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INTERVIEW

Japanese

フィルフリーク

2024年12月号掲載

フィルフリーク

Member:広瀬 とうき(Vo/Gt)

Interviewer:山口 哲生

-王道と向き合うのは勇気のいる行為だとも思うんですけど。

いやぁ、そことずっと戦っている人生な気がするんですよね。ひねくれている自分がいるというか、僕はすごくめんどくさがり屋なんですよ(笑)。例えば、"学校の帰りに買い食いしちゃダメ"みたいなルールがあったとするじゃないですか。そこに対して"なんで買い食いしちゃダメなんだ! ルールを改めろ!"とか、逆に"私は真面目だからルールを守って買い食いはしない"とかって意見があるけど、僕としては、ルールはルールなんだから難しいことを考えないで従おうよと思いつつも、買い食いしたいからバレないように破ろうよっていう感じなんです。でも、僕はそういう人がほとんどだと思っていて。

-うんうん。

何か大きなものやもともと決められていたものに対して、理解もあるし従いもするし、その歴史が作られてきたことに対してのリスペクトもある。でも、自分は自分らしく生きたいしっていう、そこの矛盾っていうんですかね。声が大きい人は"ルールを変えようよ!"って感じになると思うんですけど、別にそういう人ばっかりなわけでもないよなと。人と違うことを言っている人のほうが声は大きく聞こえるんですけど、多数に対しての"分かるよ"っていう救いみたいなものがないなと思ったんですよね、当時の僕は。それで、多数に対しての"分かるよ"って救いを作りたいなと思って、フィルフリークっていうバンドを作ったんです。

-もともとあるものに対して理解はできるけど、違う気もするし、かといってそのことを声を大にして言っているのを見ると、ちょっと引いてしまう、その狭間にいる感覚というか。

そうですね。

-でも、それはそれで大変ですよね。どちらかに行けたら楽なんでしょうけど。

そうなんですよね。表現者としてはどっちかに行かなきゃいけないんだろうなっていう悩みがずっとあって。でも、僕はきっとどっちかには行けないなと。やっぱり人に嫌われたくないし(笑)、友達も多いほうがいいと思うし。だから、表現者として自分は普通だと思っているんですけど、フィルフリークというものが受け入れられたら、自分みたいな層の人たちがもっと生きやすくなるなと思っています。

-発表された13曲は、どの曲も様々なことを考えながら作られていたと思いますが、特に悩んだ曲を挙げるとするとどれになりますか?

特に悩んだのは「アナザーストーリー」(2023年8月リリース)ですかね。この曲に辿り着くまで、これでもうレコーディングできるっていう状態までのものを4曲ぐらい作って、5曲目ぐらいにやっとこれが出てきました。

-どんなコンセプトを立てていたんです?

13作中12作はわりとコンセプトをガチガチに決めてやっていたので、最後の1曲はメンバーに向けて歌を歌おうかなと思いまして。(小竹の)骨折が治って、ちょうどギターが弾けるようになってきた時期でもあったので、よく言うことではあるんですけど、いなくなってから気付くものなんですよね、本当に(笑)。その人の大切さとか、こんなことしてくれていたんだなとか。そこに対して改めて感謝を述べようかなと思って作りました。

-その感謝を伝えるためにも、作ってみては壊すことを繰り返していたと。

最初はすごくネガティヴな曲ができてしまって。"待ち疲れた"みたいな曲だったんですよ(笑)。それはそれでリアルすぎて、あんまりエンターテイメントではないなと思って。そこから悩みに悩んでしまって、違う視点で書いてみたら全く伝わらないものになったり、逆にすごくシンプルにしようとしたらありふれた言葉になってしまって、僕が歌う必要はない曲になってしまったり。それで、最後の最後に"君がいなくても/別に僕は死にやしないけど"というワードが思いついたときに、これを軸に作っていくべきだなって。

-サビの歌詞ですね。

これって、綺麗事なんだけどどこか綺麗事ではなくてリアルなものっていう、フィルフリークがやりたいことの真髄みたいなワードだなと思って。自分にとってどんなに大切で、人生の軸になっていて、この人がいなきゃダメだと思った人がいなくなっても、また他の大切な人や、いろいろな人に支えてもらいながら、たぶん僕等は生きていけるんですよね。でも、その人じゃなきゃダメなんだというのが1つの愛なのかなってことに気付かされた曲です。

-そして、今回リリースされる「結婚前夜」に関してですが、昨年の連続リリースの中でアコースティック・バージョンを発表(2023年6月2日)されていました。そちらを先にリリースされたのはなぜだったんですか?

