Japanese
暴動クラブ
2025年10月号掲載
Member:釘屋 玄(Vo)
Interviewer:吉羽 さおり
あとは世に知れ渡るだけというところ
-そうですね。でもそういうところに音楽ファンは引っ掛かってくれると思うんですよ。若いリスナーも、この言葉、フレーズはどんな意味合いなんだろうと深掘りしてみたらジャズに辿り着くとか、そういうヒントがこの曲に限らずこのアルバムにはちりばめてあるなと感じるんです。暴動クラブを聴いて、どんどん音楽を掘ってほしいなって思いも感じるというか。
俺が小ネタみたいなものが好きなんですよね。大滝詠一さんやフリッパーズ・ギターのようなオマージュや元ネタがあるものは、きっとリスナーが元ネタに気付いてくれたら嬉しいだろうなと思うし、音楽でも映画でも、気付いた人がニヤッとするようなオマージュとかメタファーとかを潜ませたものが好きなんです。
-今回のアルバム・タイトル"暴動遊戯"もまさにそういう感じがありますしね。
これはマツシマがブルース・リーが好きで、ブルース・リー主演の"死亡遊戯"をもじってやりましょうという(笑)。洋楽のアルバムの邦題みたいな、ちょっとうさん臭い、けど頭には残る感じが良くて。俺は"闇夜のヘヴィ・ロック"(AEROSMITH『Toys In The Attic』の邦題)みたいなのが好きなので、そういうので考えてたら、マツシマから"じゃあ「死亡遊戯」、「暴動遊戯」はどうですか"って来て、ノリで決まりました(笑)。
-このジャケットのタイトルのフォントも込みで、いつの時代の作品なんだろうっていうのも最高です。
ちなみに、このフォーライフ(ミュージックエンタテイメント)のロゴも、旧ロゴを使ってるんですよ。現行のよりもこっちのほうが合うだろうなと思ったので、使えて良かったです。
-タイトルだけでなく、ギター・リフ等も然り、音楽ファンの心をくすぐりますよね。これはあのバンドのあのフレーズかなとか、あの時代の感じかなとか、いろんなバンドやルーツに繋がっていく。ロックンロールの歴史が脈々と今に受け継がれていく醍醐味があります。
勝手にですけど、許される感じがあるというか(笑)。結局最初は3コード、12小節のブルースから始まって、言ってみればキーが違うだけで一緒じゃないですか。譜面に起こしたらたぶん一緒になるんだろうけど、いかに歌詞、その人の歌や演奏、もしくはその人が何歳で死んだというエピソードとか、譜面には起こせないところでどれだけ勝負するかみたいなのが俺は好きなので。それもあって、俺たちはそういうのをやるのかもしれないですね。
-バックボーンが少しずつ違うこの4人の掛け合わせで、新しい形にもなりますしね。
そうですね、そこで変容して、もとの形が残ることもあるし、原型を全くとどめてないよっていうこともあるしで。
-ちなみに原型をとどめずにデモから大きく変化した曲というと、どのあたりですか。
最後の「ハニー」ですね。ヒナコさんが持ってきたデモだともっとゆったりとした歌モノだったのが、Sid Viciousが歌う「My Way」(Frank Sinatra)みたいな8ビートにしていった感じで──あ、気付いたんですけど、このアルバムは"ドライヴ・ミー・トゥ・ザ・ムーン"というSinatraのもじりで始まって、最後も「My Way」みたいな感じで終わってますね。なので、このアルバムはFrank Sinatraに捧げます(笑)。たまたまですけど。
-思わぬ繋がりがありましたね(笑)。
あとPRIMAL SCREAMにKevin Shields(MY BLOODY VALENTINE/Vo/Gt)が入ってる時期のライヴ盤(『Live In Japan』)がすごく好きで、「ギミー・ショック」は、最初はそういう感じの曲を作ろうと思って、始めはもうちょっとパワー・コードみたいな感じでやっていたんです。でも、かっこいいんだけど、ちょっとしっくりこなくて。プロデューサー、告井孝通さんのアイディアで、"ツェッペリンみたいにしましょう"って言ったところから、アコギで始まっていく今の形になっていったんです。
-サイケっぽい香りがするのはそれゆえですね。ウォール・オブ・サウンド的な重厚感も残っていますし、ギターの色味もすごくいいですよね。
ぐにゃぐにゃしてる感じがありますよね。
-「ギミー・ショック」のようなディープな曲がある一方で、「生活」のような歌モノの曲はよりシンプルに聴かせたかったという感じですか。
今までそういうフォーク的な曲はなかったかなというので。お酒をしこたま飲むとか、いわゆるロックンローラー的な感じも大事だし、好きだけど、もともとみんなそんなにロックンローラーみたいな人ではないんです。俺なんかは特にそうで、普段ポイントとかためてますから(笑)。そういうのが出せたらいいなと思って作ったんですよね。
-この「生活」を含め、アルバム全体的にそうですが、何に怒ってるというわけじゃないですけど沸々としているし、イライラとしているし、楽しいけど何か物足りないしという感情が通底していますよね。先程青春映画のようだと言ったのもそこに繋がる感覚ですが、何か今抱えているようなことが自ずと曲にも映っているんですか。
