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INTERVIEW

Japanese

瀧川ありさ

瀧川ありさ

インタビュアー:吉羽 さおり

今年メジャー・デビュー5周年を迎えた瀧川ありさの新作『prism.』は、等身大でありながらも新しい彼女の側面や思いを形にしたミニ・アルバムとなった。ある瞬間や情景にシャッターを切り、あるいはフィルムを回していくようなストーリー性や視点は、変わらずにあるものではあるけれど、その中によりメッセージ的な、ポジティヴに示唆してくれるような歌や音が明確になって、まっすぐ心を揺らす曲が並ぶ。せわしなく流れる日々や、埋もれた自分の思いを、掘り起こしてくれるような、そんなきらめきがある。20代から30代へと向かう彼女自身や、そうした何かの狭間で揺れる人に聴いてもらいたい、そんな思いがあるという。

-2018年のミニ・アルバム『東京』のとき(※2018年7月号掲載)以来のインタビューとなりますが、シングル『わがまま』(2019年リリース)も経て、次なる作品に向けてどんなふうに過ごしてきたのでしょうか?

『東京』のコンセプトが、自分の内面をより出していこうというもので。それで、生まれ育った東京をテーマに作っていったものだったんです。じゃあそのあとにくる作品として、どういうアプローチをしていこうかなというのを考えていて。ちょうど自分の年齢が30歳に向かっていくというところで、周りの環境も人間関係や社会的な立場みたいなものが変化していく時期で、友達の仕事や恋愛の話とかいろんな話を聞きながら、なるほどやっぱりこの年代はガラッと変わっていくんだなと思ったんです。いろんな人の悩みを聞いているうちに、次はそういう人たちに向けて何か助けになるような、そして自分にも助けになる音楽を作っていけたらいいんじゃないかと、スタッフとも話して。そこから曲を書き続けていた感じでしたね。それ以前も、いろいろと模索しながら曲を書いていたんですけど、今回のテーマ──同世代の女性たちの助けになるような曲に焦点を当てて、またどんどん曲を書いていってという感じだったんです。

-そのいろんなことを模索していた時期は、どんな心境だったんですか?

今年は特にこの情勢でライヴ活動もできていなかったんですね。ライヴをしていると、目の前のお客さんに向けて書きたいものがどんどん湧いてくるんですけど、ライヴがなくなったときに、いい意味で視野が広がったというか。音楽を始めた原点にかえって"自分がやりたいことは、自分の音楽をまだ知らない人にも向けてどうアプローチしていくか"と、バランスをとっていく、大事な時間だったと思います。

-そうだったんですね。そうして完成した今作『prism.』はまさに内容的にもサウンド的にも、新しい瀧川ありささんの側面が見えるミニ・アルバムになりました。テーマが固まってミニ・アルバムにしていくうえで、取っ掛かりとなった曲というのはあるんですか?

1曲目の「メリーゴーランド」ですね。今までここまで女性っぽい恋愛観というか、そういった雰囲気の曲はなかったし、サウンドとしてもこういう感じはなかったので、取っ掛かりとして新しい感じがしたかなと思います。

-恋愛の曲でも、この「メリーゴーランド」は何か踏ん切りのつかないような、宙ぶらりん状態に陥ってる曲ですよね。なぜこういうものを書かれたんだと思いますか?

私、SNSで人間観察をするのが好きなんです(笑)。友達もそんなに多くないので、同世代の人が何を考えているかを、SNSを通じて見るんですよ。恋愛についてはいつの時代もみんな思うことは同じだと思うんですけど、この曲の内容通りはっきりしない、側から見たらもうやめちゃいなよみたいな恋愛を好きでやってるというか──本人はやめたいとか言いながらも、そこに居心地の良さすら感じてしまう人たちが、すごく多いんだなっていうのをSNSで見ていて。Instagramで、自分の恋愛を漫画にしている方々がいるんですけど。フィクションもありながら、浮気されたとか、でも離れられないというストーリーを、自分を主役として漫画で描いてる人たちが多いんです。これは以前お話ししたかとも思うんですけど、私が自分の人生に対して主人公感を持ってないタイプの人間なので。

