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LIVE REPORT

Japanese

THE SPELLBOUND

Skream! マガジン 2025年04月号掲載

2025.03.11 @恵比寿LIQUIDROOM

Writer : 石角 友香 Photographer:©YUSUKE TAKAGI

THE SPELLBOUNDの自主企画イベント"BIG LOVE"の第5弾がindigo la Endをゲストに迎えて開催された。バンド同士がリスペクトし合っていることはもちろん、今回は特に小林祐介(Vo/Gt/The Novembers)と川谷絵音(Vo/Gt/indigo la End)の信頼関係が、それぞれのパフォーマンスをさらに底上げしていた。

先攻のindigo la End。アリーナの規模感でライヴができるバンドなだけに、このツーマンにどのぐらいファンが足を運んでいるのだろう? と思っていたが、1曲目の「ハルの言う通り」のサビから、グッズである藍色のライト・ブレスレットが揺れている。もちろんファン以外もフロア全体がそのオルタナティヴ・ギター・バンドの真髄に引き込まれているのが分かる。「鐘泣く命」に素早く繋いだ後、UKオルタナやシューゲイザー要素、川谷のモノローグ等展開の多い大曲「レナは朝を奪ったみたいだ」で、深淵を覗かせるような複雑なアンサンブルにこのバンドのすごみを実感させる。さらにイーブルなベースラインで今のライヴ・アレンジにビルドアップした「スプーンで乾杯」と、初期のナンバー2曲を演奏。根底にあるソリッドで孤高なバンド像を明確にしたのはこのツーマンならではだろう。

一転、最新アルバムから洒脱なファンク要素の強い「心変わり」と、エレクトロニックなダンス・チューン「雨が踊るから」を披露。さらに人気曲「夏夜のマジック」のメロディの良さに酔う。いずれも生バンドの繊細なスキルに裏付けられた演奏で、彼等のギター・バンドとしての矜持は濁ることがないのが素晴らしい。川谷いわく、観客として観に行ったBOOM BOOM SATELLITESとゆらゆら帝国の日比谷野音のライヴは忘れ難いものだったそう。また、地元長崎にいた頃、The Novembersの音楽に出会い、東京で観たライヴでは小林が演奏を気に入らなかったのか、ステージを去り、バンドの演奏はそのまま続いていたことに衝撃と共感を覚えたのだと彼らしいユーモアも込めて話す。リスペクトを演奏で贈るが如く、ラストはindigo la Endで"一番音のデカい曲"だという「晩生」をセット。メンバー全員が剥き出しの魂をぶつけ合う凄まじい演奏で"BIG LOVE"を体現した。

indigo la Endの本気に圧倒されたフロアはすでに最高のツーマンを確信した様子。結論から言うと、この日のTHE SPELLBOUNDはBOOM BOOM SATELLITESからもThe Novembersからも選曲しなかったのだ。そのことからもバンドの新たなチャプターを感じた。

転換の最中もフロアをクラブ仕様のライトが照らし、indigo la Endのライヴからモード・チェンジしたところに、お馴染みのサポートを含むメンバー5人が登場し、オープナーは最新曲「雨ニウタレ命ナガレ」。福田洋子と大井一彌のツイン・ドラムはプリミティヴさとマシン・ライクな部分を同時に感じさせて興奮を誘う。中野雅之(Prog/Ba/BOOM BOOM SATELLITES) がベースに徹していることもこれまで以上にバンド然とした音像に直結しているのではないか。ギター・リフのイントロに歓声が上がった「モンスター」はラウドロック的なコード感が新鮮だし、「Unknown」に繋がるのはアルバム『Voyager』通りの曲順でもあり、生身の人間性や改めて手にしたロックの初期衝動を感じる流れでもある。実際、ほとんどシーケンスは聴こえず、2人のヴォーカル、ギター、ベース、ツイン・ドラムの血の通った肉体性が前面に出た演奏だ。

