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LIVE REPORT

Japanese

THE SPELLBOUND

Skream! マガジン 2024年12月号掲載

2024.11.03 @EX THEATER ROPPONGI

Writer : 石角 友香 Photographer:@yusuke_mphoto

THE SPELLBOUNDは中野雅之(Prog/Ba/BOOM BOOM SATELLITES)と小林祐介(Vo/Gt/The Novembers)を軸にした"家族"から、より根本的な生物としての変化と進化のような域に達している。そんな実感を得たライヴだった。BOOM BOOM SATELLITESから続く中野と川島道行(Vo/Gt)が創造した音楽に、小林のThe Novembersでの試行と思考も溶け合い、よりバンドとしてのオリジナリティが濃くなった2ndアルバム『Voyager』。本作完成後の今回のツアーは共通する音楽的なDNAを持つ演者たち"家族"の成長と、それを率直に受け止めるファンとの化学反応で、今のTHE SPELLBOUNDそのものが歩き始めた印象を受けた。

登場SEもなく無音でステージに現れた中野、小林、そしてサポートの福田洋子(Dr)、大井一彌(Dr/yahyel/DATS)、XAI(Cho)。スタートを「モンスター」、そして2曲目に「Unknown」をセットするという、アルバム同様の曲順だ。この流れが生み出すのは従来以上のフィジカルの強いバンド感であり、世界に対する嫌悪を表す少年のような小林の歌であり、イノセントな中野のベースを構える佇まい。それらがXAIの透明な歌声のコーラスでさらに強度を増していく。小林とXAIの言葉数が増え、怒濤のBPMで発射されていく「世界中に響く耳鳴りの導火線に火をつけて」では、ヴォーカルのスリリングなフロウとツイン・ドラムのトライバルなビート、中野が繰り出す蠢くシーケンスが5人で対決しているようなギリギリの緊張感を高め、高速で過ぎていく歌詞の情景にこちらもブン回されてしまった。

中野も小林も無言で演奏に集中するのは彼等のスタイルである以上に、実際、真剣勝負にならざるを得ない新曲群の複雑さが起因しているのだろう。一度は始まると降りられないジェットコースター級の楽曲が続く。息もつかせず突入した「Speeda」は小林のギター・リフや声にグラム的なものを感じ、リズムはポストパンク。比較的シンプルなロックンロールに中野もテンションを上げていく。完璧な流れで、BOOM BOOM SATELLITESの「MORNING AFTER」というハイパーなグラムと言えそうなダンス×パンク・チューンに突入。フライングVをかき鳴らすフロント2人がステージの前方に歩み出ると、フロアの狂騒にも拍車が掛かる。そこにピアノ・リフのあのSEが流れると、また一段、熱い感情が底上げされる。そう、「すべてがそこにありますように。」のイントロに対する期待感の高さは、ライヴを重ねるたびに上昇している。サビの切なさ、イノセンスを含んだメロディ、タフな現実の圧を受けながら走るようなツイン・ドラムのビート感が、聴く人も主人公にしてくれる。"何度だって 何度だって"、"繋いでいて 繋いでいて"というサビのリフレインのシンガロングは、ただ盛り上がっているのではなく、一人一人の切実な思いの集積だった。

高いテンションで駆けてきた先に、タイトルの"約束の場所"をイメージさせる宇宙の果てのようなSEが、疑似体験の色合いを強める「約束の場所」。宇宙で夕焼けを見ているような照明の演出で、小林とXAIの歌はまるでAIのよう。ステージに複数設置された丸い発信機のようなライトがレトロなSF映画を想起させる。シーケンスとそれに同調するシンバルの響きも、未知の場所へ意識を飛ばした。バンドで作り上げる緊張感に満ちた演奏は、序盤の生っぽさからメタフィジカルな宇宙まで様相を変えていき、「LOTUS」に辿り着く。さざめくシンバルのサウンドはまるで雨のようだった。ロック・バンドのリズムに終始せず、オーケストラのようにイメージを拡張するドラムの2人の存在感に圧倒される。

