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INTERVIEW

Japanese

THE SPELLBOUND

2024年08月号掲載

THE SPELLBOUND

Member:中野 雅之(Prog/Ba) 小林 祐介(Vo/Gt)

Interviewer:石角 友香

THE SPELLBOUNDが約2年半ぶりとなるアルバム『Voyager』をリリースする。バンドがスタートしてからの集大成的な楽曲「LOTUS」をはじめ、ツアーを経たことで獲得した肉体性や共感を反映したロック・バンドならではの楽曲、前作からの間に挑戦した"夢ノ結唱"への提供曲の原曲等、コアファン以外も気になる楽曲も収録。難解になることなく未知の領域に踏み込む絶妙なバランスが際立つ本作について、中野雅之と小林祐介にじっくり話を訊いた。


ライヴでの風景は大事なモチーフ。僕たちもそこで居合わせている同士なんだと思えた


-アルバムの発端についてお聞きしたいのですが、『LOTUS』(2023年リリース)というTHE SPELLBOUNDの次のフェーズを感じるシングルがあって、その存在がアルバムの起点になっている印象を持っていたのですが、いかがでしょう。

中野:そうですね。このアルバムだとその「LOTUS」と「約束の場所」が、全体を意味のあるものにする、まとめ上げるためにはすごく重要な役割を果たしているかなと思います。音楽性は前作(2022年リリースの1stアルバム『THE SPELLBOUND』)に比べて積極的に拡張させているので、「LOTUS」みたいな曲があることで、いろんな方向に拡張しているものをギュッと真ん中に固めて、アルバムを通して説得力を持たせることができているかなと。

-そして1曲目の「モンスター」にしろそこから繋がっていく流れにしろ、1stアルバムが人生の意味、THE SPELLBOUNDの哲学を感じさせるとしたら、今回は主人公がグッと若くなったというか、瑞々しいなと思ったんです。それは小林さんが歌詞を書いていらっしゃる部分ももちろんあると思いますが、結果的にそんな方向性を持ったということでしょうか。

中野:どうだろう? それぞれの曲は補完し合うように考えて作ったわけではないので。ハードな側面を持った曲と、それからメランコリックでダビーというか浮遊感のあるサウンド・テクスチャーの曲まで、紡がれていくようにアルバムは構成されているんですけど、一曲一曲はそのときに手掛けている曲に集中して世界観を構築してるので、並べたときにそれらが並ぶ意味をもってくるかどうかは、あんまり当初考えていなかったんです。並べたときにそれぞれの曲の特徴的なことと、一貫した作家性や哲学みたいなものがちゃんと繋ぎ合わさったのを、僕らもリスナー的な感覚で実感したところがありまして。やっぱり音楽の面白さ、音楽ってというアート・フォームは人の念みたいなものでかなりの部分ができていて、それがあることで、10曲以上の曲が集まったときにちゃんと人格みたいなものを帯びてくるというのを、今回も改めて体感しました。

-リスナーとして、ですか。

中野:AIが音楽を生成できる。で、だんだんそれの精度が上がってきている実感があるわけなんですけど、じゃあ例えば「モンスター」という曲を特徴付けるキーワードを放り込んでいったら、「モンスター」みたいな曲ができて、「僕のキーホルダー」って曲のキーワードを打ち込んでいったら、「僕のキーホルダー」みたいな曲ができたとして、それを同じアルバムの中に並べたときに1つの人格が立ち上がってくるかどうかは、結構微妙なんじゃないかなと思うんですよ。じゃあ何がそれを繋ぎ合わせていって1つの思考とか哲学とか、人間の振る舞いのようなものが立ち上がってくるかというと、やっぱり解析ではできない部分に様々な形で表れているのではないかなって、逆説的に考えることができるんです。じゃあ僕ら何してたのかな? って振り返ると、すごくシンプルに言ってしまえば、僕と小林君が一生懸命頭を動かして手を動かして身体を使って、身体表現の延長みたいなところで音楽を作っていただけなんですね。そこがこのアルバムを結局形作るとなると、自分たちがどう生きたかとか、日々何を考えてどんなものを食べてどんな人と接してどんな会話をしてってことが、作品を形作っていくんじゃないかなと思うんです。

-たしかに。今の2曲は喩えとして分かりやすいです。「モンスター」という曲、「僕のキーホルダー」という曲を構成しそうなプロンプトだけでは、人間の作品にはきっとならないでしょうね。

中野:僕はそう感じるし、自分が思考をはたらかせて思いを巡らせて手を動かして音楽を作るときに、人が思い描くイメージとか、受け取ったときに発生する感情とかを思い描くんですけど、その音楽のフォーマット自体はどんな形でも実は良くて。ニューメタルみたいなものでも、シューゲイザーみたいなものでもいいのかもしれないし、まぁなんでもいいんですよね。で、今言ったAIが生成するものっていうのは、逆にニューメタルとかシューゲイザーとかしっかり名前が付いたもので。過去のデータとしてアーカイヴにしやすいような、鳴り方とか音の積み方とか展開の仕方とかは、もうフォーマット化されているものだと思うんです。で、それは多くの人々にとってもう知っている形、分かりやすい形であるからこそ受け取りやすいっていうことも、同時にあると考えているんですよ。なので鋭くマーケティング、ターゲティングされた音楽も、ものの10秒~20秒で叩き出してくると思うし、もうそういう時代に完全に突入しているなかで、音楽家が何をすると人類の何かに貢献するかとか、そんなことも考えるようになってきた。だからその敵は――今売れてる誰かが仮想敵とかっていうことはなくて、クリエイティヴに対するそもそもの挑戦みたいなものが始まっちゃってる感じがしていて(笑)。自分がものを作ることをどう面白がれるか、楽しめるか、意義を感じられるかっていうところが生活とか人生の中で重要度を高めているところがあります。

