Japanese
カノエラナ
2019年12月号掲載
Interviewer:吉羽 さおり
難解なカノエラナという人物の生態が、垣間見えるアルバムになった
-では再び曲に戻って、「花束の幸福論」。ピュアなラヴ・ソングを思わせながら、聴き進めるほどなんだこの怖い束縛感はというのが急にゾッとする瞬間がありますね。
あれ? っていう(笑)。
-急にふたりの世界があまりに濃くて、怖くなってしまう曲ですね。"「痛ければ痛い程生きてる感じがするなぁ」"とか、"太陽に背を向け愛を語ろう"とか、ふたりだけの世界がある。
伝わっていて良かったです。そこを楽しんでいただければという曲ですね。ただのハッピー・エンディングで終わる曲を作りたくないっていうひねくれ度合いが、すごく出ている曲です。これは歌詞の分析をするという意味では、面白い見解がたくさんできる曲なんじゃないかなと思いますね。普通に聞いたら怖いようなことを、当然のおしゃべり言葉のように言ってるふたりの危なさというか。でも、ふたりにとってはそれが普通だと思っているから、ふたりにとっては──というか、もしかしたらどちらかが強い世界観を持っていて、そこに惹かれちゃった人がどんどん引きずり込まれて、ひとつになっちゃうような意味合いもあるんです。はたから見ると"大丈夫?"というところですけど、ふたりには関係ない。そういう部分ですよね。ちょっと怖いかなって思っちゃう。
-一筋縄でいかないとはこういうことですね。こういう曲だからこそサウンド面では気をつけるところがありそうです。
はい。できるだけ明るい方向に持っていくんですけど、でも爽やかにしすぎてしまうとガチな狂気を帯びちゃうので。ちょっと毒々しい部分がありつつ、声はかわいらしい方向に持っていってますね。でも、かわいいからこそ見える狂気みたいなものもどこかあるので、あべこべな感じがすごく出たなと思います。
-はい、きっとこんな想像をしながらふふって笑っているんだろうなという制作の楽しさや、ものの見方の楽しさが垣間見える曲でもあります。そもそもの曲の発端は?
この曲はもともと「花束と導火線」という曲があって、会場限定のアルバム『ぼっち2』(2018年6月リリース)にアコースティックで収録されている、リードっぽい曲だったんです。その「花束と導火線」のふたりの世界観が結構危険な世界観だったんですけど、それをもうちょっとハッピーに見えさせて、実はそうじゃないみたいな曲を作りたいなと思ったので、世界観は一緒なんですけど、アナザー・ストーリーみたいな意味合いで作った曲ですね。もしこのアルバムを聴いてこの曲が好きだなって思ってくださった方がいらっしゃったら、その会場限定盤『ぼっち2』に入ってる「花束と導火線」という曲を聴いて、こっちのほうにも引っ張れたのかというのも聴いてみてほしいですね。
-そして最後の曲が、「最後の晩餐」。こちらは情景がありありと想像できる曲になりました。
これは誰にでもあるような"慣れてしまう"という部分を、リアリティを持ちつつ描けないかなと思って書いたものですね。歌詞も難しいことや抽象的な感じではないので、歌詞通りに映像が浮かんでくるという意味では、一番ストーリー性に溢れてる曲だなと思います。
-はい、コミックのような感じにも見えるというか。
コマ割りがなんとなくできるような感じですよね。
-且つそのシーンや言葉の余白で心の機微を感じさせる。
世の中に溢れている恋愛の曲って、失恋をしたという曲とか、付き合ってめっちゃ楽しいという曲とか、片思いの曲が一番多いと思うんです。その中間の気持ちって、いつもどうしているんだろうって思うことがあって。恋愛の曲を聴くことはあるんですけど、自分では作るときに恋愛の曲に対して興味関心が薄かったので。いろんな人の恋愛ソングを改めて聴いてみて、"あぁそういう感じなんだ。でも、物事の中間みたいな曲ってないな"と。嫌いじゃないけど、好きでもないみたいな、ちょっと後ろを振り向いて現場を確認しているようなふわふわした浮遊感みたいな曲が、圧倒的に少ないなって思ったので、そこを攻めていこうかなって考えたんです。そこから走り出して掴みにいった曲ですね。