「LOTUS」で辿り着いた場所で、過去と未来が握手するようにBBS(BOOM BOOM SATELLITES)の「LAY YOUR HANDS ON ME」を接続したのは、今回のツアーが、一段とTHE SPELLBOUNDの物語の色合いを深めたことを証明していたかのよう。人と人が交わす温もりを感じるこの曲から、THE SPELLBOUNDのアルバムの新曲「おうちへかえろう」に繋がっていくのもいい。音源以上にエレクトロニックにサイケな味が加わり、全体的に丸みのある音で構成していく。日本語の抒情味は続く「さらりさらり夢見てばかり」に受け継がれ、スネアのスナッピーを外した丸みのある音が、インディー・ポップの楽曲にあるようなトロピカリズモ感を立ち上げる。フロント3人のハーモニーもその雰囲気を作り上げていた。さらに新作の中でも最もリリカルでフレッシュな「花が咲くみたいに」で、序盤とはまた違う少年性を鮮やかに表現。BBSのDNAを持つTHE SPELLBOUNDという音楽集団の試行でもあり、同時にバンドを1人の人間に例えるなら、少年の成長過程のようにも思える。

THE SPELLBOUNDはBBSの音楽人生の続きであり、同時に小林の所属するThe Novembersのそれも内包している。今回終盤にThe Novembersの「Hallelujah」を演奏したのだが、ダビー且つドライな音響や大きなノリのあるリズムによって、現在進行形のTHE SPELLBOUNDへと意味を更新した感覚があった。それは続くBBSの「FOGBOUND」を、今のメンバー、そして立体的且つ縦横無尽に音像を収縮させるPAも含めた表現で描いたことで、ライヴ空間で感じ得るポテンシャルの最大に到達。BBS時代から共に作り上げてきたチームならではの理解力あっての進化を、最も実感した場面でもあった。生ドラムが作るビルド〜ドロップはもちろん、立体的に変化するシーケンスのコントロールはこのキャパで感じる最上級。本編ラストの「FLOWER」は小林の伸びやかな声が強い光のように放たれ、輝度の高いシーケンスが彩る。この場所で出会えた我々を祝うようでもあり、ラストに相応しい輝きと共にフィニッシュした。

いつも通り、アンコールを求めるために一度袖に下がるのはカッコ悪いという中野の提案により、そのまま本編を終えた感想を話し始める。中野は"この場所はBOOM BOOM SATELLITESでのライヴ以来9年ぶりで、ドキドキしていたんですが、今この景色でその続きを確認できました"と話し、さらに"僕たちは未来のために音楽を作ってるので、みんなのこれからのために作っていると言っても過言ではなくて。これからの人生に寄り添って、気持ち良くなったり元気になれる音楽を作っていきます"と、少し驚く程平易な言葉で話してくれた。だが、本編の完成度や熱量を振り返ると納得でもある。

そしてアンコールの1曲目は意外なことにUNDERWORLDのカバーで「Cowgirl」。90年代から近いシーンで活躍してきた中野にとってカバーし甲斐のある曲なのか? はいずれ分かると思うが、ライヴでのある種のケレン味は巨大フェスの大舞台で見たいと思わせるスケール感だった。しかも続くBBSの「MOMENT I COUNT」への繋ぎも抜群。生バンドのビルド〜ドロップの醍醐味は本編を終えた後の開放感へフロアを誘う。そしてあの全員の音が一丸になって放たれるリフ。「Kick It Out」のイントロへの歓声の大きさは、もうTHE SPELLBOUNDが始まった頃とは違うカジュアルなそれだ。シンプルに今目の前にいるバンドの演奏に期待しているのが分かる。ラストの「STAY」では徐々に大きくなっていくアンサンブルが暴風のようで、でもその暴風が余計なものを吹き飛ばしてくれる体感を得た。続いていく生に清々しい勇気をくれるような感覚なのだが、思えばそれはBOOM BOOM SATELLITESから続く核心にあるもの。THE SPELLBOUNDというバンドの生き方を見たツアー・ファイナルとなった。

なお、2025年3月11日には恵比寿LIQUIDROOMにてindigo la Endをゲストに迎え、"BIG LOVE Vol.5"を開催する旨も発表された。

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