格好をつけずにリアルをお伝えすると、最初はバンド・バージョンを制作していたんですけど、アレンジを詰めきれなくて(苦笑)。でも、リリースしたい気持ちがどこかにあったので、まずはアコースティック・バージョンでメロディを聴いてもらって、バンド・バージョンは満を持して、自分等が納得いく形で聴いてもらおうっていうことで、今回のリリースです。なので、完成するまでに半年ぐらいかかりましたね。

-どんな部分で納得がいかなかったんですか?

すごく幸せな曲なんですが、マイナー調のコード進行なので、どこか悲しいんだけどすごくハッピーにするっていうのがめちゃくちゃ難しくて。じゃあメロディを変えてもっとハッピーな感じにしようかなと思ったんですけど、家族を増やすとか、この人を大切にしようという気持ちって、ハッピーというよりは、もっと心の中でギュッとなるものだと思ったので、コードもメロディもあまり変えたくなかったんですよね。そこの帳尻合わせというか、歌詞の内容とアレンジをどうくっつけるのかにすごく時間がかかりました。

-曲としてはどういったところから作り始めたんですか?

チームで「恋人を終わらせよう」がめちゃくちゃうまくできたね! ってなって、僕等の中で結婚ブームが来たんですよ(笑)。"結婚ソングを作らせたら広瀬は天才じゃない?"みたいな声が挙がりまして、結婚ソングにトライしてみようかっていう。それと、キーボードのゆっこのお姉ちゃんの結婚式に参加させてもらったときに、会場に100人以上いたんですけど、僕が一番泣いてたんです(笑)。

-はははははは(笑)。

もちろんメンバーのお姉ちゃんだし、ゆっことは高校生の頃からずっと一緒にいるので、家族ではないにしろ、お姉ちゃんの恋愛事情とかも知っていたから、良かったねぇ......! と思って。そのときに結婚ってすごく愛おしいなと思って、結婚ソングを作りたいっていう気持ちもあってこの曲を作りました。

-いいですよね、結婚式。

そこから結婚式がめちゃくちゃ好きになっちゃったんですよね。この前もレーベルの人の結婚式があったので、メンバーみんなで出席したんですけど、僕とゆっこが一番泣いてました(笑)。

-(笑)どんな部分にきちゃいます? 両親への手紙とか、いろいろありますけど。

僕は親御さんの顔ですかね。新婦側のお父さんが、格好をつけて涙を堪えているちょっとこわばった表情だったり、感情に任せて涙を流してるお母さんだったり、それを見ている嬉しそうな他の家族だったり。そういう家族の表情を見るとちょっと無理ですね。泣いちゃう。

-そこで家族のほうを見ちゃうんですね。新郎新婦を見がちなところもあるけれど。

目に入っちゃうんですよね。結婚するまで大切に育てられたんだろうなぁとか。やっぱり家族の思いがすごく詰まっているじゃないですか。それにやられちゃいますね。

-話を戻しまして、「結婚前夜」は編曲に山下洋介さんが参加されていますね。

僕の大好きな作家さんなんですけど、"自分が人生で本当にこの曲が大好き! この曲の音がいい! と思う曲を10曲挙げてくれ"ということになって、実際に挙げてみたら、そのうちの2、3曲が山下さんのアレンジだったんです。僕は山下さんの音が好きなのかもしれないということで、実際にお会いさせてもらって。この曲は僕の力だけではどうしても完成できないので、お手伝いいただけませんか? というふうに伝えて、山下さんと制作していくなかで最高の形になりましたね。

-どんなことを話し合いながら作業を進めていったんですか?

