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INTERVIEW

Japanese

大森靖子

2014年12月号掲載

大森靖子

Interviewer:天野 史彬

-それってかなり抜本的な変化ですよね。

関わる人が増えたのは大きいかもしれないです。責任もあるし、そう思わないとやってられなかったというか(笑)。みんなに想像力を託してもいいかなって思ったんですよね。"大森靖子"が自分だけのものだったのが、いろんな人のプロジェクトになっていってるわけじゃないですか。だから、仕事の上でいろんな人にちょっと"大森靖子"の軸をズラされてもオッケーってなってたのが、作詞の上でも出たのかもしれないです。

-今まで以上に"大森靖子"を客観的に見るようになったんですね。

それもあるし、やっぱり抽象的なことを言うのがすっごい苦手だったから、今までは絶対に意味を狭くするような言葉選びで、なおかつ情報量を多くしてかく乱させる、みたいなことをやってたんですけど、抽象的でも別にいいやっていう投げかたをするようになってるかな、とは思います。

-わかりました。じゃあ、そういった変化があった中で、今回の『洗脳』っていうアルバムはどういうアルバムを作ろうとしたんでしょうか?

『洗脳』は、メジャーだからJ-POPをやりたいっていう超安直な発想ですね。でも、J-POPって売れたら全部J-POPじゃないですか(笑)。決まった音楽性なんてない。そんなジャンル、世界中のどこにあるんだ?っていうジャンルだけど、そのJ-POPの体質とか性質って、自分に当てはめると簡単だったというか。私は弾き語りだから、メロディと歌詞と声とアコギの音だけだったんですよ。その分、アコギの音じゃないものを当てれば、どれを当ててもメロディがあればオッケーっていうところがあって。本当は、メロディと声だけで伝わるのが1番いいと思ってるし、それで伝わると思ってるんです。でも、それだと飽きちゃうし、それじゃあエンターテイメントにならないから言葉がある、ぐらいの感じに思ってて。で、それでも伝わりにくかったり、わかりにくい人に対して音がおまけみたいにたくさん付いてくる、ぐらいの感じに思ってたから、(J-POPは)伝えるためには結構便利だなって思ったんです。別に音はなんでもいいというか(笑)、耳障りじゃない音でややこしくない音ならいいっていう最低限のマナーが自分の中にあるっていうだけで。

-なるほど。実際、このアルバムはTrack.12「デートはやめよう」を除いて弾き語りの楽曲がないのが今までと大きく違うし、ポイントだなと思いました。

やっぱり、新しいものを作ろうとすると、音楽ってどんどんマニアックになっちゃうじゃないですか。自分が見たり聴いたりしていく中でそういうものは得意じゃなかったから、それは除外したいっていうのがあって。だから、4曲目のタイトルの「ノスタルジックJ-pop」がコンセプトというか。J-POPって、存在がもうノスタルジックじゃないですか。何回聴いたか? だから。でも、その何回も聴いたJ-POPの売れてるものってパターンがあるので。そのパターンを分析して、それに則ったりわざと外したりしながら曲を作って楽しんだっていう感じのアルバムですね。......でも、『洗脳』ってそんなに怖いイメージじゃないんですよ。"脳みそをジャブジャブ洗おう"っていう意味の方が自分の中では強くて。ライヴも段々と、自分がゲロ吐いてるとか自分が脳みそを見せてるっていうイメージから、みんなの脳みそを引っ張り出して"こんなんだよ"って見せてるイメージの方が強くなってきて。やっぱり、お客さんの顔の表現力の方が自分の音の表現力より勝ってたりするんですよ。すごい泣いてたり、嫌な顔してたり、退屈そうな表情してたり......すごいなぁと思って(笑)。それって、Twitterで"よかった!"とか呟くのよりも速いし、強いし、そっちの方が感動しちゃうわけじゃないですか。人間力ってこういうことだな、人が生きるってこういうことだなって思って。Twitterみたいな安易なのって、あれはやっぱり表現じゃないから。無料だし。お金を払ってライヴに来るって、それだけ労力を費やすってことだから、"ライヴに来る人たちは表現をしに来てるぞ"ってすごい思ったんですよね。

-うん、うん。

私はアイドルとかロックとか......あとヒップホップとかも(笑)、本当にいろんなところに呼ばれるから、いろんな場所を見たんですけど、単純にアイドルとバンドものに分けるとしたら、バンドだったらバンドの力がほんとに強いですよね。音が大きくて、世界観を持った人がステージを作り上げて、みんながそれを観て感動する。でも、アイドルはお客さんの力が本当に強くて。トラックの音より"オイ! オイ!"っていう声の音が大きい。それってバンドにはないじゃないですか(笑)。やっぱりアンプの音の方が大きい。でもアイドルは応援する気持ち、お客さんの気持ちの方が大きいんですよね。そのバランスの違いが1番面白いなって思ったんです。じゃあ自分のライヴはなんだろう?って考えたときに、そこを均一にしたかったというか。人ひとりが生きてるっていうことのバランスを保てる場所を作りたいと思ったんですね。私が生きてることと、お客さんひとりが生きてることの重みを同じくらいにしたかった。その均一化を図ってるのか自分のライヴだなって思って。みんなで脳みそを見せ合いっこして、同じ音を味わって、スッキリして帰ろうみたいな......自分のライヴはそんな場所だなって思ったんです。そういう空間が今はなさすぎるから。まぁ、別になくてもいいんですけど(笑)。でも、あっても面白いじゃんって。押し付ける気持ちもないんですよ。だって、みんなの方が面白いから。

-大森さんって、ライヴでものすごくお客さんの顔を見ますよね。僕、そのときの大森さんの顔に感動するんですよ。すごく優しい顔をしますよね。

あはははは! ほんとですか?(笑)でも、みんな面白いですよ、やっぱり。"すんげぇ走って来たんだろうな"とか、"今日化粧薄いから、急いだのかな?"とか、可愛いじゃないですか、その人の1日みたいなものがわかるから。だから、好きなんですよね。