなっていうのも感じてるんです。