-"夢ノ結唱"取材時(※2023年12月号掲載)もAIにはない生身の人間の感性といいますか、そこを駆使した最先端のポップ・ミュージックを作りたいとおっしゃってたので、オリジナルでさらに高まったんじゃないのかなという気がします。コアなものじゃなくてポップなものだなと。

中野:はい。もちろん僕らのファンの方にも聴いていただきたいですけど、いろんな人にちょっと聴いてもらってどんな感触なのかとか、純粋にいろいろ感想を聞きたいなと思いますよね。

-少し「モンスター」のお話を聞いてもいいですか。この曲の着想はどこからでしたか?

小林:最初に曲作りに取りかかったきっかけとしては、"BIG LOVE TOUR"っていう去年のツアー、BOOM BOOM SATELLITES 25周年もあり『LOTUS』のリリースもあり、それを経ていくなかで、要はどんなものが見えた、どんなものを体験したかを中野さんといろいろ話してみて。そこで得られたフィジカルの快感とか、すごく輝かしいファンとのコミュニケーションとか、そういったエネルギーみたいなものをデモに落とし込んでもいいんじゃないかと。それで何曲か作っていった中の1つが「モンスター」で、そのエネルギーの部分やポジティヴなモチベーションみたいなものを中野さんが抽出して、音楽に仕立てていってくれたっていうのが最初でした。

-やはりライヴの現場に触発されるものがありましたか?

小林:やっぱりみんな自分のそれぞれの生き方とか人生のフォームみたいなもので、より良く生きていきたいと願っているなかで、タフな世の中は、ただそれでいることを許してくれなかったりいろんな軋轢だったりとかがあると。そのタフな人生とか世界の中でどうやって自分らしくあろう、みたいなものが歌詞を書いていくなかで1つテーマになっていったので、もちろんライヴでの風景は大事なモチーフではありましたね。みんないろんな顔をして生きていて、僕たちもそこで居合わせている同士なんだと思えた瞬間でもあったし。

-冒頭が「モンスター」で次が「Unknown」なのが、このアルバムのオープナーとしては象徴的かなと思います。「Unknown」はもちろん細かいシーケンスもありますが、生身な感じがしますね。この曲はどんな着想だったんですか?

小林:これもさっき言ったみたいな曲作りのスタートの仕方をして。ツアーを経ていくなかでTHE SPELLBOUNDというバンドそのものが育ってきたし、サポート・メンバーを含めて自分たちはこんなアグレッシヴな表現をしていて、それをたくさんのファンの前でシェアしていて、いいものが生まれてるって実感があったんで、それが1曲に凝縮されたようなダイナミックさがある音楽だと思います。

-ミュージック・ビデオはドラムのお2人の割り振りがよりはっきり見えたりして、ライヴで感じるものにすごく近かったです。

中野:あぁ、そうですね。それはやっぱり、ライヴをこなしてきたなかでできあがっていったバンド独自のフォーマットが、1つ完成形を出せたんじゃないかなって感じです。

-これまでのすごく宇宙的な、映画で喩えて言うと"DUNE/デューン 砂の惑星"みたいな体感があるんですけど、今回は生身のバンド感も強くて。

中野:そうですね。そういう両面がこのバンドはあるので。で、小林君の言葉がその接着剤になっているところも大きいんですよね。一貫して小林君の言葉がこのアルバムの全体を彩っているし、楽曲一つ一つの世界観の違いとかも、小林君の見てる世界でまとめ上げているところがあるんじゃないかなというふうに思います。

-前作からの間に作られた提供曲がオリジナルで聴けるのも醍醐味です。"夢ノ結唱"のとき、小林さんが"実際歌われた言葉じゃないと歌詞にならない"とおっしゃってたことも、"こういうことか"と思いました。

小林:やっぱり"夢ノ結唱"という体験を経たことで、原曲をむしろ越えたところがやっぱりあって。最初に作曲して、それを"夢ノ結唱"が別の音楽として成立させたものを経てTHE SPELLBOUNDに戻ってきたので、別の魅力とか生身の人間、僕たちであることそのものの良さが立ち上がってこないと、きっと勝負にならないと思うので。そこでのアップデートはすごく意識してたかなと。

中野:ソフトウェアに叩き出されてくる暴力性みたいなものがやっぱりあって、そのエグ味っていうのはある種のエモさも憂いもあるし、得体の知れない薄気味悪さもある。それが"夢ノ結唱"のときにはアート・フォームとして昇華できたと思うんですけど、その発想を人間に戻したときにすごく新しいものが生まれる感じがあって。だから現代的なプロセスを経たなって感じがあったし、Synthesizer Vのことも手なずけた感じがあるし、それを今回アルバムで完全に自分たちのものにしたという感覚もあります。