Japanese
トゲナシトゲアリ
Skream! マガジン 2025年11月号掲載
2025.09.23 @日本武道館
Writer : 宮﨑 大樹 Photographer:キセキミチコ、冨田味我
トゲナシトゲアリにとって日本武道館は"到達点であり通過点"。それを見せつけてくれた、これまでの集大成と言えるライヴだった。
トゲトゲ(トゲナシトゲアリ)が⽇本武道館でワンマン・ライヴを成功させた。ここ⽇本武道館は、TVアニメ"ガールズバンドクライ"の劇中にて、トゲトゲのメンバーが声優を務めている同名バンドが目標にしている場所だ。今回リアル・バンドのメンバーが、TVアニメを追い越す形で夢の舞台に立ったことになる。
アニメ視聴者ならすぐに気が付いただろうが、トゲのオブジェクトが配され、上部に大型モニターが取り付けられた360°のステージ・セットは、TVアニメのオープニング映像にて⽇本武道館と思しき場所でパフォーマンスをしているステージを、再現したものになっていた。何度も何度もアニメで観たあのステージが目の前に存在し、しかも会場の最上段までファンが埋め尽くしている状況には、開演前からすでに目頭が熱くなるものがある。
定刻を過ぎ、ステージ上部のモニターにカウントダウンが表示。それに合わせてファンが叫ぶ"3! 2! 1!"の声から、先程触れたTVアニメのオープニング・テーマ「雑踏、僕らの街」で、ライヴがスタートすると、会場に大歓声が沸き起こった。ステージ・セットだけでなく、ライティングまで再現された完璧なパフォーマンスを観ていると、2次元が3次元になったというよりは、むしろ自分自身がアニメの世界に入り込んだような感覚に陥る。開始からいきなりライヴのハイライトの1つを見せられた。続けてバンドは「碧いif」を披露。青と白を基調としたライティングに照らされながら、理名(井芹仁菜役)は天性の歌声を、夕莉(河原木桃香役)は持ち前の丁寧な演奏で堂々たるギター・ソロを、朱李(ルパ役)は躍動感のあるベース・プレイを魅せていった。
この日初めてのMCを担当した朱李が、TVアニメのオープニングを再現したこの日のステージ・セットに触れ、"ここで「雑踏、僕らの街」を演奏したの、めちゃくちゃエモくないですか? (日本)武道館、最高の一日にしていきましょう。楽しんでいくぞー!"と煽ってから「闇に溶けてく」でライヴが再開。「空⽩とカタルシス」では、同楽曲を川崎のフェスで披露したTVアニメの劇中を再現するように、朱李がベースのサウンドを歪ませつつ、スラップを効かせたソロ・プレイをしてからパフォーマンスへ突入する。日本武道館はロック・フェスさながらの熱気でいっぱいになった。
続くMCでは、メンバー1人ずつから日本武道館への想いが語られる。夕莉は"音楽を続けていくなかで、武道館というのは大きな意味を持つんだなと感じますね。今日このステージに立ってみて、その意味がちょっとだけ分かりかけているような気がします"と話し、日本武道館に立った実感を噛みしめる様子を見せた。
そんな前半戦を締めくくった一曲は「誰にもなれない私だから」だったのだが、この曲が理名のキーボード弾き語りで届けられるというサプライズに、会場は大いにざわつく。緊張感が漂う日本武道館のステージをファンが固唾を飲んで見守るなか、弾き語りで1人歌を届ける理名。彼女の歌唱の魅力をダイレクトに味わえる貴重な時間が終わった後には、割れんばかりの大歓声と拍手が起きた。
