Japanese
トゲナシトゲアリ
2025年09月号掲載
Writer 宮﨑 大樹
©東映アニメーション
アニメでは"終着点"とも言える日本武道館を "通過点"と認識する頼もしさとその後への期待
東映アニメーション×agehasprings×ユニバーサルミュージック、これら3社による合同の大型プロジェクトとして発足したメディア・ミックス・プロジェクト"ガールズバンドクライ"。2024年に放映された同プロジェクトのテレビアニメ作品では、高校を中退して熊本から上京した主人公 井芹仁菜が河原木桃香、安和すばる、海老塚 智、ルパと出会いロック・バンド"トゲナシトゲアリ"(以下:トゲトゲ)を結成し、様々な壁にぶつかりながらも、それを乗り越えて成長していく彼女たちの青春が描かれている。アニメのオンエア自体はすでに終了していて、現在はサブスクでの配信やフィジカル作品で視聴できるが、アニメ総集編の前編"劇場版総集編 ガールズバンドクライ 【前編】 青春狂走曲"が10月3日から、後編"劇場版総集編 ガールズバンドクライ 【後編】 なぁ、未来。"が11月14日から全国の映画館で公開されるので、気になる方はぜひ劇場へ足を運んでみてはいかがだろうか。最先端の映像で表現された、極めてエモーショナルなアニメのストーリーや、シーン屈指の難度を誇りつつ聴き手の胸を刺す楽曲を、映画館ならではの映像美と音響で堪能できるはずだ。
さて、そんな同作でトゲトゲの声優を務めたメンバーはこれが声優初挑戦であり、リアルで同名のバンドとして活動している。メンバーは理名(井芹仁菜役/Vo)、夕莉(河原木桃香役/Gt)、美怜(安和すばる役/Dr)、朱李(ルパ役/Ba)、凪都(海老塚 智役/Key)の5名。プロジェクト始動から約2年の間に10枚のシングルと2枚のフル・アルバムをリリースし、主催ライヴでは2024年3月に神奈川 1000 CLUBで[1st ONE-MAN LIVE"薄明の序奏"]を開催後、直近では5thワンマン[5th ONE-MAN LIVE"鳴動の刻"]をパシフィコ横浜 国立大ホールで開催する等、右肩上がりの活動を続けている。
トゲトゲの音楽はというと、agehaspringsの玉井健二が全曲をプロデュースしており、"現状の全ての楽曲は「河原木桃香がトゲトゲを想定して創るであろう楽曲」という視点から着想している"という。アニメの放送年である2024年に桃香が20歳だったと仮定すると、彼女は2004年の生まれということになる。多感な10代の頃には、流行りのど真ん中ではなく、少し背伸びして年上の世代で流行ったボカロ曲を聴いてきたのだろうか、トゲトゲの音楽からは、人が歌えるか歌えないかのギリギリを攻めていたあのときのような、高BPM、且つ高密度の言葉数で歌うボカロカルチャーからの色濃い影響を感じさせる。さらに、桃香がプロのミュージシャンを目指すにあたって、いわゆるリファレンスとして取り入れてきたであろうインディー・ロックや、そのミュージシャンがバックグラウンドとしている音楽の数々、さらに現在進行形でトレンドになっているネット音楽やポップ・ミュージック等、多様なジャンルが河原木桃香というフィルタを通して統合されたものがトゲトゲのサウンドなのだろう。そこに、10代から20代の若人が抱く心の闇や反骨精神、バンドマン生活で生まれた感情の起伏を、叙情的で内省的な言語表現で仕立て上げた歌詞を乗せたことで、トゲトゲ独自のガールズ・ロックへ昇華されているわけだ。
彼女たちの1stアルバム『棘アリ』はTVアニメの放送前にリリースされているのだが、本作はトゲトゲ結成の前日譚のようにも聴こえるし、もっと根源的なメンバーの心象風景を描いているようにも受け取れる。バンドとしての原点でもあるし、この作品を聴くか聴かないかでメンバーへの理解度も変わってくると思われるので、トゲトゲの重要作であることは言うまでもない。また、TVアニメ放送後にリリースされた2ndアルバム『棘ナシ』の収録曲は、劇中のストーリーとリンクしている部分も多いので、できればアニメとセットで楽しんでもらいたい。そうすることで、ストーリーの中で変化していったメンバーの心情をより深く理解し、彼女たちの成長を感じ取ることができるはずだ。
