Japanese
フィルフリーク
2024年12月号掲載
Member:広瀬 とうき(Vo/Gt)
Interviewer:山口 哲生
フィルフリークが、デジタル・シングル「結婚前夜」をリリースした。2022年にギタリストの小竹 巧が骨折のため療養に入るというアクシデントが襲うなか、バンドは制作とライヴを続け、2023年4月から8月までの4ヶ月間で、なんと13曲ものシングルを配信するという精力的な活動をしてきた。「結婚前夜」も連続リリース時にアコースティック・バージョンを発表していたのだが、今回編曲に山下洋介を迎え、完全版としてついに世に放たれる。ヴォーカル・ギターの広瀬とうきに、「結婚前夜」のことや、昨年の連続リリースのことについて、じっくりと話を訊いた。
-インタビューとしては2022年に発売された『STORY STORE』ぶりとなりますので、それ以降のことからお聞きできればと思っています。まず、2023年4月からの4ヶ月間で13曲を配信されました。バンドの状況としては、ギターの小竹さんが骨折されて療養しているなか、サポートの方を招きながらライヴと制作もされていたわけですが、ここまで大量の楽曲を配信しようと思ったのはなぜだったんですか?
ギターが骨折して、ライヴの本数を思うように増やせなかったんですよ。サポートのスケジュールもあったので。そのときに何かやれることないかなって思ったときに、やっぱりリリースだなと。でも、周りのバンドと同じペースでリリースしてもあんまり意味がないなと思ったので、そのためにまず50曲ぐらい書いて、その中からいい曲をリリースしたいねっていう曲をまとめたら13曲だった、みたいな感じでしたね。
-とはいえ、すごいペースと曲数ですよね。
もう曲しか書いてなかったですね、その時期は(笑)。
-書き始めたのは2022年の年末とか?
そうです。半年間、スタジオにいない日がないぐらいずっとこもってました。
-それだけ延々と曲を出し続けるというのはかなり大変だったと思うんですけど、メンタル的には大丈夫だったんですか?
周りの話によると、いい状態ではなかったらしいです(笑)。僕的には全然普通のつもりだったんですけど。まぁ、先に連続リリースをやることを発表しちゃったんですよ、まだ曲ができてないのに(笑)。そうやって自分を追い込んでいったんですけど、発表しないとたぶんやらないなと思ったんですよね。僕は、発表して待ってくれている人がいる、お客さんとの約束があるというのを肝に銘じたらやるので。それで無理やり自分を追い込んでやりましたね。
-となると、あの時期に発表された全13曲は全てその期間に書いたもので。ストックから引っ張ってきて、とかそういうことではなく。
ストックを1曲も使わないというルールを決めていたんです。とにかくドMなのかもしれないです。追い込まれたいタイプなんですよね。
-ストックを持たないというのは常日頃からそうなんですか?
この期間に書いて、リリースしなかった曲もストックにはしているんですけど、僕はすごく気分屋というか。今書いたほうが絶対いい曲になるって思うんですよね。例えば、5年前に書いた曲を今リリースすることはあるんですけど、直近のストックを直近のリリースに使いたいという気持ちが一切なくて。昔の曲は、昔の自分の考え方がよく分からないので逆に刺激になったりするんですけど、1年前、2年前とかだとそこまで自分のボトムが変わっていないし、その1~2年間の経験を足して書いた曲のほうが絶対いいと思ってしまうので、そのままリリースされずに眠っている曲が今もたくさんありますね。
-連続リリースは「アオカゼ」(2023年4月)からスタートしたわけですが、同作から"3つの青いはなし。"って形で派生させた「キニ知ラズ」(2023年5月)、「恋人を終わらせよう」(2023年6月9日)、「ドラマ終わりに」(2023年6月23日)という楽曲もありました。そういったコンセプトは特に考えずに、とにかくひたすら曲を出し続けて、後から考えるといった感じでしたか?
