Japanese
ヨルシカ
2021年02月号掲載
Writer 秦 理絵
昨年7月にリリースされたアルバムは『盗作』だった。その『盗作』に続く作品が『創作』とは。この2作品は"対(つい)"になるのか、あるいは"続編"にあたるのか。その作品の連続性を自然と意識してしまうのは、もはやヨルシカの作品と向き合うときの習慣になってしまった。
2019年に発表された1stアルバム『だから僕は音楽を辞めた』以降、ヨルシカは、全曲の作詞作曲を手掛けるコンポーザー n-bunaが、自ら考案した物語を軸に楽曲を書き下ろすというコンセプト・アルバムの形式で、作品を発表し続けてきた。CDの初回限定特典には、その物語を補完するテキストや写真がつく。それは熱心なリスナーにとっては、もはや"特典"と呼ぶよりも、作品を読み解く"必須"の手がかりだ。リンクする歌詞が繋ぐ楽曲同士の繋がりや時系列、巧みな比喩に隠された言葉の本質まで考察することで、物語への圧倒的な没入感を体験できると同時に、"この作品をとおして、ヨルシカが表現したいことはなんなのか?"という正体に(それは決して明確な答えを必要としないが)少しでも近づこうとする。そんな経緯もあり、今作『創作』は、EPというコンパクトな作品であり、これまでのフル・アルバム『だから僕は音楽を辞めた』から『エルマ』に繋がったような明確な連続性を銘打っていなくとも、こちらで勝手に想像力を膨らませてしまうという土壌ができていたように思う。
『創作』の収録曲をひもといていけば、「強盗と花束」や「春泥棒」など、『盗作』という作品でコンセプトに掲げていた、"音楽の盗作をする男"を彷彿とさせる"盗む"というキーワードが目に留まる。先日、EPのリリースに先がけて公開された「春泥棒」のミュージック・ビデオは、『盗作』の主人公"音楽の盗作をする男"とみられる男性の姿を、女性目線で追う内容になっているという。個人的な解釈として書かせてもらうならば、『創作』は、『盗作』の主人公"音楽の盗作をする男"のアナザー・ストーリーを描いた作品だと思った。『盗作』が、男の思想に重きを置いたものだとすれば、あの作品で断片的に見え隠れしていた男の人間的な一面が色濃く表現されたのが、『創作』という作品だと思う。
その世界に深く足を踏み入れたときに、無限の楽しみ方を提供してくれる それがヨルシカの音楽だ
『創作』には、全編に"春"の気配が漂う。打ち込みのサウンドを効果的に取り入れつつ、アコースティックな音色を大切にした晴れやかなサウンド・アプローチも相まって、春の日差しを思わせる柔らかな雰囲気が印象的だ。ヨルシカの楽曲と言えば、"夏"のイメージが強い。デビュー作が『夏草が邪魔をする』だったこともあるが、前作『盗作』に関しても、夏という季節に横たわる大きな喪失感が脈々と受け継がれていた。それは、今作『創作』でも変わらない。決して消えない"あの夏"の記憶を抱えたまま、秋と冬が過ぎれば、また春がきて、次の夏がくる。四季のある日本ならではの移ろいゆく景色の中で丹念に描かれる"春"。この連続性こそヨルシカの音楽の醍醐味なのかもしれない。私たちが生きる今日に、昨日があり、(不確かだが)明日があるのと同じように、ヨルシカが楽曲の中で描く場面のひとつひとつにも、昨日があり、明日があり、"あの夏"があり、次の春も訪れる。だから、楽曲の中に生きる登場人物たちに命を感じられる。
『創作』という作品の根幹をなすのが、2曲目「春泥棒」からインスト曲「創作」を挟み、「風を食む」へと繋がっていく流れだろう。昨年3月より大成建設CMソングとしてオンエアされていた「春泥棒」は、ミニマムな歌い出しに始まり、やがて華やかなバンド・サウンドが花開く。透明感のあるsuisのヴォーカルによる古語を交えた風流な日本語で紡ぐのは、"君"との残された時間が少ないであろう主人公が春の終わりを惜しむ切ない物語だ。季節が抗いようもなく過ぎてゆくことの比喩として、"泥棒"という表現を使う言葉選びがとても粋だ。この歌詞の着想について、コンポーザーのn-bunaはTwitterで以下の文章を載せている。
"春の日に昭和記念公園の原に一本立つ欅を眺めながら、あの欅が桜だったらいいのにと考えていた。あれを桜に見立てて曲を書こう。どうせならその桜も何かに見立てた方がいい。月並みだが命にしよう。花が寿命なら風は時間だろう。それはつまり春風のことで、桜を散らしていくから春泥棒である"
