Japanese
THE SPELLBOUND
Skream! マガジン 2023年01月号掲載
2022.12.15 @Spotify O-EAST
Writer : 石角 友香 Photographer:oyaming
アンコール時に中野雅之(Prog/Ba)が"もう(THE SPELLBOUNDは)家族みたいなもの"と言ったとき、そこまで人間として信頼できるコミュニティにまでこのバンドが前進してきたことを、この日のライヴが証明していたなと実感した。中野へのリスペクトを軸にヴォーカリスト、アーティストとしてこのバンドに挑戦すること以外にコンプレックスを取り払えなかった小林祐介(THE NOVEMBERS)という人物もいれば、BOOM BOOM SATELLITES時代からの同志、福田洋子(Dr)もいるし、これからのシーンを刷新していく存在の大井一彌(Dr/DATS/yahyel)もいる。加えて、今回のライヴには、中野がアニメ"GODZILLA 怪獣惑星"主題歌「WHITE OUT」をプロデュースした、神秘的でソウルフルな声の持ち主、XAI(サイ)もいる。自分の表現を突き詰める同志が集まり、新旧のリスナーに扉が開かれた状態に、現在のTHE SPELLBOUNDは存在している。
今回は"『すべてがそこにありますように。』Release Party"と銘打たれた単発のライヴだ。満員のSpotify O-EASTのステージ下前面には重低音を補強するサブスピーカーが鎮座しており、1階PA前に陣取りたくなる気持ちを抑えながら2階から見渡す。暗転したステージ上で中野と小林がお辞儀をして、メンバーも位置につくと、複雑なシーケンスと無機質に発されるトーキング調の小林とXAIのヴォーカルが、信号のように発された。大井のシンバルの刻みや小林のシューゲイズなギターも呼応して、旅立ちのプロローグのような感触だ。続いてシングルの流れ同様、「すべてがそこにありますように。」のイントロへ。中野がピアノを手弾きしていることにもグッとくる。パッシヴな8ビートが重量感を持って一気に走り出すツイン・ドラムの威力。TVアニメ"ゴールデンカムイ"のEDテーマとして書き下ろしたことが、いい意味で彼らのポピュラー・ミュージックとしてのロックを再び発現させた部分も大いにあり、ライヴでは生音とエレクトロニクスの両方でビルドし、ドロップするカタルシスが何倍にも増していたのだ。
冒頭から解放に向けた爆発を起こしたあとは、つんのめるようなビート感から始まる「MUSIC」。サビでは手を上げ、ジャンプするオーディエンスも続出する。フロア全体が生きもののように蠢いた。ライヴならではの展開も多く、ダンス・アクトばりの長尺ライヴ・バージョンに加え、中野と小林のツイン・ギターでも魅せる。この曲終わりでいったんXAIがステージから去った。そして、音源では打ち込みのブレイクビーツを大井が生でリビルドするイントロに息を呑んだ「名前を呼んで」。高音が続くヴァースのピークで小林に白い光が集まる演出もスリリングだ。人力であることを忘れるほど複雑なビートと振り絞られる声が、どこか酸素が薄くなりタイム・リミットのある宇宙空間の中でマントラを聴いているような、危機感と達観を同時に呼び寄せる。なんなんだ? このSF映画の主人公になったような気分は。その感覚は汎アジア的な歌メロを持つ「Nowhere」でさらに強くなり小林の語り、アラビックなシンセの旋律、飛び交うシーケンスをさらに鼓舞する生音のシンバルの細かい連打が、荒涼とした砂漠を猛烈にイメージさせる。そんな心地いい孤独感を眩しい光で肯定してくれるように「はじまり」が鳴らされた。平易な言葉で綴られる命についての認識と願い。小林の声がピークに達すると同時にミラーボールの光が輝き祝福するように見える。しかもドロップしたあとも四つ打ちで心拍を感じるタームが続き、生っぽいギターのオブリが入ることで力強いアウトロとなった。まるでこの曲1曲で映画1本観たような体験を享受して、フロアからは大きく長い拍手が。
