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LIVE REPORT

Japanese

とけた電球

Skream! マガジン 2021年09月号掲載

2021.07.07 @渋谷CLUB QUATTRO

Writer 蜂須賀 ちなみ Photo by 美澄

"やっとです。やっとワンマン・ライヴができました!"、"ただいまー!"――岩瀬賢明(Vo/Gt)が喜びを解放させると、観客が"おかえり"の代わりに拍手する。7月7日、渋谷CLUB QUATTRO、とけた電球のワンマン・ライヴでの一幕だ。

2020年3月より中止/延期を重ねてようやく実現した、バンドにとって2年4ヶ月ぶり4度目の有観客ワンマンだった。"WE NEED YOU!"という直球のタイトルは、この日に至るまで"今度こそワンマンできるか?"、"いや、できなかった......"を繰り返してきた彼らの叫びであろう。そしてその言葉以上に素直なサウンドが、まるで心を晒すように、集まった人のもとに届けられていくこととなる。

髙城有輝(Dr)の躍動的なフィルインに、よこやまこうだい(Ba)のリズミカルなベース・ライン、ギターのカッティング、境 直哉(Key)が弾くユニークなメロディが重なっていく。そうして始まったのは「DRAMA」。シンコペーションを多用したリズム・ワークが気持ち良く、心の踊る1曲だ。岩瀬が曲終わりに"今日は来てくれてありがとう"から"最後まで一緒に楽しもうぜ、よろしく!"までを一息で言い、伸びやかに羽ばたく「トライアングル」へ繋げる。織姫と彦星以上に会えていなかったからか、バンドも観客もやや固い。しかしバンドのアンサンブルは曲数を重ねるごとにどんどん自由に。ステージに熱視線を送っていた、ゆえに肩に力が入っていた観客も、4人の演奏に誘われる形で少しずつ解れていった。

ライヴを観ている側の体感としては、"歌がめちゃくちゃいい→よく聴くとバンドも面白い"という順に毎秒発見をする感じだ。とけた電球はバンドの編成上、4人の演奏楽器に被りがない。つまり全員がソリストと言える状況。且つ、それぞれが個性的なプレイヤーであるため、ヴォーカルの裏で実はドラムがものすごいフレーズを叩いている「トライアングル」然り、転調とともに曲中何度も色を変える「Welcome」然り、聴きどころがたくさんある。一方、どんなに手数を増やしても、一番前にあるのは歌であるというバランスがどの瞬間でも守られている印象。そんなサウンドから読み取れるのは、"餅は餅屋"の精神で互いに任せ合えるメンバー同士の関係性+演奏者としての矜持であり、髙城&境&よこやまの岩瀬に対する信頼であり、これぞポップスだ! というこのバンドなりの美学だ。

髙城が"楽しんでますかー!"と声を張る、岩瀬が歌詞に合わせてジェスチャーをするなど、慣れないことをやって恥ずかしそうに笑うメンバーの様子が微笑ましい。小休止を挟まず、一連の流れの中で演奏した「どうすんの?」、「ロードムービー」、「覚えてないや」の軽やかさで前半は終了。MCに入ると、岩瀬が、昨年以降人生について考える機会が増えたと話し、最終的に"バンドを続けてライヴを続ける"、そして"みんなの弱い心にちゃんと寄り添えるバンドでいたい"という結論に行き着いたのだと伝えた。

そのあと鳴らされたのは、「心が忘れない」、「いらない」、「日々のかけら」という、前を向けない日があってもいいのだと伝えるバラード。2017年、2015年、2018年に発表された3曲で、どの言葉も今日の状況を想定して書かれたわけではない。しかし"疲れ果てたらまたここで会おうじゃないか/言葉にしなくてもきっと僕ら分かり合えるよ"(「心が忘れない」)といったフレーズは、コロナ禍を経てバンドが見いだしたことを言い当てているよう。熱と呼吸を共有し、4人でひとつのダイナミクスを表現する演奏には、胸に熱く迫るものがあった。

早いものでライヴ終盤。心の中で声を合わせた「恋の美学」に、「終電が邪魔をする」、「ふたりがいい」が続き、クリスマス・ソング「素敵な靴」が温かい手拍子の中で演奏される。ラスト1曲を前に、"みんなとやっと直接顔を合わせて嬉しかったし、マスクで隠れているけど、目元で楽しんでくれてることが伝わってきました。来てくれてありがとう"、"これからも末永く、とけた電球を応援してください。よろしくお願いします"と岩瀬。飾らない言葉でそう伝えたあと、演奏されたのは、"今の僕にとって、とけた電球にとって大切な曲"=「灯」だった。「灯」は、これまで恋と自意識を歌ってきた岩瀬が、愛を歌うというチャレンジをした曲。相手との本質的な繋がりを望む気持ちを描いたバラードを、目の前の人ひとりひとりに届けていく。

鳴らされる音も語られる言葉も、非常に素直なライヴだった。以前初めて取材させてもらったとき、メンバー(特に岩瀬)が私の名刺を怪訝そうな目で見ていたのを覚えているが、おそらく彼らはそう簡単に心を開く質(たち)ではない。それでも音楽の中、ライヴの中だと素直になれるのは、自分たちの音楽を求めて来てくれる人に対する信頼や、そういう人たちにちゃんと寄り添えるバンドで在りたいという覚悟が根にあるからではないだろうか。

そう考えると、器用に見えて実は人間臭いバンドであり、本編終了後、"みなさんの手拍子を合図にアンコールが行われます。その場でゆっくり落ち着いて手拍子してお待ちください"とアナウンスしてしまう斬新さ、遊び心も愛すべきポイントだなぁと思う。この日発表されたように、次のワンマンも決定済み。10月9日を"電球の日"と制定し、バンド初のアコースティック・ワンマンが行われる。


[Setlist]
1. DRAMA
2. トライアングル
3. Welcome
4. 笑い話
5. 強がり
6. どうすんの?
7. ロードムービー
8. 覚えてないや
9. 心が忘れない
10. いらない
11. 日々のかけら
12. 恋の美学
13. 終電が邪魔をする
14. ふたりがいい
15. 素敵な靴
16. 灯
En1. 魔法が使えないから

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