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INTERVIEW

Japanese

sleepyhead

2019年03月号掲載

sleepyhead

Interviewer:山口 哲生

昨年、豪華アーティストを招いたコラボEP『NIGHTMARE SWAP』が話題となったsleepyheadが、早くも2nd EP『meltbeat』をリリースする。ギタリストにDURAN、アレンジャーにTeddyLoid、MV監督に東市篤憲という強力布陣で制作された表題曲は、爽快感がありながらも、どこか切なさが入り混じったダンス・ミュージックで、武瑠がここまで辿ってきた心象と、ここから開幕させようとしている新章を明確に示したものとなっている。ネクスト・フェーズへの突入を高らかに宣言した武瑠に話を訊いた。

-昨年の1月31日に始動を発表してから、事務所にもレーベルにも属さず、スタッフもマネージャーもいない完全独立状態で活動してきて1年が経ちました。今はどんな心境ですか?

なんだろうなぁ......最近よくわかんないんですよね(笑)。脳が追いついていなくて。

-怒濤の1年でしたからね。大まかな活動としては、3月の始動ライヴ"sleepyhead. 0TH ANNIVERSARY LIVESHOW 「透明新月」"以降、6月に1stフル・アルバム『DRIPPING』を、10月には1st EP『NIGHTMARE SWAP』を発表して、それぞれのリリース・ツアーも行っていたわけですけども。

選択が自由すぎることによって、悩む局面は増えたかもしれないです。これは頑張ってやるべきことなのか、これはやめておいて違ったものに力を入れるべきなのかっていう。前だったら、例えばこれを買いたいとか、これをしたいとか、今よりもうちょっとわかりやすかったんだけど、今は旅行に行こうと思うと、その時間をこの作業に使えるなとか、その費用があればこれを作れるなとか(笑)。自分の個人的な物欲とか欲求みたいなものがなくなってきた感じはありますね。プライベートとの垣根が一切なくなったので。

-自分の所持金がそのままsleepyheadの予算になると思うと、そっちにお金を使いたいというか。

そういう感じです。ワンマンは破綻するぐらい演出を入れているんですけど(笑)、経理がいないから、これにいくらかかって、いくら上がりが出たっていうのをまったく計算してないんですよ。普通はそんなこと絶対にしないじゃないですか。ちゃんとプラス/マイナスを出さないと次の予算がわからないから。でも、その計算をしている暇もないから、きっとなんとかかなるでしょうって(笑)、すべてをそのまま次に使う。そこを適当にしてるからひとりでもやれているんでしょうね(笑)。今も新しいプロジェクトを進めているんですけど。

-それは、先日スタートさせたオンライン・サロン("社畜飼育場-sleepyhead ONLINE SALON-")ではなく?

それとは別ですね。もうすぐ発表するんですけど、今は自分が考えたことをどんどん形にしていこうと思っていて。先へ先へ進みまくってます。

-そちらも楽しみにしつつ、プライベートとの垣根が一切なくなった現状というのは、武瑠さんにとって生きやすいですか?

生きやすいです。ソロになってからめちゃくちゃ忙しいんですけど、あんまり体調を壊してないし......でも、この1年で反省したのは、基本的に対バンは断ってたことですね。1回対バンをするとなると、サポート・メンバーとか制作含めて最低でも5人以上にブッキングしなきゃいけなくて、それがなかなか大変だから避けていたんです。あと、もうひとつの反省が、関係者に観てもらえなかったんですよね。観てもらえなかったというか、誘う余裕がなさすぎて観てもらおうと動けなかった。でも、今年はさすがにいろんな人に声を掛けたり、自分と合う人は少ないかもしれないけど、対バン相手を探したりしなきゃいけないなって。

-そういうなかでも『NIGHTMARE SWAP』では豪華アーティストを招いたり、今まで露出していなかったメディアにも登場するようになったりしていますよね。自身の活動が広まっている感覚はありますか?

体感的に広まっている感じはあります。SNS上で"好きです"とか"聴いてます"って言ってもらえることは増えたし。ただ、通常であればそこからフェスに出て、そこで聴いている人に実際に観てもらって、ワンマンに来てもらうっていうのが、今の王道のラインじゃないですか。でも、俺はそのラインを走っていないから......と思いつつも、東京のライヴには新しいファンが増えてきているんですよ。男の子も増えているし、いわゆるフェスによく行くタイプの人たちも来てくれているようになっていて。そこで対バンとかの接点があるといいんだろうなという手応えもあって、これはさすがにやっていかないとな......っていう。でも、それは嫌々やるんじゃなくて、普通に戦いたいなって思ったんですよね。去年1年で、sleepyheadの音楽性をわりと確立できたところがあるんで。例えば、『DRIPPING』に入っていた「結局」は、気持ちはすごく込められたけど、音像がちょっと垢抜けていないというか、今の自分に追いついていなかった印象があるんです。そこは今回の『meltbeat』で到達できたかなと思います。

-お話に出ましたが、今回2nd EP『meltbeat』をリリースされますね。前作の『NIGHTMARE SWAP』は、ひとつのクリエーションとしてものすごく大きな意味を持ったものになりましたが、『meltbeat』は『DRIPPING』のリリース・ツアーの最終公演だった[sleepyhead LIVE TOUR 2018 FINAL "Hole"]の先にある景色というか。

うん、そうですね。

-『DRIPPING』は失意のどん底にいた当時の心情をそのまま絞り出した作品でしたが、今作の表題曲「meltbeat feat.DURAN」は、そこから前に進んでいくことを明確に打ち出したものになっていて。この曲はどういうところから取り掛かったんですか?