さらに2025年9月24日には、11thシングル『薄采ディスプレイ』がリリースされる。表題曲の「薄采ディスプレイ」は、イントロから展開されるヘヴィなリフ、歪みのエフェクトが掛かった理名の歌い出しと、冒頭からダークな世界観が広がっている楽曲で、これまでとは違うまた新たなトゲトゲの一面を見せてくれている。一方で歌詞については、世の中や大人への不満を表現した、トゲトゲらしい棘のあるものになっており、新しさとトゲトゲらしさが同居した楽曲に仕上がった印象だ。動きのあるベースや、タッピングを駆使したギター・ソロ等、テクニカルな演奏も聴きどころ。カップリングの「蜃気楼ニ問フ」は、疾走感のあるギターやピアノ、手数の多いドラム等トゲトゲの王道を行く一曲だ。とは言っても、意表を突くようなメロディや歌唱法もあり、聴けば聴く程癖になる魅力を持っている。TVアニメ放送後も進化を止めず、それでいて軸は見失わない。そんなトゲトゲのスタンス、意志が表れている一枚と言えるだろう。
なお、シングル収録曲はすでに両曲ともサブスクリプション・サービスで配信中。さらにミュージック・ビデオもYouTubeで公開されているので、気になった方はぜひチェックしてほしい。ちなみに、トゲトゲのシングルにはドラマ・パートが収録されることが恒例になっている。アニメ本編では描かれていないメンバーの日常が垣間見えるので、さらにメンバーへの愛着が持てるだろう。ただし、これらはサブスクでは残念ながら聴くことができないので、アニメ本編よりもゆる~い彼女たちの一面を知りたい方はCDをゲットされたし。
【Official Music Video】トゲナシトゲアリ「薄采ディスプレイ」 - アニメ「ガールズバンドクライ」
【Official Music Video】トゲナシトゲアリ「蜃気楼ニ問フ」 - アニメ「ガールズバンドクライ」
そんな11thシングルのリリース前夜には、トゲトゲにとって非常に重要なライヴが予定されている。[トゲナシトゲアリ LIVE in 日本武道館 "奏檄の叫"]の開催だ。日本武道館という場所は、音楽の聖地という意味だけでも重要なことに違いないが、この場所でライヴができるということは、トゲトゲにとってはさらに価値のあることである。なぜなら、日本武道館はアニメ上のトゲトゲにとってのゴール、目標の1つであるから。キャラクターが目指している日本武道館の地に、リアル・バンドとして先に立つことになったのだ。現実が物語を超越するというのは非常に感慨深いものがある。当然、リアル・バンドのメンバーとしても日本武道館への想いは強いので、いつも以上に気迫のあるパフォーマンスを見せてくれるだろう。アニメのオープニング映像では、「雑踏、僕らの街」を日本武道館を思わせる場所で演奏しているシーンもあるので、当日にセルフオマージュ的な演出があるのかにも注目したいところ。いずれにせよ、この日本武道館ワンマンが、トゲトゲの歴史を語る上で欠かすことができない貴重なライヴになることは間違いない。
TVアニメ『ガールズバンドクライ』ノンクレジットオープニング|トゲナシトゲアリ「雑踏、僕らの街」
アニメのストーリー上では、ある意味で"終着点"とも言えそうな日本武道館だが、現実ではこの場所を"通過点"だと認識しているところが非常に頼もしいトゲトゲ。今回の日本武道館公演を経て、さらなる成長を遂げたメンバーが次に見据えることはなんなのか。それも含めて、[トゲナシトゲアリ LIVE in 日本武道館 "奏檄の叫"]は見逃せない、まばたき禁止の時間になりそうだ。
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