Japanese
ヨルシカ
2019年09月号掲載
前作『だから僕は音楽を辞めた』(2019年4月リリースの1stフル・アルバム)のインタビューのとき、コンポーザーのn-bunaは、裏話として"次回作は、『だから僕は音楽を辞めた』の続編になる"と言っていた。それが、8月28日にリリースされるヨルシカのニュー・アルバム『エルマ』だ。『だから僕は音楽を辞めた』は、音楽を辞めたミュージシャンの青年が、想いを寄せる人"エルマ"へ向けて書き溜めた楽曲集というコンセプトで制作された作品だった。その初回限定盤は、木箱を模したボックス仕様で、エルマに宛てた手紙や写真が収められていた。これにより、リスナーは青年が最後に遺した想いを受け取ったエルマを疑似体験するのだ(この仕様は大きな話題を呼び、発売当日から完売店舗が続出した)。そして、今回リリースされる続編『エルマ』は、音楽を辞めた青年の影響を受けて、エルマが完成させたアルバムというコンセプトになる。
ヨルシカは、2017年に活動開始したコンポーザー n-bunaと、女性シンガー suisの2人組バンド。以前から、動画サイトで打ち込みやボーカロイドを用いた手法で楽曲を制作していたn-bunaは、すでに「ウミユリ海底譚」や「夜明けと蛍」、「メリュー」など、数多くのヒット曲を生み出していた。だが、"もっと人間的な部分を出した活動をしてみたい"という想いから、一緒に活動する女性シンガーを探していたところ、出会ったのが、当時からn-bunaの楽曲のファンだったというsuisだ。もともとシンガーを志望していたわけではないsuisだったが、だからこそ何色にも染まっていない彼女の無垢なヴォーカルは、n-bunaが作り上げる緻密な楽曲の世界観に美しく溶け合った。以降、ヨルシカとして初のミュージック・ビデオ「言って。」(2017年リリースの1stミニ・アルバム『夏草が邪魔をする』収録曲)は、すでにYouTubeの再生回数4,200万超を記録(2019年8月現在)。『だから僕は音楽を辞めた』は、オリコン週間ランキングで5位を記録すると、11週連続でオリコンTOP100圏内をキープするロング・ヒットを記録した。
ギター・ロックを中心に、ジャズやフュージョンの要素も盛り込んだ幅広いバンド・サウンド。suisの透明感のある歌声。時に物語を編むように、時に自分自身の内側にある衝動を爆発させるように描かれる抒情的な歌詞。それが、ヨルシカの大きな武器だ。自身の死生観を色濃く滲ませた1stミニ・アルバム『夏草が邪魔をする』から、"もう一生、後悔したくない"というリアリティのある言葉も印象的だった2ndミニ・アルバム『負け犬にアンコールはいらない』へ。作品ごとに色合いを変えて辿り着いた『だから僕は音楽を辞めた』は、ヨルシカの音楽観をひもとくうえでも重要な作品だった。あの作品でn-bunaが音楽を辞める青年を主人公にした理由は、過去に自分自身が音楽に対する葛藤を抱いていた時期があったからだと明かしている。売るために音楽を作るのか、作りたいものを作るのか。その逡巡の答えとして、n-bunaはヘンリー・ダーガーの生き方を引き合いに出し(半世紀以上にわたり、誰にも読ませずに作品を書き続けた小説家)、"僕は後者を選んだんです"と言っていた。『だから僕は音楽を辞めた』の主人公が、最後まで乗り越えることのできなかった壁を乗り越えたn-bunaは、"作品至上主義"を掲げて音楽と向き合っている。
『エルマ』とは、喪失感の中で一度は見失った自分自身の人生を、再び取り戻すまでの物語ではないだろうか。
『エルマ』は、クラシカルなピアノのインスト曲「車窓」から幕を開ける。歌が始まるのは、2曲目の「憂一乗」からだ。アコースティック・ギターとsuisの声のみという最小限の編成から、次第に優しくバンド・サウンドが加わり、"ずっとずっとずっとずっとずっと/君を追っているだけで"と、かの青年の背中を追い続けるような言葉が綴られている。疾走感溢れるピアノ・ロック「夕凪、某、花惑い」から、躍動感のあるベース・ラインが気だるい雨の季節を描く「雨とカプチーノ」へ。忘れられない"君"の存在がちらつく楽曲には、エルマの大きな喪失感と迷いが滲む。アルバム全体の構成は、『だから僕は音楽を辞めた』とまったく同じだ。同じ位置にインストを挟む全14曲。2曲目の「憂一乗」は、『だから僕は音楽を辞めた』でいうところの「藍二乗」であり、3曲目の「夕凪、某、花惑い」は「八月、某、月明かり」、6曲目の「神様のダンス」は「踊ろうぜ」、7曲目の「雨晴るる」は「六月は雨上がりの街を書く」というように、それぞれの楽曲が『だから僕は音楽を辞めた』の合わせ鏡のように呼応している。この構造について、n-bunaは以下のように語っていた。
