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INTERVIEW

Overseas

KULA SHAKER

2024年01月号掲載

KULA SHAKER

Member:Crispian Mills(Vo/Gt)

Interviewer:山本 真由 Translator:安江 幸子

音楽は絆を生み出す、それがすべてだよ。まぁ、日本の人は間違いなく趣味がいいってことだね(笑)


-そのほか制作に反映しているものでも、個人的な趣味でも、最近注目している音楽やカルチャーなどあれば、ぜひ教えてください。

オープンで、自分のことをシェアすることを厭わないソングライターなら誰でも、究極的には世界観をシェアしているんだと思う。窓から外の世界を見て......それは世界情勢かもしれないし、ニュースかもしれないし、自分ちの庭で起こっていることかもしれないけど(笑)。なんであれ、見ているものをシェアしているんだ。それを煮詰めて何か真実を見いだすことができれば、そこに人がコネクトして共感してくれる。このアルバムは遊び心満載だと思う。でもなんらかの"カタルシス"って言うんだけど、人生の混沌を浄化されたような安堵感を与えるものにもなっているんだ。今は誰にとってもとても複雑な時代だよね。もしかしたら今までになかったほどにね、あまりに情報が多いから。そんななか、音楽をプレイしたり歌を歌ったりすることはある程度の解放感や安堵感を与えてくれるんだ。僕の父は、1940年代から60年代にかけて映画の脚本をたくさん書いた。若い頃はとてもひたむきで、政治的にも社会的にも意識が高かった。ユダヤ人だったこともあって政治的な危機意識があってね。で、歳を重ねるごとにコメディに夢中になっていった(苦笑)。あまりに世の中が馬鹿げているから嗤ってやろうと思ったんだな(笑)。......それと同じように僕もなってきているような気がするよ。もはや何事もシリアスに受け止めるなんてできないし(苦笑)、この状況から抜け出す唯一の方法が風刺なような気すらしてしまう(笑)。

-あなたの音楽を聴くことは私たちにとってもセラピー的な効果があります。ダンサブルな曲もシンガロングしたくなる曲も多いですし、そうしながら心を解放することができる気がします。それが魅力のひとつですよね。ところで前作のレコーディング時は、コロナ禍に加え、英国のEU離脱による移動制限があってレコーディングに予期せぬ苦労があったとのことでしたが、今回のレコーディングは万事順調でしたか? 何かトラブルなどはありましたか?

今回のほうがシンプルだったね。世界が少しは落ち着いたからというのもあるけど......今回は海辺のレコーディング・スタジオに行ったんだ。ブライトンのね。今ブライトンはイギリスの他のどの地域よりもインフルエンサーがたくさんいるんだ。なんでかはわからないけどね。でもそのときは冬でオフシーズンだったこともあって、かなり静かだったんだ。みんなで小さなアパートを借りて共同生活を送ったよ。THE MONKEESみたいにね(※THE MONKEES出演のTVドラマ"ザ・モンキーズ・ショー"で、スターを夢見るバンドが海辺の街で共同生活する様子が描かれていた)。彼らのアパートと同じように、僕たちのアパートにも居間の真ん中に鉄製の螺旋階段があって、Paulは階段が一望できる上の階の小さなベッドルームに住んでいた。僕はあいつの部屋の真下に、JayとAlonzaは下の階にあった四柱式のベッドに寝ていたんだ。そんな感じでTHE MONKEESさながらの生活だったよ。ツアーとレコーディングを一緒にやれたのが、僕たちにとって良かったね。キッズのときみたいにまた一緒に暮らせてさ。そういう経験をしたことのあるバンドはそう多くない。一緒に暮らして、一緒に育って、一緒にプレイして成功する。ロマンチックなストーリーだよ。僕たちはそれを地でいっていたんだ。Jayの復帰がきっかけで、中年になってからその生活に戻って、奇妙な形で生まれ変わった。また共同生活に戻ったんだ。とてもクールだったよ。

-文字通り"1ヶ所に集まって"作ったアルバムということですね。となると、どの曲もわりとスムーズできたんでしょうか。特に難しいと感じた難産な楽曲や、逆に驚くほど簡単にできてしまった曲はありましたか?