再びXAIが加わって、"今日のために生まれてきたと/思えるくらいに美しい"という小林の歌声が際立つ「なにもかも」。"なにもかも"のリフレインが祈りのような色彩を帯びる。五臓六腑に響くシンベ(シンセ・ベース)の体感はライヴならではのダイナミズムで、聴き手である我々の中にもある渾身の祈りを引き出す作用があった。一転、「A DANCER ON THE PAINTED DESERT」では三連フロウのモノローグからスタート。小林とXAIの歌うサビは淡々と高速で言葉が放ち続けられるのだが、それがむしろアジテートしているように聴こえる。R&Bにも接近したこの曲の中にノイジーでグラマラスだったり、シューゲイズだったりするギターが乗ることで、タフな現実を認識する気持ちも強まった。
終盤には、これまでも彼らのライヴでは中野、小林各々のキャリアからも演奏する場面があったように、この日はTHE NOVEMBERSの「Hallelujah」が大胆にリアレンジされて届けられた。ダビーな処理を施したタム、アフロビート色のあるビートに変換されたアレンジが歌の意味合いを濃く伝える。続いて、イーヴルなシーケンスが流れるとフロアから拍手が起こった。じわじわと宇宙空間に自分自身が滲出していくような音階に鳥肌が立つ。BOOM BOOM SATELLITESの「FOGBOUND」だ。エクスペリメンタルな音像でありつつ、身体が揺れるこの曲。中野と小林がステージ前方に歩み出てツイン・ギターを弾く。その佇まいもTHE SPELLBOUNDの個性だ。
新旧、各々のバンド、ファン歴などなど、そうした壁を、ライヴを共に体感することで飛び越えさせてきた本編の締めくくりは福田、大井が叩き出すポスト・パンクっぽいソリッドなビートに牽引される「FLOWER」。中野はSTEINBERGERを弾き、シンプルなバンドの軸を感じさせる。命の輝きやポジティヴィティを音色で伝えるこのナンバーは、一曲一曲が映画並みの重量感を持つ本編を軽やかなマインドと足取りで解き放った。
ステージを去ることなく、MCで謝辞を述べる中野。オーディエンスの前で演奏することが何よりも活力になると言う。アンコール1曲目はあの強烈なリフの2音。THE SPELLBOUNDが継承したBOOM BOOM SATELLITESの「KICK IT OUT」と言って、もういいだろう。強力に吸引されるシーケンスと振り下ろされるようなザクッとしたリフの展開は、音がいかに人格を表現するか? という中野の創作の概念を表している。勇敢で誠実な気持ちで挑む。この感覚を言葉ではなく音で表現できるアーティストは、世界を見回しても数えるほどだと思う。さらに中野が"あともう少し特別な曲をXAIちゃんと演奏したいと思います"と、「STAY」を披露。小林とXAIのユニゾン、フロア・タムが醸し出すチャントのようなムードが神聖なムードだ。BBS(BOOM BOOM SATELLITES)のオリジナルからリアレンジされているが、小林の声が似合う選曲でもある。ラストは、新しい芽吹きを感じさせる淡々としたビートと研ぎ澄まされたシンセ・サウンドが大きなランドスケープを描く「Sayonara」だった。
すべての演奏を終えて、小林が中野に"BOOM BOOM SATELLITES、25周年おめでとうございます"と祝福すると、中野は小林に"THE NOVEMBERSも15周年おめでとう"と返し、サポート・メンバーもオーディエンスも拍手を送るという美しい光景。でも、彼らの背景を知らないリスナーにももっと届く音楽を、今のTHE SPELLBOUNDは実現している。決してライヴが多いバンドではないが、2023年は規模を拡大してほしいと切に願う。
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