Japanese
大森靖子
2013.05.13 @渋谷CLUB QUATTRO
Writer 天野 史彬
とても温かな空間だった。そこには、作品から醸し出されるドロっとした感情、ヒリヒリとした触感、そういったものをすべて包み込むような温かさがあった。3月に1stフル・アルバム『魔法が使えないなら死にたい』をリリースした大森靖子の、渋谷CLUB QUATTROワンマン。この温かさは、“音楽”という、その剥き出しの想いを世界に突き刺すための言語を手に入れた少女に対する観客からの祝福と、それを素直に受け止める大森の柔らかな笑顔から生み出されたものだったと思う。だがもちろん、この日のライヴは安易なシンデレラ・ストーリーの結末などではなく、この先に紡がれていく物語の、その始まりなのだと強く思わせるライヴでもあった。
アルバム『魔法が使えないなら死にたい』は、とにかく衝撃的な傑作だった。世の中、自意識、他者、愛――そういったあらゆるものに押しつぶされそうになりながらも、自分の中にある感情を“なかったこと”になどできないし、したくもない――そんな大森の強い想いが、多彩な音楽性と豊かな詩情で綴られたアルバム。愛することも嫌うことも、傷つくことも傷つけることも、そのすべてを背負い、世界に突き刺していくことを辞さない覚悟が刻まれたアルバム。そしてそこには、大森ならではの知性もあって、それは歌詞の中に散りばめられた時代を反映する固有名詞や、忍ばされたユーモア、そして椎名林檎をオマージュしたジャケットに表れていた。それは言うなれば、時代に対する鋭い嗅覚であり、優れた自己プロデュース能力と言えるだろう。大森の表現には、どこか観る者を翻弄していくようなところがある。この日のライヴでも、会場入り口で配られた、アイドルのライヴで振るようなサイリウム(大森はモーニング娘。の道重さゆみの大ファンであることを公言している)、ぬいぐるみで飾られたステージ、ウイッグをつけ、真っ赤な帽子とドレスに身を包んで登場した大森自身の出で立ちに、それは表れていたように思う。
しかし私は、やはりそうした大森の自らの表象を自在に操ってみせる才能の奥にある、彼女の表現の“温度”に何よりも心を突き刺されている。この日のライヴでそれを確認できたのは、1曲目「新宿」をエレクトロ・ポップに乗せて歌い終えた後、2曲目「KITTY'S BLUES」でギターを持ち、掻き鳴らし始めた瞬間だった。とにかくダイレクトなギター。大森の弾くギターは、重く、激しく、アクロバティックで、そして繊細な音を奏でる。その音は、鋭利な凶器のように胸をえぐってくる時もあるし、泣き笑いのような切なくも美しい表情を見せる時もある。このギターの音は、CMで流れる音楽のようにBGMになる類のものではないだろう。だが私には、この音に宿った熱だけが、今、この時代に信じられるもののように感じられる。大森靖子という人間ひとり分の体温。それが音楽(楽器)と出会い、生み出される熱量。これ以上確かなものが、信じられるものが、どこにあるのだろうか?やはりミュージシャンの本質はその音に宿るのだと、強く思わされる音だ。
満員の会場に対してひとり歌う大森の姿は、強さも弱さも、すべてを内包していて、ただひたすらリアルな存在として、そこにいた。ギターと同じように、大森の歌声も、とても生々しく大森靖子という“個”を表現してみせる。痛みも、悲しみも、怒りも、喜びも、虚無も、私も、君も、過去も、今も、綺麗なものも、汚いものも――すべてがその歌声に包み込まれているような感覚すら覚える、それぐらいリアルな、ひとりの女性の歌声。それは時に、何かに怯えているようにも、何かを威嚇しているようにも感じられるほどに、野生的であり、本能的だ。この声をもって世界と対峙していくには、どれほどの覚悟や勇気が必要なのだろうかと考えると、震える思いがする。打ち込みのバックトラックに乗せて歌われた1曲目の「新宿」以外の楽曲はすべて大森のギター、もしくはピアノの弾き語りで演奏された。「さようなら」に関してはアカペラである。アルバムが音楽的に様々な表情を見せていた分、このライヴでのシンプルな構成が、一層大森の音楽の根っこの部分を露にしているようだった。“音楽は魔法ではない”――そう歌ってみせる彼女は、しかし、きっと誰よりも音楽について考えに考え、そして音楽にすべてを託している。その真摯さと切実さが、直接的に胸に響いてくる。
リリースされている彼女の曲はほぼすべて演奏されていたと思うが、その中で新曲として披露された「over the party」が特に素晴らしかった。これはタイトル的に代表曲のひとつである「パーティードレス」の続編と思える(実際に「パーティードレス」に続いて演奏された)曲だが、まさに、この曲は「パーティードレス」のその後を描き、そして大森の音楽が描く新たな物語の萌芽が顔を出したような曲だった。歌詞が手元にないので詳しくはわからないが、この曲で歌われるのは、歳を重ね、ひとつの季節を終えた女性の物語であり、そしてそれは、人々の生活の歌であり、街の歌であり、何より、時代の歌になる可能性をも秘めているように感じられた。この「over the party」という曲には、大森という個人の表情が生々しく刻み込まれていたこれまでの楽曲とは違い、より色彩豊かになり、普遍性をもともなった物語があったのだ。これまでの私小説的な世界を超えて、この先、大森の歌は、より多くの人々の歌になっていくだろう。その実感を「over the party」を聴いて得られたことが、この日の何よりの収穫だった。
アンコールの1曲目で披露された「PINK」では、涙ながらに歌う大森の姿があった。それはこの日、渋谷QUATTROという空間の中に満ちていた祝福のムードを、彼女がその声援や拍手から感じ取ったからだろう。大森靖子というひとりの人間が、音楽と出会い、世界と渡り合っていく、そのこれまでとこれからに対する祝福のムードが、この日の渋谷QUATTROにはあった。だからこそ、本編で演奏された「コーヒータイム」や「パーティードレス」のようにどこかヒリヒリとした質感を持った去年のEP『PINK』期の楽曲も、「魔法が使えないなら」や「音楽を捨てよ、そして音楽へ」といった、アルバム『魔法が~』に収録された、大森と音楽との関係性を歌った楽曲も、そのすべてが報われていくような、聴き手の中にしっかりと着地していくような、そんな感覚をフロアにいて感じることができたのだ。きっとこの日のライヴは、今までの大森の活動を総括する集大成的なものになったと思うし、言うなれば大森靖子というミュージシャンの第1章の幕引きであり、第2章の幕開けとなるライヴとなっただろう。大ラスで演奏されたのは、大森靖子のミュージシャンとしてのステートメントとも言うべき名曲「秘めごと」だったが、彼女の秘密は、また形を変えながら、この先も歌い鳴らされていくはずだ。そしてそれは、今、大森靖子の音楽を耳にしているものにとって、何にも変えがたい希望である。
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