大半の曲は簡単にできたね。「Stay With Me Tonight」という曲はなかなか難しかったけど。まずテンポがうまくいかなくて......速すぎたり遅すぎたりしたから、何度か録り直して、ロマンチックなララバイ(子守歌)と"踊りに行こうぜ"的な雰囲気の、ちょうどいい塩梅の中間に位置するものを狙ったんだ。あと、この曲に相応しいデュエット相手を探さないといけなかった。ある時点ではNorah Jonesと組むという話も出ていたんだけど、彼女の予定がちょっとおぼつかなくてコミットしてもらえなかった。何があったんだろうね?......Chrissie Hyndeにも声を掛けたけど、彼女は他のアーティストとデュエットをやったばかりらしくて"またデュエットをやるのは無理だわ"と言われてしまった(苦笑)。"デュエットは飽きた"ってね。Chrissieとは親しいからそういうことも正直に言ってくれるんだ。それでも誰か合う人......ちゃんとケミストリーが感じられて、年齢的にも僕と釣り合いが取れる人を探していた。あまり若い女の子とは歌いたくなかったんだ。妻の許しが出ないよ(笑)! そんなところにブライトンの地元で歌っている女の子を見つけてね。聖歌隊で歌っていて、すごく美しいソウルフルな声の持ち主だった。彼女のトーンがこの曲にぴったり合ったんだ。......大変だったのはその曲くらいかな。しっくりくる音を手に入れるためにちょっと労力が必要なときもあるものだよ。

-ということは、この曲が彼女の"デビュー作"ということになるのでしょうか。

アルバムに参加という意味ではそうじゃないかな。

-穏やかな声のトーンがあなたとも合っていていいですよね。

ああ、美しいサウンドになったよ。

-日本盤には、ボーナス・トラックとしてBob Dylanカバー曲「Meet Me In The Morning」が収録されていますね。選んだ経緯や、曲への思い入れなどを教えていただけますか?

(※ふーっと大きな息を吐きながら)誰でもどこかの時点でBob Dylanの曲をプレイしたことがあるはずだよ(笑)。この曲は歌詞で選んだ気がする。"They say the darkest hour/Is right before the dawn(※夜明け前が一番暗い、転じて一番つらい時期のあとに良いことが起こるという意味)"という一節に惹き込まれたのがきっかけだったね。たしか僕がアコースティック・ギターでこの曲を弾いていたら雰囲気がいい感じになって、そこから作っていった。時にはいいヴァイブさえあれば曲ができることもあるんだ。それだけで十分正当化できる(笑)。

-今回もボーナス・トラックを日本のために用意してくれましたし、KULA SHAKERと日本には特別な絆がある気がしています。2月には、ニュー・アルバムを引っ提げての日本公演も決定しています。フェスでしか来日しないアーティストも多いなか、単独公演でも何度も来日されていますね。日本での根強い人気についてはどう思われますか?

どう説明したらいいのかわからないけど、僕たち全員ラッキーなことだと思っているし、とても大切なことだとも思っているんだ。僕たちの絆にはマジカルなものがあって、説明のしようがないんだよね。というか、説明するまでもない気がする。......日本もイギリスも島国だし......そういう意味で繋がりがあるのかもしれないけど、素敵な関係だよね。音楽は絆を生み出す、それがすべてだよ。まぁ、日本の人は間違いなく趣味がいいってことだね(笑)。

-これまでの来日経験で、何か思い出深いエピソードなどありましたら教えてください。

そうだなぁ......日本に実際に行くまでの僕は、"脳内の日本"に長い間暮らしていたんだ。クロサワの大ファンだったからね。映画監督の黒澤 明。彼の映画は全部観たくらい大ファンなんだ。そこから派生して、特に1960年代の日本の映画に興味を持つようになった。あの時代の映画の雰囲気がすごくクールで大好きなんだ。だから初めて日本に行ったときは、自分が映画の中にいるような気がしたよ。ニューヨークに行って"わぁ、映画みたい"なんて言う人たちも多いけど、僕はいつも日本でそんな気分になる。映画でとらえられた雰囲気を味わうことができるんだ。それはたぶん、僕がいつも"映画のレンズ"を通して世の中を見ているからだろうね。......バンド全体にとっても、日本のファンはいつもびっくりするくらい素晴らしい。僕たちの音楽に対してとても熱心でいてくれるから、すごく強く印象に残っている。その恩返しがしたいから、何度も日本に行き続けているんだ。

-今度の来日公演も、新作も楽しみにしています。最後に、日本のファンへメッセージをお願いします。

メッセージは......ハッピーな新年を迎えてくれ! かな(照笑)。いつもサポートしてくれてありがとう。みんなに会えるのを楽しみにしているよ。"狂気の館"のような世の中だけど、できるだけ正気を保っていてくれ。もう少しで会えるからね!