中学、高校生ぐらいから先生とか親、受験とかに対して怒っていたりというのはわりとあったんですけど、ここ1~2年くらいは寂しいことにある程度なくなってしまって。例えば10代の頃は、対先生なら"俺は勉強なんかしたくないんだよ"ってものだし、親に対してなら"なんで分かってくれないんだよ"という、直接その原因をぶつけられるものでしたけど、最近は個人の生活としてはまぁまぁ充実させてもらってるんです。
そしたら今度は世の中の嫌な部分に目が行くようになってきたんですよね。世の中の人があまり元気がない、お金がないとか、どこかで戦争が起こっているとかって直接解決できるものではないし、俺の問題でもあるけど俺以外の人の問題でもあるから、そういうことに対して俺が何を言うのが正解か今のところ分からなくて。いろんな話を聞くたびにすごく悲しいなとなるし、思うことはあるけど、自分の中では結論を出せてないんです。どちらが悪いとか、どうすればいいのかとかが出てないから、自分自身もイラつくというか。そういうフラストレーションがここ1~2年でめちゃくちゃ溜まっていて。
-そういう思いは曲を書いてみて気付くところですか。
そうですね。(忌野)清志郎さんやJohn Lennonはそういうことも歌に書くじゃないですか。ああいうのが俺はあまり好きじゃなかったんですよね。どちらも素敵な言葉でラヴ・ソングを書く人だから、なんでそんなに汚い言葉を使って喧嘩を売るんだろうというか(笑)。ただそのときは分かってなかっただけで、ミュージシャンってもちろん責任はあるけど、ある意味で世の中のシステムと違うところにいるような仕事だから、自分のメッセージを自由に発言することも仕事みたいなところもあるんだなと思ったり......。ちょっと大人になったんですかね。
-自分の周りのことだけじゃなく、見える範囲が広がっている感覚ですかね。
俺の周りだけの話だったのが変わってきて。結局清志郎さんも優しさから来る怒りみたいなものがあったんだなというのが、だんだんと分かってきましたしね。
-また今回は「FIRE」でのレゲエっぽいアレンジが新鮮でしたが、この曲はどういう感じで組み立てられたんですか。
もともとはTHE LIBERTINESとか、8ビートのパワー・ポップのような感じにしようと思っていたんですけど、全然上手くいかなくて。ボツにしましょうかと言ってたんですけど、そのとき俺がツェッペリンのレゲエの曲にハマっていて、"この曲、頭2つのコード進行一緒じゃん。これでやってみるか"ってやったら意外と上手くいったので、単純に裏打ちにして、あとは各自の思うレゲエとかダブとかなんちゃってで好きにやってくださいっていう。
-そのノリから、このアンサンブルのいい雰囲気が生まれるんですね。
ヒナコさんも頑張ってレゲエのAugustus Pabloとか聴いて練習とかしてましたね(笑)。意外と形になったなと。わりとみんなノリが軽いところがあるので、やってみようっていろいろ試して、ダメだったらダメで、進んだら進んだでという感じなんです。今回はサウンドが結構幅広いものになりましたが、やってみて、当たり前ですけどやってる人が一緒なので、ある程度どんな曲をやっても統一感は出るんだなというのは思いましたね。
-さらに今回のアルバムではヒナコさんが書いた曲も多いことで、曲それぞれの物語性も鮮やかに際立っています。エネルギーに満ちていて、ノリとは言いながらも、各曲がしっかり磨かれて洗練されたアルバムになったのではないかなとも思いますし、いい手応えがあるのでは。
これを引っ提げてメジャー、そっち側に殴り込みに行くわけなので、勝ち負けではないですけど、いわゆるメジャーでいろんな人たちがいる中で並べられても、引けを取らないものになっているんじゃないかなって。
-殴り込みに行くんだというくらいの気概を持っていると。
メジャーだから頑張ろうというよりは、道場破りみたいなノリで(笑)。メジャーでというのも滅多にない話ですし、ここが勝負どころですね。実際勝負できるアルバムになっているし、あとは世に知れ渡るだけというところです。
-11月からはアルバムを携えて、全国4都市のツアー"暴動クラブ LIVE TOUR 2025 暴動遊戯"がスタートしますので、そこに対する意気込みを聞かせてください。
東京以外の名古屋、大阪、福岡はライヴでは何度か行ったことはあるんですけどワンマンをやるっていうのは初めてなので、どんな人が来るのかこっちも分かってないし、アルバムの曲もまだやり慣れていなくて、これからライヴで育てていくような曲ばかりなので。バンドを組んで、初めてやるようなライヴくらいの気持ちですね(笑)。初心に帰りながらも、録ったときの俺たちを超えられるように、とりあえずぶちかまそうみたいな感じです。
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