Japanese
カノエラナ
2019年08月号掲載
Interviewer:吉羽 さおり
-なるほど。今、この曲をリリースするっていう怖さはないですか。
ありました。ここまで強い言葉で言っていいのかなとか。過去に本当にこんなことがあったんだけど、大丈夫なのかなみたいな(笑)。でも、そこを出さんと作品じゃないしなって思って、そこは割り切っていきました。
-これは本当にリアルな体験があったんですね。
そうですね。中学時代、こじれた中学生だったので。部活終わりに近くの神社に行って、アイスをシャクシャク食べながら、虫とか動いているものを見るのが好きだったんです。ずーっと見ていられたんですよね、2時間でも3時間でも。当時も、ここに書かれているようなことを、アイスをぼたぼた垂らしながら見ていて。最初は瀕死のセミにたかっていたアリが、私が垂らしたアイスの方に行ってくれたから、セミについてるアリを払って、土に埋めるっていうことをしていたんです。
-何時間もひとりで過ごすその時間って、どんな時間だったんですか。
うーん、でも当時は別に悩んでいることは特になくって。ただ部活が楽しいとか、人間関係も面倒くささはありますけど楽しいなっていうのはあったので。当時はたぶん、何も思ってなかったと思うんです。ただ観察するのが好きだったというだけで。埋めてあげたりとか、お墓を作ったりしていたのは偽善かもしれないですけどね。今考えると、何がしたかったんだろうなって思います(笑)。でも、今でも公園とかに座って、アリや虫がいたりするとずっと観察しちゃうし。それで自分の創作に繋げていったりするので。
-自分が感情的になってしまったときに、なぜあのときのセミの姿が蘇ったんでしょう。
自分のことを書くとなったとき、今がむしゃらにわーっとなっている感情だけでは何も話がまとまらないなと思って。何かあったかなと考えたときに、そういえば昔、中学時代の思い出と言えば、夏の部活は暑かったなとかイメージが湧いて。急にその神社のことを思い出したんです。そのときにタイムスリップしたような感覚で書きました。
-でも当時はセミに自分は重ねてないですよね。
重ねてないですね。でもなんか、そのときは"あのときのセミ、自分じゃん"って思ったんです。
-もがいてあがいて、いろんなものがまとわりついてくるみたいな。
あのとき私が見つけて埋めていなかったら、そのままアリに全部食べられてしまったのかなとか、セミは食べられてたけど、アリさんたちはそうすることで長生きできたのかなとか。そういうカオスな感情がわーっと出てきて。それがそのまま閉じ込められた感じです。
-書き終わって、こういうことだったんだなというか、荷が下りたような感じもありましたか。
セミだったら"ジジジジジ"って言ってる最後のあがきでもいいですけど、私も歌い続けていればどこかで誰かが見つけてくれるかなとか、その見つけてくれた人を信じればいいよなって、なんかストンと落ちて。あのとき埋めて良かったんだ、見つけて良かったんだって、急に思えるようになったんです。それはライヴで歌うようになってからというのは、あるんですけどね。お客さんの反応を見て、良かったんだって思ったんです。
-でなければ、こうしてリリースまでたどり着かなかったかもしれない?
そうですね。
-本当に大きな歌ですし、本当にいい歌になりましたね。でもこんなふうにアリが群がって、セミを食べていく、このリアルな表現ってなかなか歌詞にしないかも。
そうですよね。それを見たとしても、別の表現にすると思うんです。でもこれを書いた当時の自分は、"例えるとか関係ねぇ、そのまま書けばいいんだろ!"っていう暴走モードだったので(笑)。きれいな言葉に直す暇もないというか。
-カノエさんが音楽を始めてから、今までそういうことってありましたか?
見たことをそのまま書くような感じは、シンガー・ソングライターになってライヴを始めて、いろんな人と出会っていくなかで気づいたことだったんです。別に上手に、丁寧にまとめなくてもいいんだって。むしろ素直な言葉の方が刺さるんだっていうことに気づいたんです。がむしゃらに、何もわからずにやっていた時期も直接的な表現だけはちゃんとしていこうっていうのはずっとありました。「セミ」を作ったときにもそれはどこかであったと思うんです。でも、暴走気味だったので、思いだけで作るみたいなところはありましたね。起承転結はつけなきゃいけないというのはあったんですけど、私の中でこの「セミ」は起承転結の結がなかったし、"これからどうしていこう?"っていう状態でした。誰かが見つけてくれるかもしれないし、"夏休みは終わるけどまた続いていくんだよな"っていうエンディングで、ちょっと明るくはなったけど、最終的にどうなるかは見えてないんですよね。
-投げ掛けたまま終わっていく。そこはカノエさん自身でも答えがないところですかね。
はい、まだわからないところですね。
-これからも歌っていくことで変化しそうな曲ですね。いろんな思いが乗っかっていって。
歌うたびに客席から教えてもらうんです、その日の「セミ」の答えを。日によって違うんだろうなとは思います。
-きっと自分のことを書いているからこそ聴き手も共感できる部分があると思うし、聴いた人にもいろんな答えがありそうですね。
お手紙を貰うんです。内容がこんな直接的ですごくショッキングでしたとか、でも私もこういうことがありましたとか。そう言ってもらえると、あのときの自分はそんなに変じゃなかったのかとか思えたりもしますね(笑)。
-何か思春期の一瞬みたいなものが封じ込められているのかもしれませんね。そしてカップリング曲の「(タイムカプセル)」は、「セミ」を受けて書いた曲だそうですが。これもまた自分を振り返るような瞬間がありますね。
そうですね。「セミ」で書きこぼしたことを書こうかなと思ったんです。そのころちょうど私のライヴを観るために、私の母と妹が久々に東京に遊びに来ていて。夜、3人で懐かしい話とかをしていたんです。ふたりとも11時くらいに寝ちゃったんですけどね(笑)。"えー、そんな早く寝る?"って思いましたけど。でも、いろんな懐かしい話をしたなかで、自分の感覚が鋭敏になって、地元の匂いとか、その懐かしさを感じながらその場で書いたんです。ふたりが寝ている横でコソコソ歌詞を書いて、なんとなくメロディの感じとかを吹き込んでおいて、ふたりが帰ったあとに曲にしようと。だから、ふたりが東京に来てなかったら書けなかった曲でもありますね。"あんた夜、何しよったと? うるさかったね"って言われましたけど(笑)。
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