"meltbeat"というタイトルを決める前にこの曲がすでにあったんですよ。それをいつ出そうかなと考えていたんです。本当はいい曲ができていたので、去年の年末にバラードを出そうと思ってたんですよね。でも、「1 2 3 for hype sex heaven feat.SKY-HI,TeddyLoid,Katsuma(coldrain)」(『NIGHTMARE SWAP』収録曲)を作ったときに、sleepyheadの音楽はこういうビート感を主軸にしつつも、切ない感じがある世界観にしたいなと思って。だからバラードはまだちょっと早いから先送りにして、ビートを意識したもの、ネクスト・フェーズを感じさせるものにしようと思って、この曲のアレンジを進めていったんです。それと同時に、カップリングを作ろうと思って、"meltbeat"というタイトルで「heartbreaker」を作り始めたんですよ。

-「heartbreaker」はダークな雰囲気のあるドラムンベースで。

肌と音の境界線が溶けていく感じというか、ライヴハウスとかで爆音で聴いたときに振動が自分の中に入ってきて、自分の身体と音が一体化するような感覚を表してみようと思って、"meltbeat"っていうタイトルにしてたんですよ。"溶ける"っていいなと思って、そこからいろいろ想像を膨らませていったんです。"固い信念"って言うけど、それはいろんな経験が溶けて凝固したものなんじゃないかとか。わざわざ過去を思い出さなくても、自分の意識に溶け込んでいるものっていうか。それで表題曲に"meltbeat"というタイトルを持っていきました。

-そういう経緯で「meltbeat」と「heartbreaker」は生まれたんですね。

正直どっちでMVを撮るか最後まで迷いました。今回、MVを東市(篤憲)さんにお願いしたんですけど、意外とサビはキャッチーになったし、"「heartbreaker」の方がいいんじゃない?"っていう話もあって。ただ、初めて全国ツアー(3月17日から5月にかけて開催の"sleepyhead LIVE TOUR 2019 meltbeat")をやるから、「meltbeat」をMV曲にしたところはあります。"十字架を背負うよりも 未来に口づけ"という歌詞を出して、次に進みたかったんで。

-今の自分の心境をちゃんと提示しておきたいと。

あと、歌詞を書いていく途中で気持ちが変わっていったところもあって。先にサビだけ書いてたんですけど、若干泥臭い感じがあるんですよね。でも、もっと飄々として、自由に音に乗ってふわっと上がるような感じにしたいなと思って他の部分を書いたから、そんなに重すぎず、ちょっと爽やかな感じになったのかなって。

-なぜ飄々としたいと思ったんですか?

sleepyheadを始めたときは、"この恨みは一生忘れないんだろうな"って思ってたんですよね。それまで自分たちが信じてきたものが、自分たちの望まない形で終わることになって。それが虚しくて悔しくて、音楽にまつわることが全部嫌になって、人間不信になっていたんだけど、でも、そういうのって意外とどうでもよくなるんだなって(笑)。恨みとか裏切りみたいなものって、その瞬間はものすごいダメージになるけど、変換するとものすごいパワーになるじゃないですか。実際にその気持ちをガソリンにしてやってたんですけど......去年の前半って、今よりももっと大変で本当にめちゃくちゃだったんですよね。

-たしかに去年の今ごろにお会いしたときは、かなり大変そうな雰囲気だったのを覚えてます。

何十曲も書き下ろして、その中からレコーディングしつつ、いろんなものを全部ひとりで立ち上げて、ライヴをやって。そのときは言わなかったんですけど、5月に株式会社を設立したんですよ。何もわからないところから勉強して、何週間かで作って、それと同時にクラウドファンディングをやって、FCの立ち上げをして、ブランド("million dollar orchestra")の発表もして......っていう。もうどう考えてもひとりじゃできない量をやれたのは、やっぱり執念だったと思うんです。このまま潰れてたまるかっていう。だけど、それってあんまり幸せなことじゃないなと思って(笑)。

-負の感情から始まっていると考えると。

あとは......これはもう言ってもいいかな。去年の5月、自分の口座に3万円しか入ってなくて、メイク代すら払えなくなったことがあったんですよ(笑)。"足りません"って文字が出てきて、面白すぎたからスクショしたんですけど。

-ヤバすぎますって、その状況(笑)。

ファンにしてみれば"クラウドファンディングで1000万円集まったから大丈夫でしょ?"って思ったかもしれないけど、あれは3ヶ月くらいでなくなっちゃったんです。それだけの一大事業だったし、それを誰にも頼らずにやることって、やっぱりとんでもないプレッシャーだったんですよ。眠れない日も多かったし。そんな感じだったから、楽しむ余裕がまったくなかったんですよね。だけど、去年の夏の"sleepyhead LIVE TOUR 2018「DRIPPING」"とか、FC限定でクルージング・ライヴ("moonlight cruising")とかをしたんですけど、それがめちゃくちゃ楽しくて。

-恨みから始まったものかもしれないけど、徐々に別の感情が芽生えてきた。

うん。昇華できたんですよ。「meltbeat feat.DURAN」の"嘘も愛も裏切りも 空に溶けてゆけ" っていう歌詞は、今の自分の気持ちそのままであって。あのときにあんなことをされて悲しかったけれど、それをずっと思い続ける必要はないし、自然とそう思わなくなってきた。それよりも次の楽しいこととか、目の前にいる人を大切にしたいっていう。そう思わせてくれて、もう一度音楽を好きにさせてくれたのは、やっぱりファンのみんなだと思うんですけど。それに、そういうつらい経験も自分の人生として大事だから、"不純物の歴史さえ 切に飲み干して"寛大に生きていきたいっていう。ビートがメインの音楽を作っても、ちょっとノスタルジックなところや切なさがあるのは、自分の人生観がそのまま出てるんだと思います。こういう音楽でもパリピっぽくならないのはそういうことなんだろうなって。