Japanese
大森靖子
2014年12月号掲載
Interviewer:天野 史彬
-今、大森さんが話してくれたことって、つまりは人の生活とか感情とか......つまりは"命を肯定する"っていうことだと思うんですね。大森さんって、やっぱり一貫して他者のために歌ってるかただなって思うんですよ。自分のための歌じゃなくて、他者のための歌。だから今、本質を背負えるのかなって思います。
うんうんうん......そうですね。でも、歌い始めてから3年ぐらい高円寺の無力無善寺っていうところでライヴをやってたんですけど、そのころは違ったんですよね。ずっと自分がスッキリするためだけに歌ってて。そこを出たときに転換したんですよね。でも、何でかわかんないんですよ。なんでだろう......起きたできごとを考えると、ずっとギターを教えてくれてた人が死んだとか(※2011年2月に急逝したフォークシンガー・加地等のこと)、震災が起きたりとか、映画を作ったりとか、そういうことはあったんですけど。そのころに1回、社会から遠いところに行きたくなったんですよね。震災があったあと、自粛ムードがあったじゃないですか。でも、客5人とか10人だから、自粛したところで関係なくね?っていうのがすごいあって(笑)。そのときに、自分が何を作るべきかとか、本当にしたいこと、社会に対してすべきことを、洗い出して考え直したんです。なんで売れないのかとか、なんでこんなに何をやっても意味ないのか、とか。じゃあ、何をやれば意味があるのか、とか......ものを作ることに関して、自分の気持ちをどう表現するか?ってことばっかりやってたから(笑)。まぁ、今はそこを飛ばしちゃってる人が多いんですけどね。でも私はそればっかりやっちゃってたから。そればっかりやるのもまぁ問題で。売れないんですよ、本当に。売れないし、そういう人は外に出れないし。でも、それが受け入れられたら面白いじゃないですか。だから、震災ですかね。あの時期にすごく考えましたね。ちょうど大学も卒業だったから、生きていかなきゃっていうこともあったし。で、今はもう余生だから。予定になかった時間だから、人のために使ってもいいかなって。
-その"余生"っていうのは、ポジティヴな意味合いなんですよね?
超ポジティヴですね。すんごい切羽詰って生きてきて......死ぬと思ってて。"死にたい"とかじゃないんですよ。このスピードで生きてたら死ぬに違いないっていう思いで小学校ぐらいからずっと生きてきたんです。24、5、6歳ぐらいまでだろうなって思ってきたのが、意外に死なないっていう......まぁ、ほんとは死ぬ予定だったのが狂っちゃっただけだと思うんですよ。でも、生きてる。絶対に、"誰か"なんですよね。誰かの力で与えてもらえたから。まぁ、それは結婚相手かもしれないし、自分のファンの人が、私が歌い続けることを望んでたのかもしれないし。自分自身も、そっちの方が面白そうになっちゃったから。だから今回のジャケットも、佐内(正史)さんっていう写真家の方に撮ってもらってるんですけど、"写真は死の匂いが強すぎるから、あんまり死の匂いのしない写真を撮ってください"って言ったんですよ。写真って、過去を切り取ったものじゃないですか。それに四隅があって限界があってって、どうしても死の匂いがするのは当たり前なんだけど、それをなるべく消してくださいって言って。佐内さんも"いやー、できるかなー"とか言ってたんですけど(笑)。で、ちょうどそのとき、モーニング娘。のニューヨーク公演があるから、ニューヨークで撮ることになって。私も佐内さんも飛行機苦手だし、別に東京のそのへんで撮る方が楽なんですけど、外国っていう何があるかわかんない所に行ってみて、その場でロケハンとかもせずに撮れば、生きてる感じを出せるかもね、みたいな話になって。だから、"生きていく"っていうことに対しての思いはありますね。死の匂いがする表現は嫌です。でも、生きれば生きるほど死の匂いは強くなるわけじゃないですか。なるべくそれを排除したいっていうのがありますね。
-今回のTrack.8の「ロックンロールパラダイス」に"君の毎日は全部 かっこいいって教えてあげたいよ"っていう歌詞がありますけど、結局、大森さんの表現ってこういうことなのかなって思うんですよ。
うん、うん。そうですね。録音のときに"これってロックンロールのパロディみたいな感じでしょ?"って言われたんですけど、これが1番スラーっと本音で書けたんだけどなって思って。結構ショックだったんですよね(笑)。
-そうなんだ。でも、そういった誤解というか......今の大森さんを取り巻く風潮の中で、どこか捻くれた態度や、"炎上"みたいな表面的な過激さを求めていく風潮もあると思うんですよ。それについては自分自身でどう思っているんですか?
最初は別に意図的じゃなかったんですけど、途中からは意図的ですね。あ、でも意図的じゃないやつもありますね(笑)。でも、どうだろう......単純にフェスとかに出るときには、観てる人に言葉を与えるようにしてます。"面白かった"とか"よかった"だけだと口コミでは何も伝わらないから(笑)。それより"大森靖子が炊飯器持ってた!"の方が、浅い世界では広がるんですよ、単純に(笑)。それは3分やればいいので。持ち時間が30分あったら、あとの27分での説得力はその場にいる人はわかってくれるし、でもTwitterとかで書くのは、その3分にあった出来事の方が書きやすいから。だから便利なんですよね。3分犠牲にすれば、それでいいんだって。27分あれば音楽はやれるし。なので、面白いです。
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