-きっと多くの人が書かないというのは、その微妙な感情を掴むのが難しい曲だからですよね。ハプニングとしては何も起こらないし、不幸でもないけれど、幸せなのかというとそうでもないような気がする時期というか。
何も起こらないことで、この人疲れてるのかなとか、この人は現状に満足してないのかなとか......それでも現状でいたほうが、争いがなくていいのかなと感じているのかなとか。ちょっとそういう自分の面倒臭がりな部分も歌詞に出ているかなと思いますけど(笑)、どっちつかずで、でも、それなりに身を任せればいいかって思っている主人公の何気ない感じ、一面を切り取った曲だなと感じますね。
-はい、いちいちわかる感じがあります(笑)。
大人の方が噛み締めて、"わかるー"ってなってもらえるような曲かなと思います。
-曲を書くということに関しては、やはり悲しみや痛みを帯びていたりするほうがドラマを作りやすいんですかね。
そうなんですよね、次々に出てくるのはハッピーなときよりは悲しいときのほうが多いと思うんですけど、私の場合、私自身がたぶんハッピーとか悲しいとかっていう感情があまり自分でわかっていなくて、常に真ん中にいるんですよね。どちらかに感情が振れたと思っても、他人から見たら全然振れたように見えないとか。めちゃくちゃテンションが上がっていても、他の人から見たらそうじゃないって思われている部分があって、自分では気づいてなかったんですけど、めっちゃ言われるようになったんです。そういうあまり物事に対して興味関心がないとか、感情を揺さぶられないとかいうところを、恋愛面に置き換えてみたらどうなるんだろうっていうことで、「最後の晩餐」は実験的な感じではあったんですけど。うまいこと私みたいな人に刺さればいいかなって思いますね。
-そのテンションの差がないっていうのも、きっと自分をもうひとりの自分が客観的に見ている感じですよね。
常にもうひとりの自分から自分自身のことを見るようにしてるので、歌詞作りでは毎回毎回そういう人がいらっしゃってて(笑)、自分自身に対して確認作業が必要なんですよね。私だったらこれは言わないなとか、でも、他の主人公に成り代わったら言うかもしれないとか、そういうバランスみたいなものを見る人がもうひとり必要みたいな。
-自分のプロデューサーみたいな人がいるわけだ。
実質曲とかを調整してくれるようなプロデューサーさんが私にはいなくて、全部自分自身で考えないといけないというのを以前からやっているので、癖になっているのかもしれないですね。で、その指示がより的確になってきたんじゃないかなと思います。
-『セミ』のときにうかがった話(※2019年8月号掲載)の感じだと、小さい頃から気になったものを観察する感じがあって、そういう観察眼があるからこそ、自分をも第三者的に客観視してしまうところがあるのかもしれない。
そうですね。私がひねくれていないと、こういう感じの曲は出てこなかったんだろうなというのはあります。そういうことではねじれさせてくれたいろんな人に感謝だなと(笑)。でも思春期にそういうねじれ方をするとずっと大人になれないんだなと改めて思いました。ずっとこうやって矛盾と生きていくんだなって。
-大人になろうとする自分すらも、斜め上あたりにいるもうひとりの自分がそうじゃないだろっていう目で見てるような。
"あんたまだ子供でしょ"って思ってる自分もいれば、でも、実際はそうじゃないしっていう自分もいるし常に不安定な状況で、でも、安定してるっていう矛盾ですよね。変な人だなと思います。
-こうして音楽があって、曲というもので何面もの自分を出せる、表現できるというのはいいことですね。
難解な、なんとも言い難いようなカノエラナという人物の生態が、垣間見えるアルバムになったんじゃないかなと感じますね。全部ひっくるめて自己紹介で、でも、このアルバムだけじゃ私をどこまでわかったかというのはわからないので、過去の作品もそうですけど、ライヴに来てもらえるとなんとなくわかりますよっていう、そういう引っ掛けも持たせていけたらと思っています。
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