一旦アレンジができていた曲なので、そのデータと一緒にこんなところに納得がいっていなくて、もっとこうしたいと細かい文章で伝えさせてもらったんですけど、山下さんって王道な中でも攻めを絶対に忘れない方なんですよ。なので、どこまで攻めるか? っていうところをみんなで話し合ってましたね。今回の「結婚前夜」も、王道そうに聴こえるんだけど、めちゃくちゃ不思議なリズムをしているとか、そういう部分がたくさんあって。僕等と山下さんが王道とは何かっていうものと戦いつつ、作り上げたアレンジになってます。

-山下さんからあがってきたものを聴いて、特に攻めているなと思ったところというと?

2Aのドラムのスネアの位置ですね。徐々に気持ち悪くなっていくというか(笑)。もっとシンプルでいいんじゃないかっていう感じでもあるんですけど、結婚ソングの2Aでスネアの位置が普通に気持ちいいところに来るのは、王道すぎるからやめない? と。それで山下さんにもいろんなパターンをお願いして、聴き比べて、やっぱりちょっと癖あるほうがいいねっていう。全然普通に聴き流せるんですけど、よーく聴くと、めちゃくちゃ変な位置にあるので、初めてドラマーに投げたときは"うわぁー! 変!"って言ってました(笑)。

-ちなみに、広瀬さんが好きだった山下さんが携わっている楽曲ってなんだったんですか?

nano.RIPEさんの「ラストチャプター」っていう曲があって。天才的なんですよ。バンドなのにバンドじゃないし、バンドじゃないのにバンドなんです。タイアップ系をいっぱいされているんですけど、作品に飲まれてないし、王道なのに王道じゃないみたいなバランスが昔からすごく好きで。nano.RIPEの曲にもストリングスがすごくたくさん入っている曲があって、このアレンジ、誰がやっているんだろうっていうのを調べて山下さんに辿り着いたっていう感じでした。

-「結婚前夜」にもストリングスがかなり入っていますが、それもイメージにあったんですか?

そうですね。僕としては、どれだけ時間がかかっても、この曲を日本の結婚の定番ソングにしたいし、定番になると思って書いていて。やっぱりいろいろな人に愛されて、いろいろな人の結婚や、家族が増えるというところに寄り添った曲にしなければなと思って。それで、最初は2人っきりだったところから家族になって、周りの家族とか友達や会社の人たちが祝っているっていう。それを1曲通して表現したかったんです。なので、音数は少なく始まって、そこに音が加わっていって、最後の最後はもう歌じゃなくてストリングスとかピアノの旋律で泣けるような楽曲にしたいなって思っていたので、ストリングスはマストでした。

-結婚"前夜"なのもあって、アウトロでパイプ・オルガンが出てくるのもいいなと思いました。

なんならアウトロに一番時間をかけたというか、そもそもアウトロのアレンジがずっとうまくいかなくて、まずアコースティック・バージョンをリリースしようということになったんですよ。今回生ストリングスで初めてレコーディングしたんですけど、本当に妥協せずに作った曲ですね。

-歌詞に関してはいかがですか? 筆が進んだのか、それともすごく悩んでしまったのか。

めちゃくちゃ悩みました。最初に上がったのは、すごく王道の結婚ソングという感じで、愛してるって言葉を何回も言うような歌詞だったんですけど、これだとキャッチーすぎるなと。僕の中では、結婚ってあまりキャッチーなものではなく、覚悟を決めて家族を増やすことなので。結婚しなくてもいい時代とも言われてるじゃないですか。それなのに結婚を選ぶっていうことに対して、愛してるだけじゃその気持ちは伝わらないなと思っていたんですけど。でも、愛してるという歌詞をリピートしていたってことは、これは愛してるがその気持ちを表す最大の言葉なんだろうなと思って。であれば、この愛してるを、どうやって他の作家やミュージシャンよりも引き立たせようかとなったときに、愛してるという言葉を変えずに"『愛してる』この言葉は/僕が君に伝える為にあると思うんだ"って言い切ってしまおうと。この1フレーズができたときに見えた感じでしたね。

-なるほど。好きな作家さんだったのもあって、いろいろ勉強になることも多かったですか?

