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INTERVIEW

Japanese

フィルフリーク

 

フィルフリーク

Member:広瀬 とうき(Vo/Gt)

Interviewer:蜂須賀 ちなみ

-二面性と言っても、"影があるから光がより輝いて見える"というテンションではありませんよね。例えば、「キャンディー」という疾走感ある曲のあとに、"どんなに素晴らしい1日でも/幸せとは程遠いから"と歌う「道端日和」が収録されているように、前を向いたかと思えばその次の瞬間には後ろを向いていたりする。そういう意味で揺らぎが結構見られるというか。

そうですね。そもそも曲を作っている時点では曲順のことをあまり気にしてなかったのもありますけど、たしかに、狙いとかはないです。

-作品について訊かれて"狙いはない"と答えるアーティストってなかなかいないですよ(笑)。

(笑)僕って、自分の思うカッコ良くないバンドマンなんですよ。例えば、オーディションで優勝したときも、ALPEXのイヤホンとコラボして(※2020年リリースの「ラッキーカラー」はALPEXのワイヤレス・イヤホン"BTN-Z2500"のコラボMV曲)、ドン・キホーテで自分たちの曲が流れていたときも、本当は"俺、俺!"って周りにすごく自慢したかったですし。"それ言ったらダサいよなぁ"、"そういうこと言う先輩がいたらたぶん嫌いになるよなぁ"と思うから言わないだけで、本当はめちゃくちゃ自慢したい。そういうふうにアーティストっぽくない人間だから、他の人の意見や、提案を取り入れることによって、うまくアーティストっぽく見えるようにしてもらえているというか......。

-その"アーティストっぽくない"という自意識が関係しているのか、広瀬さんの書く曲は劣等感が滲み出ている気がします。具体的に言うと、"自分だけが取り残されている/置いていかれている"というシチュエーションのものが多い。

あ~......。僕、バンドを始めた理由がすごく不純なんですよ。"モテたい"とか、"芸能人と結婚したい"とかいう理由でバンドを始めたし、自信がないから音楽を始めた感覚がまずあって。そこからバンドを続けていくうちに、対バンなどを通じて、自分らよりもカッコいいと思える人たちと出会っていくことになるじゃないですか。それに全国リリースをするにも結成から5年もかかったから、同い年のバンドが先に行くのを隣で見ていたり、後輩に追い抜かれたり......そういうことも多くて。だから、"僕ってやっぱり何者でもないんだな"という感覚はずっとありますし、今でも持っています。

-それでも、ステージに立ち続けているのは――

何者でもない自分のままで終わるのがすごく嫌だから......だと思いますね。だから、ここまで来るとバンド続けるのも、曲を書くのも意地ですよ。

-じゃあ「1970」で歌っているように、自分の作品が生前に評価されないまま終わるのは?

いや~、僕は絶対に嫌ですね。僕、"芸能界の闇事情"みたいな話が結構好きなんですよ(笑)。キラキラとしたものに対して漠然と憧れがあるから、闇事情的な、"○○らしい"という噂が実際のところどうなのかを自分の目でどうしても見てみたい。それをやらずに死ねないなという欲が人生における大部分を占めているんですよね。バンドを結成してからずっとオーディションに挑んでいたのもそうで。"オーディションに優勝したらどんな心情になるんだろう?"、"全国の店舗に自分のCDが置かれるようになったらどんな心情になるんだろう?"というのをひとつひとつ知っていく感覚で活動しているんです。

-実際にオーディションでの優勝や、全国リリースを達成してみて、どういう心情になりましたか?

それを希望にして頑張ってきたはずなんですけど......満たされなかったんですよね。知らなかったことを経験するにつれて、むしろ欲がどんどん増している感じはあります。それに、いつまでも満たされない自分でいてほしいなとも思うし。

-というと?

武道館でライヴをやったあとにも、"なんか違うんだよなぁ"というふうに言えていたら、周りから"あいつカッコいい!"って思ってもらえそうじゃないかですか(笑)。だから、"知りたい"、"いつか満たされたい"という気持ちがあるにもかかわらず、最後まで満たされない自分であってほしいなとも思います。

-"自慢したいけど、ダサいって思われたくないからやめておこう"とか、"満たされたいけど、満たされない自分で在ってほしい"とか、自意識が結構ねじれてますよね。もしかしたら『Humanning』というアルバムにある揺らぎは、広瀬さんが抱えているねじれそのものなのかもしれない。

(笑)そうなんですよ。

-今回、Brian the Sunの森 良太(Vo/Gt)さんが、プロデューサー/レコーディング・エンジニアとして携わっていますが、森さんと一緒にやることになったのもわかるかもと感じました。私の中ではブライアン(Brian the Sun)もひねくれバンド枠なので。

森さんと僕らには共通のスタッフがいるんですよ。以前、クアトロ(渋谷CLUB QUATTRO)にBrian the Sunのライヴを観に行って、そこで出会ったんですけど、こんなに仲良くなるとは思っていなかったですね。かなり尖っている人なので、僕とは合わないかなと思っていたんですけど。

-いや、広瀬さんも十分尖ってるんじゃないですか(笑)?

いやいや、先輩にはそういうところをあまり見せないので(笑)。でも、やっぱり森さんは僕の中にある表と裏の部分に気づいてくれたんですよね。Brian the Sunは僕のルーツといっても過言のないバンドなので、今回一緒にやれて嬉しかったです。

-森さんとはスムーズにコミュニケーションをとれましたか?

プロデューサーさんについてもらうのが初めてだったので、そういう意味ではすごく大変でしたね。森さんはバンドに寄り添った意見をくれるんですよ。だけど、あまりにも寄り添いすぎると今回一緒にやる意味がないから、森さんの意見にいかに寄り添わないかを考えながら......。

-まだお互いに気を使っている感じがしますね(笑)。

(笑)でも、僕らと森さん、すごくうまくいったと思います。

-最後に、ツアーへの意気込みを語っていただけますか。

前作(『Reverse Youth』)のツアーもやれていないので、僕らがこの1年間どう過ごしてきたのかをしっかり見せつつ、ずっと好きでいてくれているファンとの答え合わせができたらいいなと思います。今作で知ってくれた新しいファンに対しては、僕らの二面性、『Humanning』というアルバムをしっかり伝えられるライヴにしたいですね。

-わかりました。そろそろ終わりますが、ひとりでのインタビューはどうでしたか?

いや~、逆にどうでした?

前回のインタビュー(※2020年3月号掲載)がかなりにぎやかそうだったので、メンバーと一緒にいるときとは全然違うんだなと思いました。

ひとりだとアーティストっぽいことが言えないんですよね。メンバーがいると、あっちからそういうボールを投げてくるんですけど。

-それもある意味二面性というか。

ははは(笑)、そうかもしれないです。

-このアートワークのごちゃっとした感じも、広瀬さんみたいだなぁと思いました。

今回のアートワークに関しては、僕のほうから細かくオーダーさせてもらったんですよ。遠目から見たらきれいにまとまっているように見えるけど、近くで見たらすごくグロテスクな......人間の本当の部分を描いてほしいというふうに。その結果、デザイナーさんがこういう素晴らしい作品を作ってくれました。僕、日本の音楽で一番美しいのは、ネガティヴな人が書くポップスなんじゃないかって未だに信じているんですよね。ポップな音楽の幅の広さ、受け入れやすさの中に、ネガティヴな人にも届く深さがあったらいいよなぁと思いながら、ずっと音楽をやっていて。人のもっと深いところに僕らの曲が届いたらいいなぁという想いがあります。