"エルマはこの詞に莫大な影響を受けて、やがて自分も音楽を作るようになっていくんですよ。エルマがその作品を作ること自体は幸せかもしれないですけど、青年の作風に影響を受けて、まったく同じタイトルの曲を作ったりするわけです。それは呪いじゃないですか。そういうものしか作れなくなってしまうっていう。"
同時に、suisはこんなふうにも語っている。
"青年が消えたあと、そこに残るものって、エルマの性格次第では「これは祈りだ」と思うかもしれないし、「これは呪いだ」と思うかもしれない。"
果たして、かの青年が最後に死を選んだように、エルマもまた同じ道を辿っていくのか。ストーリーの行く末が気になるという意味では、ヨルシカの作品は、まるで映画や読書を楽しむ感覚にも近い。アルバムの結末についての解釈は、当然それぞれのリスナーに委ねられるが、ここからは私が思ったことを書いてみたいと思う。アルバムの終盤に収録されるインスト曲「森の教会」以降、それまで1枚のコインの表と裏のように、青年の人生や思想と寄り添うように綴られた歌詞が少しずつ乖離していくように思うのだ。"貴方の世界を今日も知らない/私がいるばかり"と穏やかに歌う「声」、"何も言わないままでも/人生なんて終わるものなのさ"と晴れやかに歌い上げる「エイミー」を経て、まるで深海に深く沈み込むようなインスト曲「海底、月明かり」を挟み、最後の「ノーチラス」へと繋ぐ。それは、エルマに大きな影響を与えた青年の存在は決して心から消えることはないが、それでも、自分の人生を歩いてゆくという訣別の歌のように聴こえた。『エルマ』とは、喪失感の中で一度は見失った自分自身の人生を、再び取り戻すまでの物語ではないだろうか。
音楽の解釈は聴き手の自由だ。だから、この作品を聴いたときに、最後はエルマも青年と同じ結末へと辿り着いた、と感じる人もいると思う。音楽は、必ずひとつの答えを出せる数式ではないから、それでいい。ジュール・ヴェルヌの小説"海底二万里"に登場する潜水艇ノーチラス号は、いくつもの冒険譚を繰り広げるが、その船長のネモは、最後に"ノーチラスを棺代わりに沈めてほしい"と言い残す。となれば、死の象徴とも捉えられるのだ。
最後に、この作品を聴き終えたあと、ミニ・アルバム『夏草が邪魔をする』を改めて聴いてみた。なぜなら、『エルマ』には、『夏草が邪魔をする』とリンクする表現が多く登場するからだ。すると、どうだろう。『夏草が邪魔をする』もまたエルマと青年の物語のように聴こえてならないのだ(特に「雲と幽霊」!)。このころからn-bunaに『エルマ』という作品の構想があったかは定かではないが、こんな発見もまた音楽の楽しみのひとつだ。聴き手のイマジネーションを刺激し、圧倒的な没入感を生む快作『エルマ』を、あなたはどのように聴くだろうか。(秦 理絵)
▼リリース情報
ヨルシカ
2ndフル・アルバム
『エルマ』
NOW ON SALE
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【通常盤】(CD)
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[CD] ※共通
1. 車窓
2. 憂一乗
3. 夕凪、某、花惑い
4. 雨とカプチーノ
5. 湖の街
6. 神様のダンス
7. 雨晴るる
8. 歩く
9. 心に穴が空いた
10. 森の教会
11. 声
12. エイミー
13. 海底、月明かり
14. ノーチラス
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受付期間:~9月9日(月)23:59
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