多かったですね。なんていうか、僕としてはブラック・ボックスみたいな感じで見えていて。山下さんがというよりも、いわゆるメジャーで戦っている作家さんって、商業的なんだろうなって変なイメージがあったんですよ。依頼が来たらパッとこなす仕事人みたいなイメージがふわっとあったんですけど、山下さん、めちゃめちゃ音楽好きじゃん! って思いました。レコーディングにも来てくださって、ご飯を食べに行ったときもベースラインがどうこうって話をずっとしていて、すごく音楽が大好きだからこんなに仕事をいただけているし、だからこそ第一線で戦ってるんだなって。僕ももっと音楽好きになろうって思いましたね。そこに一番刺激を受けました。

-本作を掲げた"配信限定Single「結婚前夜」Release Tour 『アオの続きから』"も決定しています。大阪と名古屋はワンコイン公演になっていますが、この"アオの続きから"というタイトルはどんなところからら出てきたんですか?

結婚って青春の終わりなのかなって思ったんですよ。僕の周りにも結婚してる人がちらほらいて、"結婚っていいよ"と言ってる人もいれば、"結婚はなぁ......"と言ってる人もいるし、僕も年齢的に結婚ってなんなんだろうと考える機会がすごく多くて。ただ、自分としては青春の終わりなのかなと思っていたけど、そうではないというか、そうさせたくないなと。結婚して悩んでる人がいたら、この曲を聴いて結婚した当初の気持ちになって、やっぱり大切だなって思ってもらえたりしたらいいなって考えています。あくまでも結婚って恋から始まることが多いと思うので、青春の続きをずっとしてほしいなという思いから、"アオの続きから"って名前にさせてもらいました。

-なるほど。結婚はそこで終わりというわけでは決してなくという。

そうですね。結婚したとしても、"はい! ここからは家族としてこれまでの関係はリセットします!"みたいな感じではないと思うし、ここから始まるというよりは、今まであったものが1つになって続いていくんだなって。それと、僕等バンド的には「アオカゼ」から事務所を移ったりして、いろいろ大変だった時期もありましたけど、もう一度ここから頑張ろうと。その1曲目が「アオカゼ」から始まったことを大事にしながら、その続きからまたやっていこうという思いと、いろいろな意味を合わせてのこのツアー・タイトルですね。

-ライヴのお話で言うと、昨年10月にギターの小竹さんが復帰されて、"フィルフリークLIVE TOUR 『0024』"と題したツアーを回られましたが、久々に4人でやったときの感覚というと?

懐かしかったです。実家に帰ってきた安心感といいますか。例えば、自分の主張でバンドを引っ張るギタリストもいれば、歌を支える気持ちですごく寄り添うギタリストもいて、いろんなタイプの人とやってきたんですけど、やっぱりメンバーなので、これがフィルクリークの音というのを持っているし、やっと揃ったって感じでしたね。落ち着く感じがあったし、やっぱりこれじゃないとダメなんだなって思いました。これは本人にはあんまり伝えたくないので書かないでほしいんですけど(笑)。

-いい話だったのに......(笑)。でも、もしかしたら"なんかメンバー出てるな"ぐらいで、軽く目を通して終わる可能性もありますし。

いやいやいや! こういうの一番読むメンバーなんで! 絶対にこれを読んで1人でニヤニヤしてると思いますよ。でも、僕等は骨折のことをまだ許したわけではないので(笑)。

-(笑)ツアー以降の予定もいろいろと考えられていると思いますが、2025年はどんな活動をしていこうと考えていますか?

曲を書くのがやっぱり好きですし、2024年は2023年に比べたらリリースが少なかったというか、あまりできない1年だったので、やっぱり新曲をどんどん出していきたいですね。そこは僕の中でもすごく大事なことだなと改めて思ったので、来年はたくさんリリースしたいなと思ってます。

RELEASE INFORMATION

フィルフリーク
DIGITAL SINGLE
「結婚前夜」
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[Renegades' Music]
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