この文章を読んだとき、思えば、「春泥棒」という歌に"桜"という言葉は出てこないなと感じた。だが、"はらり"という擬態語、"春吹雪"、"花見"という言葉からなんとなく桜を想像して聴いていた。まるで俳句における季語をあしらうように、"桜"という言葉を使わずに、桜の景色を描いてみせるなんて。ヨルシカが紡ぐ日本語詞は慎ましくも美しい。
「春泥棒」と「風を食む」の間には、"創作"と題したインスト曲が挟まれる。繊細なピアノのリフに笛の音、鳥のさえずりが重なる牧歌的な小曲が、僕と君の間に流れた時間の経過を表すように挿入されると、軽やかなミディアム・テンポ「風を食む」へと繋がる。昨年9月より、"NEWS23"のテーマ曲として放送された「風を食む」について、n-bunaは"消費社会"をテーマにした楽曲だと、コメントを寄せている。
"全体のテーマは消費です。子どもの頃は雲一つにも心を動かされたのに、大人になるにつれそういう感覚は少なくなったように感じます。タップ一つで物が買える現代社会で、消費することに疲れてしまった心を最後に優しく包むような曲を書きたいと思いました"
この場合の"風"は、世の中の流行り廃れや時流のことだろう。風を食らい、ひたすらに消費し続ける社会の在り様を辛辣に切り取る。棚に"心"が並ぶというファンシーな世界観の歌詞が投げ掛けるのは、ものの価値は誰が決めるのか、という問い掛けだ。たとえ売れ残りでも、自分が美しいと思えば、美しい。そういう生き方こそ尊いのではないかと。この歌の終盤には、"貴方しか 貴方しか/貴方の傷はわからないんだ"という印象的なフレーズが出てくる。それぞれに傷つき、痛みを負ったからこそわかる価値がある。それは決して他人と同じである必要はないはずだ。「風を食む」は、あらゆる物事が目まぐるしく消費されてゆく社会の中で、あなたが本当に守りたいと思う価値こそ大切にしてほしいという優しいメッセージ・ソングなのだと思う。
その他の収録曲についても触れると、EPの新曲として収録される1曲目「強盗と花束」は、音域の広いsuisの歌唱によって、まるで男女ツイン・ヴォーカルのようにも聴こえるナンバー。グルーヴ感のあるバンド・サウンドに乗せて、悪気なくものを盗む男の独白が綴られる。自宅のソファが狭いから隣の家から盗む。死にゆく貴方に花をあげたい、お金がないから花屋から盗めばいい。そんな具合だ。そして、全5曲のEPは、昨年6月に公開された、アニメーション映画"泣きたい私は猫をかぶる"のエンド・ソング「嘘月」で締めくくられる。いくつ季節を重ねても消えることのない"君"への想いが描かれる、カントリー・テイストの穏やかなミディアム・バラード。この曲もまた比喩を多用した日本語の表現が目をひく。中でも、"僕は愛を、底が抜けた柄杓で呑んでる"というフレーズに出会ったとき、ソングライターとしして研ぎ澄まされてゆくn-bunaの表現力に息を呑んだ。もう二度とふたりで育むことのできない愛の虚しさを、こんな言い回しで表すとは。そうした一連の5曲は、もちろん別々の主人公の曲として聴くこともできる。だが、『創作』を、『盗作』を受け継いだ作品として、"音楽の盗作をする男"を主人公とした5曲として捉えたとき浮き上がる心の機微には、強く心を揺さぶられるものがあった。
もちろん音楽というものは、頭でっかちに聴くものではない、と感じる人もいるだろう。それはそれでいいと思う。初めてヨルシカに触れるリスナーが1曲だけ聴いても純粋に感動できるクオリティを担保しながら、その世界に深く足を踏み入れたときに、無限の楽しみ方を提供してくれる。それがヨルシカの音楽だからだ。
▼リリース情報
ヨルシカ
ニューEP
『創作』
![]()
2021.01.27 ON SALE
[UNIVERSAL J]
※スリーブケース/歌詞カード/イラストカード封入
【Type A】(CDあり)
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【Type B】(CDなし)
UPZZ-1839/¥1,000(税別)
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TOWER RECORDS
HMV
1. 強盗と花束
2. 春泥棒 ※大成建設CMソング
3. 創作
4. 風を食む ※TBS系「NEWS23」エンディングテーマ
5. 嘘月 ※アニメーション映画「泣きたい私は猫をかぶる」エンドソング
※Type Bには音源メディアは収納されておりません。
※Type A、Type B共にジャケットなどのデザインは共通です。
「創作」先行配信はこちら
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