Japanese
ART-SCHOOL
2016年05月号掲載
Member:木下 理樹(Vo/Gt)
Interviewer:石角 友香
木下理樹自身が、"30代半ばになってもそんなこと歌ってるの?という視線は重々承知している"とインタビューで語っているが、独りで居場所もなくギリギリの気持ちを抱えている少年少女にとって、今もART-SCHOOLは間違いなく寄り添ってくれる音楽を鳴らし続けている。活動休止中に設立した主宰レーベル"Warszawa-Label"の第1弾リリースとなる今作は、そんな木下の真骨頂をアップデートした音像に定着させた最高傑作。もちろん、今はもう大人になったリスナーにも、その洗練されたイノセンスに澄んだ心持ちがもたらされるだろう。
-ご自身のレーベル"Warszawa-Label"の立ち上げを始め、いろいろな環境を整えるために1年間の活動休止(※2015年2月13日~2016年2月13日まで)だったと思うのですが、木下さんにとってどういう時期が厳しかったですか?
レーベルの立ち上げは全部初めてのことばっかりなんで、いろいろ覚えなきゃいけないし、金銭面のこともちゃんとしなきゃいけないし。でもまぁ、覚えていくことは別に苦痛ではないので。逆にデザイン・チームは、話しやすくなったよね。ライヴ制作されてる方々も、僕が発起人となって代表としてレーベルを立ち上げてるっていうのがわかってるから、そこを信頼してるし。だからむしろ周りの人の方が大変だったんじゃないのかな。
-音楽は作りやすくなりましたか?
前が作りにくかったわけではないので。ただ、いわゆるレーベルの"じゃ、次はどういうアイテムを出そう"とか、そういう話のときはクリエイティヴな部分を遮断しなきゃダメですよね。そこの切り替えが結構疲れますけど。
-"クリエイティヴ脳"と"運営脳"の切り替えが?
そうですね。で、僕はレーベル面においてもなるべく"こういうアイテムをつければいいんじゃない?"というところだけに止めてるんだけど、結局、年間のスケジュールを細かく把握してないといけないんですよ。特に最初にDVDを作ったときは、"じゃあ納期はいつまで"とかいろいろあるんだなぁっていうのが勉強になりました。
-でもこの『Hello darkness, my dear friend』はいろんなことが報われる、最高傑作じゃないかと。
そう言っていただけると作った甲斐があるし、嬉しいです。前作の『YOU』(2014年リリースの7thアルバム)が、結構、ART-SCHOOLの集大成だったと思うんで。でも集大成を超える作品はもうないわけだから、そうじゃない新しい切り口で、新鮮な気持ちで作れたかなと思いますけどね。
-いろんなジャンルの音楽を入れるとかではなく、もうART-SCHOOLの軸にあるものがそのまま出てるというか。
プリプロダクションの段階で、結構作り込んでメンバーにプレゼンしたんで、より個人的な感性が強く出てると思うんですよ。それが結果的にART-SCHOOLらしく聴こえるっていうのは嬉しいですよね。
-サポート・メンバーの中尾憲太郎(Ba/Crypt City / Seagull Screaming Kiss Her Kiss Her)さんも藤田勇(Dr/MO'SOME TONEBENDER)さんもプレイヤーとしての自我があるじゃないですか。昔の繊細な曲を演奏したときは必要以上にタフに聴こえる部分もあったけど、そういう印象がなくなったというか。
『BABY ACID BABY』(2012年リリースの6thアルバム)や、その次の『The Alchemist』(2013年リリースの枚数限定ミニ・アルバム)とか、そういう激しい感じの作品は作ってきてたなって思って。その時期からは、ちょっと違うことをやりたいなと思ってて。でもその前に、次に出すアルバムがメジャーで出す最後のアルバムなんだろうなっていう予感はあったんで、そのときの自分たちが持ってるスキルを『YOU』にほとんど注ぎ込んだっていう感じですよね。だから『YOU』は集大成だったと思うんですけど。今作はもともとART-SCHOOLが持ってた、いわゆる"孤独に寄り添う"じゃないですけど、そういう繊細な部分、あるいはちょっとメロディアスな部分――もちろんそこには、狂気も孕んでいるんだけれども、ちょっと静かな方に振り切った、寄せていったアルバムをこのメンバーで録ったらどうなのかな?って。そしたら結構、新鮮な気持ちで録れるんじゃないかなと。で、初期のART-SCHOOLはだいたい、アルペジオを重ねたり、爆音である必要を感じなかったなぁと思って。あとは、休止期間中に聴いていた音楽が、結構反映されてますよね。
-音楽は多岐にわたって聴いてました? それともルーツになっているものですか?
ルーツに持ってるものは消えないと思うんですよね、THE CUREとか。休止中はクラシックもすごく聴いてましたね。自分に1番合ってるなと思って特に聴いてたのはシューベルト。あとTHE BEACH BOYSの『Pet Sounds』(1966年リリースの11thアルバム)を。一時期、"これはどうやって作られてるんだろう? なんか奇妙だぞ"と思ってて。すごくストレンジに聴こえるんだけど、普遍性があるようにも聴こえるし、どうやったらこういう音になるんだ?って。THE BEACH BOYSの他のアルバムは聴いてたんですけど、ちゃんと『Pet Sounds』を解読したいなと思って聴き込んでましたね。
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