-そうでしたね。

やっぱりほとんどの女性は自分が主人公という生き方をしているんだなとか、恋愛をしている人ってそうなのかなとかと思うことが多々あって。もちろんそうやって漫画で表現している人は一部なので、それがすべてではないですけど。いろんな人の話を聞いたり、恋愛の曲を聴いたりしている人は、自分が主人公になってどっぷりハマれる曲というのがいいんだろうなって。それは流行りの曲を聴いていても思いますしね。自分も、そういう人たちが没入できる曲を作りたいなと思って、この「メリーゴーランド」を書いたんです。

-そういうことを考えながらも、瀧川さんはここでも主人公としていないんですね(笑)。

曲としてはもちろん主役として歌っているんですけどね(笑)。書いた背景を言うとそういう感じなんです。そういう人たちに向けて描いたという。

-SNSは特に、個人のスペースでもあるから、自分語りの場になっていると思うんですが。瀧川さんはやっぱり自分が主人公であるという視点はずっとないものですかね。

なれないんですよね。自分を主役に考えられないというか。普通の女の子は、愛されている自分さえもちゃんと咀嚼できている感じで。それが、すごいことだなって思うんです。でもそれが普遍性だとしたら、自分にはないものだけど、そういうところを疑似的に持ちながら書いてみたいなって。自分は何をするにしても、相手を主役に考えちゃうというか、自分がサブキャラのような感じになってしまうんですけど。逆にこれがあるからこそ、いろんな視点の人を主役に曲を書きたい気持ちがあると思うんです。いろんな人を主役にして脚本を書く感覚のほうが楽しいんですよね。最初は、"自分が主役"感がないと、シンガー・ソングライターとしては、何かが欠如しているんじゃないかっていうのはあったけど。今は、こっちはこっちで、やれるやり方があるなと思えているというか。

-もどかしい思いを描いた曲ですが、サウンド的にはジャジーでいてBPMが早めで、大人っぽい雰囲気になりましたね。

デビューから5年経て、サウンド面に関しては、自分はリズムが立っている音楽が好きだということを再認識したので、サウンド面もゴリゴリにリズムを出してもらったりしていて。でも、さらっと聴いても気持ちがいいし、よくよく歌詞を見てみたら、うわーっていう感じのもので、そこは昔からなんですけどね。聴いて"重いな"となる感じではなくて、ドライブに向いてるくらいのテンション感なんだけど、内容はっていうバランスは、昔からあると思います。

-そのリズミカルな曲が今回は多くて、それがいろんなパターンで形になっていますね。次の「MAGIC」はシンセや、ストリングスなどが躍動的に絡んだ心地よさで表現されています。

「MAGIC」は、できたのは制作の最初のほうだったんですけど。デモの段階で、"君の言葉は魔法だ"や"MAGIC"というテーマが出てきたので、サウンド面もちょっと魔法っぽくキラキラさせていくような音像にしていますね。このタイトルがあったからこそ、広げられた1曲かなと思います。

-今回アレンジなどを手掛けている渡辺拓也さんとサウンド面や、音の質感なども話しながら詰めていったところですか。

そうですね。今回は5曲共渡辺さんとやらせてもらったので、やりたい音像を、一曲一曲追求していった感じでした。私は、ドライブで音楽を聴きたいことが多いので、この「MAGIC」は、高速とかで聴いて気持ちのいい感じになりたいなという音像感は意識しながら作りました。あとは、「メリーゴーランド」の次にくる曲なので、新世界へじゃないですけど、次の始まりみたいな感じが曲順としてもいいかなというのはありましたね。

-ええ。ただ最後の最後のギター・ソロがなかなか渋いところを突いてきますね(笑)。

はい(笑)。これは最後に私が注文したんです。最初はあの部分はなくてイントロと同じフレーズで終わるような感じだったんですけど、もっと何か欲しいなっていう。ライヴも想像しながら曲を作るので、ライヴでテンションが上がって、最後までギターの人が残ってソロをやってるパターンをやってほしいと(笑)。ライヴでやりそうなものを、音源でやっちゃえばいいじゃんっていうので、あえて、最後にいい違和感を入れてます。私は気に入ってますね。

-そのギターのメロディや、フレーズのアイディアとか提案っていうのは、具体的にあったんですか?