いや、全部コンセプトから決めました。だから2つの脳を使ってた感じがしますね。まずこんな曲を書こうというコンセプトを何個も決めることと、それと同時に曲を量産するって、その2つの軸でやっていて。その量産したものの中からコンセプトに合ったものをスタッフと一緒に選んでいくという。
-じゃあ「アオカゼ」に関しても、この楽曲からまた物語を派生させようというところから、歌詞もメロディも作っていって。
そうですね。あの曲は、曲以外のことは全て決まっていたんですよ。先に発表もしていて、MVにどういう人が出るかも決まっていたし、撮影スケジュールも決まっていたんです。でも、曲だけができていなくて。その状態が当時はつらかったんですけど、今思うとたまらなくクレイジーだなって(笑)。MVには結構有名なインフルエンサーの方が出ることが決まっていて、スケジュールもそんなに何個もいただけるわけではなかったので、ここでやらないとこの企画が終わるっていう状態で曲を作ったのが、気持ち良かったですね(笑)。
-気持ち良かったって......(笑)。
なんていうか、僕はもう10年近く音楽やらせてもらっているんですけど、音楽人生の半分以上はお客さんに見つけてもらえなかったんですよ。5年間くらいずっとライヴハウスにいる1人、2人に向かって歌っていたので、誰かに求められるのが嬉しくて。それまでは自分の思うタイミングで自由にリリースして、それを大好きと言ってくれる2人が買ってくれるということをずっとしていたので、自分の目に見えない人に届いている感覚がめちゃくちゃ嬉しいというか。だからまぁドMというか(笑)、追い込まれるのが嬉しいんです。
-その気持ちと期待に応えたいという。"3つの青いはなし。"の中で、個人的に「恋人を終わらせよう」がめちゃくちゃ見事だなぁと思って。
そうなんですよ! この曲もっと評価されてほしいんだよなぁ。あの中では「ドラマ終わりに」がサブスクの数字的には一番聴いていただいているんですが、僕的には「恋人を終わらせよう」を作ったときに、この曲だ! って思ったんですけど......なんでですかね(笑)?
-私も聞きたいです。なんでですかね?
はははははは(笑)。
-(笑)いや、ほんとに。最後の1行で鮮やかにひっくり返すところが美しすぎて。
「恋人を終わらせよう」は、僕のやりたいことが全部詰まった曲でもあって。いい意味での裏切りがあるというか。曲の尺が4分あったとしたら、4分の最後の最後に結論が来て、ギター・ソロはエンドロールみたいな、一本の映画を作るような感覚で曲を作るのがすごく好きなんですけど。でも、たぶん今はTikTokとかで部分部分を切り抜いて、その中で完結をしないと難しい時代なんだなと思っていて。僕のやりたいことと、今の世の中の売り方/売れ方がマッチしていないのかなっていうのは、この1年間ですごく思ったことでもあるんです。この曲で日の目を浴びないってことは、時代とマッチしてないんだなって。だったらもう逆に待ってやろうと思いましたね。
-あのエンディングの感覚をたくさんの人に経験してもらいたいですね。
そうですね。ありがとうございます。
-"待ってやろう"という発言がありましたが、「雨天でも結構」(2023年7月リリース)の中には"散々雨が降っても/このまま虹が出るのを/待っていようよ"という歌詞があって。当時はバンドの状況的にも大変で、いわば雨が降っていたわけですけど、そういった雨の中でも駆け出そうではなく、今は耐えて虹が出るのを待とうというのは、当時の広瀬さんの心境を象徴している一節でもあるのかなと思ったんです。
あぁたしかに! そうかもしれないです。自分の状況と照らし合わせて書いていたわけではないですけど、無意識に出てるんだと思いますね。
-「雨天でも結構」を作り出すときにはどんなコンセプトがあったんですか?
僕等のコンセプトというか、僕の生き方や訴えたいこととしてあるのが、あまり綺麗事は言いたくないんです。歌っていることはポップス/ロックなので、未来や、何かを救えるようなものを作りたいとは思っているんですけど、そこのバランスがめちゃくちゃ難しいなと思っていて。リアルを歌いすぎると苦しくなるし痛くもなるんですけど、綺麗事を歌いすぎると胡散臭くなるというか。そこのバランスをすごく考えながらフィルフリークをやっているんですけど、そのフィルフリークってなんだっけ? っていうところと本気で向き合った曲ですね。
-なるほど。
なので、まぁ、雨が降ったときってあんまり家の外に出たくないじゃないですか(笑)。
-そうですね(笑)。シンプルに嫌です。
でもこれはほんと綺麗事じゃなくて、虹が出ていると"うわ、虹だ!"ってみんなちょっと元気になるじゃないですか。それを歌いたかったんですよね。"虹を見ると元気になる"って歌詞にしてしまうとすごくチープになって、みんな言っているようなことだなという感覚になるんですけど。でも、改めて考えて、本当に元気になるよねっていうところを再定義したいなと思って作った曲ですね。
-虹というモチーフ自体はすぐに出てきたんですか?
最初は雨から作り始めたんです。ギターが骨折しているという状況だったのもあって、自分の心的にも今は晴天ではないなって。それに、王道の発想で王道と戦いたいなと思ったんですよね。雨が降ったら虹が出て、その虹に人が喜んで感動することを、違う視点で"いや、そうじゃないよ"って言うんじゃなくて、"感動するよね!"みたいな(笑)。そこに強い意思を持って言おうと思っていたので、雨だったら虹かなっていうすごくシンプルな発想で書きました。
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