4曲目の「世界中に響く耳鳴りの導火線に火をつけて」で、やっと明らかなシーケンスが走り出す。その一瞬の音に反応して上がる歓声の大きさ、身体を揺らすオーディエンスが増えていくことで生まれるうねり。なんだか巨大なフェス会場で観ている気分だ。彼等のレパートリーの中でも音声合成ソフト"夢ノ結唱"提供曲のセルフカバーだけに、言葉数も屈指の多さを誇るこの曲での小林とXAIの渾身の歌唱も熱量を上げていく。ものすごい速度で言葉が映像を喚起し、シナプスが接続する感覚だ。ノンストップで進んでいくセットの中でも、一際フロアのリアクションが大きくなったのが、中野が弾く「すべてがそこにありますように。」のピアノ・イントロ。リズム・パターンを替えながら進行していくツイン・ドラムも物語を担う重要なファクターとなって、サビへの推進力を高めていく。もはや"消えない痛みが僕らを/癒えない傷の数だけ(中略)何度だって 何度だって"のフレーズはシンガロングせずにいられない普遍的なものになった印象すらある。中野がギター・ソロを弾き、さらにフロアとの魂のやり取りが加速した。

ガラッと景色が変わるようにシーケンスが絡み合う「約束の場所」ではまるで大気圏外に放たれたような気分。それまでのロック・バンド然とした音像から、360度どこまでも宇宙空間にいるような厚いシンセ・サウンドや祈りのようなシンバルの振動に誰もが身を任せている。この体感の変化はやはり中野雅之というクリエーターならではの表現力だと思う。そして「なにもかも」はこの日、メロディの良いオーセンティックなロック・ナンバーとしても楽しめたが、曲の終盤からLIQUIDROOMが揺れる程音圧を上昇させ、文字通り震えるような体験を生み出していた。そこから優しいメロディの「おうちへ帰ろう」に繋がる流れは地球への帰還の疑似体験。続く「さらりさらり夢見てばかり」も歌メロが際立ち、小林とXAIのツイン・ヴォーカルの意味合いが言葉数の多い曲とはまた違うロマンチックな雰囲気を醸し出していた。

終盤はシンプルなビートと輝度の高いギター・フレーズがなんとも瑞々しい「花が咲くみたいに」が光ときれいな空気を運ぶように鳴らされる。澄んだインディー・ロックへの中野と小林の共感みたいなものが窺えたのが新鮮だった。そして本編ラストもその澄んだ空気とイノセンスが「FLOWER」に連なっていく。中盤の消失点に向かうようなカタルシスともまた違い、温かさを含んだダイナミズムを感じた。物語性を感じるセットリストのワンマン・ライヴと遜色ない内容こそがTHE SPELLBOUNDの共演者やオーディエンスに対するスタンスなのだろう。

彼等のいつものライヴ通り、アンコールも一旦はけずにそのまま行うのだが、この日は小林が先程の川谷の告白(!?)と同じぐらいの熱量で関係性を話してくれた。長い付き合いである2人のエピソードの中でも印象的だったのが、小林が中野のプロジェクトに参加を表明した頃、実は何からどうしていいか分からなくなっていたという。そこで複数のバンドやプロジェクトを動かす川谷に相談したところ、バンドや仲間、ファンを信じることの大事さを伝えてくれていたんだと最近分かったと言うのだ。これは小林の音楽人生上、かなり大きな示唆だったに違いない。THE SPELLBOUND、indigo la End双方のファンが深いところでこの共演をより記憶に残るものにできた発言だったと思う。UNDERWORLDのカバー「Cowgirl」を披露したアンコールの頃にはさらにフェスティバルのムードが高まり、ライヴのスタート時にはなかったタフで幸せな空気が充満していた。

次回、Vol.6の対バンはThe BONEZが決定。また異なる化学反応が期待できそうだ。

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