Japanese
"俺の生き様!!"
Skream! マガジン 2020年03月号掲載
2020.02.10 @下北沢LIVEHOLIC
Writer 稲垣 遥 Photo by とみたむつみ
2月10日、下北沢LIVEHOLICでは外の冷え込んだ空気と裏腹、暑苦しいほどの熱気と闘争心の溢れるステージが繰り広げられていた。"俺の生き様!!"と題され、それでも尚、未来に媚びる、KAKASHI、サンサーラブコールズの3組が出演したこの日のイベントの模様をレポートする。
"俺たちが全部持ってってやるよ"。ゼブラ柄のパーカーのフードを被り、挑発的な眼差しでこう言い放ったヴォーカルのKを筆頭に、6人が所狭しとステージにひしめいたのは、オープニング・アクトのサンサーラブコールズだ。ラウドなギターで始まった「クリーンコーポレーション」から妖しく退廃的な雰囲気を醸し出す。"誰も俺たちのこと知らねぇだろ。今日で教えてやる"と続けて「東京コンポーズ」を投下。ミクスチャー・サウンドから、サビではミサキング(Gt/Vo)とカンタロー(Gt)も一緒に歌うことで一気にポップに変化し、そのギャップが癖になる。会場は徐々に前方にオーディエンスが詰めかけ、確実に初見の者の心をも掴んでいた。轟音のまま、ギュイインと機械のゲージが上がっていくようなSEが鳴り、「Neo Sub」へ。そのゲージが振り切ると同時にKがラップしながらフロアへ下り、ライヴハウスには狂騒的なムードが満ち広がる。ラスト「Who I Am」では拡声器も取り出してシャウトするパフォーマンスも見せ、しっかりとインパクトを残していった。
代わって登場したのはKAKASHIだ。気合を入れてきたであろうこの日のステージの1曲目は、未発表新曲のバラードの「愛していたい」。堀越颯太のヴォーカルがひと際前に出ており、何よりも歌を届けるという彼らが貫いてきた信念をまず見せつけた。1曲にして存分にKAKASHIの空気を作ったあとは、「本当の事」でバンド・サウンドが炸裂。個人的には約1年ぶりの彼らのステージだったが、4人の息の合わせ方、緩急のつけ方が巧みになり、グルーヴ感が格段に増している。さらに、ギアを上げて「流星の中で」へ。観客も後ろまで手が上がり、振り落とされることなく、しっかりとついていく。
MCでは、今回共演のそれでも尚、未来に媚びるとは、周りからも"絶対対バンしたほうがいい"と言われていたものの、バンド同士の繋がりがなかったため実現できなかったと語る堀越。"ずっと出会いたいと思っていたバンドと(自分たちを)ライヴハウスが繋げてくれたことが、めちゃくちゃ嬉しいです!"と言い、"こんな夜を待ってた"と歌い始める「こんな夜」に繋いだのは粋なシーンだった。じんわりと身体にも胸の奥にも熱を帯びていると、バンドはここ下北沢から見える景色を歌ったという新曲「東京タワー」を投下。"僕だけを置き去りにする世界に何かを残して死にたい"なんて詞は堀越にしか書けないと思う。また、ミドル・テンポで、街を愛する温かなムードの曲中に、飢餓感が主張されているのもこのバンドならではで、聴いている側も、共に現実と戦う意志の証として思わず拳を上げてしまう。
"LIVEHOLICという場所は僕らにとって特別な場所で、今の事務所の人に拾ってもらうきっかけになったところなんです"と堀越。この日はそれ以来のLIVEHOLICでのライヴだという。そんなバンドの特別な想いも明かされて、終盤「ドラマチック」で中屋敷智裕(Ba/Cho)、齊藤雅弘(Gt)が左右両側からステージ前方に乗り出し、「愛しき日々よ」では、一歩一歩踏み占めるような関 佑介(Dr/Cho)のリズムもストーリーを盛り上げる。そして、彼らのアンセム「ドブネズミ」で堀越が絶叫交じりの歌を響かせ、清々しい顔でステージをあとにした。
"俺の生き様! しかと見てってくださいよ!(がーこ/Vo)"。それでも尚、未来に媚びるの登場だ。オープニング「ハッピーエンド」から、和の香りの漂う哀愁メロディを吠えるように歌い上げるがーこは、1曲目にして客席になだれ込む。続く「昨日のこと」ではイントロで歓声が響き、"オイ! オイ!"と拳が上がる。突き抜けるギター、心臓に響くような力強いドラム。みるみるうちに会場の熱気が上がっていった。2曲を終え、マイクを通さず、独り言のように"東京いいな! 熱いなぁ!"とがーこ。フロアも楽しそうに頷き、距離の近さと温かさを感じさせる。それもそのはず、昨年8月に結成以来約7年活動を共にしたギタリストのオイケリョウタが卒業し、事実上の休止期間を経て、新サポート・メンバーに松本 翔を迎えた現体制での東京公演はこの日が初めてだった。バンドもファンも待ちわびた光景に昂るのは当然だ。"待たせたぶんだけ愛してやる!"がーこは叫び、ライヴ中何度もマイクを口から離し、オーディエンスの声を聞いた。彼らの想いを受け止めながら、それにバンドもひとつの塊になって全力で返すことで、エモーショナルさは渦を巻いていく。
終盤、"ライヴハウスで俺たちが笑えるように"とバラード「也子」を披露。歌謡曲由来のこぶしとビブラートの効いた歌が映える名曲だ。その鬼気迫る演奏に、がーこがここで言った"笑う"は"楽しい!"だけの笑いじゃなく、苦しい時間を過ごすなかで、"まだあがいてやるか"とふっと笑うという意味じゃないかと感じた。底の底から掬い上げるようなこの曲のラストは、がーこが跪いて地声で届けた。続く、生きていることを讃える1曲「ノットデッド」は、まるで観客それぞれの抱える苦しみを受け止めるような包容力も携えていた。そして、ラスト「まれびと」では、ろく(Gt)が前に出てソロを聴かせ、井地良太(Ba)もすべてを出し切るように飛び跳ねながらパフォーマンス、344も最後の一音まで力強いドラムを響かせた。さらに、後ろからでもいい顔をしているのが伝わるくらいの、観客の愛と生気漲る大合唱。がーこはそれに対して"最高の景色をありがとう"と、顔にまとわりついた長髪の隙間から歯を見せて笑い、60分のステージを終えた。
"ひとつだけ今日悔しかったんすよ。ソールドできんかった。もっかいやらせてくれ"とがーこはライヴ中に言った。本当にとにかく観てくれと言いたくなる3組が揃ったこの公演。またの再会を願うばかりだ。
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