渡辺さんはデビュー前から一緒に曲作りをしてもらっているんですけど、本当すごいなって思うのは、自分と感性が似ていて。多くを語らなくても毎回、"これこれこれ!"っていうものが返ってくるんです。毎回一発で"それです"っていうのを出してきてくれるんですよね。このギター・フレーズにしても、最初に弾いてくれたものがこれで。例えば、曲作りの最初の段階でも、こういうサウンドをやりたいよねって出してくるのが、お互い似たようなところだったりして。それはもう絶大な信頼感があるというか。ひとりでやっていると、そういう感覚的な理解者がいるだけで全然違うので、ありがたいんですよね。

-続く「嫌いだ」はどうでしょう。これはスピード感がある生のセッションの醍醐味がある曲で、しかもヴォーカルにもそのグルーヴが乗ってますね。歌詞もかなりストレートに突きつけるもので、新鮮でした。

これはこの"嫌いだ"というフレーズが最初にあって、書いていった曲です。先ほど話した同世代の恋愛観みたいなテーマの前に、もっと自分の内面の話で。"自分が主人公"感がないという延長でもあると思うんですけど、私は"嫌いだ"っていう感覚が一番自分の中で遠くにあるワードだったんです。嫌いだって言えないし、思わないタイプなんです。

-そうなんですか。

そういうトゲのある言葉を避けて生きているというか。歌詞とかもあまりそういった刺々しい言葉は今まで使いたくなかったし。

-そこはたしかにそうですね。

じゃあ、"嫌いだ"っていうテーマを決めちゃったら、私は何を書くんだろうっていう挑戦でやってみたんです。最近は自己肯定感というのが、悪い言葉で言うと"流行って"いるじゃないですか。"生きているだけで偉い"とか、"自分を肯定していこう"とか。そうだよなと思いつつも、それもそれで不自然だなというか、違和感を覚え始めたんです。きっと日本の今の国民性というか、今世の中に漂っている絶望感に"いや、生きているだけで偉いんだよ"とか、"無理しなくていいんだよ"というのは本当そうだと思うんですけど、それをわざわざ言わなきゃいけないくらい、うちらヤバいのかな? って。じゃあこれを逆手にとって"ありのままでいいよ、そのままでいいんだよ"というところを"嫌だ、嫌いだ"って言っちゃう。本当はこんな自分は嫌なんだよなとか、コンプレックスで直したいと思っている、変わりだいんだよっていうところをあえて書きました。

-居心地の悪さや違和感を無視せず、あらわにする曲で瀧川さんの曲の中でもかなり珍しい曲ですが、ポジティヴさもある。

これも"嫌いだ"というワードがあったからこそ、できた曲ですね。聴いてくれる人も瀧川ありさの曲でこの感じって意外だと思うんです。えっ? ってなってると思うんですけど、自分も、えっ? ってなってます(笑)。でも、本当に良かったなと思って。さっき言ったようなことに違和感を覚えている人も、たぶんそろそろいるんじゃないかなと。1回こっちの角度で言ってもいいんじゃないかって。

-その自己肯定感というものを、瀧川さんはどう捉えていますか?

自己肯定感が、自分を肯定し続けることなんだって考えたときに、本当に自己肯定感がある人は結果的に戦えているというか。自分の嫌なところを、こういうところダメだな、ちゃんとしようって感じでどんどん先に行ってる感じがあるんですよね。自己肯定感がない人はダメだと思ってるけど、"いや、いいんだよ。このままで。ありのままを愛さないと......。"ってその自己肯定感が低いなかにずっといるように思えて。もういっちゃえばいいじゃん、頑張っちゃえばいいじゃんっていう。自己肯定感という言葉がひとり歩きしてる感じの、その本質を突いてみたいなって思っていたんです。