Japanese
ザ・モアイズユー
Skream! マガジン 2021年10月号掲載
2021.09.05 @下北沢SHELTER
Writer 秦 理絵 Photo by nishinaga “saicho” isao
不器用だが、誠実に。自分たちの音楽がきっと誰かの人生をいい方向に導いていく可能性があることを信じ続ける、そんなザ・モアイズユーの信念が強く伝わるライヴだった。
8月18日にリリースされた初のフル・アルバム『Storage time』のレコ発となる東名阪の対バン・ツアーだ。その2本目となった東京 下北沢SHELTERは、とけた電球を迎えて開催。それぞれに歌心のある良質なポップ・ソングを追求し続ける2バンドだからこそ、言葉では捉えきれないセンチメンタルな感情を音楽に変えて共鳴してゆくような心を揺さぶる一夜になった。
トップバッターはとけた電球だ。会場に牧歌的なSEが流れだし、岩瀬賢明(Vo/Gt)、境 直哉(Key)、髙城有輝(Dr)、よこやまこうだい(Ba)の4人が楽器をスタンバイすると、"忘れられない人はいますか"と、問い掛けるように歌い出すミディアム・バラード「魔法が使えないから」で幕を開けた。続けて、カッティング・ギターと跳ねるベース、ファニーなシンセのフレーズが心踊るポップ・ソング「恋の美学」へ。岩瀬が紡ぐ"歌"の存在感を大切にしながらも、キーボードを擁するバンドの編成を生かし、ピアノやシンセが彩りを添えるドラマチックなアンサンブルには、バンドの幅広いバックボーンが滲む。"会場をいい雰囲気にしてやっていきたいと思います"。そんな岩瀬の意気込みのとおり、自然と身体を揺らしたくなるグルーヴの心地よさは、音源以上にライヴでこそ浮き彫りになる。
中盤、オレンジの光がステージを包み込んだ「覚えてないや」で、不器用な愛を切なく歌い上げたあと、MCでは、岩瀬がザ・モアイズユーとの対バンについて想いを語った。"10年近くバンドをやってるんですけど、呼んで、呼ばれるバンドがいなかった。そういう関係性を構築できるのは素晴らしいと思いません? 先輩ができて嬉しいです"
とけた電球とザ・モアイズユーが共演したのは、2019年にとけた電球が開催したツアー"WAKU WAKU TOUR '19"の名古屋公演が初めてだった。このあと、ザ・モアイズユーのステージでも、本多真央(Vo/Gt)が両バンドについて、"誘い、誘われる"関係性だと表現し、"音楽をやっていたから知り合えた仲間がいて、繋がっていけるのは幸せなことだと思う"とも言っていたが、きっとそれはバンド同士の関係だけではない。音楽を介して出会ったリスナーとのあいだにも、音楽を通して通じ合える想いがある。この日の対バンは、その関係性の幸せに気づかされる瞬間が何度もあった。
ライヴの後半には、ガタンゴトンと揺れる電車のように、淡々と刻むビートが次第にエモーショナルを加速させていく「終電が邪魔をする」から、季節外れのクリスマス・ソング「素敵な靴」へ。キラキラとしたバンド・サウンドに呼応するようにフロアがハンドクラップで満たされると、「どうすんの?」で終演。全8曲というセットリストの最後に、最大のピークを作り上げたとけた電球は、4人がしっかりと向き合いながらステージを締めくくった。
いきなり本多の力強いヴォーカルが口火を切る「19」で、ザ・モアイズユーのステージは始まった。満身創痍でも前を向け、と。10代の頃の衝動をそのままパッケージしたようなロック・ナンバーだ。その間奏で、"あーっ!"と感情を爆発させた本多は、"東京、最後まで楽しんでいこうな!"と、集まったお客さんとの想いを共有していく。極彩色のカラフルな光を浴びながら届けたハッピーな音楽讃歌「MUSIC!!」に続き、疾走感あふれるギター・ロックに乗せて逡巡する想いを吐露する「環状線」へ。『Storage time』の制作を通して自信を得たことが感じられるオザキリョウ(Dr)の軽快なビートに乗せて、以登田 豪(Ba/Cho)は引き出しの多い、表情豊かなベース・ラインで底を支える。
"モアイズユー(ザ・モアイズユー)の魅力を、端から端まで全部届けていけたらと思います"。本多が熱く意気込みを伝えたMCのあとは、「ブルースカイブルー」だった。様々なアプローチで"いい歌"を追求した『Storage time』の中でも屈指のポップ・センスが光るナンバー。本多のヴォーカルに寄り添う以登田のハーモニーが、"あの夏"のノスタルジーを優しく描く。続けて、早口のメロディを畳み掛けた「いいことばかりじゃないけれど、」へ。『Storage time』という作品で、ザ・モアイズユーの世界は大きく拡張されたが、どの曲にも、本多の、朴訥とした、衒いのないヴォーカルの存在が際立つからこそ、そのすべてが確かにザ・モアイズユーの音楽だと感じさせてくれる。
しっとりとギターを鳴らした本多が、気持ちを集中させるようにスッと大きく息を吸い込んでから歌い出したのはバラード・ナンバー「月明かりの夜に」だった。音源の優しげなヴォーカルとは違い、ライヴの本多の歌唱は、募る想いを発散するようにパワフルなものに変わる。その激しさが、楽曲の切なさをいっそう増幅させるような気がした。ハンドクラップに湧いた先ほどまでとは変わり、じっと聴き入る会場。その雰囲気を引き継いだ「花火」も含めて、中盤の楽曲たちは、"センチメンタルロックバンド"を掲げるバンドの真価が存分に発揮された曲たちだった。
"ようやく出せました。やったぜ!"。最後のMCでは、高校2年生のときにバンドを始めて、今ようやく完成できたアルバム『Storage time』に込めた想いについて、本多は、"悲しいことを乗り越えて、前に進むために歌にしようって思ってます"と伝えた。そして、その想いを、後悔のラヴ・ソングとして表現した真骨頂のミディアム・テンポ「秒針に振れて」と、内省的なロック・ナンバーとして結実させた「理想像」へと繋いでいく。ラストは「すれ違い」。ダンサブルなリズム隊のグルーヴに乗せて、豪快にグライドするギター。"東京いこーぜ! こいよ!"と叫ぶ本多。それは、どんなに楽曲の幅が広がっても、ザ・モアイズユーの根底には熱いロック精神があることを伝えるフィナーレだった。
アンコールでは、以登田とオザキもそれぞれに想いを語った。チケットをソールド・アウトできたよろこびに触れた以登田は、"正直、人数とかは関係なくて。満員でもひとりでも、僕らのやることは一緒やから。来てくれるだけで嬉しいです"と感謝を伝えた。続く、オザキは、"今はこんな(コロナ禍のルールで声も出せない)感じですけど、音楽をあきらめたくない。だから一生懸命アルバムを作りました。音楽を好きでいてください"と、マイクを通さず、感情を昂らせながら語った。さらに、本多が"音楽で出会えたから、また音楽で会いに行くために、ザ・モアイズユーは歌い続けます"と言って、「Afterglow」と「何度でも」の2曲で終演。ザ・モアイズユーは決して歩みが速いバンドではないかもしれないが、その足どりは一歩一歩、確実に前へと進み続けている。
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