ここでライヴは一旦インターミッションへ入るのだが、休憩が明けてみると、ステージ上が夕莉演じる河原木桃香の家の中に様変わり。中央にこたつが置かれ、その上にはソースが掛かった肉まん、端には猫が鎮座している。そんなほっこりするシチュエーションで後半戦がスタート。夕莉と朱李がアイ・コンタクトを取ってから、TVアニメのサウンドトラックであるインスト曲「雑踏、僕らの街(彷徨う)」をパフォーマンスした。演奏が終わり、あっという間にステージ・セットが解体されると、再び夕莉と朱李で「宣戦布告」(インスト)を披露。そのまま「視界の隅 朽ちる⾳」のイントロへ移り、理名が合流した。「空の箱」では川崎の路上を背景に夕莉が弾き語りしてから理名にバトンタッチする定番の演出があったり、「⾶べない蝶は夢を⾒る」の初披露があったりと、後半戦も見どころばかり。中でも、突然の大爆発(火薬多すぎ!)から始まった「爆ぜて咲く」で発生した、ファンによる"爆ぜて咲いた"の大合唱にはグッと来るものがあった。
ライヴは、理名がギター・ヴォーカルのスタイルでパフォーマンスした「渇く、憂う」から、ラストスパートへ突入。「声なき⿂」ではコール&レスポンスが発生し、「運命の華」では日本武道館が幸福感で満たされるなか銀テープが舞った。そして本編ラストのMCへ。ここでは、理名からファンに向けた手紙が読まれる。"自分語りしてもいいですか?"と前置きしてから始まった理名の言葉には、彼女の暗い過去や、そこから脱却するためにトゲトゲのオーディションへ参加した想い、活動の中で感じたポジティヴな変化、それを与えてくれたファン、バンド・メンバー、スタッフへの感謝が込められていた。最後に"これからもよろしく!"と言葉を結んだ理名は、"この曲を、この武道館ライヴのテーマのように思って演奏してきました"と語り「⽣きて⽣きてゆく」を披露。壮大なイントロで始まる感動的な楽曲に、とびっきりエモーショナルな歌唱を乗せて本編を締めくくった。
アンコールの声に応えて再登場したメンバーは、理名が"生きてアンコールまで辿り着きました"と話すように、すでに満身創痍な様子。それでもメンバーは残った力を振り絞るように、トゲトゲ始まりの一曲「名もなき何もかも」を届けた。アンコールのMCでは、ラジオのオンエアやゲーム・アプリ、Zeppツアー([トゲナシトゲアリ Zepp Tour 2026 "拍動の未来"])の開催、4thワンマンの映像作品(『4th ONE-MAN LIVE "協奏の響"』)のリリース等たくさんの情報が解禁されたが、その中でも最大の盛り上がりを見せたのは、なんといっても完全新作映画の制作製作決定だ。TVアニメの続きを待ち望んでいたファンにとっては、まさに僥倖と言える発表だろう。グッド・ニュースの興奮が冷めやらぬなか、日本武道館という夢の舞台は、劇場版総集編のOPテーマ「もう何もいらない未来」で終幕を迎えた。トゲトゲの歴史を語る上で避けて通れないであろう日本武道館ワンマン、その最後の最後に未公開映画の主題歌を選曲したところに、"日本武道館は通過点だ"と示すバンドの意志が窺えるような気がする。「もう何もいらない未来」は、また新たなトゲトゲ像を見せる王道ガールズ・ロックな一曲で、これからも進化を止めないバンドの所信表明に感じられた。トゲトゲの未来は続く。
[Setlist]
1. 雑踏、僕らの街
2. 碧いif
3. 闇に溶けてく
4. 空⽩とカタルシス
5. 蝶に結いた⾚い⽷
6. ダレモ
7. 運命に賭けたい論理
8. 無知のち私
9. サヨナラサヨナラサヨナラ
10. 最期の禱り
11. 誰にもなれない私だから
12. 雑踏、僕らの街(彷徨う)
13. 宣戦布告
14. 視界の隅 朽ちる⾳
15. 吹き消した灯⽕
16. 空の箱
17. 傷つき傷つけ痛くて⾟い
18. 極私的極彩⾊アンサー
19. ⾶べない蝶は夢を⾒る
20. 爆ぜて咲く
21. 渇く、憂う
22. 声なき⿂
23. 運命の華
24. ⽣きて⽣きてゆく
En1. 名もなき何もかも
En2. もう何もいらない未来
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